2018年5月4日金曜日

【神否荘の困った悪党たち】第16話 『ケーキ売ってます』【オリジナル小説】

■タイトル
神否荘の困った悪党たち

■あらすじ
非現実系ほのぼのニートフルコメディ物語。宇宙人、悪魔、殺し屋、マッドサイエンティスト、異能力者、式神、オートマタと暮らす、ニートの日常。
※注意※2017/02/19に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公

■第16話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/9189

第16話 『ケーキ売ってます』


「ラヴファイヤー君の好きなモノって何?」

 今朝はメイちゃんに起こされるよりも早く起きてしまったので、中庭で目玉焼き五枚重ねを食べてるラヴファイヤー君を眺めながらそんな事を呟いていた。
「僕の好きなモノっすか?」あむあむと目玉焼きを頬張りながら瞬きするラヴファイヤー君。「やっぱり人間っすかね!」
「あっ、ごめん、じゃあ好きな食べ物ってある?」
「そうっすねぇ」目玉焼きを呑み込むラヴファイヤー君。「やっぱり人間っすかね?」
「えーと、じゃあ人間以外で何かある?」もうこの場にいる事自体がマズいような気がしてならないけど、質問を続けるぞ。
「人間以外の好きな食べ物っすか?」顎に拳を当てて俯くラヴファイヤー君。「うーん、あっ、僕ケーキ好きっすよ、ショートケーキ!」
「ショートケーキかぁ」スマフォを取り出してたぷたぷとメモする。「有り難う、今日はお仕事終わったら楽しみにしててね」
「えっ、孫君ショートケーキ買ってきてくれるんすか!?」驚きに目を瞠るラヴファイヤー君。「僕何か孫君に祝われるような事したっすか!?」
「いやその、こないだラヴファイヤー君惨い事になったじゃん」頭の上に人差し指を立てる。「トブコプターって言う処刑装置で。そのお詫びって言うか、俺の代わりになってくれたお礼って言うか」
「そんなそんな! 気を遣わなくたっていいっすよ!」ブンブンと手を振るラヴファイヤー君。
「まぁまぁ、そんな事言わないでよ」ヘロヘロと手を振る。「ほんの気持ちだから。ラヴファイヤー君が嫌ならやめとくけど」
「孫君の優しさに僕はもう今日仕事行く気無くしたっすよ!」目から汗を流し始めるラヴファイヤー君。
「えっ、何かごめんね」
「今日は孫君に付き合うっす! 一緒にショートケーキ買いに行くっす! 僕の好きなショートケーキを選ぶっす!」やる気満々で立ち上がるラヴファイヤー君。
「あっ、何か悪いね」
「いいっすよ! 僕と孫君の仲じゃないっすかぁ!」肩をポンポンと叩かれた。「それと、心配しないでほしいっす! この中では孫君が一番食欲そそるっすよ!」
「えっ、何でこのタイミングでそんな不安を煽る発言を」ガタッてしまうよ。
「先輩が一番肉欲そそる!?」突然背後から砂月ちゃんの悲鳴が上がった。「先輩の貞操が危ない!!」目がハートで言われても。
「貞操より命の方が危ないかなぁ」
 出掛ける前に砂月ちゃんを説得するのに時間が掛かりそうだった。

◇◆◇◆◇

「ラヴファイヤー君って普段着もそのスーツなんだね」
 神否荘を出発してラヴファイヤー君と肩を並べて歩いてるのだけど、真昼間にピンク色のスーツにサングラス姿の長身のお兄さんの存在感は控えめに言ってもしゅごかった。
「お気に入りなんすよこれ! 可愛くないっすか?」くるっとその場で回るラヴファイヤー君。
「未だかつてピンク色のスーツを可愛いと思った事は無いけど、ラヴファイヤー君の仕草が加わると可愛く思えてくるね」コックリ頷いておく。
「まじっすか! そんな事言われたの初めてっすよ~!」手を合わせて嬉しげにぴょんぴょん跳ねるピンク色のスーツにサングラス姿の長身お兄さん。「誰も可愛いなんて言ってくれる人がいなかったっすから、スーパー嬉しいっす! 感激っす!」
「そうなんだ」へぇー、と声が漏れた。「ラヴファイヤー君って女子高生っぽい雰囲気だよね」何と無くだけど。
「女子高生っすか!? えへへ、そんな事言われたのも初めてっすよ~! やっぱこう、ナウいっすか!? ナウいギャルって感じがするっすか!?」
「ごめん、一瞬昭和かなって思っちゃった」そんな古語久し振りに聞いたよ。
 夏の陽気に照らされた路地を、そんな他愛無い会話を繰り広げながら歩いていると、商店街が見えてきた。
 活気は無い。平日の昼間ってのが起因してるのかもだけど、人が全然いない。
「閑散としてるね」
「静かでいいっすよねぇ。心が落ち着くっす!」微笑を浮かべて先を歩くラヴファイヤー君。
「にゃるほど、そういう見方もあるのか」一々ラヴファイヤー君の物の見方に感心してしまう。
「あっ、あれっすよ! ケーキ屋さん!」
 ラヴファイヤー君が指差した先には『ケーキ売ってます』と言う立て看板が置かれた、小さな店舗。
 商店街に在る店の殆どがそうなように、ケーキ屋さんもシャッターが半分降りてるけど、確かに店には灯りが点いてるし、人の気配もする。ただ、店の名前が分からない。どこに目を凝らしても文字が確認できるのは寂れた立て看板の『ケーキ売ってます』だけ。
「こんなに不安を掻き立てられる店、俺初めてだよ」不覚にもドキドキしてしまった。
「こんにちはーっす! ケーキくださいっす!」シャッターをくぐって店の奥に声を掛けるラヴファイヤー君。
「こんにちはー」倣うようにシャッターをくぐると、すぐ目の前がカウンターだった。ショーウィンドーも無く、店内はレジとカウンターだけで、客の入れるスペースは一畳も無い。
 店の奥から現れたのは、エプロン姿の三十代に見えるおっさんだった。
 何故か頭の上には猫か犬か分からないけど獣の耳が生えている。煙草を口に銜えて、気だるげに俺とラヴファイヤー君を見定める。
「らっしゃい、今日は何にする?」ふぅ、と紫煙を吐いてカウンターに肘を突く店主と思しきおっさん。
「ショートケーキ一つっす! あ、いや、やっぱり二つっす!」店主に向かってヴイサインを見せるラヴファイヤー君。「孫君も食うっすよね?」
「うん、食べたい」コックリ頷く。
「毎度あり」と言って再び店の奥に消えていくおっさん。よく見ると腰の辺りから茶色いフサフサの尻尾が生えてて、フリフリ揺れていた。「五分くらい待っててくれや」と言ってヒラヒラ手を振ってくれた。
「あの耳と尻尾って、本物だったりするの?」ラヴファイヤー君に振り返る。
「そうっすよ?」不思議そうに返されてしまった。「ロロは獣の王なんすよ!」
「獣の王がケーキ屋さんやってるんだ」何からツッコミを入れたらいいのか分からない。「もしかしてラヴファイヤー君の知り合いなの?」
「ロロは僕の友達なんすよ! 敷巣(しきす)ロロって言うんすけど、僕と同じ悪魔なんす!」
「悪魔で獣の王なんだ」段々と訳が分からなくなってきた。「そう言えば値段って幾らなのかな」
「時価っすよ?」またも不思議そうに返されてしまった。
「時価のケーキって俺初めてだよ」
「おう、出来たぜ」奥から綺麗な紙袋を手にロロさんが現れた。「ショートケーキ二つな」
「ありがとっす!」受け取ってホクホクのラヴファイヤー君。「ロロ、今日は幾らにするっすか?」
「そうさなぁ……」煙草を摘まんで紫煙を吐き出すロロさん。「兄ちゃん、名は?」
「あっ、亞贄って言います。二糸亞贄」ぺこりと会釈する。
「二糸……?」ロロさんが怪訝な表情になった。「もしかして、あいつの息子……いや、孫か?」とラヴファイヤー君を煙草で指差す。
「そうっす、ヒーさんの孫っすよ!」ニコッと華やぐラヴファイヤー君。「美味しそうっすよね!?」そんな紹介の仕方聞いた事無いよ。
「そいつァ……うちの社長がお世話になっとります」深々とお辞儀をするロロさん。「今回はお近づきの印って事で、代金は頂きやせん。どうかお納めくだせぇ」
「えっ、お世話になってるのは俺の方ですけお」思わず俺も頭を下げちゃう。「じゃあ俺もお近づきの印って事で、代金適当に置いときますね」と言って財布から適当にお札を抜いてカウンターに置く。
「いやいや!? こんな頂けませんって!?」煙草を噴き出して頓狂な声を上げるロロさん。「ショートケーキ二つに八万は有り得ないでしょう!?」
「えっ、そうなの?」困惑しちゃう。「時価って言うからてっきりそんなもんかなって」
「お、お気持ちだけでいいんで、その……本当に代金は……」青褪めてるロロさん。
「な、何かごめんね?」取り敢えずお札一枚だけ置いておく。「でも、タダで貰う訳にはいかないから、それは俺の気持ちって事で、受け取ってくれないかなぁ」
 一万円札を見下ろして、ロロさんは神妙な面持ちで「……分かりやした。ただ、もう暫しお待ち頂けやすか?」と言って慌てた様子で奥に戻って行った。
「どうしよう、困らせちゃったかな?」ラヴファイヤー君を見上げる。
「あんなに喜んでるロロを見るのは初めてっすよ!」嬉しげに頬を綻ばせるラヴファイヤー君。「きっと今頃……」
「お待たせしやした」大きな紙袋を持ってくるロロさん。「そんな大金頂くからにァ、こっちも相応の仕事させてくだせぇ」
「これは?」大きな紙袋を受け取りながらロロさんを見つめる。
「うちのケーキの詰め合わせです。どうか皆さんで食べてくだせぇや」ニコッと微笑むロロさん。
「わぁ、有り難う、ロロさん」俺も思わず笑みが零れちゃう。
「ロロ、ありがとっす! また来るっすよ!」と言って店を出て行くラヴファイヤー君。
「またのご来店を、お待ちしておりやす」すっと頭を下げるロロさん。
「有り難う御座いましたー」頭を下げながらシャッターをくぐり抜ける。

◇◆◇◆◇

「獣の王って言うからどんな怖い人なのかと思ったけど、悪魔って優しい人が多いのかなって思っちゃうね」
 帰り道、ラヴファイヤー君に振り向きながら呟くと、彼は「うーん、悪魔って本当は怖いものなんすけどねぇ」と困った風に腕を組んだ。
「ヒーさんに言われたんすよ。“誰かを怖がらせる仕事より、誰かを喜ばせる仕事の方が、遣り甲斐が有るぞ”って。それから悪魔は皆、人間界でどうやって人間を喜ばせようかって考えながら、色んな仕事をしてるんす。ロロはケーキ屋さんっすけど、僕みたいに営業してる悪魔もいるっす!」
「祖母ちゃんの影響力がしゅごいのもそうだけど、悪魔が人間を喜ばせる仕事を考えるって、しゅごいね」
 俺の既成概念がまた一つ新しくなった気がして、何だか嬉しかった。
 帰ったら皆でケーキを食べて、皆が喜んでくれたら、また嬉しくなるのかな、と思いながら、ラヴファイヤー君と並んでのんびり帰り道を歩いて行く。

【後書】
 今回はラヴファイヤー君に焦点を当てたお話でした。
 人間は一緒にいるのも食べるのも大好きな悪魔、ラヴファイヤー君。先日断さんがイラストに起こした時に「オネエさんっぽくなって済みません……!」と言ってましたが、強ち間違いではないんじゃないかなぁ、と思う作者です(笑)。
 次回はニャッツさんに焦点を当てたお話を投稿する予定です。ところで、気まま~な日常シーンを眺めるのって癒されますよね……と言う訳で次回もお楽しみに!

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