2018年6月17日日曜日

【滅びの王】22頁■神門練磨の書6『〈風の便り〉』【オリジナル小説】

■タイトル
滅びの王

■あらすじ
一九九九年夏。或る予言者が告げた世界の滅亡は訪れなかった。併しその予言は外れてはいなかった。この世ではない、夢の中に存在する異世界で確かに生まれていた! 恐怖の大王――《滅びの王》神門練磨の不思議な旅が今、始まる!
※注意※2007/09/01に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

■第23話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/

22頁■神門練磨の書6『〈風の便り〉』


 ……声だ。声が聞こえる……それも、かなり耳障りな声……
「――起きなさいってば、神門練磨!!」
 耳元で叫ばれ続けてたようで、オレはぼんやりと眼を開くと、目の前にいる小さな人に気づいて……
「……咲希?」寝言のような呟きが漏れた。
「そうよ! そんな事も分からない位ボケちゃったの? このバカ!!」
 そうだ、咲希だ。咲希が目の前にいる。
 ……つまり、何だ、その、ここは……?
 オレはガバッと起き上がり、辺りに視線を向ける。山の稜線から離れていく朝陽、遠くまで続くなだらかな丘、草が刈られた街道、そこを行き交う行商人や旅人の姿……
「……また、来られたのか……」
 もう二度と来る事は無いと思った、夢の世界に。
 口に出して確認する程、今の状態が信じられなかった。
 オレは……また……
「はぁぁぁ……」
「何よ、その盛大な溜め息は? あたしに起こされるのがそんなにイヤなの?」
「ちげーって。……ホッとしたんだよ」
 正直に暴露しつつオレは立ち上がって、うんと背伸びした。澄んだ空気が気持ちいい。
「それで、――今日の朝飯は?」

◇◆◇◆◇

「……なぁ、鷹定はいつもアレを食ってるのか?」
 雪花の背中に跨って、オレは隣を歩く鷹定を見据えた。
 鷹定はいつものようにコートの下から取り出した煙草を咥えて、火も点けずにオレに振り返る。
「アレと言うのは、野ネズミの事か? ……食わねば生きていけんだろう」
「まあ、そうなんだけどさぁ……」
 今言ったように、今日の朝飯は昨日に引き続き、野ネズミの丸焼きだった。触感が何とも言えないアレをまた食う事になるとは……それに、夢の割にその辺が厭にリアルだから、何だか気分が優れない。
「あんたはネズミ食べないの?」
 ふわっとオレの前に飛んでくる咲希を見て、そう言えば昨日、こいつと喧嘩したんじゃなかったっけと思い出すが、咲希の機嫌をわざわざ悪くする事も無いだろうと思い、その点には触れないでおく。
「食べねえよ! それも、丸焼きでなんか食う訳ねえだろ!!」
「ふぅん。じゃあ向こうの世界じゃ、何食べてたのよ?」
「何って……お米とか、パンとか……」
「……なるほどな。獲って食う、ではなく、作って食べる、という食生活なのか」
「ま、そんなトコ」
 てか、お米とかパンとか、この世界にも有るんだー、とそっちに関心がいってしまったのだが。
「じゃああんた、農民なの?」少しばかり驚いたような表情で咲希。
「それも違うなぁ。農民っつーか……」
「じゃあ何なのよ? まさか貴族じゃないんでしょ? こんな間抜けな貴族いたら困っちゃうし」
「間抜けで悪かったな! ……でも、貴族って訳でもねえしな……一般人、って言うと、この世界じゃどんなのになるんだ?」
「あたしに言われても分かる訳無いでしょ? ずっと暦ちゃんの面倒見てたんだから」
「おまえに訊いてねーよ! 鷹定、どうなんだ?」
 煙草を咥えたまま、鷹定は小首を傾げる。
「済まないが、俺もその辺の事情はあまり詳しくないんだ」
「と言うと……あんたも農民の出なの? 葛生鷹定」
「いや……」首を横に振る鷹定。
「じゃあ貴族?」
「お前な……この世界には農民と貴族しかいねーのかよ!?」
 格差が激し過ぎだろ!? と突っ込んでやったが、咲希は何でも無い事のように、
「だって、それ位しか知らないんだもん」
「……《不迷の森》に冒険者は来なかったのか?」
「あ」思い出したような咲希の声。
「……俺が仮に一般人だとすれば、親は王家に仕え、その子供は城下町で新聞配達をする、となるが、これで納得してくれるか?」
 オレはちょっと驚きつつも、頷く。
「じゃあオレはきっと少し裕福な感じだな。父親は……会社って分かるか? 別に、王家とかそんな大仰な所じゃないんだけれど、社会に貢献できる所で仕事をしてる。んで、母親は家で家事をしてる。そんでもってオレは学校って場所で大人になるまで勉強してる。新聞配達のバイトなんてした事ねえし」
 鷹定も咲希も驚いたようにオレを見据えた。
「学校に通ってるのあんた!?」
「な、何だよっ? そんなに驚く事か?」
「だって……学校に通ってるのにこんなバカになる? 普通」
「殴るぞ!」
「……練磨は学徒だったのか。練磨の世界ではどうか知らんが、この世界では、練磨の言うように、金銭的に余裕が有る連中しか通えない所だ。逆に金銭的に問題が有っても将来有望……知能が基準値よりも高ければ入学を許可するような学院も在るには在るが……」
 そう言って、鷹定はオレを見る眼を少し変えたように思えた。
 ……二人してオレをアホの子だと思ってやがったな、チクショウ……
 まあ、それはいいとして。――全然良くないけどな♪
「じゃあ、この世界じゃ学校通ってる奴って少ないんだ? 鷹定はどうなんだ? 通っていないとしたら、お前すっげー天才じゃね?」
 色んな事知ってるっぽいし。
 そう思っていると、鷹定は苦笑を口の端に浮かべた。
「通った経験は一度も無い。それに、俺の知識は殆ど親代わりだった師匠譲りだ。天才でも何でも無い」
「へぇ~。じゃあ、その師匠さんがすっげー天才だったんだな?」瞳を輝かせてオレ。
「それはどうだろう……」苦笑して鷹定。
「あんたがバカ過ぎるだけでしょーが、神門練磨」吐き捨てるように咲希。
「うっせーな! てめえは一々うるせーんだよっ、このバカ妖精!!」
「ぬわんですってェェェェエエ!?」
 その後、咲希とまた言い争いになってしまった。
 何でこう……この妖精とは事有る毎に仲違いしてしまうんだろうか? 出来ればもっと仲良くなりたいぞ、オレは。
 ……言ったら絶対「キモい」って言われるに違いないだろうけど……はぁ、色々憂鬱になるな、こいつ……

◇◆◇◆◇

 昼まで順調に距離を稼いで、一旦休憩する事になったのが、恐らく十二時頃。空に君臨する太陽は、夏とは思えない程穏やかで、日向にいても暑いとは感じず、寧ろ陽射しが気持ち良い位だ。このまま昼寝でもしたい気分だった。
「そろそろ土栗が見えてくる頃だ。……あの辺は国境に触れるから警備が厳しいが、俺達には特に問題は無いと思う。ただ……練磨」
「――この果物美味いな! 甘くて! ……え? 何? 呼んだ、鷹定?」
 茶色い皮を剥くと赤い果実の現れる果物を食べながら、オレは鷹定を振り返った。
「……頼むから俺の話を聞いてくれ……」
「聞いてるって聞いてるって♪ で、何?」
「……練磨。自分が《滅びの王》だと言う事は、絶対に伏せてくれ。それだけは、何が遭っても明かしてはならない」
「ん? うん、分かってるよ。だって、バレたら殺されるんだろ?」
「最悪の場合はな。……それだけは注意してくれよ?」
「分かってるって、大丈夫! そんなヘマしないって!」
 第一、自分から「《滅びの王》だ!」って明かす時って有るのか? と、オレにはそれが疑問だった。わざわざ誰かに狙われるような事をするなんて……そいつこそバカに違いない。
 と、他人事のように考えていると、一人の行商人がこっちに向かって歩いて来た。
「こんにちは」
「あ、こんちは」
 礼儀正しい行商人のおばさんに、オレも挨拶を返した。
 おばさんが背負ってるのはどうやら食べ物らしかった。食べ物と言ってもまだ加工されていない、素材そのものが背負われている。何かの肉の切れ端とか、バナナのような白い果物の房に、パンのような物も見受けられた。
 オレ達に商売でもするのかな、と思っていると、ソバカスの浮かんだ顔のおばさんは隣に腰掛けて世間話を始めた。
「あんたら、土栗に行くのかい? だったら気を付けな。あそこは今、厳戒体制が敷かれてるんだよ」
「何か遭ったんですか?」
 そう訊いたのは鷹定。例の如く、咲希はどこかに姿を隠している。
「あの噂、知ってるだろう?」
 おばさんは話に乗ってくれた事に嬉々として勇んで話し始めた。
「――《滅びの王》が誕生したらしいんだよ、どうも」
「…………」
「何でもね、その《滅びの王》ってのが、どこで生まれたか分からないから、国境付近を固めて、侵入を喰い止めようって話なんだけどね……そんな事で止められると思うかい? あたしゃ無理だって思ってるんだけど、王国側はどうしても侵入を喰い止めたいんだとさ。それと、土栗は旧帝国領にも繋がってるだろう? 帝国側にそんな存在を入れないようにって、そっちにも兵士を置いてさぁ。こっちは荷物を何度も検められて、いい迷惑だよ」
 ……表情に何も出ていない事を、ただただ祈るばかりだった。
《滅びの王》の誕生は既に知られているのか。そしてそれは、土栗の町に厳戒体制を敷かせるだけの力が有るのか。
 オレは出来る限り平静を装ってたつもりだけど、内心汗だくだった。早くも正体がバレてしまう状況に近付いているのだ。
 このままでは鷹定の問題が解決できないんじゃないか……? それだけは、嫌だ。ここまで来て、こんな事で終わらせたくない!
 ふっくらした体型のおばさんは話すだけ話すと鬱憤が晴れたのか、嬉々として去って行った……。あのおばさん、商売する気有るのかな、と思うだけの余裕は有ったけれど、それでも不安は拭えなかった。
「……鷹定」
「……参ったな。王都に入るには、まず土栗を経由しなければならない。……何事も無ければいいが」
 土栗に入るのはいいが、そこでオレの正体がバレてしまえばそれまでだ。きっと鷹定の計画では、それはできる限り避けたいに違いない。いや、避けねばならないんだ。でも、厳戒体制が敷かれている町を突破するのは、きっとオレが考えるより難しいと思う。
 ……そんな事を考えても、突破する以外、道なんて無いんだと思うんだけどな。
「……練磨には、あまり喋らないようにして貰おう」
 それはつまり、オレがボロを出さないようにする、と言う事だ。
 確かに、オレがこの世界の人じゃないって知れたら、すぐさま取り調べが始まってしまうだろう。そんな事になれば、芋蔓式にオレが《滅びの王》だってバレてしまう。口が軽いって言いたいんじゃなくて、それだけ王国の人達は必死なんじゃないかってオレは思った訳だ。何せ、世界を終わらせるような人物なんだ、見つけただけでも懸賞金モノだろう。
「ああ、分かった」と頷いて、小休憩を終え、また土栗への長い道程を歩き始めた。

【後書】
 病院じゃなくてもー! やってこられました夢の世界!
 と言う訳ですっかり夢の世界に馴染んできた練磨君ですが、異世界の世界観にはまだまだ不慣れと言いますか、独自の設定に戸惑いを隠せない様子です。
 てか咲希ちゃんが一晩眠ってすっかり喧嘩していた事を忘れて起こしてくれるシーンがお気に入りですw ほんともう崇華ちゃんと言い、素敵な女の子が多くてわたくし(・∀・)ニヤニヤが止まりませんよね! 誰だこんな最高の物語を綴ったのは! 私だ! そうか!! 有り難う過去の私!!!
 自画自賛はこの辺にして、次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ほんとまじでありがとう!過去の先生vv

    なんかこう出てくる人みんな怪しげで、
    行商人のおばさんこそ姿を隠した崇華ちゃんで
    敵の偵察にやってきたんじゃないの~
    なんてはらはらしておりますw(次回全滅←えっ?w

    疑問はすべて継続中!(めんどくさいわけじゃないんだからねっ!

    さぁ、厳戒体制の土栗を無事通過できるか?!
    それとも行商人のおばさんにけされてしまうのか?!
    +(0゚・∀・) + ワクテカ +がとまらないっっっ!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv


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    1. 感想有り難う御座います~!

      わーい!(´▽`*) 過去の先生(私)有り難う~!!

      確かにww 一度疑い始めますと、皆怪しく映ってきますよね!w 偵察だとしたらもう練磨君バレバレじゃないですか!w やばみ!ww

      疑問が明らかになる日はまだ遠そうですな…(笑)

      厳戒態勢の土栗、果たして攻略なるか!
      そのワクテカに応えられますように、全力で読み返して参りますぞっ!(えっ)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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