2018年6月24日日曜日

【余命一月の勇者様】第28話 虹を架ける狼【オリジナル小説】

■タイトル
余命一月の勇者様

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。
※注意※2017/09/11に掲載された文章の再掲です。本文と後書が当時そのままになっております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、Fantia【日逆孝介の創作空間】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第28話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
Fantia【日逆孝介の創作空間】https://fantia.jp/posts/18525

第28話 虹を架ける狼


「怪我した呼雨狼の子供の治療をして、返しに行ってただぁ!?」

 曇天が少しずつ晴れていく空の下、ニウンの怒号がシマイの町に響き渡った。
 コウノが怯えた様子で目を瞑っているのを、ニウンが険しい表情で睨み据えていたが、振り上げた拳骨を震わせるだけで、行き場を無くした怒りを吐息に載せ、振り上げた拳を緩めると、コウノを抱き締めて歯を食い縛った。
「……ったく、心配掛けさせやがって……」
「ご、ごめん……」コウノも瞳を潤ませて、ニウンを抱き締め返す。
 そんな二人を見つめていた行商人仲間も、ホッと胸を撫で下ろす。
「おい」
 ニウンとコウノを傍目から見守っていたミコト達に、ニウンは歩み寄り、ぶっきら棒に声を掛けてきた。
 ミコトが不思議そうに片眉を持ち上げると、彼は深々と頭を下げた。
「有り難う」重く、しっかりとした声調で、ニウンは告げた。「……今まで、何度も手を差し伸べてくれても、礼も言わなかったってのに、こんなに良くして貰って……本当に、恩に着る。有り難う」
 頭を下げたままのニウンに、ミコトは肩を叩いて微笑みかけた。
「困った時はお互い様だろ? それにあんたは、マナカとレンに託してくれたじゃないか。あのまま呼雨狼を討伐してたら、きっと取り返しの付かない事になってた。でも、そうはならなかった。それは、あんたのお陰だ」顔を上げて瞳を潤ませるニウンに、ミコトは笑いかける。「だから、俺からも礼を言わせてくれ。ありがとな」
「……っ」歯を食い縛り、目元を乱暴に拭うニウン。「済まねぇ……っ、本当に、有り難う……っ」
「……もし恩を返したいって思うなら」ミコトはシュウ川の上流を指差す。「呼雨狼に、今度食べ物を分けてやってくれよ」
「呼雨狼に食べ物を……?」不思議そうにミコトを見つめるニウン。
「“いつも雨を降らしてくれるお礼に”さ。そしたらきっと、呼雨狼も喜んでくれるから」
 ニウンは周りの行商人と顔を合わせた後、ミコトに向き直って頷いた。
「あぁ、そういう事ならお安い御用だ!」胸板を叩いて、ニウンは笑いかけた。「俺達はこのシマイでよく世話になってるからな、いつもより多めに仕入れて、呼雨狼に分けてみるぜ」
「あぁ、そうしてくれると嬉しい」コックリ頷くミコト。
「ところで、これからどうするんだミコト?」
 不意に話しかけてきたのはマナカだった。ミコトは振り向きながら「どうするって、雨が止んだなら、先に進まないとな」と不思議そうに返す。
「橋が壊れてるのよ? 暫く足止め喰らうんじゃないかしら」
 レンの発言に、ミコトは思い出したように手を打つ。「そう言えばそうだったな」
「ミコト、ミコト」
 クイクイ、と服の袖を引っ張るクルガに気づき、ミコトは目線を合わせながら「どうした?」と尋ねた。
「トワリちゃんが、お話し有るって」
「トワリちゃんが?」
 併し辺りにトワリの姿は見当たらなかった。
「こっち、こっち」とクルガが駆けて行くのを見て、三人は顔を見合わせると、訳も分からずクルガの後を追い駆ける。
 やがて辿り着いたのは、シュウ川に架かる橋の崩落現場だった。
 そこにトワリが立っていて、向こう岸には――
「……あんなにたくさんいたのか」
 向こう岸を埋め尽くさんばかりの呼雨狼の群れに、ミコトは驚きの声を上げずにいられなかった。
 トワリは楽しそうに「そうだよ。……呼雨狼もね、皆が皆、子供が攫われたって考えていた訳じゃないの」と隣に並ぶミコトに語り掛けた。
 マナカとレンが近づいてきたのを見計らい、トワリは先を続ける。
「呼雨狼も、人族を疑う子が多かったのは確かだけど、中には、信じてる子もいた。コウノちゃんが助けた、あの呼雨狼の子供のようにね」
 トワリが呟いた瞬間、向こう岸から「ウォン!」と小さな咆哮が届いた。
 それに満足そうに微笑むと、トワリはミコト達四人に振り返り、手を背中に回して前屈みの姿勢を取って小首を傾げた。
「ねぇ知ってる? 呼雨狼って、元は“雨を呼ぶ狼”とは書かなかったんだよ」
 そう言って、四人が不思議そうな表情を浮かべたのを見計らうと、トワリは四人に背中を向けて、向こう岸の呼雨狼に向かって、手を挙げた。
 ――すると、
「――――」
 呼雨狼の、遠吠えが、輪唱となって響き始めた。
 併しそれは、怒りや、悲しみの音色ではなく、感謝や、慈しみの音色を伴った、綺麗で、透き通る咆哮。
 まるでオーケストラでも聞いているような気分にさせる素敵な遠吠えを、四人は心が癒されていく想いで、心の底から聞き入る。
 そうしていると、向こう岸から虹が伸びてきた。
 虹色の橋はゆっくりと時間を掛けてシュウ川を渡り、トワリの前に降り立つ。
「“虹を架ける狼”――だから、“虹狼(コウロウ)”って、呼ばれたのが、本当の始まりなの♪」
 口元に人差し指を当てて囀るトワリ。
「これ、渡れるのか?」
 ミコトが尋ねると、トワリはしっかりと首肯を返した。
「これはね、呼雨狼からのお礼」虹の橋を、先頭に立って渡って行くトワリ。「君達が、人族との懸け橋になってくれた、お礼」
 虹色の橋に足を掛けると、確かな感触を伴って、体を支えてくれる。
「おおお! すげー! 俺今、虹に載ってる! 虹の上、歩いてる!!」
 ミコトに続いて、マナカが虹の橋に飛び乗る。クルガも恐る恐る続き、レンもおっかなびっくり、足を載せていく。
 その間も、呼雨狼は心が洗われるような遠吠えの演奏を続け、穏やかな表情で虹の上の五人を見守っていた。
 やがて渡り終えると、虹は幻だったかのように溶け消えた。
 呼雨狼はお座りの体勢で五人を見つめたまま、何か言いたげに鼻をすんすんひくつかせる。
「狼さん、ありがとう、って、言ってる!」ミコトを見上げて告げるクルガ。「あと、トワリに逢わせてくれて、ありがとうって、言ってる……?」
 クルガが不思議そうにトワリを見上げると、彼女はお茶目な表情で人差し指を唇に当てると、ウィンクを見せた。
「橋の修復作業は、わたし達に任せて、先をお行きよ、ミコト君!」ぽすん、とミコトの胸を叩くトワリ。「後の事は、任せて欲しいの。これは本来、彼らの問題だからさ」と微笑みかける。
「……あぁ、ありがとな、トワリちゃん」澄ました表情で微笑を返すミコト。「呼雨狼の皆も、ありがとな」
 呼雨狼を振り返ると、小さな呼雨狼――あの時の子供の呼雨狼が前に出て、「ウォン!」と嬉しそうに吠えた。
 ミコトはそんな呼雨狼の頭を撫でると、子供の呼雨狼はくすぐったそうに目を細め、「キュゥン」と鼻を鳴らした。
「じゃあ、お別れだね」
 ミコトが立ち上がったのを見計らい、トワリが声を掛けた。
 ミコトはトワリに振り返ると、「あぁ、またいつか逢えたら、その時はご飯でも一緒にどうだ?」と笑いかける。
「フフフ、楽しみにしてるよ!」嬉しそうに笑い返すトワリ。「じゃ、またね!」
「あぁ、またな」小さく手を挙げるミコト。
「またなー!」ブンブンと大きく手を振るマナカ。
「またね!」両腕を振り上げるクルガ。
「またね」小さく手を振るレン。
 そうして四人がシュウエンに到る道をのんびりと歩き始めると、背後から再び、呼雨狼の綺麗な遠吠えが響き始めた。
 別れを惜しむ声ではない。再会を誓う、勇気に満ち溢れた音色だった。
 雨は止み、曇天は晴れ、空には虹が架かる。
 晴れやかな旅路はこうして再び歩みを始め、四人は歩き始めた。

◇◆◇◆◇

「……行っちゃった」
 丘を越えて、四人が見えなくなった頃、トワリは小さく呟きを漏らし、茜色に染まる空を見上げた。
 虹は薄れ、徐々に大地は冷え始めている。
「ネイジェ君がうっかり干渉したくなるのも、分かっちゃうなぁ……」
 くすくすと、思わず微苦笑が浮かんでしまうトワリ。
 呼雨狼の群れはトワリを見つめて、お座りを続けていた。
 そんな呼雨狼の群れに歩み寄り、トワリが「へーんしん!」と告げると、突然肉体が輝き始め、次の瞬間には呼雨狼に肉体が変化していた。
「さっ、帰ろうか? わたし達の故郷へ」
「帰りましょう! 帰りましょう!」
 楽しそうに吠える呼雨狼達を引き連れ、呼雨狼に変身したトワリはシュウ川の上流へ、深い深い森の底へ、姿を消していく。
 
 ――ところで、シマイの町にはこんな言い伝えが有る。

 雨呼び狼、人に仇なす時、身代わり狼、現れん。
 人、雨呼び狼に仇なす時、身代わり狼、現れん。
 神の身代わり、狼助け。神の身代わり、人助け。
 終わりの川、虹橋架かる。人と狼、虹橋架かる。
 斯くして終い、雨呼び狼虹と成り、懸橋と成る。

 その伝承が再び、シマイの町から広まる事になるのだが、それはまた、別の話……

■残りの寿命:22日

【後書】
 これにて雨呼び狼編は閉幕です。
「余命一月の勇者様」には章毎に一人ずつスポットライトをキャラクターが決まっておりまして、無料配信していた頃のお話は「レン編」、そして今回の有料配信が始まった頃から今までのお話は「クルガ編」として綴って参りました。
 そのキャラクターが成長する、と言う意図だけでなく、そのキャラクターを通じて見える世界が何なのか、どう移り変わったのか。そんな事を意識して綴っているつもりですが、はてさてw
 さて、次回より“最終章”……「マナカ編」が始まります。予定では「マナカ編」が「余命一月の勇者様」で一番長い章になります。最終章と言いながら、その後にもう一つ章が入るかも知れませんが、実質「マナカ編」が最終章であると認識しておりますので、彼らの冒険の行く末がどうなるのか、どうか最後までお見逃しなく!
 次回、29話「王都・シュウエン〈1〉」……いよいよ都へ! ミコト達の新たな出逢いに幸あらん事を! お楽しみに!

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