2018年6月24日日曜日

【滅びの王】25頁■神門練磨の書6『〈風の便り〉』【オリジナル小説】

■タイトル
滅びの王

■あらすじ
一九九九年夏。或る予言者が告げた世界の滅亡は訪れなかった。併しその予言は外れてはいなかった。この世ではない、夢の中に存在する異世界で確かに生まれていた! 恐怖の大王――《滅びの王》神門練磨の不思議な旅が今、始まる!
※注意※2007/09/07に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

■第26話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/

25頁■神門練磨の書6『〈風の便り〉』


 旅籠に戻ると、時刻は既に六時を過ぎたっぽい。
 夕餉に上ったのは野ネズミ……はどこにも無く、野菜や元が何か分からない肉、砂が浮いているようなスープだった。……文句は言わない。野宿の時だってマトモな物は食べられなかったんだから、この世界全体がこういうモノなんだって割り切るしかあるまい。
 それに食べてみて不味くなかったし。寧ろ新鮮な味付けでちょっと楽しかった。
 完食すると女中が来て、お盆ごと運んで行き、部屋にはオレと鷹定だけになった。雪花は旅籠の前の小屋で休んでいる。……あいつは良い奴だから、目一杯美味しい物が食べられたら良いな、と心の隅で思ってみる。
「……明日には、王都へ向かいたい」
 地図が無いから具体的な場所は分からないけれど、ここから三日は掛かる場所に在るらしい。
 ……長い道程になりそうだ、と思っていると、鷹定は別の事で頭を悩ませているようだった。
「そうは言うものの、この土栗経由では王都に入れんかも知れん」
「えぇ!? 何で?」
「旅籠の女将に聞いたんだが……どうやら王都に入る正門が閉じられてしまったらしい」
 理由は言わなくても何と無く察しが付いた。……《滅びの王》だ。王国だけでなく、この世界の人達全員が狙っている、極悪人だ。世界を終わらせるような人物に、王国内、それも王都に侵入されたら堪ったもんじゃないんだろう。そう考えると王都へ行く門の閉鎖も仕方ないと言える。
 でも、それじゃあ鷹定の計画は練り直しなんだろうか?
 ……折角、鷹定の悩みが《滅びの王》という存在によって解消されるかも知れないってのに、こんな所で足止めを喰らうなんて……正直落胆するって言うか、もどかしくて腹立たしいって言うか……
「……そこでだ、この先どうするかここで決めたい」
「っつーと?」小首を傾げてオレ。
「ここで正門が開かれるのを待つか、迂回して別の場所から王都へ入るか」
 ……どっちにしても、すぐには王都へ入れない、って事か。
 すぐにでも鷹定の問題を解決してやりたい。でも、それは欲張りなのかも知れない。オレはきっと、《滅びの王》って称号を手にした時から、その力を使いたくて仕方ないのかも知れない。世界を滅ぼすだけの力が有るんだから、それを使えば何だって出来るんじゃないかって、いつも思ってる。……それが世界にとって良い方向になるのか分からないけれど、力って言うのは有るだけで脅威になるものなんだ。オレの存在がそれだけ危ないものだと、自分でも分かってるつもりだ。
 今はその力を鷹定の問題に使いたい。それは力を持ったオレの意志だ。それが悪い方向に向かおうが、それはオレの責任で、……責められるとしても、オレだけを責めれば良い。
 その力を使う場さえも与えられなかったら、オレは飼い殺しだ。……王都へ行けない今、別の手段を考えるしかない、って事か。
 迂回するか、待機するか。……どっちにしても、この先どうなるか分からない。何せ……
「……迂回したとしても、その門だって閉鎖されてるかもなんだろ?」
 迂回しても閉鎖されていたら、完全に無駄足だ。それは、出来れば避けたい。
 かと言ってここの門がいつ開くとも知れないのに、ずっと待機しているのはもどかしい。それにその開く合図が「《滅びの王》が捕まったら」とかだったら、それこそ一生開かないか、オレが捕まるかするまでずっとそのままだ。……そうしたら鷹定の問題が解決しなくなる。
 どうしよう……と悩んでいると、不意に前方に羽の生えた小人の姿が浮かんだ。
「咲希!」
「煩い声出さないでくれる? 頭悪く見えるわよ」
「おまっ、どこ行ってたんだよ!? お前こそどこか消える時に何か一言残してってくれてもいいんじゃねえか!?」
「何でよ? 何であんたなんかに行き先告げなきゃならない訳? 冗談じゃないわ! 死んでもお断りよ!」
「くっそがァァァァ!!」
 ブンブン腕を回して憎ッたらしい妖精をふん捕まえようとしたが、咲希は器用に飛び回ってオレの手を掻い潜る。くそー! ムカつく!
 オレの手が緩んだのを見て、オレの頭に着陸した咲希は、恐らく鷹定を見て言葉を吐く。
「ようやく王都へ入れる町まで来たのに、王都へ入れないみたいね?」
「……ああ。門が塞がれている」
「残念。じゃあどうするの?」
「それを今、話し合っていた所だ」
 ふぅん、と咲希は興味無さそうに返す。……自分で話題振っといてそりゃねえだろ。
「咲希、お前は何か知ってんじゃねえのか? ここを抜ける方法とか?」
「ふふん、知りたい?」
「知ってるなら教えろよ!」
「『お願いします』は?」
 ぐ……このクズ妖精、今すぐボコしたい……ッ!
「……お願いします、知ってるなら教えろよ!」
「『お願いします』を上に付ければ良いってもんじゃないでしょ!? 誠意が足りないわ、誠意が!」
「なぁ、鷹定。こいつ、踏み殺して良いか?」
「……やれるものなら、な」
 鷹定が苦笑して返す。
 咲希はオレの手を掻い潜り、宙に浮かび上がって意地の悪い笑みを浮かべている。
「ほら、早く言いなさいよ?『お願いします咲希様、凡庸なるわたくしめにお教え下さい』ってねぇ!」
「く……っ、手前、性格悪過ぎだぞ!!」
「どっかのバカにそんな事言われる筋合い無いわよ!!」
 くっそー、あのバカ妖精を踏みつけてやりたい! あいつの踏み絵なら、踏み砕くだけじゃなくて燃やして丸めて海に捨ててやるのにぃ~!
 ……だが、今はそんな事を言っていられない。折角王都への近道を教えて貰えるんだ、耐えろ、耐えるんだ神門練磨! 明日はきっと明るいぞ!
「……おねっ、お願いします、咲希、……様。ぼ、凡庸なるわたくしめ……に、お、おお、お教え、くだ、さい……ッ!」
「嫌よ」
「がァァァァアアアア!!」
 こいつ、殺しちゃっても良いよね? 良いよね?
 ふ・み・殺ーす!
「きゃはははっ、ホントに言うなんて、あんたもトコトンバカよね~。ま、良いわ。あんたの屈服する姿見れただけでスッキリしちゃった」
「……お前、絶対オレで遊んでるだろ……?」
「まっあね~♪ それは良いとして。……正門から中に入る事は、王国軍が取り仕切っていて、もうどうしようもないんだけどね、王都から外に出る分には、良いみたいなのよ」
 咲希がオレの頭の上に座って話を始める。
 オレは早速その点に気づいた。
「じゃあ、その出る所から入れば……っ?」
「そう。門は完全に閉じちゃいないの。出口の門の所で人込みに紛れたら、或いはって話なのよ」
「……そう上手くいくだろうか」
 オレが小躍りしそうになるのを、鷹定の冷静な言葉が遮る。
 咲希がムッとするのが気配で分かった。
「何よ? あたしの作戦に文句でも有る訳っ?」
「いや……ただ、どうやったら紛れ込めるのか、分からないんだ」
 確かに、出て来る人の波に紛れたとしても、逆方向に進んで行く人がいれば、即座にバレてしまうんじゃないかという危惧は有る。でも……
「でもさ、他に何か手は有る? 鷹定」
「……無いから困ってるんだ」
 ……やっぱり不安は有る。本当にそんな作戦が成り立つのか、オレにだって分からない。
 だけど、それしか手が無いのなら、それを選択せざるを得ないんじゃないだろうか?
 そうやって悶々と考えていると、部屋の戸が控えめにノックされた。……? 誰だろう、こんな夜更けに。
 時刻は八時を回ろうとしていた。女中さんが布団でも敷きに来てくれたのかと思ったが、戸の向こう側の人は、昼に見たあの女の人――鈴懸麗子さんだった。
「こんばんは、練磨くん」
「あ、あの時の……」ちょっと驚きつつオレ。
「……練磨、この方は?」怪訝そうに鷹定。
「あっと、鈴懸麗子さん。昼に、変な奴を追っ払った時に知り合ったんだけど……」
 鈴懸さんに視線を向けると、鈴懸さんは微笑んで頭を下げた。
「昼間に、襲われた所を助けて頂いたので、そのお礼を言いに来たのですが……」
「そんなっ、お礼はもう良いですって!」
「でも……」
 何か言いたげだった鈴懸さん――の背後から、ドスの利いた怒声が聞こえてきた。
「ここにおるんじゃろうがアバズレェェェェ!!」
「!」
「出て来いやァァァァ!!」
 瞬間的に、それが昼間に襲ってきた奴だと察したオレは、慌てて腰を浮かす。
 鷹定は瞳を細めて、腰に忍ばせていた刀に指を走らせる。その動きは洗練されていて淀みが全く無かった。
 男の怒声は何度も響き渡り、とうとうこの部屋にまで足を向けた。
 鈴懸さんはオレの背後に回り、小さくなって震えていた。怯えてる……でも、何で鈴懸さんは狙われてるんだ? あの男の逆恨みか?
「ゴルァ、このアバズレェ! ――って、手前は昼間の……!」
「あ、ども」
「ども、じゃねえェェェェ!!」
 相当頭にキてるらしい。尋常じゃない怒り方だ。
 オレは宥めようと一歩前に出る。
「だからさ、お願いだから事情を聞かせてくれない? そうじゃないとまた――」
「るっせぇ! 手前に話す事なんざ何一つとしてねぇ! その女をこっちに寄越せ!」
 おいおい……話し合いってか、譲り合いの精神は皆無か、このあんちゃんは。
 こうなったら、梃子でも動いてくれないだろうから、オレも実力行使に出るしかない。
 ――と、鷹定がオレよりも前に出て、男を睨みつける。
「ンだテメエは? ブッ殺すぞ!!」絶叫する男。
「喚くな。客の迷惑を考えろ。……何の用かお応え願う」
「すかしてんじゃねえぞコラァ! さっさと女を出せって言ってんだろ!? 死にてぇのか、おあ!?」
「……話にならんな。――出直して来い」
 男は、屈服しないオレや冷静沈着なまま対応する鷹定にプッツンしちゃったみたいで、顔面を羞恥で真っ赤にして地団駄を踏んだ。……本当にどうしようもなく怒ってしまうと、こうなってしまうのかも知れない。
「ざけてんじゃねえぞ、ゴルァ!! ブッ殺す!」
 男は初めて得物に手を出した。腰にぶら提げていた短刀……ドスと言う奴だろうか、鍔が付いておらず、柄からちょっと手を滑らせたら自分の手も切れてしまいそうだった。それを両手で握り締めて、興奮した様子でオレ達に視線を血走らせる。
「さっさとその女渡しゃ済む問題をよォオ! テメエらが悪いんだぜッ?」
「それ、逆恨みだろ!? だから、事情を聞かせろっつってんだろ!? 話し合いで解決しようぜ!?」
「うるせえ! テメエら皆殺しだ!!」
 最近の若者はキレやすいとか言うけれど、この兄ちゃんもそれかな、と頭のどこかで考えてた。
 接近してきた男に、鷹定は冷静に鞘を走らせる――ッ!
 ――キィン、と金属同士がぶつかったような涼しい音の後、どすっ、と畳に短刀が喰い込んだ。
 視線を上げると、鷹定が抜いた刀――鞘に入れたままの刀が男の手首を叩いたらしく、それだけで男は短刀を落としてしまったらしい。……それだけ、とは酷い言い方だったかも知れない。あんな速さで手首を叩きつけられたら、オレなら痛みできっと動けなくなる。
 手首が痺れているのか、男は両手を下げたまま、「覚えてろ!」と懐かしい捨て台詞を吐いて部屋から消えた。
 バタバタ廊下を走る音、廊下にたまたま居合わせた通行人にぶつかり「どけ!」と怒る声、その後にようやく静寂が戻ってきた。
「……何なんだ、あいつ」
 オレは、いつの間にか冷や汗を掻いていた事に気づいた。緊張したんだ、刀が抜かれた瞬間。
 刃物を見ただけで、オレは自身の『死』をイメージした。最悪、怪我するんじゃないかと思った。刀を抜くとはそういう合図だとオレは思っていたから、尚更だ。実際にヤクザの抗争などを見た訳じゃないけれど、一旦得物を抜けば、それはどちらかが死んでもおかしくない状況だって、オレは認識していた。
 だから、純粋に怖かった。誰かが死ぬんじゃないかって。それが、オレかも知れないって。
 現実ではそれが何とか丸く納まってくれたおかげで、オレは冷や汗を流すだけで済んだのだ。……正直、今から食事を始めると言ったら、オレはきっと変に緊張した状態で喉を通らないと思う。それ位に今の状況に緊張していたんだ。
 ちょっと深呼吸して、すぐに動悸を元に戻そうと努力した。
「……それで、鈴懸さんとやら。いつまでここにいるつもりだ?」
 鞘を腰のベルトに戻しつつ、鷹定が視線をオレの背後に向ける。ビクッと鈴懸さんが微動するのを、背中越しに感じた。
「あ……その……」
「礼は良いと、練磨も言ってるんだ。もう用は無い筈だが?」
「お、おい鷹定っ。そんな言い方……」
 鈴懸さんは、震えている。怖がってるんだ……きっと、あの男を恐れてる。また襲ってこないかって、怖がってる。
 その気持ちが分かる訳じゃないけど、オレだって母さんに怒られた日は居間に戻りたくなかった。また怒られると分かってるのに、進んで挑もうという精神がその頃のオレには無かったんだ。その気持ちに似ているだろうとオレは思った。
 あの男がいつまた襲ってくるか分からないのに、一人で旅籠に帰るなんて……それは、妙齢の女性にとっては酷な話だと、オレは感じた。
「……鷹定。この人……鈴懸さん、今日一晩だけでも、この旅籠に置いておけない、かな?」
「……理由を聞かせて貰おう」
 一方的に話を断ち切る訳じゃなく、ちゃんと動機を聞いてから考えると言うのが、如何にも鷹定らしい。そういう所はオレも好きだ。
「さっきの兄ちゃんがまた襲ってくるかも知れないだろ? そうなったら、今度こそ鈴懸さんは一人だ。一人で、あの男に襲われたら……」
 敢えてその続きは言わなかったけれど、鷹定だって気づいてる筈だ。妙齢の女性が男に襲われたら、その後どうなるかなんて……
 最悪、殺されたりなんかしたら、絶対にオレは後悔する。鈴懸さんを泊まらせてさえいれば、って。
 そんな後悔は絶対にしたくない。オレは鷹定を見上げ、決意を視線に載せて伝えようとした。
「…………」
 鷹定は黙ったままオレを見据えている。
 短い沈黙の後、鷹定は鈴懸さんに視線を移した。
「……と、練磨は言ってるが、貴女はこれからどうしたい? 何なら貴女の宿泊している旅籠まで、俺が送ってやっても良い」
「…………」
「貴女の意志を伺いたい」
 鈴懸さんが息を呑む音が、本当に聞こえてきそうだった。
「……お願い、」小さく、震えた声だった。
「お願い、今日だけで良いわ、ここに……置いてくれませんか……?」
 オレは背中の方で震えている鈴懸さんを出来る限り見ないようにして、鷹定に同意を求めた。
「……女将と話を付けてくる」

【後書】
 危惧していた事が早速起こりましたね!w>トラブル
 このトラブルが後々大変な事に発展していく…そんな気しかしませんね! 鈴懸さん、悪い人じゃないと信じたいですが果たして…!
 そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    やっぱりトラブルメーカーだった!

    鷹定様かっこよすぎwさすが《滅びの王》を手懐けた男はちゃうわ~
    作戦会議中にトラブルはつきものですよねぇw
    ですが、先生後書で書かれていますが後々大変なことに…(なるの?
    やっぱり土栗には来ないほうが良かったのかなぁ(ふわふわ~
    いろいろあってもう我慢しきれず言っちゃいます!

    続きはよぅ!!

    疑問はすべて継続中!
    新 規:崇華ちゃん元気ぃ~(意味深

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      やっぱりトラブルメーカーだった!ww 流石とみちゃんっその洞察力は侮れぬいっ!w

      鷹定様カッコいいですよね!w 《滅びの王》を手懐けた男ww確かに練磨君、いつの間にかめっちゃ懐いてましたね…!w これも鷹定様の力…!
      ですですw 作戦会議中にトラブルはやっぱり起こってしまうものです!w
      さてさて、本当に大変な事になるのか…!?
      崇華ちゃんの言う事をちゃんと聞いておかないからぁ~! 練磨君、今頃崇華ちゃんヽ(`Д´)ノプンプンしてますよきっと!(笑)

      我慢しなくてええんやで!w 続きを楽しみにしてくれている気持ち、ドチャクソ伝わりましたよ!!! 有り難う!!!!!
      てか、毎週三回更新でも間に合わなくなるとはな!ww 本当に嬉しい限りです!w ありがとー!w

      気になる所にまさかの「崇華ちゃん元気ぃ~(意味深」wwwどういう事なのwww

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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