2018年8月20日月曜日

【余命一月の勇者様】第39話 台本戦争〈3〉【オリジナル小説】

■あらすじ
「やりたい事が三つ有るんだ」……余命一月と宣告された少年は、相棒のちょっぴりおバカな少年と旅に出る。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

■第39話

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096

第39話 台本戦争〈3〉


「“ネイジェ=ドラグレイは、ソウセイの国の姫、ミツネ様に危害を加える者が現れるから対処して欲しいと、冒険者ギルドに依頼を出したのです”」

 サボの言葉を一番最初に理解に到ったのは、やはり、シュンだった。
 苛立ちを口唇に滲ませるも、悟られないように即座に無感情の海に落とす。あくまで表層は真顔のまま、内面は憎悪と怒りで荒れ狂いながら、シュンは小憎らしい冒険者ギルドの纏め役を睨み据える。
 サボは発言してからシュンの様子を窺い、ちらとマシタに視線を向けるも、彼が理解に達していない事を察し、“察していない振りをして”、マシタに更に言葉を掛ける。
「そこで我々冒険者ギルドは、その依頼を請け負ってくれる冒険者……且つ、“王城に用向きの有る冒険者”を探し出し、その依頼を請け負わせた次第でありまして」
「……あ?」訳が分かっていない様子で間の抜けた声を漏らすマシタ。「そこのおん……姫に、危害を加える者が現れるから対処して欲しい……? それを依頼した……?」
「お分かりになりませんか?」困った表情を覗かせて、両手の指を合わせるサボ。「ソウセイの国の姫、ミツネ様に危害を加える者から守り抜いて欲しいと、“冒険者ギルドはネイジェ=ドラグレイの命に従い、冒険者・追瀬マナカにミツネ様の護衛を依頼した”のです。そして冒険者・追瀬マナカはその依頼を無事達成、ミツネ様に危害を加えようとした“暴漢”を退け、その後ミツネ様の安全を確保すべく、冒険者ギルドにて保護した……これが此度の顛末に御座います」
 サボは告げた後、しっかりとシュンの両眼を見据えた。
 シュンはサボの挑戦的な視線を、煮え滾る憎悪の炎で見返した。
 この発言に持って行くための布石。そのための前準備としての発言の数々。
 冒険者ギルドの纏め役を侮っていた。それは己の落ち度であると、シュンは正確に理解していた。
 マシタをここに連れてくるべきではなかった。――否。恐らくだが、サボがここに来た時点で、こうなる定めであった事は、シュンには分かってしまった。
 言論の場で、併も己の首が刹那に飛びかねない王族との謁見の場で、これだけ堂々と“虚言を放てる”者は、シュンにとって初めてだった。
 そう、シュンだけではない。この次期国王としての意識をまるで持ち合わせていないマシタとて、理解している筈だ。眼前の下民が、“嘘を吐いている事ぐらい”。
 だが、これを嘘と断じる事は出来ない。嘘と断じれば、即ち――
 ……マシタが、仮にサボの発言は嘘であると明言した場合、どうなるか。
 ネイジェ=ドラグレイの存在を否定する事は、国王陛下が信心している伝承・伝説の否定。それを臣民はどう認識するか、……否、“この場にいる騎士がどう感じるか”。
 騎士が如何にマシタに従順であろうと、近衛騎士であるシュンに盲従していようと、その絶対の主である国王陛下――マツゴに反する事は無い、“有り得ない”。
 マツゴは、あの場で――ネイジェ=ドラグレイは“伝承に残る、伝説の半竜半人”と明言し、更に人族の共通認識とは異なるミコトの思想を“故にこそ、ネイジェ=ドラグレイは応えた”と続けている。
 そうまで言わしめる相手からの依頼を、嘘だと言えばどうなるか。あの場にいなかったマシタにはそれが分からない。分からないからこそ、彼に喋らせる訳にはいかなかった。
 ここで迂闊な事を発言すれば、その時、首が飛ぶのは……
「お前は何を言って――」「――マシタ様。この場は、私が納めます」
 怪訝な表情でシュンを睨み据えるマシタに、忠実な近衛騎士は初めて見せる苦渋の表情で、近くにいた騎士に声を掛けた。
「マシタ様のお加減が思わしくない。直ちに医務室へお連れしろ」
「ぎょ、御意のままに!」敬礼を返し、慌ててマシタの元に駆け寄る騎士。「さっ、マシタ様、こちらへ」
「あ? どういう事だシュン?」「――マシタ様、どうか後は私にお任せください」「説明しろって――」「マシタ様ッ!!」
 未だかつて見た事の無いシュンの恐ろしい形相に、マシタは息を呑んでよろめくと、「あ、後で説明しろよ……?」と青褪めた表情を浮かべ、騎士に付き添われて謁見の間を去って行った。
 静かになった謁見の間で、サボはどこ吹く風と言った表情でシュンを見上げる。
「マシタ様に付き添わなくて宜しいのですか?」
「……誰の入れ知恵かは知らぬが、あまり王族を、――“近衛騎士を”侮らない事だ」サボを眼光鋭く睨み据えるシュン。「精々夜道には気を付ける事だな」
「えぇ、当面は夜間の外出を控えます。何せ、怖い騎士様が目を光らせていますからね」泰然と微笑を返すサボ。
「……」
 苛立ちに表情筋を引き攣らせるシュンだったが、それ以上は口を開く事は無く、足早に謁見の間を出て行った。
「おう? どうなったんだ?」マナカがツンツンとミツネの肩をつつく。「話、終わったのか?」
「……あぁ、終わったぞ」はぁーっと重たい溜め息を吐き出すミツネは、「サボとやら。お主、まっこと……鋼の心臓じゃの……ワシは傍目で見とっただけなのに、心労で眩暈がするぞ……」と、サボを見上げてぼやいた。
 サボはクスクスと口元に手を当てて苦笑を浮かべると、「冒険者には色んな方がいますからね、この程度の難境は日常茶飯事ですよ」と、軽やかに応じた。
 そんなサボに、ミツネは「此奴も、マナカとは異なる意味で、底知れぬ男じゃの……」と呆れた声を漏らすのだった。

◇◆◇◆◇

「……何れも、余の不手際です」
 その後、一時間ほど経ってから、謁見の間には国王陛下であるマツゴと、ミコト、クルガ、レン、そしてオルナ、更に双子の黒衣のメイド、ニメとサメが入って来て、マナカ、ミツネ、サボ、そしてホシは彼らと再会を果たせたのだった。
 まだ顔色が良いとは言えないマツゴだが、その語調に淀みは無く、態度からは深い謝罪の念が感じ取れた。
「何と謝罪して良いのか、見当も付きません。本当に、本当に、申し訳ない」
「陛下……」
 頭を下げたままのマツゴに、オルナが寂しそうに声を掛ける。
「――陛下」その空気を破るように声を掛けたのは、サボだった。「僕は無論の事、彼らも、陛下の謝罪など求めておりません。この事態を招いたのは全て、マシタ様の不徳。遠因として陛下の教育を謗るとしても、それとて詮無い事でしょう。問題は“これからどうする”。……ではないでしょうか」
 サボの、微笑を潜めた真剣な言の葉に、マツゴは神妙に頷き、玉座に座り直した。それをその場に居合わせる皆が、見つめる。
「……マシタの品行は、余が口にするまでも無く、皆様も察しておられるでしょう」悄然とした面持ちで、マツゴは苦しそうに呟いた。「……ですが、世継ぎを残すだけの力が、最早余にはないのです」
「それで国が滅んでは、元も子もないと、僕は思いますが」
「サボ、って言ったか。その……陛下も判っているからさ、……そう辛辣に当たらないでくれよ」マツゴの隣で困惑した様子で声を掛けるオルナ。「一応、一国の主を相手にしてるんだからよ……」
「いえ、構いませんよオルナ」スッと手で制するマツゴ。「彼は、余の大切な客人を救ってくれた恩人です。それに……彼の諭告は、この国を想っての進言であると、余でなくても判る筈です」
「陛下……」もどかしそうに吐息を零すオルナ。
「俺からもいいか」スッと手を挙げるミコト。「昨日来たばっかりの新参者である俺が言うのはおかしいと思うが、マシタを国王に据えた時の展望ぐらいなら、俺でも出来る」
 ミコトを見つめるマツゴの瞳は、真剣で、それでいて、悲しみに暮れていた。
「俺はもう一月もせずに……“ここ”を去る事が決まっているが、俺の家族はその後もこの国で暮らしていくんだ。その国が悪い方向に向かうと分かっているのに、何もせず、ただ見過ごすなんて、俺にはそんな無責任な事、出来ない」マツゴを正視したまま、ミコトはハッキリと口にした。「王様。俺は、確かにここには、ドラゴンに逢うため、迷宮に挑むために訪れたに過ぎないが、それでも、俺は王様の力になれるなら、助力は惜しまないつもりだ。――マシタに国を任せるなんて、俺は認めないからな」
 それはともすれば不敬罪と言われても仕方ない発言だ。だが、この場にその発言を撤回しようと言う者は居合わせず、周囲を囲んでいる騎士ですら、同意するように沈黙――陛下の答を待つように、凝然と立ち尽くしていた。
 マツゴは数瞬瞑目すると、考えが纏まったのか、ゆっくりと瞳を開き、ミコトを正視した。
「……ミコト様の意志、確と聞き届けました。ただ、今しばらく時間をください。この問題は、今すぐどうこう出来るモノではない事は、承知しているかと思いますが」ゆっくりと腰を持ち上げ、マツゴは玉座から降りて、ミコトに近づいて行く。「次期国王には、相応の資格が必要になります。王家……終世の血を引く者である事が、前提であるように」
「血縁者でなけりゃ、ダメなのか?」ミコトが、厳しく問いかける。
「……余には、その前提条件を覆す前に、一つ確認したい事が有ります」ミコトの前に辿り着くと、その隣に立つマナカに視線を転ずるマツゴ。「マナカ様。お尋ねしたい事が幾つか有るのですが、宜しいですか?」
「おう? 俺か?」不思議そうに自分を指差すマナカ。「いいぜ! 好きな食べ物は焼き肉だぜ!」
「――マナカ様のご両親は、ご健勝ですか?」
 ざわ、とミコトの胸中に漣が立ったのは、その瞬間だった。
 マナカは何も感じてないかのように、平然とマツゴの問いに答える。
「ん? 親はいねーぜ! 俺、捨て子だからな!」
「……では――“不思議な痣”……と言いますか、体に、見覚えの無い傷など、付いていませんか?」
「……!」
 ミコトが驚きに目を瞠ってマナカに視線を転じた瞬間、クルガも同じような反応を見せたのに気づいた。
 マナカは「おう? これの事か?」と服の裾を捲り、右の脇腹に在る“桜の花のような形をした痣”を、見せた。
 謁見の間が、どよめきに埋め尽くされた。
 それがどういう意味を指し示すのか、ミコトには分からない。分からないが、分かってしまう。
「……まさかとは、思っていました」マツゴが、体を震わせてマナカの両手を握り締めた。「けれど、そうではないかとも、思っていました……!」
「ん? 何だ? どうしたんだ王様?」不思議そうにマツゴを見やるマナカ。「お腹痛ぇのか?」
「王族――終世の一族には、体のどこかに必ずこの、焉桜の紋様が浮かび上がるのです」マツゴは両眼に涙を湛えていたが、しっかりとした語調で告げた。「マナカ様……いえ、マナカ。貴方は、間違いなく、余の息子……終世マナカ――亡くなったとされた第二王子、その人です」
 謁見の間のざわめきはどんどん大きくなっていく。
 誰もが、国王陛下の言葉を、即座に理解する事が出来ない。
 出来ないが、事実としての証左が、都の騎士であれば誰もが知っている証拠が、国王の言葉を強制的に刻む要因になっていた。
 クルガとレンが驚きに目を瞠り、マナカを見やる中。
 ミコトは、驚きに目を瞠りながらも、一昨日見た夢を、思い出していた。
 マナカが、遠くへ行ってしまう、夢を。

【後書】
 約五ヶ月振りの最新話更新となりました。お待たせ致しました~っ!
 と言う訳でこちら【余命一月の勇者様】ものんびりと更新再開と相成りました! またふんわりお付き合いくだされ~!
 さてさて今回は「台本戦争」の終結と言う事で、サボさんがすんごい良いキャラしてくれました(笑)。頭脳戦とか舌戦は作者の知識・智略以上のモノが生成できない、と言うのが身に染みて、且つ理解せざるを得ない、もどかしい想いを懐かずにいられませんでしたね…! もっと天才になりたい…!
 そんなこったで次回もお楽しみに~!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    久しぶりにみんなにあえて嬉しいです。
    そして、いつものように読みながらウルウルしてしまうのでしたw

    サボさん大活躍!さすがですv

    そしてまさかの急展開…遠くに行ってしまう夢…
    予想を遥かに超えていくスタイル…さすがです。
    が、これから彼らがどうなっていくのか非常に心配でもあります。

    でも

    きっとマナカ君のことだから…

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回もふんわり楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      本当にお久し振りになってしまいましてw
      (*´σー`)エヘヘw とみちゃんの心を揺れ動かせる物語に仕上がってると思うとめちゃんこ嬉しいです! 有り難う御座います~!

      サボさん大活躍! この子もほんと予想以上の働きをしてくれて、作者としても鼻が高いです(笑)。

      ミコト君の「遠くに行ってしまう夢」が遂に現実化と言う流れで、
      予想を遥かに超えられたのなら幸いですw
      ですです! 心配してしまうかも知れませぬが、マナカ君ですからね! 彼ならきっと、ミコト君、そしてとみちゃんの不安も取り除いてくれる…筈!

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もふんわりお楽しみに~♪

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