2018年9月17日月曜日

【余命一月の勇者様】第40話 だって俺は、ミコトの相棒だからな!【オリジナル小説】

■あらすじ
ミコトは一昨日見た夢を思い出していた。マナカが遠くへ行ってしまう、夢を。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096

■第40話

第40話 だって俺は、ミコトの相棒だからな!


「……流石に、僕も驚きを禁じ得ませんね。マナカ君が、亡くなったとされる第二王子だと言う話には」

 王城の客室で、サボはソファに腰掛けて両手の指を合わせると、苦笑を浮かべた。その視線の先にはベッドに腰掛けて不思議そうにしているマナカの姿が有った。
 謁見の間でマツゴから衝撃的な発言を受けた一同だったが、ひとまずはマナカの死罪が免れた事に安堵した後、マツゴの提案で客室に通されて休息を取っていた。
 マシタとシュンには謹慎処分を言い渡すとマツゴは明言し、その場は一旦解散となった。今回の騒動の関係者であるミコト、マナカ、クルガ、レン、ミツネ、サボ、ホシ、ニメとサメ、そしてオルナは大きな客室で互いの無事を確認するように、腰を落ち着かせていた。
「……俺も未だに信じられねえ想いで一杯だけどよ、あの焉桜の痣を見せられちまった以上、何も言えねえな……」オルナが壁に寄りかかった姿勢で紫煙を吐き出す。「言っちゃ悪いが、王族としての貫禄、全くねえし……」
「……じゃが、マナカが王子であると納得できる部分も有ると、ワシは思うぞ」ソファに腰掛けていたミツネが、マナカを見据えてポツリと零した。「王の器は確かに備わっておると、ワシは思う」
「ひ、姫様に“王の器が有る”って言われるなんて、これ以上無い栄誉よね……」言葉を失いかけているレン。「何て言うか、上手く言葉が出てこないけど、マナカあんた、やっぱり凄かったのね……」
「おう? 何で皆、そんなぎこちねーんだ? 腹減ってんのか?」不思議そうにこの場に居合わせる全員に視線を送るマナカ。「ミコト! ここはあれだろ、干し飯を皆で食おうぜ!」
「……マナカは、やっぱりマナカだな」心底安堵したような声を、ミコトは嬉しそうに漏らすと、表情を改めて、マナカを見据えた。「マナカ。よく聞いてくれ。お前は、この国の王子らしいんだ」
「よく分かんねえけど、そうなのか?」言葉通り、理解しているとは言い難い表情で小首を傾げるマナカ。
「あぁ。俺は、マナカがこのオワリの国を治める王として君臨してくれると、安心して……逝ける」
 数瞬の沈黙が、客室に降りた。
 マナカはいつにない真剣な表情でミコトを見据えると、小さく頭を振った。
 ――“否”と、頭を振った。
「俺、王様になる気はねーよ」
「……」マナカを見据えたまま、何も言わないミコト。
「だって俺、ミコトと一緒にいてーし」
 ニカッと、屈託の無い笑みを覗かせるマナカに、ミコトは数瞬瞑目した後、――嬉しそうに、表情を綻ばせる。
 分かっていた。マナカなら、きっとそう言うだろうと。けれど、それは、彼らの、家族の未来を想うのであれば、受け入れてはいけない言葉であるとも、ミコトには判っていた。
 周りを囲う皆が、ミコトと同じ表情……嬉しそうに、“変わらないモノが、変わっていなかった事を確認するかのように”、安堵の念が広がった笑みを、浮かべている。
「……マナカ。俺は、お前に、王様になって欲しい」
 ――だからこそ、言わなければならないと、ミコトは分かっていた。
 確かに、マナカには王としての威厳や、王子としての貫禄は、備わっていないかも知れない。他国の姫に“王の器が有る”と言われたからと言って、すぐに王として臣民を導ける訳でもない。
 マシタが国王として継ぐ未来に絶望が有るように、マナカが国王として継ぐ未来も不安は尽きないし、国の衰退はどうあっても止められないかも知れない。
 それでも――オワリの国を統べる王としての未来がマナカに有るのなら、ミコトはそれを、望みたいのだ。
 臣民が望まなくとも。騎士が望まなくとも。……マナカが、望まなくとも。
「――――やだよ」
 ミコトの真剣な申し出を、マナカはハッキリと、否定した。
 マナカの表情も真剣そのもので、話を聞いていない訳でも、理解していない訳でもない事は、ミコトにも、周りに佇む皆にも分かっていた。
 だが、だからこそ、ミコトも、周りの者も、すぐにはマナカの発言を呑み込む事が出来なかった。
 ミコトを第一に考え、ミコトの指示にはどういう意図であれ従い、全幅の信頼を寄せているミコトの頼みを、即答で断る様を、この場に居合わせる誰もが、初めて見たからだ。
 マナカはベッドに腰掛けたまま、ミコトを見つめている。怒りや悲しみ、困惑や焦燥と言った感情の一切が塗布されていない真顔で、マナカはミコトを見つめている。
 ミコトはそんなマナカに戸惑いを覗かせ、無言で、“何故?”と問うていた。
「言っただろ? 俺はミコトと一緒にいるって決めたんだ」ゆっくりとした語調で、この場に居合わせる全員を説得するように、マナカは言葉を落とした。「王様になるって事はよ、色んな事を勉強しなくちゃいけねーし、この国のために色んな事しなくちゃいけねーし、ここから離れられなくなっちまうって事だろ?」マナカの目は、ミコトから逸らされない。「ミコトと一緒にいられる時間が減るなら、俺は王様になんかなりたくねえ。俺の時間は、ミコトと一緒にいるために使いてえんだ」
 そう言って、マナカは再び、屈託の無い笑顔を覗かせた。
 ミコトにはその笑顔の意味が、分かってしまった。マナカが、“譲らないと決めた”顔だと、否が応でも、分かってしまった。
「……俺はあと一月でいなくなる。マナカは、その後も、この世界で生き続けるんだぞ?」
「ミコトはいなくならねえよ。俺が何とかするからな!」
「マシタよりも、マナカが王様になった方が、俺は安心できる」
「俺はミコトと一緒にいる方が楽しいぜ!」
「……マナカ、俺は……っ」
「――ミコト」
 立ち上がると、ミコトの肩に手を下ろすマナカ。ミコトは俯きそうになる顔を懸命に上げ、マナカを正視した。
「俺は、ミコトが何て言っても、ミコトと一緒にいるって決めた。何度でも言うぜ? 俺が王様になるんだったら、ミコトも一緒だ。ミコトが何も言わずにどっか行っちまうなら、俺はミコトがどこに行っても、絶対、必ず、何が遭っても、見つけ出すし、一緒にいる」
 マナカは、ミコトを見つめたまま、告げる。

「だって俺は、ミコトの相棒だからな!」

 ――歯を食い縛り、ミコトは込み上げてくる感情を必死に抑えた。
 昨夜、クルガの想いを聞いて弾けそうになった衝動と、同じ感情。
 己が導こうと思った家族に、逆に導かれてしまう、己の不甲斐無さ。
 己が諦めようと、手放そうとした大切な何かを、彼らは知っているのだ。
 だからこそ、己が手を離そうとした瞬間、彼らは手を取ってくれる。
 優しく、温かな手で、握り返してくれる。
「俺はバカだし、王様には向いてねーと思うけどさ、」込み上げてくる感情の雫を目元に湛えるミコトを抱き締め、ポンポンと、普段ミコトがするように、ミコトの頭を撫でるマナカ。「ミコトと一緒なら、なっても良いと思ってんだ、王様」
 ミコトを抱き締めたまま、マナカは嬉しそうに続ける。
 ミコトはマナカの肩に頭を載せたまま、嗚咽が漏れないように、必死に歯を食い縛っていた。
「ミコトがいれば、怖いもんねーし、楽しいしさ!」楽しそうにはしゃいでいたマナカは、そこで落ち着かせるようにミコトの背中を優しく叩いた。「だからよ、ミコト。そんな寂しい事、言わねえでくれよ」
 ……マナカは、きっと気づいている。
 マナカだけではない。クルガだって、レンもそうだ。皆、気づいていながら、言わなかっただけ。
 ミコト自身が、怖くて、辛くて、苦しくて、恐ろしくて、目を背けようとした、必ず訪れる未来を、真剣に見つめて、見つめた上で、ミコトが立ち止まろうとしているその手を、取ったのだ。
 ミコトは、もう流す事は無いだろうと思っていた水滴を、止める事が出来なかった。
 あの時……母がいなくなった時に涸れたと思っていた感情の雫は、ミコトの頬を止め処なく濡らしていく。
 あの時は、辛くて、苦しくて、何もかもを諦めたくて流したそれは今、嬉しさと温かさが入り混じった、あの時浮かべたかった表情で、流れていく。
 やっとあの時、母を見送った時に自分が見せたかった顔が、分かった。

◇◆◇◆◇

「ミコトが泣くところ、初めて見ちゃった」
 目元を赤くして、若干恥ずかしそうに微苦笑を浮かべるミコトの隣に、ストンと腰掛けるレン。ミコトは照れるように吐息を漏らす。
「……幻滅したか?」
「ううん、寧ろ嬉しいって言うか……ミコトも、あたし達と同じように泣くんだなって、安心しちゃった」ミコトの肩に寄りかかるように頭を載せるレン。「ミコト、あたしもさ、マナカには王様になって欲しい気持ち有るわよ、あのバカ王子にこの国を任せるなんて、絶対嫌だし。……でもさ、それってたぶん、マナカ一人じゃダメなんだと思う」ミコトに寄りかかったまま、レンは呟いた。「ミコトがいて、初めて成り立つんだって、あたしは思うよ」
「……そうだな」レンの頭を抱くように、優しく撫でるミコト。「……ありがとな」
「……こほん、そろそろ本題に入らせて貰っていいかな?」わざとらしく咳払いして注目を集めるサボ。「冒険者の活動は、慈善事業ではない。働きに見合う報酬を要求する、それが冒険者だ。そして僕はその冒険者達の纏め役。今回の働きに見合う、見返りを頂かなくてはならない」
 キザっぽくウィンクを見せるサボに振り返ると、ミコトは「あぁ、話はサメから聞いてる。“話を聞かせて欲しい”――だったな?」と首肯を返した。
「そう!」パキンッ、と軽やかに指を鳴らすサボ。「大雨の影響でシュウ川の橋が崩れたにも拘らず、君達はこの短期間でシュウエンに辿り着いた、その理由を、僕は知りたい。これは僕の想像に過ぎないが――君達は、またしても特殊な事態に遭遇したのではないかと、そう疑っているんだ」
 底知れない微笑を浮かべて両手の指を合わせるサボに、ミコトはマナカ、クルガ、レンに目配せした後、「特殊な事態と言えば、そうかもな」と淡泊に応じた。
「是非それを聞かせて欲しいんだ。言ってしまえば僕は、そのためにマシタ様と近衛騎士を敵に回したと言っても過言ではないからね」
「……サボさん、あんたもとんでもねえ奴だよな」オルナが呆れた声を漏らした。「普通、冒険者の話を聞くためだけに王族を敵に回すような真似するかね……」
「ワシも助けられておいてなんじゃが、正気の沙汰とは思えんよ……」恐ろしいモノを見る目でサボを見やるミツネ。「そんなにその冒険者……ミコトとやらの話が緊要なのかの?」
「ミコト君と言いますか、彼ら四人は、伝承に残る人物・ネイジェ=ドラグレイと言葉を交わした、冒険者の中でも特異な立場に立つ存在なのです」
「なんじゃと!?」
 ソファに腰掛けていたミツネが瞠目して跳び上がった。驚きに顔を歪めたまま、パクパクと金魚のように口を開閉する。
「その話、誠か……?」
「先日、ヒネモスの冒険者ギルドにネイジェ=ドラグレイ本人から風ノ音鳥が届きましてね」ミツネに向かって手を広げるサボ。「それで冒険者ギルドは青天の霹靂でてんやわんやの大騒ぎ。尤も、当惑してるのは冒険者ギルドの上層部……僕みたいな纏め役や、支部の長ぐらいですけどね」
「それは……そうじゃろう。王族ですら、即位の折に聞かせるぐらいの緊要な話じゃし……。ワシもソウセイの国の歴史を独学で学んだ折に、固有名詞として知っておる程度の名じゃ。まず、市井に出回る名ではない」
「なるほど、王家にも伝わっているのですね、この伝承は」透かさずパキンッと指を鳴らし、ホシがサボにメモ帳とペンを手渡す。サボは素早くペンを紙面に走らせると、ホシに返した。「その話も改めて伺いたいですが、先にミコト君の報酬を頂こうかな。――シュウ川、……いや、シマイで、何が起こりましたか?」
 サボの爛々と輝く瞳を見て、ミコトは苦笑を禁じ得なかったが、小さく首肯を返して話し始めた。
 マナカとミツネを助ける代わりに、ミコトとオルナにサメを通してサボがお願いしたのは、“シュウ川、及びシマイで起こった話を聞かせて欲しい”――たったそれだけ。
 オルナにしてみれば、それは破格の報酬だったかも知れない。けれどミコトには、サボの思惑が何を意味するのか、分からない訳が無かった。
 きっと呼雨狼……虹狼とは、トワリとは、“そういう事だったのだろう”と言う、予想が有ったからだ。

【後書】
 マナカが一人では暴走してしまうように、ミコトも一人では上手く歩けない。だから二人は一緒にいないと成り立たない。
 だいぶ前のお話になりますが、マナカがミコトに救われたように、ミコトもマナカに救われてるんだなぁ、と言うエピソードをどうしても綴りたくてこういう形に。もー、胸がキュンキュンしてしんどい…※作者の感想です
 さてさて次回は、謎多き娘だったトワリちゃんに踏み込むお話です。“そういう事だったのだろう”とミコト君が予想している通りの、そういう奴ですw お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    色々と溢れ出てて画面がよくみえません。

    マナカ君の想い、ミコト君の想い、家族の想い、
    全部苦しくて切なくて…
    それでも手を差し伸べてくれる仲間が、家族がいる。
    ちょっとぐらい弱音はいてもきっと大丈夫!
    ほんと胸がキュンキュンしてしんどい…

    さて次回「ん~だめかな?」のトワリちゃんのお話と聞いて
    ハンカチとティッシュの準備をはじめました。そういう奴ですかw

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      それはきっと尊い雫です…!(*´σー`)エヘヘ

      色んな想いが積み重なって、ミコト君が、マナカ君が、そして二人を包む家族達仲間達がいると言うのが、もう、キラキラしてて眩いんですよね…!
      ちょっとぐらい弱音を吐いてもきっと大丈夫! そう言ってくれる人が傍にいるだけで、絶対大丈夫!!
      ほんと胸がキュンキュンしてしんどいですよね…!w 分かりみが深い( ˘ω˘ )

      ハンカチとティッシュの準備が速い!ww そうです、トワリちゃんは“そういう事”ですので、ぜひぜひ楽しみにお待ちくだされ~!w

      今回も色々溢れ出て画面が見えなくなるほどお楽しみ頂けたようでめちゃんこ嬉しいです~~~!!!!!。゚(゚^ω^゚)゚。
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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