2018年9月19日水曜日

【滅びの王】48頁■葛生鷹定の書3『赤い風』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/01に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

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■第49話

48頁■葛生鷹定の書3『赤い風』


 赤い〈風の便り〉は死亡通知だ。
 或る人物が死ぬと、一度でもその人物と〈風の便り〉をやり取りした事の有る全員に死亡通知が届けられる。
 死亡通知には亡くなった場所や日時が記されるので、縁の有る人はそこへ向かい葬儀を行うと言うのが、世界では通例となっている。
「練磨君が……死んだ……?」
 鈴懸の妙に沈んだ声が耳朶を打つ。声が震えていないのは、きっとこういう事が一度目じゃないからだろう。仲間の死を目の当たりにするのは一度や二度じゃないと、纏った空気が暗に告げていた。
 矛槍は沈黙して寝転がっている。大した反応を見せないのは、既に予測済みだったからだろうか。
 唯一感情らしい感情を見せたのは間儀で、通知が来てからずっと泣きじゃくっていた。
「死んじゃヤだよう、練磨ぁ……っ。うえっ、うっ……」
「……《滅びの王》は、死んだ、か」
 矛槍が間儀を気遣う素振りを一切見せず起き上がる。その顔に悲愴な色は全く浮かんでいない。ただ、事実を淡々と受け入れる、まるで機械のように起伏の無い感情を見せていた。
「……」
 これで……事件は収束するのだろうか。
 世界を終わりに導く《滅びの王》は、呆気無く死に絶えた。これで世界が滅びる事は無いだろう。突如として危機が去った世界は、どのように変わっていくのだろう。……毎日、少しずつは変わっていくだろうが、大きな変化は訪れずに終わってしまった。
 それとも、もしかしたら練磨は《滅びの王》などではなかったのかも知れない、……とも思う。そう思いたい気持ちも有る。俺の心には、練磨が《滅びの王》であって欲しいと言う想いと、《滅びの王》であって欲しくないと言う想いが拮抗していた。……どちらであっても、練磨が死んでしまった今、もう論争をする必要も無い気がする。
 結局俺は、あいつを救おうとして、練磨を殺してしまったんだろう。……気分は最悪だった。俺があの時、《滅びの王》の……練磨の力を借りたいなどと言った時から、……否、他者に問題を背負い込ませようとした時から既に歯車は狂っていた。やはり練磨は村にでも預けて、そこで安穏と暮らしていて貰えば良かったのだ。そうすればこんな最悪の結末にはならなかった筈だ。
「……どこに行くの、鷹定君?」
 俺が無言で立ち上がったのを見て、鈴懸が見上げる。俺は出来る限り鈴懸を見ないように努めると、雪花に獣化するよう呟いた。
「……もう、ここには用が無いからな。……練磨を迎えに行ってくる」
「え……? 練磨、もう死ん……っ」
 自分で言って自分で泣きそうになる間儀は、見ていて胸を締め付けられそうになるが、俺は振り返らずに、
「……せめて、弔ってやる位、俺にでも出来るだろう? ……場所も分かってる事だしな」
「……教えてくれよ、その場所」
「ミャリ……?」
 矛槍が座った姿勢のまま俺を見上げるので、……俺は訊きたくなった。
「……何故、知りたい?」
「そりゃ、ま、オレも弔ってやりてぇからな。一日の仲だけど、あいつは……何か、良い奴だったし」
 それよりも、と矛槍は逆に問い返してきた。
「何でヤサイは、奴に構う必要が有る? やっぱ、《滅びの王》の力が欲しいのかー?」
「……練磨が《滅びの王》だと信じていないから、弔いに行くんだ」
 変な事を言ってると思われても、構わないと思った。
《不迷の森》の魔女……夜霧暦は、練磨を《滅びの王》と言ったが、俺にはどうしても信じる事が出来なかった。……否、出来なくなった。
 何の力も無く、でも誰かを助けたい気持ちばかりが先走る、……そんな奴が、《滅びの王》な訳が無い……そう、思い込みたいのかも知れない。だからだろう、俺は練磨を普通の人間として、弔ってやりたくなったのだ。
「練磨が《滅びの王》だとしたら、俺はきっと弔いには行かないだろうな」
 練磨が《滅びの王》じゃないと信じているからこそ、俺は練磨を弔いに行ける。……大事を、一時的に放置しても、優先したかった。
 僅か数日、練磨と行動を共にしただけで、心境は変わるものらしい。今は大事を措いてでも練磨を弔いたくなっていた。……人はやはり、移ろいゆくものなんだろうか。それ以上に、練磨が人を惹きつけるような人物だったとも思える。
 矛槍は俺のそんな考えを聞いて、何故か皮肉げな微笑を口の端に浮かべた。
「分かるぜ、その気持ち。オレだって、そうだ。メンマが《滅びの王》だったら、きっとこんな事しねーよ。……あいつ、《滅びの王》って感じじゃねえもん。寧ろ……あいつにこそ、《救いの勇者》って称号を与えるべきなんじゃねえか?」
 確かに練磨は《滅びの王》と言う雰囲気じゃない。矛槍が言うような《救いの勇者》とまではいかないが、平穏な村で生活しているような空気を彼は纏っている。……草花の匂いを連想させる、世間から一歩離れた場所にいるような、そんな雰囲気を感じるのだ。
「……わたしも、付いてって、いいですかぁ……?」
 獣化した雪花に跨ると、間儀が怖ず怖ずと切り出してきた。
 彼女は《悪滅罪罰》の間儀家の末裔だ。《滅びの王》が死んだ今、もう世界の危機は去ったのだから付いて来る必要は無いと思ったが、……やはり、自分の眼で確認したいのだろうか。《滅びの王》の死を……。
 俺は頷いて、最後まで動こうとしなかった鈴懸に視線を移した。
「……君はどうする?」
「……私は一旦、別行動を取ろうと思うわ。それで相談なんだけど……〈風の便り〉を送受信できるようにしてくれないかしら? いざと言う時、皆に連絡が取れればと思うんだけど……」
 俺はその案には快く賛成できなかった。
 何故か。人を疑いたくは無いが、鈴懸は一度俺を出し抜いている。そんな彼女が与える情報なんて、全く以て信用性に欠ける。どんな人物なのか完全には分かっていない上、一度とは言え練磨を勝手に連れ出した人物である、今度は誤情報でも流されて混乱させられたら、俺の大事の遅滞にも繋がる。そう思っても仕方ないだろう。
 だけど、その件を知らないからだろう、二人は賛成らしかった。
「じゃあじゃあ、わたしに一旦送ってみてくださいっ。すぐに返信しますから!」
「オレも送ってくれたら返してもいいぜー。……暇だったら」
「決まりね。――鷹定君は?」
「二人と連絡が取れるなら、俺は別に……」
 雪花に跨った俺に歩み寄って、足にしな垂れかかってくる。指で俺の太腿に「の」の字を書き始める。
「ねぇ~、いいでしょぉう~? 私、鷹定君と熱~いお話がし・た・い・のっ♪」
「……」
「それとも、私は鷹定君の趣味に合わないかしらぁ?♪」
「スイカ~、見ちゃダメだぞ~。アレはお前にとっては眼の薬だ」
「えとえと、……毒、の間違いだよね……?」
 ……外野は放っておくとして、鈴懸と〈風の便り〉を送受信する事にした。
 これ以上鈴懸に色気を使われても居心地が悪くなるだけだし、何より早く練磨を弔いに行きたい。
 早く弔って、……自身の問題を解決しなければ。そのためには今すぐにでも向かわなければならない。ここから練磨の亡くなった場所まではかなり遠い。幾ら速く走っても、二日は掛かるだろう。それに再度長城を越えなければならないから、今度こそ王都へは戻って来られないかも知れない。その時は…… 
「じゃあ行こうぜ、ヤサイ」
「……一つ言っておくが、俺は葛生だ。葛生鷹定」
「分かってるってヤサイ。ほら、スイカが待ち侘びて髪の毛が抜けてってる」
「嘘!? わたしの髪、カムバーック! お願い、抜けないでー!」
 ……取り敢えず、退屈しなさそうだった。
 俺の件まではまだ幾らか時間が有る。行って帰るだけの時間は残ってる筈だ。……弔ったら、後はもう、やるしかない。
 王国を敵に回してでも、俺は、やってみせる。そう、心の中で誓いを立てた。

【後書】
 便利なシステムですけれど、絶対に届いて欲しくない便りです。>赤い〈風の便り〉
 と言う訳でザックリと“そういう世界設定”と言う流れでご理解頂けたらと思いますw そういう世界観で綴っていたとは言え、これ二十年前の戦争時とかヤバかっただろうな~とか考えちゃいます。無数の赤い風が届くとか心臓が大変な事になりそうです。
 と言いますか、平時だともっと恐ろしい通知になりますね…。だ、誰がお亡くなりに…と、聞くのが堪らなく怖いです。有ると便利そうであっても、実際に運用したらしたで、やっぱり運用しない方がいいな…となりそうな奴です。
 そんなこったで練磨君がガチ死にしちゃったっぽいんですけれど、次回は…あれれ? お、お前…??? な奴です。お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    〈風の便り〉誰がどうやって?に関しては納得ですw
    便利なようだけど後書の通りやっぱり運用しないほうがいいよねw

    鷹定君や矛槍君の思う《滅びの王》と練磨君のギャップ
    これってもしかして重要じゃない?(戯言w

    鷹定君が改めて誓いを立てたことが、何なのか!
    そして後書にはヒジョーに気になる「あれれ? お、お前…???」
    数々の疑問を秘めつつ次回っっっvv

    疑問はすべて継続中!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      納得して頂けて良かったです…!w
      ですですw 運用したら言いようのない恐怖が常時発生する気がします…w

      戯言とは思えない核心を衝く着眼点…!!
      それは是非最後までお読み頂いた時に、答え合わせしたいですな!w

      後書のヒジョーに気になる奴は次回で全て明らかに…!!
      ぜひぜひ楽しみにお待ちあれ~!!

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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