2018年9月30日日曜日

【FGO腐向けSS】03話「命日のプロポーズ/後編」【黒弓狂王】

■あらすじ
現パロの少女漫画。捏造のオンパレード。
士剣、弓槍、影弓キャス前提の黒弓狂王。
季節の描写が一切無いですが、10月中~下旬くらいの感じです。

■原案:断
■執筆:日逆孝介

■キーワード
腐向け 現パロ 黒弓狂王 エミヤ・オルタ クー・フーリン・オルタ FGO

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【pixiv】の二ヶ所で多重投稿されております。
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■後編

03話「命日のプロポーズ/後編」


キャスターもランサーも世渡り上手だ。
キャスターは定職に就くのに然して時間は掛からなかったし、その仕事自体も上手く行っているらしい。恋人との関係も良好で、時折惚気てくるのが癪に障る程度だ。
ランサーは職が定まらず、バイトを転々としていたようだが、恋人が始めた小さな喫茶店の店内スタッフとして働くようになってから、恋人と一緒に働くようになった影響か、そこから一度も転職はしておらず、恋人とはすれ違いが多くて困っていたのが嘘のように良化したらしい。キャスター同様、最近では惚気てくるようになったのが鬱陶しい程だ。
俺はそんな二人の兄貴を見て育った。それ故に、自分と兄貴達を内心で比較する事が少なくなかった。
生まれつき顔と体に刺青が走っていて、とてもではないが堅気の人間には見えない姿をしている。兄貴達は気にしていない様子だが、周りは当然、兄貴達のようには受け入れてくれなかった。
特に酷かったのは幼い頃だ。幼い子と言うモノは、純粋で残酷ゆえに、自分達とは異なるものを積極的に排除したがる。況してや兄貴達のように愛想よく振る舞えず、日常的に無表情で過ごしていた俺は、不気味な存在、恐ろしい存在と言う烙印を捺され、誰も係わってこようとしなかった。俺自身、誰とも係わろうとは思っていなかったのが重なり、交友関係はほぼ絶無だった。
けれど、高校生にもなれば嫌でも将来の事を考えさせられる。今まで学費は兄貴達が工面してくれていたが、高校を卒業すれば大学に進学、或いは就職しなければならない。大学に行くつもりは端から無かったが、かと言ってどこで働けばいいのかも、俺には不鮮明だった。こんな自分を受け入れる会社は有るのか。こんな自分でも出来る仕事が有るのか。周囲と交流を断絶してきた己が身を置ける場所など、本当に有るのだろうか。
高校生にもなって友達の一人も出来なかった俺には、相談できる相手は兄貴達くらいだった。けれど、これ以上迷惑は掛けたくない。ならばいっそ、ここで人生を終わらせた方が良いのではないか、そう悟ったのだ。
夢も目標も持たずに、漫然と生を謳歌してきた。兄貴達の保護下で、漠然と日々を過ごしてきた。生きているのは、息を止めたら苦しいからだ。理由はそれだけ。たったそれだけなら、今ここで呼吸の仕方を忘れてしまっても――――
「クー・フーリン・オルタ」
フルネームを呼ばれて我に返る。ここは高校の教室で、俺は自分の席に座っている。視線の先には、テスト用紙を持って俺の到着を待ち侘びているエミヤの姿が見えた。今は三限目。英語の授業時間。そう言えば、今朝中間テストを返却すると言っていたのを、今更のように思い出す。
クラスメイトの奇異の視線を浴びながら俺は小さく舌打ちすると、席を立ってエミヤからテスト用紙をぞんざいに奪い取る。点数は五十五点。今までで一番低い点数だ。ただ、今回の中間テストは難しかったと専らの噂だった。常に学年トップを競うクラスメイトですら、こんな難しいテストは初めてだと愚痴を零していた程である。これくらいの点数なら期末テストで挽回できる。そう思って立ち去ろうとした時、エミヤが小さな声で囁いた。
「お前は特に点数が低い。昼休みに職員室まで来い」
「あ?」
思わず振り返って眼光鋭く睨み据える。周りには赤点だと嘆いている生徒もいるのに、何故俺だけ。
……いや、本当は分かっている。今朝の事で説教したいのだろう。
返事はしなかったが、行かなければなるまい。さもなければキャスターとランサーに連絡を取るに決まってる。そして兄貴達なら仕事を放り出してでも家に……いや、学校にまで駆けつけてくるに違いない。
そんな未来は容易く想像できるのに。高校を卒業した後のヴィジョンがまるで見えない。自分はどこで、どんな暮らしをしていくのか。
これではまるで、この地を訪れた時の、右も左も分からない迷子そのものではないか。
あの時、優しく手を引いてくれた誰かが、もう一度、この手を――
声を殺して嘲笑う。我ながら馬鹿げてるな、と。あの手はもう、この手を引いてはくれないのに――――

◇◆◇◆◇

昼休みになっても俺は食事を摂っていなかった。ここ数日、何も胃に入れていない。
人間は死ぬと体内に有る全てのものが出てくるそうだ。それならば腹に何も入っていない方が、死に際までも醜くはならないだろうと、そう思っての行動だった。
食事はしていないものの、あまりに早く訪れればまた何を言われるか分からなかったため、昼休みになってもすぐには向かわず、少しだけ時間を遅らせてから職員室に向かう。
エミヤはその間に食事を終えていたのか、パソコンのキーボードを叩いて作業に勤しんでいたが、俺の来訪に目敏く反応すると、顔を上げた。
「今日、六時まで図書室にいろ。迎えに行く」
「……過保護かよ」
辟易した声を漏らしたが、エミヤは身動ぎ一つせず、何かを思い出したかのような仕草で鞄の中から三冊の冊子を取り出し、俺の前に出した。全て、料理の本だった。
「これでも読んでいろ」
「英語の本じゃねえのか」
「テストの点数は特に問題視していない」
さも当然のように手のひらを返され、俺は苛立ちを感じながらも冊子を奪い取り、「……了解」と不承不承の態で視線を逸らした。
要件はそれだけだったのか、エミヤは「では、後で」と言ったきり、パソコンに意識を戻し、それ以上俺に意識を向ける事は無かった。俺もこれで話は終わったのだと悟り、挨拶も無く職員室を立ち去る。
併し、何故料理の本なのだろう。エミヤの考えている事はさっぱり読めない。俺の事はどこまでも見透かされているにも拘らず、だ。それがまた気に食わなかった。

◇◆◇◆◇

「――知ってる? エミヤ先生って結婚するんだって!」
「えっ? 何で分かったの?」
「エミヤ先生、職員室に婚約指輪を忘れて行ったの、偶然アルトリア・オルタ先生が見つけて届けたんだって!」
「それでそれで!?」
「なんか、指輪にイニシャルが入ってたらしくって、アルトリア・オルタ先生が、“本当にこの者と結婚するつもりなのか? この者を幸せに出来る覚悟が貴様には有るのか!”ってマジギレしたらしいよ!」
「あの冷静なアルトリア・オルタ先生が!?」
「マジで!? 一体どんな人なんだろ……」
……図書室では静かに、が鉄則なのだが。俺はそんな女生徒の噂話に、思わず料理本のページを捲る指が止まり、聞き耳を欹ててしまった。
噂話であっても聞くつもりは無かったが……そんな話、一度として聞いた事が無かった。とは言え、俺自身、エミヤの事を殆ど知らないのは確かだ。
知る必要は無いし、知りたいとも思わなかった。胸がざわついたのは、単純に突然の事で驚いただけ……それ以外の理由など、有る筈も無い。
そう思って、料理本から剥がれた意識を改めて戻そうと努めようとして――図書室の戸が開く音がして視線を向けると、エミヤが入室するシーンを目撃した。
先刻噂話に興じていた女生徒が息を呑む気配を、俺は感じずにいられなかった。噂をすれば影、と言う奴だ。視線を時計に向けると、確かに六時丁度。相変わらず生真面目な野郎だ、と思って、俺は椅子を引いた。
「行くぞ」
「了解」
簡素なやり取りを交わして、俺はエミヤを追って校舎を後にした。
先に校門で待っていたエミヤに並ぶと、遅くも早くも無い歩調で……俺の歩幅に合わせる形で、帰途に着く。どこまでも子供扱いするこいつが、憎らしくて堪らない。
「……あんた、結婚するんだな」
無言のまま歩くエミヤに、そう爆弾を投げつけてみた。少しは戸惑って狼狽えてみろ、と思っての発声だったが、エミヤは驚いた風も無く、スーツの下に納まっていた指輪を取り出すと、歪んだ笑みを刷いた。
「生憎と、この指輪はまだ飾りでね。尤も、結婚する予定ではあるから、その時嵌めようと思ってる」
「……随分な物好きもいたもんだな。いや、もう酔狂の域か」
「はは、全くだ」
エミヤの乾いた笑声に、俺は苛立ちを禁じ得なかった。自分の妻になる女を侮辱されたのに、いつもの皮肉すら返さないとは。
「俺に構ってないで、女の所にでも行けよ」
吐き捨てるように告げる。エミヤの監視さえ逃れたら、今夜は高層ビルにでも侵入して、そこから身を投げ出してしまおうと考えていた。
「――料理のレシピは頭に入ったか?」
「は?」
脈絡も無く話をぶった切り、エミヤが振り返った。何故このタイミングで、そんな話題が出てくるのか。俺にはまるで理解が及ばなかった。
「本は読んでいないのか?」
「……ざっと目は通した」
「その中に、美味そうな見た目の料理は有ったか?」
「料理は見た目より味の方が重要なんじゃねえのかよ」
「目で楽しむ料理も有る。無論、栄養バランスも大事だがな」
視覚で料理を味わうのか。栄養バランスだけを考えて食事を摂るのか。そう返そうとして、駅に着いた。ラッシュが始まっていて、席に座れるほど人は少なくない。
エミヤはそれ以上何も言わなかったし、俺もそれ以上話を続けようとは思わなかった。車両に乗り込み、朝と同じように、エミヤが俺を守るように立つ。今朝の再現だ。こいつは一体、俺の何を守ろうとしているのだろう。

◇◆◇◆◇

「……おい」
堪えかねて尖った声を上げると、エミヤは不思議そうに振り返った。
「何だ?」
「何だ? じゃねえ。何故俺ん家に入ろうとする」
エミヤは俺の家まで付いてきた。今朝の事も有るのだろうが、過保護にも程が有る。俺はお前の子供じゃねえんだぞ、と視線で訴えるも、エミヤはどこ吹く風だ。
「一人で荷造りは大変だろう」
「荷造り?」
「お前の帰る家は今日からここではなく、俺の家になる」
「――――は?」
エミヤの言っている事が一から十まで分からない。今朝自殺未遂を働いただけでこれか? 最早過保護と言う領域を遥かに逸脱している。
兄貴達だってそこまでしろとは言っていまい。言わばこれはエミヤの独断、いや暴走と言っても過言ではない。彼がどうしたいのか、思考回路がどうなっているのか、全く以て理解できなかった。
唯一分かるのは、今日が自分の命日になる予定が台無しになろうとしている事だけだ。
「テメエは結婚する女を放って俺を招くのか? 脳みそイカレてんのか?」
「お前ほどじゃないさ」
エミヤが靴を脱いで勝手知ったると言わんばかりにずかずかと家に侵入を果たす。俺は訳も分からず、その後を慌てて追った。
「おい、どういうつもりだ」
「いいから身支度を済ませろ。俺は気の長い方じゃない」
「いい加減にしろ!」
思わず大音声が走り出た。こんな大声を出したのはいつ以来だろうか。
「意味が分からねえんだよ、そこまでしろと、キャスターが言ったのか? それともお前の独断か?」
「独断だ」
「だったら出て行け。お前の指示に従う理由が無い」
「理由が有れば付いて来るのか」
「ねえだろうが」
どういう理由であろうと付いて行く訳が無い。俺はその時になって普段とは異なる苛立ちを覚えている事に気づいた。いつからか分からない。自殺を邪魔されたからか。それとも……
自分の知らない間に、エミヤに女が出来ていたからか。
「お前の兄……ランサーの元同僚は、アルトリアと言う名前だっただろう」
「……いきなり、何を」
「そして学校にはアルトリア・オルタと言う教師がいる」
「……あぁ、あんたに指輪を届けて、怒鳴りつけたって……」
「彼女達は姉妹でね。奇妙な縁もあるものだ」
「……それが、どうした」
話が上手く頭に入ってこない。どこに落としどころが有るのか、混乱と困惑の只中に置かれ、俺はエミヤを見つめて相槌を打つ事しか出来なかった。
「アルトリア・オルタは、お前の兄であるランサーと、俺の弟との関係を知っている。この日本に於いて、同性愛への理解が低い事も知っている。男同士で付き合っていく事が、どれほど難しいかも――理解している」
「…………」
「お前の口振りだと、俺が彼女に怒鳴られた内容も聞いたな? つまり、そういう事だ」
「……つまり、どういう事なんだ? お前の恋人も男、って事か?」
「存外、自分の事には疎いんだな」
「な、にを言って……?」
エミヤはスーツのポケットからもう一つの指輪を取り出すと、俺の左手を取り、その手のひらに指輪を載せた。
指輪の裏には、エミヤの名と――――俺の名が、刻んであった。
「――――は……?」
初めて、呼吸の仕方を忘れた。息が止まる。
瞠目して、心臓が跳ねる音だけが、鼓膜を揺さ振っている。
「本当は、お前が高校を卒業するのを待つつもりだった。だが、昨夜キャスターから電話を貰った際、それでは遅いと思った。今すぐお前を俺のものにしなければと思った。それをアルトリア・オルタに説明したら、怒鳴られたのさ。お前を幸せにする覚悟は有るのか、とね」
エミヤの言葉に、俺の思考は完全に停止していた。何を言っているのか分からない。もう母国語よりも日本語の方が身に染みついてしまったと言うのに、エミヤの話している内容がまるで分からない。
「お前を幸せにする、と、確約する事は出来ない。俺の幸せの定義とお前の幸せの定義は恐らく別物だ。そして、未来の事を断言して、それが嘘になった時、きっとお前を傷つける事になる」
何か言い返さなければと思っても、口自体は開いても言葉が出てこない。喉に詰まっている訳ではない。脳が何を言えばいいのか迷っているのだ。はくはくと、呼吸する事しか出来ない。
エミヤは俺が混乱している事を承知した上で、俺の左手を、もう一度握った。
「初恋は成就しないと言うジンクスが日本にはあってな。けれど、俺の初恋はお前だ、オルタ。弟達の紹介よりも、ずっと昔にお前に逢った時、お前に一目惚れをした。道路の真ん中で、迷子になっているお前の手を引いた。その時、初めて、誰かを好きになる気持ちを知った」
――この、手は。今朝、スマフォを投げつけようとして止めた、この手は。――何故、昔の事を思い出した? 今朝、夢に見たからだ。では、誰に握られても思い出せたか? あの、優しい温もりを。
「お前……まさか、あの時、俺を交番に連れて行ったのは、」
そんな偶然、有る訳が無い。あの手の温もりが、今、俺を掴んで離さない手である筈が、無い。
エミヤと初めて出逢ったのは、兄貴達の紹介の時だった筈だ。エミヤも、あの時「初めまして」と言った。そう、確かに記憶している。エミヤは嘘を吐いていたとでも言うのだろうか。何のために。
すると、今度はエミヤが目を瞠る番だった。あんた、そんな顔も出来るんだな、と、普段の俺なら言えたが、冷静さを欠いている今の俺には、ただ無言でその表情の意図を問いかけるしかない。
「……まさか、お前が憶えているとはな」
その声には、今の俺でも理解できるほど、歓喜の色が載っていた。
「美しいと、思った。オルタ、お前が。今となっては笑い話にもならないが、あの時は、お前は男ではなく女だと、勘違いしていた」
何を言っている? 美しい、などと、俺は言われた事なんて一度も無い。気持ち悪いと、醜いと、そう言われて育ってきた、この俺が。
それに、だとしたら何故「初めまして」とあの時告げたのか。俺はその疑念を口にしようとしたが、その前にエミヤは俺の意を汲み取るように言葉を重ねた。
「お前はもう忘れているだろうと思って、鎌を掛けた。それに関しては、謝ろう」
済まない、と。エミヤは困ったように謝罪を口にした。
「俺は、あの後すぐに引っ越してしまったから、お前に逢う事はもう無いだろうと諦めていた。だが、弟達にお前を紹介された時は、まさかと思った。その刺青も、顔も、忘れる事は無かった。生まれつき、こんな刺青を刻んでいるのはお前くらいだろうと、子供の頃、手を引いた相手はお前だと、確信した」
お前の兄の言葉を借りるなら、と。エミヤはまっすぐ、俺を見つめる。
「運命、と言うものを、初めて信じた。お前がいる高校に転任したのは俺の意志だ。そしてお前の兄達の信頼を勝ち取って、お前の面倒を見る権利を得た。なし崩しに口説くつもりだったが、我ながら、どうしていけばいいか分からなくてな」
指輪を二人分買った時、覚悟を決めたのだと、エミヤは続けた。
「俺は味覚障害でね。今は治療中だが、治るかどうか分からない。それでも、毎日お前の料理が食べられるなら、それは俺にとっての最高の幸せだ。日本人流に口説くとな、“お前の味噌汁を毎朝飲みたい”と言う奴だ」
「…………なんだ、それ」
だから料理の本を読ませて、目で楽しみたいと言ったのか。味覚障害がどれだけ深刻なものか分からないが、確かに栄養バランスは大事だろう。疑問が一つずつ晴れていく。
……今日は、本当に色んな事が有り過ぎた。今朝、あの日の夢を見たのは、もしかしたら偶然ではないのかも知れない。
兄貴達の言葉を借りるなら、“運命”――だったのだろうか。
握られた左手に、熱がこもる。あの時もきっと、誰かに手を引いて欲しかったのだ。
そして、今も、きっと。
「それでもお前が死にたいと言うのなら、俺も共に死のう。それくらいの覚悟は持っている。お前のいない世界に微塵も未練は無い」
迷子になった手を引いたのがエミヤならば。そのエミヤの覚悟が本物ならば。
「……俺は、」
左手を、グッと握る。指輪の感触が、手のひらにすっぽり収まる。
今日は、俺の命日になる日だ。そう決めていた。併し、それを実行すると、エミヤの命日にもなってしまう。
あの時俺を救い、今日まで俺を生かし続けた、あの温もりをくれた存在も、俺と共に失われてしまう。
卑怯だと思った。自分の命だけなら、簡単に捨てられる。だが、エミヤの人生を終わらせる事は、出来ない。エミヤの覚悟は本物だ。俺が死ねば、本当にエミヤも……
「…………お前の伴侶になる事を、約束できない。この指輪は、受け取れない」
俺の左手を握るエミヤの力が、少し弱まる。体温が、少しずつ距離を離れていく。
それを引き留めるために、俺は続けた。
「時間が、欲しい。考える、時間が」
卑怯なのはエミヤだけではない。俺だって、エミヤの想いに胡坐を掻こうとしているのだ。それでも――
「……借りは、返す。返しきるまでには、答を出す。だから……お前の味覚障害が治るまでは……、お前の傍に、いる」
今は、これだけ言うのが精一杯だった。俺の料理でエミヤの味覚障害がどうこう、とはならないだろう。それでも……あの時の恩を返さなければ。今度は、自ら手を伸ばさなければ。
生きる理由なんて、本当は無くてもいいのかも知れない。それでも、生きていてもいいのかも知れない。
「では、身支度を済ませたらスーパーに行くぞ。今夜からお前は料理の勉強をしろ」
「……こんな本より、あんたの弟に習った方が効率が良さそうだが」
「弟達と同じでは面白味が無いだろう。オルタ、お前だけの料理を作れ」
――俺だけのために。
そう微笑んだエミヤを、俺は初めて直視できた気がする。いつも嘲笑っているような顔しかしなかったが、もしかすると、エミヤは笑うのに慣れていないのかも知れない。
いつか、訪れるのか。この男が、心の底から幸せだと笑える日が。分からない。――けれど。
ただ、あの時のように、エミヤが手を差し伸べてくれたから。
俺は、今度こそ自らの意志で、エミヤの手を握り返すのだ。

◇◆◇◆◇

おまけ。
ランサー「オルタ~、頼むから食欲が絶滅するようなメシテロはやめてくれ~」
キャスター「メシテロって本来見た目重視のデコ弁みてえなもんだろ?」
ランサー「坊主直伝の鮭のホイル焼きがこんなおかしな物体Xになるとか……」
キャスター「何で鮭が三色になってるの? それもほぼ原色」
オルタ「彩り豊かだろ?」
キャスター「鮭だけで三色って不気味以外の何物でもねーよ!」
オルタ「栄養バランスは取れてる」
キャスター「添加物しかなさそうなこの鮭が??」
ランサー「アーチャーが聞いたら卒倒しそうだぞ」
キャスター「メシマズテロ案件だぜこれはマチガイナイ」
ランサー「つーかこれ本当に食い物か?? 食えるのエミヤだけだろこれ」
オルタ「当然だ。あいつのためだけの飯だからな」
ランサー「うわっ、露骨に惚気てきやがる」
オルタ「お前らよりマシだ」
キャスター「くそー、こんな風に育てた覚えは無いぞ!」
オルタ「いや、十中八九お前らの育て方が悪い」

おしまい。

【後書】
と言う訳で前後編の黒弓狂王の現パロ物語でした!
断さんのネタに忠実に綴っただけですので、お楽しみ頂けましたら断さんのお陰と言う奴です! (*´σー`)エヘヘ
ネタの段階でA4用紙14枚? ぐらい有ったので「これそのまま投稿したらいいのでは…w」とも思いましたが、断さんが読んで満足していたのでわっちも満足! また断さんから執筆の依頼が来ましたらモリモリ投稿して参りますので、応援のほど宜しくお願い致します~!
ではでは今回はこの辺で! ところでこのオルタ、エミヤさんが寝る時に「眠れ。……おやすみ」とか言ってたらめちゃんこ萌えそうですね! ではでは~。

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