2018年10月3日水曜日

【滅びの王】50頁■神門練磨の書13『孤児院』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/06に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
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■第51話

50頁■神門練磨の書13『孤児院』


 ……暫く、そのまま固まっていた。手の中の妖精を見る。
「……こんなに華奢だったんだな、お前……」
 軽いだけじゃない。ちょっと力を加えれば潰れてしまいそうな位華奢だった。いつも負けん気で突っ掛かってくる奴とは思えない程、今の咲希は脆そうに映った。
 いつも、逢う度に握り潰してやろうと思ってたけど、……今のこいつを見てたら、そんな気も失せてしまった。こんな力の無い奴をどうしようってんだ、オレは。以前のオレがバカらし過ぎて恥ずかしくなる。
 それにしても……こんな弱々しい咲希を見るのは本当に初めてだ。いつも見せている表情じゃなく、別の一面であるからだろうか、妙に可愛らしく見えてしまう。
 今はゆっくり休ませてやろうと思って、両手の上に載せて、そのまま寝かせてやる。
「……つってもなぁ」
 起き上がって周りに視線を向け、そこがオレが一度死んだ場所と然程変わらないと知ると、落胆の色は隠せなかった。ここがどこなのか結局分からないままだし、崇華達とも逸れてしまった。
 立ち上がろうとして、――全身に痛みが走る。一度死んで生き返ったとは言え、全快とはいかないらしい。黒一に遠慮無く殴られた箇所が痛んで、立ち上がるだけでもメチャクチャ大変だった。……思うに、あれだけ顔面を殴られたんだから、今のオレって相当不細工?
 思いつつ立ち上がると、……やっぱり視界に変化は見られない。細部こそ違うが、見えている物に変化は無い。寂れた町が、眼前に無造作に広がっている。
 ……黒一は、「滅んだ町」とか言ってたっけ。
 何故滅んだんだろう? 少し思考に余裕の出てきたところで、そんな事を考える事が出来た。
 この寂れようからして、最近起こったモノじゃないだろう。……でも、時間の経過ってのは、よく分からない。一ヶ月前に戦争が遭ったと言われても信じるだろうし、十年前に戦争が遭ったと言われても納得しそうだ。寂れているのは間違いないから、滅ぼされて少しは経ったんだろう。それ位しか分からなかった。
「……それにしても、どんな戦争だったんだ……」
 歩き出してみると、色々な残骸が眼に映る。……オレの寝ていた場所から数十メートルも行かない所で、建物が薙ぎ倒されている場所に出て、その凄まじさを垣間見る事が出来た。
 だが、この世界にこんな事を出来る兵器類が有るとは思えない。〈魔法〉の力……だろうか。それなら納得する事が出来るけど……そんな〈魔法〉が有るのなら、鷹定が言ってた王国なんて、その〈魔法〉を使える奴が一人いれば、攻め滅ぼすのも容易なんじゃ……と思ってしまう。だけど、仮にそんな〈魔法〉が有ったとして、王国はそれに対抗すべく何らかの措置を行うに違いないんだ、と言う結論に達すると、自己完結してしまった。
 咲希を起こさないように慎重に歩を進める。咲希を押し潰すような事をしてしまったら、恩を仇で返す事になってしまうから、それだけは絶対に避けようと考えていた。
「ここは……」
 辿り着いたのは、残骸もそう多くない広場のような開けた場所。
 そこには……多くの刀剣が地面に突き刺してあり、鍔にはドックタグのような物が引っ掛けられていた。
 ……墓標……だろうか。
 それにしても多い。数百は下らないだろう簡素な墓標は、時折吹く砂埃の混じった風に曝され、ドックタグがカラカラと物悲しい音色を奏でていた。
「……」
 自然と、咲希を潰さない程度に手を合わせて、黙祷していた。
 ……誰がどんな死に方をしたとか、どうしてこんな状態になったのかとか、何も分からないけれど、それでもここに何百人って人が眠ってるんなら、その眠りを妨げるような事は冒涜に違いない。オレをここまで運んで来た黒一に呪詛を吐きながら、その場を後にした。
「……戦争、か」
 オレには縁遠いもんだって、信じて疑わなかった。
 将来、自衛隊に入るつもりは無かったし、普通に生きていく分にはそんなものと係わり合いになるなんて考えもしなかった。そういうものはテレビや映画でしか見る機会が無かったし、幾ら授業で戦争の恐ろしさを語られても、実際に体験してみなければ恐怖や悲惨さは感じ得ないモノだと、オレは思っている。
 ここでも、いつかは分からないけれど戦争が起こった。その事実だけがそこに在り、他の一切を消してしまっているような気がした。どうやって戦争に至ったのか、誰が何をして戦争が始まったのか、何が遭って戦争が終わったのか……全部、『戦争』と言う名のマジックペンで黒く塗り潰されてしまってる。後は、『戦争』が遭ったとだけ分かるように、跡しか残っていないんだ。
 ……多分、このままオレが生き続ければ、自然にこれが始まるんだと、オレは少し陰気になった。
「誰かが殺されなかったら、別の誰かが殺されるのは、分かってるんだけどな……」
 究極的なところ、人は生きていれば直接的ではなくとも間接的に何人もの人を殺してしまうものだ。どんな形であれ、眼前にその事実を叩きつけられれば、誰だって嫌な気分になるだろう。自分はただ生きていただけなのに、何もしてないのに、人は自分が生きていただけで死んでいく……その現実を知ってしまったら、極論に達してしまうと、最悪自殺でもしかねない。
 あくまで極論、究極的な話であって、実際はそんな事は無いのかも知れない。オレが勝手に考えた妄想でしかないかも知れないそれを、オレは少なからず信じてる。生きている限り、人という生き物は迷惑を掛け通しだ。その中で人が死んでしまう事だって、充分に考えられると思うんだ。
 そんな極論に達しても、オレは生きる事を選択する。……今の考えを悟って尚そんな事をするのは、もしかしたら自己中心的な考えだからかも知れない。人が生きている限り人は死ぬけれど、それを選択するのは、やっぱり人だから……オレは、誰かが死んでも生きる事を選択したい。
「にしても、人っ子一人いやしねえし……」
 当然と言えば当然だけどな。
 滅んでしまった町に誰が好き好んで暮らしたがるだろうか。
 思いつつ、足を進め続ける。大分体が回復してきて、歩くのには痛みを感じるけど、支障は来たさない程だ。
 ……咲希のお陰だな。
 オレが生き返ったのもきっと、咲希のお陰だと思ってる。そうじゃなけりゃ、オレはこんな所を歩いていない。元の世界……現実の世界で眼が覚める筈だから。
「ありがとな、咲希……」
 きっと正面切ると感謝の言葉は言えないだろうから、今の内に言ってしまっておく。
 眠っている咲希は何も応えず、眠り続けている。……ま、夢の中で聞こえてたら良いかな。

【後書】
 この物語を綴っていた当時の、戦争に関する考え方などが練磨君を通して語られておりますが、今読み返して「確かにな~」と納得したり納得したり納得したりしました。
 そして練磨君が咲希ちゃんに対する気遣いがも~尊い…キュンキュンする…昔の作品を読み返す時の楽しみ方を満喫している系作者です(笑)。
 さてさて未だに孤児院の“こ”の字も出てきませんが果たして…! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「マジックペンで黒く塗り潰されてしまってる。」
    先生と同じく練磨くんの考え方に妙に納得してしまったわたしです。

    そんな練磨くん、咲希ちゃんにきちんと感謝してていい子です!
    正面切っては言えないかもだけど、思いがあれば伝わります!

    そして孤児院どこいったw

    疑問はすべて継続中!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      とみちゃんと同じ考え方である、と言う事が何より嬉しいです…!
      こういう形で物語に出てくる考え方を共有できるのって、本当にわたくしの中で大きな財産になっております…改めて有り難う!

      練磨くん、良い子ですよね!w 良かったね練磨くん!(´▽`*)
      思いがあれば伝わる…! 正面から伝えなくても、いつか…!

      孤児院どこ行ったんですかね!ww ももももう少ししたら出てきますので!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいですぞ~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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