2018年10月17日水曜日

【滅びの王】52頁■神門練磨の書13『孤児院』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/08に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第52話

52頁■神門練磨の書13『孤児院』


「……人?」
 に見える何かが、咲希の眠っている場所に立っていた。
 やっと人に逢えたと思って安堵すると同時に、オレは駆け出していた。コレで、コレでようやくここから…… 
 ……そう思いながらも、近付いて違和に気づく。
 人にしては、あの頭の物は異質じゃないか……と。
 普通の人間なら、頭に角なんか生えてねえだろ、――と。
「ぎー。うまそうなようせい。みーつけた☆」
「――ッッ待てェェェェ!」
 慌てて加速し、顔面に向かって棍棒を振り抜く!
 がづッ、と鈍い音がして、鬼の顔面に―― 
「……なんだ、おまえ? おでのじゃま、するな」
「な、にぃ……!」
 顔面を抉った筈の棍棒は、鬼の手によって塞がれた。さっきまでそこには咲希がいた筈なのに、どこに行ったのか、姿が見えなくなっていた。
 まさか……まさかッ!
「食ったのか!? 食ったのかてめぇえェェェェ!」
 半狂乱状態だった。目の前の鬼が憎悪の塊に見えて、ひたすら棍棒を振り被っては――殴り、振り被っては――殴るを繰り返した。
 オレの命の恩人を! こいつは! 食らいやがったってのかァァァァ!?
「うっわあああああおおおおおおおお!」
「うるさい、じゃま」
 鬼の手が振り被られ、――肋骨が砕けるかと思うような一撃が、胸に走った!
「げ、ふ……っ」
 息が詰まって、上手く呼吸できない……っ。
 棍棒を取り落とし、咽返るような苦痛の中、喘ぎながらも鬼を睨みつける……!
 憎い……あの鬼が、憎い!
 殺意と言う名の感情が芽生えて、頭の中がグラグラと煮え返る。マトモな事を考えられない。ただ、どうにかしてあの鬼を殺さなければ、この気持ちは治まらない!
 オレが……オレが《滅びの王》だと言うのなら、その力を見せてくれ!
 あの鬼を殺すだけの力を、オレにッ!!
「……まだうごける。しぶとい。おまえ、きらい」
 鬼は歩み寄ってくると、オレの頭を鷲掴みにして、胴体を思いっきり、――殴りつける。
「げぼぁァッ」
 思いっきり吐瀉した。色んな物が出てきて、喉がヒリヒリして、口の中が酸っぱくなって、気分は最悪だった。腹への一撃は、きっと内臓を破壊したんじゃないかって思う程、キツかった。腹の痛みは全身を電流のように駆け巡り、オレの精神を破壊しようとした。
 ……悔しい。
 悔しくて……何より情けなかった。オレに力が有れば……。そんな事ばかりが、頭の中にちらついた。
 力が有れば。《滅びの王》の力が有れば、こんな奴……殺せるのに。殺せてしまえるのに。
 ――鷲掴みにされたまま、腹にもう一撃、見舞わされる。
 内臓が破裂しそうだった。気分が悪くて、また吐瀉した。喉が吐瀉物で擦れて、酷く痛い。口の中には、微かに鉄錆の味も滲んできた。
 力が欲しい。こいつを、この鬼を、殺すだけの力が。
「しね」
 ――もう一撃喰らうと、体は今までの暴力に耐え切れず、強張っていた体が徐々に弛緩していく。
 吐瀉する物も無くなったのか、オレには見えなかったけど、恐らく赤い物が出てきてる。喉のパリパリ感と、口の中の生臭い味が、それを仄めかしている。
「しね。しね。しね。しね。しね。しね。しね」
 何度も何度も、腹が壊れるまで殴られ続け、オレの意識は一つだけに、完全に統一された。
 ――殺してやる。
 弛緩した体は動かなかったけれど、――気力とか、根性とか、きっとそういう気合で、腕が動いた。
「……咲希は……どこだ……?」
 喉の奥から絞り出された声は、妙に低くて、そして嗄れていた。だけど、そんなの関係無い。
「咲希を……どうした……?」
 鷲掴みにしている鬼の腕を、オレの右手が掴む。掴んで――握り潰してやろうと力を込める。
「さき? なに、それ? おで、ようせい、くう。ようせいくって、ふしになる」
「……まだ、何も……して、ねえんだな……?」
 ギリッ、と鬼の腕を掴む手に力が入る。
 鬼はオレの頭を鷲掴みにしたまま、手に力を込め始めた。
「おまえ、なにいってる、わからない。しね。おまえ、くってやる」
「テメエが死にやがれカスがァァァァッアアアアァァァァ!」
 思いっきり力を込めて鬼の腕を握り締めると、爪を立てて何としてでも鬼の手から逃れようとする。
 どれだけ力を込めても、鬼はうんともすんとも言わない。けれども、オレは諦めなかった。ここで諦めたら、きっとこの鬼は、咲希を食らうに違いない! そんな事だけは、絶対にさせない!
 そこにはもう、気力しかない。意識も途絶え掛けてて、それでも咲希を守りたい一心で、力を込め続ける。
 ……だけど、力の差が歴然としている鬼の前では、オレの力は微々たるもので、単純に時間の問題だった。鷲掴みにしている鬼の手に力が込められていくと、ミシミシと頭蓋骨が悲鳴を上げ始め、強制的に力が殺がれていった。
 体が、動かなくなっていく……こんな所で死ぬ訳にはいかないのに……ッ。
 こんな奴をのさばらせておける程、オレは人間辞めてないんだ! 絶対に……生かせておけない!
「しね、しね、しね、しね」
「テメエが……っ、テメエが死ねよ……ッ、チクショウがァァァァ……ッッ!」
 視界が白熱して、徐々に、何も見えなくなっていく…… 
 チクショウ……こんな所で、こんな所で……ッ。
 もう体の限界がきたところで、腕も掴めなくなって、オレの手が落ちそうになり―― 
「しげぶッ」
 ――不意に、水っぽい音が滴って、鷲掴みになっていた頭が解放された。
 大人程の背丈が有った鬼から解放されると、尻餅を着いて頭を押さえて倒れ込んだ。頭蓋骨に皹でも入ったような鈍痛が、心音と一緒に掻き鳴らされる。
「いってぇ~~~~……」
 オレが呻いていると、――オレの胴に腕を回してくる気配を感じた。
「立ちな! 動けるなら早く逃げろ! 死にたいのか!」
 女性の声だった。
 オレはその声に促されるままに立ち上がり、ふら付きながらも腕に支えられながら鬼から距離を取った。
 そのまま倒れるように転ぶと、すぐさま振り返って鬼と、そして女性の姿を捉えた。
 ――流れるような紅紫色の髪は長く、腰にまで到達しているようで、先が細い布で結われている。身長は、きっとオレよりも高い。痩せ型の体格で、ジャンパーのような物を羽織っているようだ。ズボンはジーンズのような硬めの物だ。とてもカジュアルな服装だった。
「ほら、鬼! 手前の相手はウチだよ! 掛かって来な!」
「ぎー……しね、しね!」
 鬼の顔が、真っ赤になっている。鬼の形相……ってあいつ、まんま鬼じゃん!? の表情をして、武器も持たずに駆け込んで来る。
 対するカジュアルな女は、右手に槍を握り締め、左手は背中に吊ってある小太刀に据えられている。……奇抜な武器の組み合わせだな、なんて思った。普通、槍を使うなら槍だけだろうし、小太刀を使う二刀流ならもう一本は大太刀なんじゃないか?
 鬼が凄まじい速度で接近して来たのに対し、女は冷静に槍を突き入れ、鬼の胸を貫く。それでも鬼が止まらなかったのは、単純に走り込んだ速度が速過ぎたために、惰性を伴って止まれなかっただけだ。ずぶずぶ槍が喰い込んで、当然鬼の動きは鈍っていく。
 それを見越して、女は素早く小太刀を鞘から抜き放つと、――首を一閃、鬼の頭は地面を転がり、首から噴水のように鮮血が噴き出した!
 女は小太刀を振り抜いた格好のまま鬼に背を向け、背中に吊っていた鞘に小太刀を納めると、槍を後ろ手に鬼から引き抜く。引き抜いた槍をクルリと回転させて、錫杖のように長い柄の方を地面に突き立てた。
「――終わりっ」
 と呟いた瞬間、鬼の体が、ずぅぅん、と音を立てて地面に横たわった。
 凄い……としか形容できない程、鮮やかな、そして洗練された動きだった。
 女はオレを見据えて、慌てた風も無く歩み寄って来る。オレはどうリアクションを取ればいいのか分からなくて、ただ正直に一言だけ発した。
「――凄かった!」
「へ? ……ああ、さっきの事かい? あんなの、何でも無いさっ。……それよりあんた、この辺じゃ見かけない顔だけど……冒険者か何かかい?」
 女はオレの前にしゃがみ込むと、腰に吊っていた道具袋から医療道具を取り出し始めた。と言っても、湿布や絆創膏、あとは消毒液に包帯と言った、見た事の有るような物ばかりだった。
 それよりも注目を集めたのは、女の格好だった。背中だけを見ればジャンパーにジーンズという、どこにでもいるようなカジュアルな服装だったけれど、前から見ると一変する。ジャンパーのジッパーは下ろされ、そこにはサラシを巻いただけというあられもない姿が鎮座していた。隠してある物が大きくて、その……健全たる男であるオレには、少し刺激が強過ぎると言うか何と言うか…… 
 とにかく、凄い格好だった。
「それにしても……あんた、中々やってくれるじゃない?」
「へ?」
「素手で鬼と張り合おうなんて、とても正気の沙汰とは思えないね。それとも、あんた拳闘士か何かかい?」
「いや、そんな……そんなんじゃないです。ただ、やらないとやられてたもんだから……」
 勝ち負けなんて、そこには無かったのかも知れない。ただ、追い払えればそれで良い、死ななければそれで良い……そんな甘い考えの下、オレは鬼と格闘する事に、いつの間にかなっていた。
 ……もう、こんな事はしないって誓ったばかりの出来事に、オレは自分に自信が無くなってきた。
 それでも……やれるだけの事はしたかった。きっと、やろうと思えば咲希を連れて走って逃げられたかも知れないけど……だけど、実際には出来なかった。……きっと、どこかで追いつかれるだろうと、分かっていたからだ。そうなれば、結局こうなっていただろうから、今、鬼と戦った事に関しては、間違っていない筈だ。……多分。
「あんな奴がいると分かってて、こんな所に一人で来たのか? ……それもまた、凄いなぁ」
「あ、いや、オレ一人じゃなくて……」
 じゃなくて?
 ――一つ、大事過ぎる事を忘れていた事を、覚醒するように思い出した!
「咲希! 咲希はどこにッ!?」
「へ? 仲間がいたのかい?」
「あっ、えっと、その……妖精なんですけど……っ。咲希っ!? 聞こえたら返事してくれっ、咲希!」
 慌てて駆けずり回ると、……瓦礫の下に、まるで捨てられた人形のように微動だにしないまま横たわっている咲希を見つけた。
 生きてるかどうか確認するため、その小さな顔の、これまた小さな口に耳を近付ける。息をしてるか確認。……周りの砂風が煩過ぎて、殆ど聞き取れない。
 次に心臓が動いてるかどうか確認。人差し指をそっと咲希の胸に置く。……これまた微弱過ぎて殆ど分からない。
「……どうしよう……生きてんのかな、こいつ……」
 取り敢えず小さく揺さ振ってみる。すると、露骨に眉が顰められた。
「生きてる……良かったぁ……」
 安堵してその場に崩れる。……今になって、戦っていた時の代償が返ってきて、全身が引き裂かれそうなほど痛み出した。
「いたたたたっ」
「おーい、無事か~?」
 女が駆け寄って来て、オレは回らない首を何とか動かして、頷いてみせた。
 女はオレと咲希を見比べ、頭を捻っていた。
「あんた……妖精に憑かれてるの?」
「憑かれてるって……こいつの事を悪く言わないでくれませんか? こいつ、こう見えても、オレの命の恩人なんですよ」
「おっと、そいつは済まない。ちょっと言葉が悪かったね。許してくれよ」
「ああ、気にしないでください。えっと……」
 名前を聞いていない事を思い出して女を見ると、彼女はニカッと八重歯を覗かせる笑みを浮かべて、
「ウチは八宵(やよい)ってんだ。獅倉(ししくら)八宵。そっちは?」
「あ、オレは神門練磨って言います。獅倉さんは……」
「何だい何だい? そんな改まった言い方は止しとくれよ。八宵、で良いさ。ウチも練磨って呼ばせて貰うからね♪ 敬語も無しだぞ?」
「あ、はい! ……じゃなくて、おう!」
 何だか、こういう人とは気が合うような気がする。
 そう思って、オレは咲希を手の上に載せたまま、その場に座り込んだ。八宵も隣に腰掛ける。
「八宵はこんな所で何してたんだ? さっきみたいな奴がいるなら、やっぱり危険じゃねえのか?」
「そりゃウチの台詞だぜ? こんな所に丸腰でいたら、絶対に死んじまうよ! ……まさか、あんた」
 ドキッとする。まさか、もう《滅びの王》である事がばれたっ!?
「――《出人》かい?」
「違います違います勘違いです! ……って、え? ああ、そうそう、それそれ。ここに出てきたんだよ、オレ」
「……何だか、すげー嘘臭いよ、練磨? あんた、隠し事してんじゃないだろうね?」
「とっ、とんでもない! オレ、嘘なんか、吐かな……」
 ……オレのバカ。どうして、例えこんな時でも、嘘は吐きたくないんだよ、オレって奴は。バカ正直って言われようが、嘘を吐く事だけは、したくないんだ。
「……まっ、良いけどね♪ 何も、いきなり逢った相手にベラベラ喋るってのも、ヤな感じだろう? ごめんね、ちょっと聞いてみたかっただけなんだ、気にしないでおくれよ?」
「……ごめん」
「良いって良いって♪ ……まあその話は措いとくとして……あんた、泊まる所は決まってるのかい? ウチなら、宿を貸せるけど?」
「マジで!? それ、すげぇ助かるんだけど! ……でも、良いのか? こんな正体不明の奴を泊めるなんて……」
「まっ、気にしないよ、ウチは。……それにその分じゃ、ここで野垂れ死にするのが眼に浮かぶよ。寝覚めが悪いのは嫌だしね」
 ……オレも、ちょっと自分の末路が浮かんできて、慌てて頭を振って掻き消した。
 やっぱり、ここは素直に八宵の厚意に甘えるべきだ。
「じゃあ、頼んでも良いか、八宵?」
「全然大丈夫さっ♪ 日も暮れてきた事だし、動けそうなら行こうか? 難しいなら、背負ってやるけど……」
「大丈夫ですッ。ちゃんと歩けますって、ほら!」
 オレは立ち上がって元気な所を見せつけようとして飛び跳ねた。――が、瞬間、体に激痛が走って、そのまま蹲る。
「……ま、頑張んな。どうしてもってんなら、ウチは構わないぜっ?」
「いや……行くって行くよ行きますさ!」
 何より嫌なのは、女性に、それもそう歳の離れていない女の人に背負われるという事だ。そんな恥ずかしい思いをしたくなかった。
 軽過ぎる荷物である咲希を両手で抱えると、オレは八宵の後を追って歩き始めた。
 ……正直、体が先にぶっ壊れるだろうな、と予測できていて、でもそれがいつ起こるのか分からなくて、怖かった。

【後書】
 と言う訳で新キャラの獅倉八宵の登場です!
 この子はアレです、ビジュアルにわたくしの性癖が詰まっております(笑)。こういうサッパリした娘が出てくると、物語がサクサク進むんですよね!
 そしてまた練磨君が無茶してる訳ですが、作中でも練磨君本人が思っておりますが、自分でも無茶であると言う認識は有るけれど、それでもやらないといけないからやった、と言う流れでして、あくまでわたくしの主観ですが、決断から行動に至るまでの速さが中学生のそれじゃない感は有りますよねw
 そんなこったで宿泊できそうな所に連れられていくようですが、やっとタイトルが回収できそうな予感です…! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    遅くなってしまいましたm(__)m

    練磨くんまた死にそう…もしかしたら自らが滅ぶのかな?
    そんな気さえしてしまう今日このごろですが、
    咲希ちゃんを守るためにがんばってるんだよな!

    そしてカジュアルな女(w)八宵ちゃん!かっこいいです!!
    鷹定くんみたいな剣術の使い手なのでは?今後に期待ですvv

    いよいよ回収なのかなw

    疑問はすべて継続中!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      いえいえ~! お待ちしておりました~!┗(^ω^)┛

      そうですそうです! 咲希ちゃんを守るために頑張ってるだけなんですよ!
      尤も、「また死にそう」と言うのはまさにそんな感じでして…w そんな運命にあるとしか思えないほど、死地にすぐ赴きますからね…w

      カッコいい! ヤッター!ヾ(*ΦωΦ)ノ
      槍と小太刀の冴えが今後も光る…かも? なので、ぜひご期待あれ~♪

      いよいよ回収…かな!w

      今回もお楽しみ頂けたようでめちゃんこ嬉しいです~♪
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

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