2018年11月14日水曜日

【ベルの狩猟日記】067.真夏の夢の終わり【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
■第67話

067.真夏の夢の終わり


 パルトー王国に戻り、宮殿へ向かうと、そこでミャオは「それじゃ~、そろそろお暇しようかな~」と言って三人から離れていく。
「え? 報酬は受け取らないの?」
 そう尋ねるベルの瞳はお金のマークになっている。分け前が増えるかも知れないと思っているのだろう。思わずミャオの顔に微苦笑が浮かぶ。
「うん~、私にはもう必要無いからね~。……フォアンを宜しくね~♪」
 そう言って、雑踏に紛れ込もうとした時だった。
「待って下さい、ミャオさんっ!」
 突如として雑踏に響き渡った声は、ウェズのものだった。
 振り返ると、走って来たのか、息を切らしたウェズが膝に手を突いて立っていた。
 ミャオは微笑を浮かべてそれを見返すが、どこか寂しそうな色を滲ませている。
「ど、どうしたの? ウェズ。そんなに慌てて……」
「はぁ、はぁ……っ、ミャ、ミャオさん……正直に答えて下さい。貴女は――“何者なんですか?”」
 ベルの質問には答えず、ウェズは呼吸を整えもせずに、ミャオを質す。いや、質問の形式こそ取っているが、ウェズはその答を或る程度知っているような口振りだ。訳も判らず、ベルは成り行きを見守る。
 ミャオは寂しそうに表情を翳らせると、いつもののんびりとした口調のまま、静かに応じた。

「……その様子だと~、“私が死んでいる事は~、もうご存知”なのね~……?」

 ミャオの回答に、ウェズは表情を強張らせた。怪訝な表情を滲ませ、ミャオを見つめる。
「……貴女は、一体……?」
「――ちょっ、ちょっと待ってよ!」
 声を張り上げたのはベルだ。混乱した様子でミャオとウェズの間を視線が行き来し、事情が呑み込めない様子でウェズに向き直る。
「一体、何の話をしてるの? ミャオが……死んでる……?」
 訳が判らないといった様子のベルに、ウェズがいつに無く真剣な表情になる。
「落ち着いて聞いてくれ、ベル。彼女――ミャオ=クウォルは、僕達と初めて逢った時には、既に亡くなっていたんだ」
「…………は? 亡くなってた……って、そこにいるじゃない」
「これを見てくれ」
 ウェズが取り出したのは、大手の新聞社が出している、少し古い新聞だ。日付は、ミャオがラウト村を訪れる数日前。見出しには、『英雄婦人、急死』と記され、大きく拡大された写真には――ミャオの姿が写っていた。
「…………え?」瞠目するベル。
「ミャオって名前を聞いただけじゃピンと来なかったんだけど、ゲルトス達と話している時に思い出したんだ。パピメルシリーズを身に纏った狩猟笛使い、ミャオ=クウォルと言ったら、命を賭して古龍を撃退した英雄の奥さんだ。猟人の間じゃ割と有名な話だったらしいけど……ベルは知らなかったのか?」
 知らなかった。その頃は師匠の許で猟人になるための修行をしていた頃だ。故に、ミャオと話していた時にも気づく事が出来なかった。
 ベルが、恐る恐るミャオを振り返る。彼女は寂しそうな微笑を浮かべて、確かにそこに存在していた。
「ミャオ……? これ、嘘だよね……?」
 縋るような瞳で、ベルが問いかける。彼女が事実ではないと言ってくれたら、ウェズに文句を言って、それで話は終わりなのだ。
「ごめんね~、ベルちゃん~。本当なの~」
 困った風に笑み、ベルが情けない顔をしたのを見て、ミャオは付け足す。
「本当はね~、最後まで黙っていようと思ってたのよ~。幽霊は~、恥ずかしがり屋さんだから~」
「ゆう……れい?」
「お袋はもう死んでる。だから、そこにいるのは霊魂と呼ばれるモノなんだろうな。俺達と同じモノでない事は、確かだ。……特殊な力を持ってたお袋の事だ、死んだ時に何かに作用して、幽霊が実体を得たんだろうな」
 補足するようにフォアンが呟く。思わず振り返ったベルは、情けない顔のまま声を絞りだす。
「フォアン、あんた……分かってたの? お母さんが――幽霊、だって……」
「ラウト村に来た時から、気づいてたさ。でも、お袋は知られたくなさそうだったから、何も言わなかった。……隠してたみたいで、悪かった」
 ばつが悪そうに頭を下げるフォアン。そこには申し訳無いと言う感情が見えこそすれ、嘘を吐いているようには見えなかった。
 再びミャオに視線を向けると、彼女は寂しそうな笑みを浮かべたまま、ベルを見つめていた。
「ベルちゃんをね~、悲しませたくなかったのよ~。ベルちゃんは~、失う悲しさを知ってるもの~」
「え……知ってる、の……?」
 言ってから、気づく。フォアンが言っていた。彼女は――
 驚きに目を瞠るベルの前で、ミャオの体が徐々に消えて行く。ベルの瞳から透明な雫が溢れそうになる。
「いっ、嫌だよそんなのっ!? 何で!? 折角、仲良くなったのに……っ!!」
 ミャオの手を握り締めるベル。そしてハッとする。冷たい肌は、もう感覚が殆ど感じられない事に。
 今にも崩れそうなベルの顔を見て、ミャオは優しくその頭を撫でる。
「ごめんね~、やっぱりもう無理みたい~」
 ミャオを見上げるベルの瞳から、透明な雫が零れ落ちる。その瞳に映るミャオは、もう風景と同化しそうな程に、透明度を増していた。
「ミャオっ、ミャオぉ……っ!!」
「フォアンの事~、宜しくね~♪」
 最後の最後まで、笑顔を絶やさなかったミャオ。
 その言葉を最後に、現世から姿を消した。


「おーい、ベル。飯だぞー」
「…………」
 パルトー王国の中心に在る宮殿の一室。寝台に蹲ったままベルは動こうとしなかった。
 あれから一日経ったが、ベルは塞ぎ込み、食事も喉を通らない状態が続いていた。
 分かってはいるのだ。自分が何かした所で、ミャオは戻って来ない。だが、その現実を許容できないのだ。
 たった数日の関係だったとは言え、仲良くなった仲間が突然いなくなるのは、――それも永遠に逢えなくなるのは、心に深い傷を付けられたような気がした。
 何も考えたくない。そう、自分を閉ざしていると、不意に胸に何かが当たる感触が伝わった。
 見下ろすと、誰かの手が胸を鷲掴みにしていた。
「ん~、確かにベルは、着痩せするタイプかもな」
 ふにふにと、胸を揉みながら呟いたのはフォアンだった。
 ――刹那、ベルの顔に物凄い量の血液が流れ込む。
 ナルガクルガも吃驚の機敏な動きで跳び上がると、部屋の壁を使って三角飛びをし、部屋の隅に舞い降りるベル。胸元を押さえて、真っ赤になった顔を向けて戦々と震える。
「ちょっ、なっ、あえあーっ!? なななな何してんのよフォアンンンンン!?」
「そうそう、ベルはそうじゃないと」
 穏やかな微笑で応じるフォアン。彼は自分を元気付けたのだと気づいたが、すぐに自分を静める事が出来ないベルは、真っ赤になったまま感情に任せて喚き散らす。
「あんた、お母さんが死んだのに何でそんな何でも無いような顔してんのよッ!? 悲しくないのッ!? もう一生逢えないのよッ!? 何であたしがこんなに悲しんでるのにっ、あんたは平気なのよッ!?」
「いつか、ウェズが言ってたな。過去に囚われてたら、過去に食われるって。それは、強ち間違いじゃないと思うぜ。それに、俺がいつまでも悲しんでたら、折角安心してあの世に逝けたお袋が、また心配になるかも知れない。心配させちゃ、いけないだろ?」
 フォアンの言っている事は、確かに正しい。折角安心して成仏したミャオに対して、また不安を与えるような真似をするのは、どうかと思う。だけど、理屈では分かっていても、感情までそうなるとは限らない。
 ベルが更に言い募ろうとするのを、フォアンは先に回って告げる。
「それに――好きな女の子に情けない顔を見せられないし、好きな女の子には、いつまでも元気でいて貰いたいじゃないか」
 歯が浮くような台詞を穏やかな微笑を浮かべて告げるフォアン。だが、不思議とそこに不快な気持ちは懐かなかった。寧ろ、ベルは胸の高鳴りを抑えられなくなり、更に頬を紅潮させてしまう。
 言葉が出て来ない。けど、何か言わないといけない気がする。締めつけられる胸を押さえて、ベルが口を開こうとした――その時。
「そうにゃ! 大好きにゃベルさんには、いつも元気でいて欲しいのにゃっ!」
 部屋の扉が開け放たれ、ザレアが飛び込んで来た。
「ザレア!?」ベルが頓狂な声を上げる。
「そうですわっ、いつものお姉様でないと、わたくしも悲しくなってしまいますわっ!」
「元気が出ない時はこれ、元気ドリンコだろ? ……って、これはフォアンの台詞かな?」
 エルが瞳を赤くして続き、ウェズが頭を掻きながら苦笑を浮かべる。
「エル……ウェズも……」
 皆、自分が回復するのを待っていてくれたのだろう。何とかベルが元気にならないかと心配し、もしかしたら待機していたのかも知れない。
「ベル殿。これから始まるパーティは、貴殿がいなければ始まらぬのだ。早く着替えて、準備をせぬか。皆、待っておるぞ」
 最後に、ゲルトスが仏頂面で部屋の外からこちらを見つめてくる。
 ベルは不意に涙腺が決壊しそうになったが、上を向いて堪え――皆に笑顔を見せる。
 会心の笑みは、砂漠を照らす太陽よりも、眩しく――――


 ダイミョウザザミを狩猟した祝いに開かれた、パルトー王国挙げてのパーティに出て行った仲間を追って、部屋を後にしようとして――
「有り難う御座います」
 不意に、声を掛けられた。
 部屋には誰もいない。――生きている、者は。
 振り返って、半透明の中年の男女を見やると、フォアンは穏やかな微笑を見せる。
「感謝されるような事は、してないぜ?」
「……娘を、宜しくお願いします」
 中年の男女は、誰かによく似た笑みを浮かべ、――泡沫のように消えた。
 フォアンは何もいなくなった空間を見つめて、「了解です」と敬礼する。
「フォアン~? 早くしないと置いてくわよ~?」
 先刻まで落ち込んでいた女猟人の快活な声を聞いて、フォアンは「今行くぜ」と応じ、部屋を後にする。
 真夏の夢の名残は、もうどこにも――――


第五章〈真夏の夢の物語〉―――【完】

【後書】
 わたくしの中の「幽霊ってこうであってほしいな」と言うイメージをそのまま落とし込んだ物語であり、結末であります。
 あとこの【ベルの狩猟日記】って、何だかんだで恋愛要素が含まれておりまして、徐々~に、徐々~に、「あれ? この子達もしかして…?」って感じの、或る種少女漫画的な恋愛模様がね、こう、わたくし綴りたかったんです!!
 アレですよ、初めは「何だこいつ…」って第一印象だったのが、次第に打ち解けて、「あれ? こいつちょっと気になるやん…」ってドキドキしちゃう系の恋愛ってね、もーワシ悶え苦しむ奴なんです。早く結ばれろっっ!!
 そんな訳でこのエピソード5には、サーヴィスシーンと言い、幽霊に対する想いと言い、そう言った作者の性癖をめちゃんこ詰め込んだ物語に仕上がっておりますの! いやー、めっちゃニマニマできましたわ…(艶々フェイス)
 次回から始まるエピソード6に関しましては、「モンハン要素どこー!?!?!」ってぐらい日常シーン過多になっておりますので、楽しみにお待ち頂けたらと思います!(笑)
 ところであの、昨日更新が無かったのはですね、月曜に【教えて!狩人先輩!】を更新した事で今週のモンハンSSは更新したな! って気持ちになって失念していたのと、昨日が何故か水曜の感覚になっておりまして、うっかり本日更新の【滅びの王】を昨日更新すると言う、凄まじいやらかし事案だったのです!w 今さっき気づいてモダモダしておりました(笑)。ららら来週はたぶん大丈夫ですたぶん!w
 そんなこったで次回もお楽しみに!w 次回は火曜!w 毎週火曜更新ですからね【ベルの狩猟日記】は!ww

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    あれ?あれれれ??……あぁそういうことだったのねw
    な感じなのでしたw
    何がそうなのかよくわからないのですが、
    なんかもにょもにょするなぁなんて思っていたのですよw
    すっかり更新のリズムが出来上がっているらしいですw

    良いお話でした。霊夏や空落にもつながるような幽霊観の原点はここだった!
    ちょっと切なくてキューってなっちゃうんだけど、
    それをうまく消化させてくれるラウト村ハンターズサイコーvv
    そしてそして!ベルちゃんとフォアンくんがいよいよいい感じw

    日常シーン過多大歓迎です!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      そうそうw わたくしもなーんか変な感じがするなぁ、と思っておりましたら…w そういう感じなのでしたw
      更新のリズムが出来上がっている…! しゅごい嬉しいお言葉ですわふ…!w

      ですです! 霊夏や空落の原点がこれなんですな!
      ちょこっと胸軋させつつも、ベルの狩猟日記ですからね! 引き摺るような切なさではなく、しっかりコメディを織り交ぜる辺りが、こう、わっちナイス! って感じです(笑)(自画自賛w)。
      ベルちゃんとフォアン君がいよいよいい感じで、わたくしもニヤニヤが止まりません!w ぜひぜひ今後の二人もお見逃しなくっ!w

      日常シーン過多もお楽しみにっっ!! (*´σー`)エヘヘw 大歓迎と言われてめちゃんこ嬉しいですぞう!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!