2018年11月19日月曜日

【余命一月の勇者様】第42話 伝承、再び〈2〉【オリジナル小説】

■あらすじ
クルガの決意。王族の闇。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第42話

第42話 伝承、再び〈2〉


「ミツネの国、雨が降らなくて、困ってるの?」

 ミツネを悩ませる問題を聞き終えた一同が頭を捻り始めた頃、クルガがミツネの前で彼女を見上げ、不思議そうに小首を傾げた。
 ミツネは愛らしいクルガの仕草に心奪われた表情を浮かべると、慌てて咳払いして、「そ、そうじゃ。雨が降らぬと、農作物がダメになってしまうでな」ポンポン、とクルガの頭を撫でながら穏和に応じた。
「じゃあ、雨、降ればいいの?」
 クルガの何気無い言葉に、ミコト、レン、そしてサボが、閃いたと言わんばかりに顔を上げると、顔を見合わせ、同時に声を上げた。
「「「――“呼雨狼”だ!」」」
「おおっ? 何だどうした?」突然奏でられた三人による輪唱に、ビクリと体を震わせるオルナ。「狼が何だって?」
「僕、狼さんに頼んでみる!」ふんすふんすと鼻息荒くミツネを見据えるクルガ。「ミツネの国に、雨、降らせてって!」
「そんな事が可能なのか……?」驚きに目を瞠るミツネの視線が、ミコトに向く。
 ミコトは首肯を返すと、クルガの肩を叩いた。
「クルガは、獣と話が出来る、すげー奴なんだ。だから、シマイまで戻って、呼雨狼と話せば、きっと何とかなる」尻尾をパタパタ振って見上げているクルガの頭を撫でると、ミコトは改めてミツネに首肯を見せた。「善は急げだ。今すぐシマイに行こう」
「――ミコト君」スッと挙手を見せたのはサボだった。「ミコト君は、これから迷宮に臨むのだろう? シマイに向かう時間は、迷宮攻略に当てるべきだと思う。だから――」パキンッ、と指を鳴らしてクルガを指差す。「――クルガ君。君の力を貸してくれないか?」
「ぼ、僕?」不思議そうに自分を指差すクルガ。
「ミコト君」手を広げ、開いた手のひらをミコトに見せるサボ。「五日でいい。五日間だけ、クルガ君の身柄を預からせて貰えないだろうか。それで、姫様の問題を解決してみせる」
 ミコトとサボの真剣な視線が交差する。クルガもドキドキした様子でミコトを見上げていたが、彼はギュッと拳を固めると、「ミ、ミコトっ!」と震えた声を上げた。
「僕、ミコトと、ずっと一緒にいたいって、今も、思ってるよ!」ミコトを見上げるクルガの瞳には、勇気の炎が点っていた。「本当は、今も、離れたくないし、……いなくなるまで……ううん、いなくならないって、信じてるから! 僕、サボと行ってくる!」
「クルガ……」
「だから、ミコト!」ミコトの手を両手で掴み、クルガはその掴んだ手を自分の額にグリグリと押し付けた。「絶対! 勝手に! いなくなったら! ダメだからね!!」
 ……それは、どれだけの勇気が彼にさせた行為だったのだろうか。
 牢獄の中で、一緒に死ねる方が良いと言った彼の言葉は、嘘ではなかったと、ミコトは確信している。
 あれは、クルガの本心だった。嘘偽りの無い、心の底から願った声だった。
 けれど……クルガは、きっと変わったのだ。いや、変わろうとしているのかも知れない。
 ミコトには考えも付かない速度で、懸命に、全力で、一人前の階段を駆け上がっている……そう、ミコトには感じられた。
 それは、ともすれば寂しさを伴う成長と言えたが、ミコトはそれが嬉しくも有った。
 クルガは、きっと彼なりの答を見つけたのだろう。ミコトですら見つけられない答を、その胸に宿し、ミコトに挑むような眼差しで、告げる。
「僕と、約束、して!」
 クルガの瞳に、微かな水滴が浮かんでいる事を見逃すほど、ミコトは衰えていなかった。
 勇気を振り絞って、ミコトの元を離れ、己に出来る事を、己がすべき事を、全うし、成し遂げる。
 そんな彼の背中を引き留めるなど、してはならない事だと、ミコトには判っていた。
 寂寥感は有る。クルガが遠くへ行ってしまうような、苦しさも確かに有る。
 けれど、クルガを想うなら、クルガを信じるなら、クルガの未来を馳せるなら、その背中は、押さなければならない。
 クルガが差し出した小指に、ミコトは自分の小指を絡めた。
「あぁ、約束だ」
 微笑み、小さく小指を絡ませると、クルガは嬉しそうに笑った。
 ミコトが認めてくれた。その事が何より嬉しくて。何より誇らしくて。
「約束!」
 クルガの嬉々とした笑顔に、客室は和やかな空気に包まれるのだった。

◇◆◇◆◇

「ところで、俺も一つ気になっていた事が有るんだ」
 クルガとサボ、そしてホシがシマイに向けて出立する準備をするために客室を出た後、ミコトはふと、思い出したようにオルナに向き直った。
 オルナは「何だい?」と、煙草を摘まみながら片眉を持ち上げる。
「マナカは……終世マナカと言う第二王子は、生まれてすぐに事故死したと、俺はネイジェから聞いてるんだが、アレは嘘だったのか?」
 ――国王、終世マツゴの子は三人いた。第一王子は数年前に病死、第二王子は生まれてすぐに事故死、今は第三王子の終世マシタが世継ぎになるのでは、と言う噂だが、女の子には恵まれなかったようでな。
 あの幻想夜にネイジェが語っていた事に、偽りが有ったとは思えなかった。
 けれど、実際は捨て子とされてきたマナカが、実は存命していた第二王子であると判明した今、過去に何かしらの情報改竄が有ったのではと、疑いを持たざるを得ない。
 オルナは煙草を咥え直すと、神妙な表情で「……これは本来、誰にも明かされる事の無い、王族の闇なんだけどよ、」と前置き、紫煙をくゆらせながらゆっくりと語り始めた。
「第一王子は病死、第二王子は事故死、って言うのが公の発表なんだけどさ、実際はどちらも謀殺だったって見方が強ぇんだ」暗い表情で、オルナは呟く。「王子が謀殺されたって話が広がりゃ、国の根幹を揺るがす不祥事、大問題だ」
「謀殺って……王子は殺害されたって言うの……!?」思わず悲鳴を上げそうになるも、慌てて口を押さえて声を潜めるレン。「どうしてそれを公表しなかったのよ!? そっちの方がよっぽど大問題じゃない!」
「……つまり、公に出来ぬ理由が有った、と言う事じゃな?」
 神妙な面持ちで呟くミツネに、ミコトも思い至ったのか、オルナを見つめて、核心であろう部分を、口にする。
「……内部犯行者である疑いが有る、のか?」
 王子を謀殺した相手が、内部犯行者なら。
 疑いが掛かるのは即ち……
「……そう、王族を嫌疑に掛ける事が出来なかったんだよ」沈んだ面持ちで紫煙を吐き出すオルナ。「更にこの国家を揺るがしかねない大問題は、最悪の形で終結したんだ。……容疑者の自刃でな」
 暗澹たる空気が流れる中で、併しオルナは話を止めなかった。
「……これはあくまで俺の推測っつうか、妄想なんだけどよ、……いや、単に俺がそう思いてぇだけなんだけどさ、俺は自刃に至った容疑者の騎士は、犯人じゃねえと、思ってんだ」
「……」無言で話を促すミコト。
「……そいつさ、……俺の、兄貴なんだよ」
 辛そうに吐き出された単語に、客室の空気は更に淀んでいく。
「俺と七つも年が離れてるからさ、俺自身、兄貴の事をあんまり憶えてる訳じゃねえんだけどさ、……親父とか、お袋の話を聞いてるとさ、絶対にそんな事する奴じゃねえって分かるんだよ。……いや、それも、俺がそう思いてぇだけなんだけどさ……」
「――俺は、オルナの話を信じたいな」
 ズブズブと沈思の沼に嵌まっていきそうなオルナを掬い上げるように、ミコトは呟きを漏らした。
 オルナは一瞬惚けた顔を見せたが、すぐに照れた笑みを覗かせて、「……ありがとな」と鼻の下を擦った。
「だったらよ、それってまだ、犯人は捕まってねえって事だよな?」疑問符を頭に載せているマナカ。「それってヤバくねーか?」
「……そう考えると恐ろしいわね、このお城の中も。王子を二人……じゃなかった、マナカは未遂で済んだんだから。王子を一人殺害した犯人がまだ、のうのうと生活している可能性が有るんだもんね……」ぶるぶると体を震わせるレン。
「でも俺、よく生きてたよなー。だって俺、めっちゃ小っさい頃に捨てられてたんだぜ? すげーよな俺!」
 ナハハハ、と緊張感が根こそぎ奪われていきそうな笑い声を上げるマナカに、ミコトが、「マナカを拾ってくれたサヱ爺ちゃんに感謝しねーとな」
「……サヱ?」オルナが思わずと行った様子で声を漏らした。「そう言えばマナカ、お前の苗字何て言ったっけ」
「俺か? 俺の苗字は追瀬! 追瀬だぜ!」
「追瀬、サヱ……追瀬サヱ!」ガタッと立ち上がったオルナは、マナカを指差して煙草を噴き出しそうになった。「それっ、ちょっ、アレだおい! 歴代近衛騎士の一人で、第二王子が事故死……! ……じゃなかった、落石事故で推定死亡が確認された時に、一緒に亡くなったって言う老兵だぞそいつ……!」
「ん? じゃあじっちゃん、近衛騎士だったのか?」不思議そうに小首を傾げるマナカだったが、すぐに合点したのか手を打った。「だからあんなに厳しかったのかじっちゃん!」
「……ちょっと待ってよ? 落石事故なのに、謀殺っておかしくない?」スッと挙手するレン。「単なる事故かも知れないのに、どうして王族側はって言うか、近衛騎士側は、謀殺って認識で、且つオルナのお兄さんを容疑者に仕立て上げたのよ? 何か辻褄が合わないって言うか、不自然な点が多くない?」
「済まねぇ、順序がメチャクチャになっちまったな」ペシリと己の額を打つオルナ。「第一王子の病死に関しちゃ、毒殺が有力だったんだ。それ以降、王族の食事には近衛騎士の毒見が必須になった。それで第二王子……つまりマナカの件だが、妃様が第二王子と近衛騎士・サヱを連れて、どういう理由か分からねえが、シュウショウ山の坑道に向かったんだよ。そこで落石事故が起きたんだ。自然に起きた落石事故ってのが現場の印象だったらしいけど、決して人為的に起こせない類いのモノでもなかったらしい。それで妃様は遺体が見つかったんだけど、第二王子とサヱは坑道の崩落に巻き込まれて行方不明……生存は絶望的って言われたから、事故死、って扱いになったんだよ」
「……腑に落ちない点が幾つか有るな」ミコトが人差し指を立てる。「何で妃は坑道なんかに行ったんだ? それも幼いマナカと、近衛騎士まで連れて」
「それが今以て謎なんだ」肩を竦めて手のひらを上に向けるオルナ。「それこそ噂じゃ、妃様が呪われた第二王子を葬りに坑道に捨てに行き、山神の祟りを受けて三人とも天に召された、って風説すら流れてる始末でさ」
「……じゃあ仮にそれが人為的に行われた犯行だとしたら、」ミコトの瞳に、怒りの火が点った。「そいつは、マナカの母さんを殺した犯人になるって事か」
「そいつぶっ飛ばしていいか?」突然立ち上がって険しい形相で拳を固めるマナカ。「そいつだけは、許せねえな」
「……そうだな。俺も、それを有耶無耶にしてここを去る訳にはいかなくなったな」立ち上がり、マナカと拳を合わせるミコト。「そいつをぶっ飛ばさねえ事には、この国は立ち行かねえな」
「……気持ちは分かるけど、何の証拠も無いし、何より手掛かりが何も無いんじゃないの?」二人に向かって落ち着くように手を上げ下げするレン。「手掛かりが有るなら、そもそも今まで誰も調べてなかったってのも不自然だし」
「レンちゃんの言う通りさ」お手上げのポーズを見せるオルナ。「何の手掛かりも、証拠も無い。俺の兄貴は当時坑道付近の警備に当たっていたってだけの理由で容疑者扱いされ、容疑者死亡で捜査は打ち切り。真相は闇の中って奴」煙草を噛みちぎりそうになりながらも、紫煙を吐き出して落ち着こうとしているようだった。「気持ちは嬉しいし、おたくらにとっても大事な話なんだろうけど、俺達にはどうしようもない問題だよ、こればっかりは」
「一つだけ、この問題を解決できる方法が有る」ミコトが人差し指を立てて、一同の視線を集めた。「エンドラゴンに、教えて貰うんだ」
「――待てよ。エンドラゴンが叶えてくれる願いは、一つだけだろ?」思わずと言った様子でミコトの人差し指を摘まむマナカ。「それはミコトの寿命に使わなきゃダメだ」
「だけど俺は、マナカの母さんを殺した犯人を野放しにしとくのは嫌だ」マナカを見据えて譲らない姿勢のミコト。「捕まえられるなら、捕まえたい」
「ミコト、それは譲れねえ奴か?」「ああ、マナカでも譲れねえ奴だ」
「ちょっ、ちょっとちょっと、喧嘩は止めなさいよっ、あんたらが暴れたら誰も止められないんだから!」
 睨み合いを始めた二人の間に割って入ろうとしたレンだったが、その直後、二人が同時に拳を出し合い、オルナも咄嗟に止めに入ろうとして――
「「じゃんけんぽい!!」」二人の声が重なった。
「「へ?」」レンとオルナの間の抜けた声が重なる。
「負けた……」「へへっ、じゃあ願いはミコトの寿命で決定だからな!」
 チョキを出して跪くミコトと、拳を突き出して万歳しているマナカを見て、ミツネは呆れた様子で「本当に此奴らに任せて大丈夫なんじゃろうか……」と溜め息を零さずにはいられないのだった。

【後書】
 クルガちゃんが強くなっていく…! 素敵な人間が身近にいると、成長速度も著しいって好例であればいいなーなんてw
 そしてマナカ君の過去と言いますか、王族の闇にも触れましたが、この辺はふんわり読み取って頂ければ幸いです。たぶん答え合わせがそのうち有る筈。たぶん。
 ところでもうじき2018年も終わりますが、このまま月一ペースの配信を続けると、来年一杯連載が続いている見通しになりました! もしかしたら来年辺りテコ入れが入って、隔週配信だったり毎週配信だったりになるかも知れませぬが、ひとまず現状の執筆の進捗ではそんな感じです!
 最後に。クルガちゃんと逢えない「五日間」が、しゅんごい大事な数字になりますので、ドキドキしながら今後も読み進めて頂けたら幸いです…! それでは次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「絶対人前では読まない。」
    そう決めていました。でも待ちきれなかったのです…
    車の助手席で涙をぼろぼろさせてるわたしを見て同乗者は
    「どしたの?お腹でも痛い?」マナカくんかよw

    クルガちゃん成長すごいですね。
    うれしいようなちょっと寂しいような…
    それもこれも家族が大好きだからなんだろうなぁ。
    うん!素敵だ!!

    勇者様はわたしにとって特別な作品です。
    こんな素敵な家族に出会えたことに、
    その家族を支える素晴らしい仲間たちに出会えたことに、
    感謝の気持ちでいっぱいです。
    これからも4人の冒険を見守って行きたいと思います。
    (ハンカチとティッシュいっぱいいるけどねぇw)
    先生本当にありがとう!!

    乱筆乱文ごめんなさいm(_ _)m

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そ、そんな誓いが…! その禁を破ってでも読みたくなる物語を綴れている事に、何と言いますか、わたくし自身も嬉しさで一杯です…!
      更に言い募れば、とみちゃんと言う読者様に巡り会えた事が本当に最高の出来事だったのだと改めて再認識した次第です…!
      同乗者のマナカ君っぽさには思わずふふっwと来ましたね!(笑)

      クルガちゃんの成長、本当に著しいです。
      そうなんですよね…! 嬉しい反面、何かこう、もう親離れしちゃうのかなって言う寂しさと言いますか…!
      家族が大好き過ぎるからこその成長の速さ。素敵ですよね…!(ガッツポーズ)

      こちらこそ…! こちらこそ有り難うですよ…!
      わたくしから言えば、とみちゃんが出逢ってくれたからこそ、ここまでの物語に昇華できたんだと思います。特別な作品と言わしめる程に、とみちゃんの心に響いた事。それこそが、わたくしにとってはとっても特別な事です。
      なので、わたくしからも有り難うを! これからもぜひ、4人の冒険を温かく見守って頂けると幸いです…!

      いえいえ! 素敵な想いのこもった感想を、本当に有り難う御座います…! めちゃめちゃ嬉しいです…!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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