2018年11月6日火曜日

【夢幻神戯】第20話 四天の宴〈1〉【オリジナル小説】

■あらすじ
四天、集う。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
R-15 残酷な描写あり オリジナル 異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公
カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885747217
■第20話

第20話 四天の宴〈1〉


「爺ちゃん……」

 上半身を袈裟懸けに両断されたロアの遺骸に歩み寄り、ぺたん、と座り込んでしまうユキノにユイは声を掛けずに、ガムを膨らませながら、粉々になった殺戮者の死骸を見下ろす。
「射剣さんさぁ、こいつの素性の調査って出来るのかい」
 爪先で肉片を蹴り上げるユイに、テンセイは顎に拳を宛がいながら、「……或る程度は可能であろうが……恐らく、此奴が口にした贈呈者とやらの痕跡が残っておるかどうか……」と、慎重な語調で応じた。
「――あぁ、どうやら調べる必要が無くなりそうだぜ」
 ユイが鋭い目つきで見据えた先に、二人分の人影が見えた。
 テンセイは鶏冠兜の底で驚愕の表情を覗かせていたが、言葉を発するには至らなかった。
「あーあぁ、負けちゃったんだぁ。〈加速〉と〈索敵〉、それに〈遮音〉の力が有っても、使いこなせなかったのかなぁ、それとも相性かなぁ?」
 ――――何の脈絡も無く。
 濃緑色の、ボロボロになった着物を纏った少年が、ユイの背後から殺戮者の遺体に歩み寄って来た。
 その事実に、初めてユイは慄然とした表情を覗かせ、思わず一歩、少年から距離を取ってしまう。
 愉しくて愉しくて仕方ないと言った様子の笑みが貼りついたままの少年は、ユイを見上げると、「あぁ、君は……“ゼンのディーラー”の、その使いっ走りじゃないか」と怪物染みた笑みを浮かべて小首を傾げた。
「……“本物”は、やっぱ格が違うねぇ……!」
 ただそこにいて、笑っているだけの少年。それが、“脅威そのもの”としか感じない程に、その存在感は圧倒的だった。
 少年はユイを見つめて笑っていたと思いきや、隣に立つテンセイに視線を向けると、更に邪悪な笑みを覗かせた。
「他人のフリしないでくれないかなぁ? 君をゲームに巻き込んだ事は謝るからさぁ」
「……」テンセイは無言のまま、少年を見下ろしている。
 ユイはそんなテンセイの反応には何も言わず、少年を見つめて小さく言葉を下ろす。「そうか、あんたが――“ソウの導師”、厄良(ヤクラ)クヨか」
 少年――厄良クヨは皮肉っぽく口唇を歪めると、肯定も否定もせず、眼前までやってきた少女を慇懃に示した。「そして彼女が“コトツミのディーラー”、狂衣(クルイ)ワイス。“ゼンのディーラー”だけがこの場に不在なのは、よっぽど臆病なんだねぇ」
「――私がその場に赴く未来は存在しません。故に、私はその場にいないのです」
 不意に、この場に居合わせない未知の声が頭上から降り注いだ。
 ユイには馴染みの有る声で、黒衣の少女――狂衣ワイスと、厄良クヨにとっては同存在の声で、ユキノとテンセイが初めて聞く声。
「ユキノ様。彼は――ロア様は、間も無く目覚めます。ご存知の通り彼は、不死者ですから」
 天からの声に、ユキノは驚きに目を瞠って空を見上げるも、翡翠色の天井が広がるだけで、人影はどこにも見当たらない。
「で、でも、爺ちゃん、体が……」狼狽えた様子で視線を彷徨わせていたユキノだったが、再びロアに視線を戻した時、更に驚きに目が見開く。「な、治ってる……!?」
 両断されたロアの肉体は、視線を逸らした次の瞬間には結合し、傷痕が跡形も無く失われていた。真っ赤な血液に染まっていた衣服も復元し、健常そのものの態で、彼はゆっくりと目を開いた。
「……くっ」苦しげに笑みを刻み、ゆっくりと体を起こすロア。「アキと離れれば不死を失うなどと夢見たが、そうじゃろうよ、“そうじゃろうとも”」傑作だ、と言わんばかりに苦しそうに笑んだ。
「爺ちゃーんっ!」起き上がりかけたロアに抱き着くユキノに、そのまま押し倒されるロア。「爺ちゃん死んじゃったと思ったよ!? 心配したんだからね!?」ドカバキッ、と容赦ない殴打がロアの顔面を襲い始めた。
「うぐえぇ……」鼻血を流しながらぐったりと力を失っていくロア。「おちっ、落ち着いとくれ……ワシをまた殺す気か……」昇天しそうな顔をしていた。
「だって! だって!! 爺ちゃん、死んじゃったって思って……っ!」
「いやお前、それとワシを殴り殺す事に何の因果関係が有るんじゃ??」
「だってぇ……っ」
 ロアの胸に蹲って嗚咽を漏らし始めるユキノに、ロアは果てた表情で彼女の頭を撫でた。
「ワシは死なんよ……お前さんが生きとる限りな……」
「……ほんとに?」赤くなった目元でロアを見上げるユキノ。
「ここで嘘を言うてどうなるんじゃ……」呆れ果てた様子でユキノを睨み据えるロア。「つーかそこ退いてくれんか。いつまで人前で抱き合っとらんといかんのじゃ」
「あっ!!」
 慌てた様子でロアの元から跳び上がるユキノに、ロアはやれやれと苦笑を浮かべながら、この茶番に付き合ってくれた一同に視線を送る。
「済んだぁ?」幻林に入る前にユイが警告した少年――厄良クヨが笑いかける。「あんまり長引きそうだったらゲームを始めちゃうところだったよぉ」
「野蛮じゃないかしら、ねぇ、野蛮じゃないかしらねぇ?」黒衣の少女がロアの前に立つと、スカートの裾を持ち上げて恭しく頭を垂れた。「初めまして、わたくしは“コトツミ様の代行者”、狂衣ワイスと申しますわ。以後、お見知り置きを」
「僕も改めて自己紹介しておこうかぁ」と言って慇懃にお辞儀をする少年。「僕は“ソウのディーラー”、厄良クヨ。宜しくねぇ」と言って邪気に塗れた微笑を見せた。
「……代行者に、ディーラーか」溜め息交じりに応じるロア。「ワシは、禍神の遣いは“庭師”だと、聞いておったんじゃがな」
「えぇ、貴方は庭師ですよ、ロア様」女声が、天井から降り注ぐ。「申し遅れました、私は“ゼン様が遣わせた導師”、禍荊(カイバラ)ミサカ、と、申します。ロア様を我々“導師”と会するべく、ここに導かせて頂きました」
「……ミサカ、と言ったか。お前さん、姿が見当たらんが?」ロアの訝しげな声が上がる。
「故有って人前に姿を晒せない身なのです、どうかお気になさらないでください」微笑んでいる様子がありありと浮かぶミサカの声。「今回ロア様にご足労頂いたのには、理由が有ります」
「……」ユキノが、無言でロアの服の裾を掴んだが、ロアはそれに気づきながらも反応は返さなかった。
「貴方が禍神・アキ様からどう伝え聞いているのか存じませんが、我々は貴方を迎え入れる者です」
 間が、有った。
「……迎え入れる? 巫山戯るのも大概にして欲しいものじゃな。どうして迎え入れようとする者を両断する必要が有る? それとも、これがお前さんらの歓迎の形なのか?」
「あぁ、それはゼンのディーラーの仕業じゃないよぉ」よっこらしょ、とロアの前で胡坐を掻くクヨ。「僕が遊びたかっただけぇ」
「遊びたかっただけ……?」怒りで思わず声が高くなるロア。「そんなゲスに迎え入れられなければならんのかワシは?」
「キヒッ、勘違いしないで欲しいなぁ。迎え入れるって言ってるのは、ゼンのディーラーだけだぜぇ?」
 ピリッとした緊張感が、場に走る。
 クヨは笑みを浮かべたまま、ロアは歯を食い縛って恐怖と怒りを抑えつけながら、睨み合う。
「……わたくしは唄が聞こえたから、見に来ただけですわ。ねぇ、そうじゃなかったかしら?」ふぅ、と色っぽく吐息を漏らすワイス。「わたくしの子を、殺して回っていたのでしょう? それは、許されるのかしら。ねぇ、許されるとお思いかしら?」
 ワイスの舐め回すような視線に、ユキノが「うぅ……」と怯みながらロアの背中に隠れていく。
 ユイもテンセイも、ロアを見つめている事しか出来ない。発言権を与えられているのは、恐らく彼だけだから。
 ロアは怪訝な面持ちでワイスに視線を向けると、「……つまり、お前さんが“魔物使い”……か?」静かに、問うた。
「魔物使いだなんて、哀しい言葉ですわ。ねぇ、哀しくないかしら?」ワイスは艶っぽく吐息を漏らすと、ロアに胡乱な瞳を覗かせた。「――“造物主”、……こちらの方が適切じゃないかしら? ねぇ、適切だと思わないかしら?」
「……魔物を、創造する者か……ッ!」ロアが驚きに目を瞠る。「お前さんが、禍異物の、“母体”か……!」
「……厭な言い方ですこと」ふぅ、と哀しそうに溜め息を零すと、ワイスは近くの輝翠樹に寄りかかった。「わたくしは子らを愛でてるだけですわ。禍異物だなんて無粋な言い方はやめてくださらないかしら? それとも貴方様は、天使を悪魔と呼ぶ天邪鬼なのかしら? ねぇ、天邪鬼なのかしらねぇ?」
 ――天使。
 言われてみれば、確かにそうだ、とロアは内心で納得した。彼女――狂衣ワイスは禍神の使い……その者が創造・使役しているモノとはつまり……
 ロアは不意に立ち眩みを覚えた。魔物。禍異物。どちらも、“正しい呼称だ”。禍神が遺した遺物などではない。禍神の使いが、現在進行形で生み続ける、人類の敵。
 その元凶が、眼前にいる。世界を混沌に陥れている諸悪の根源が、現前に。
「――さて、ロア様」ミサカの声が天から降り注ぐ。「貴方の事を何故庭師と呼称したのか、それに就いて今、弁を揮わせて頂きます」
「……ワシが、庭師と呼ばれる理由……?」不思議そうにユイに視線を向けるロア。「ワシが、世界を滅亡させるか、人類を滅亡させるか、その天秤を傾けるため……それ以外の理由が有るのか?」
「その解釈は些かも違えておりません。けれどもっと踏み込んで語りましょう」ミサカの声はあくまで穏やかだった。「貴方が仕える禍神、アキの力は、絶大無比です。何せ――“願いを叶える力”……それが善き悪しきに拘らず、ただ願えば叶うと言う、デタラメな力が故に、貴方を庭師と呼ばざるを得ないのが、私の見解です」
「……それは、お前さんらもそうじゃないのかい?」
「違うねぇ」キヒッ、と笑声を落とすクヨ。「僕ら皆、与えられた力は異なるんだよぉ。君が“願いを叶える力”であるように、僕はねぇ、“神器を造る力”を賜っているのさぁ」
「わたくしは“神物を生む力”を代行できるようになりましたのよ?」ワイスがことりと小首を傾げた。
「そして私は、“未来を観る力”を授かりました」ミサカの声が静かに響いた。「それぞれに、与えられた役目・役割は異なります。そして我々は貴方と敵対する訳にはいかないのです、ロア様」
 二人の天使、そして見えざる天上のからの視線に、ロアは緊張感で止まりそうになる呼吸を何とか静め、ゆっくりと気息を吐き出して、告げた。
「……ワシには、お前さんらを、“願うだけで消す”力が有る……と?」
 ユキノの表情に驚きが走り、思わずロアの腕をギュッと力強く握り締める。
 ロアはそれに応えるようにそっとその手に手を下ろしたが、ユキノを振り返る事は無かった。
 ワイスとクヨは相変わらず、胡乱な表情と凄絶な笑みを崩さないまま、ロアを見つめるだけ。
 やがて天上からの声が、その問いかけに応じた。
「――この世界は、禍神に支配されている……“訳ではありません”」静かな切り出しで、ミサカが告げる。「三人の禍神が、辛うじて均衡を守って、世界を“運営している”のです。全ては人類に委ねるがまま、より良い未来を築ける事を祈りながら、我々は見守っている……そういう立場なのです」
「より良い未来ねぇ」くつくつと陰鬱な笑声を落とすクヨ。「そうやって、自分にとって都合の良い未来になるように手練手管を使ってるディーラーがいるって、僕は聞いた事が有るなぁ」
「わたくしは人類も勿論愛していますわ。だって、我が子も同然ですもの。ねぇ、そうでしょう?」ワイスが不思議そうにロアを見つめる。「ですから、より良い人類にしなくちゃなりませんよね? 人類を選別・淘汰しなくちゃなりませんよねぇ? その先こそが、人類にとって輝かしい未来でしょう? ねぇ、そうじゃないかしら?」
「……この狂れきった三人の天使が、何十年、何百年と均衡を保てとる事に驚きを禁じ得んが……」やれやれと肩を竦めるロア。「まぁ、何じゃ。話は分かった。幾つか聞きたいが――ワシが“お前さんら三人纏めて消滅しろ”、と、願えば。この世界はどうなる?」
 ――――ピリッとした緊張感が、場を支配した。
 沈黙は長く続かず、真っ先に口を開いたのは笑顔の少年だった。
「そう時間を掛けずに、この世界は“喪われる”だろうねぇ」
「“滅ぶ”……とは違うのかい?」ロアがクヨに視線を向ける。
「この世界の大本である禍神の、ディーラーを消すって言うんだからさぁ、この大きなカジノは破綻する未来が確定する、それだけだよぉ」愉しくて仕方ないのか、釣り上がった頬を自ら撫でるクヨ。「まず秩序が無くなり、掠奪が始まる。何世紀も時代は遡行し、世界から禍神の力が完全に喪われた瞬間――」パッと両手を広げるクヨ。「この大きなカジノは役目を終えて、閉店。今まで有り難う御座いましたぁ」
「禍神に支配されている方がまだマシ、と考えてしまいますでしょう」ミサカの声は、穏やかではあったが、先刻よりもだいぶトーンが冷えていた。「我々が管理・運営しているのですから、我々が消えれば当然、この世界は破綻します。滅ぶのではなく、未来が喪われるのです。人類史が突然、何の脈絡も無く、消える。貴方の今の願いは、そういう意味を伴います」
 ――嘘じゃろう。
 流石に、そう思いたかった。ロアはそう思いたくて仕方なかった。
 だが仮に、彼らが言っている事が全て正しいのならば。
 彼らの論を実証できるだけの物証が揃ってしまえば。
 己がたった一言願うだけで、この世界はいとも容易く、“喪われる”……と言う事に、なる。
 そこで蘇る、“庭師”と言う単語。
 何を剪定するのか。何を見極めるのか。
 ――よもや、“この世界の根元すらも断ち切る権利を与えられていたとは”。
 ロアは、やっと理解した。
 アキが、己を壊そうとした理由。己とゲームをすると言った理由。全てが、透けて見えてきた。
 こんなゲーム、“正常な判断で出来る訳が無い”。
 狂わなければ、マトモに過ごす事すら艱難ではないか……!
「爺ちゃん……?」
 ユキノの不審な目がロアを射抜く。
 ロアはその時気づいた。手を口に這わせると、笑みの形を刻んでいる事に。

【後書】
 配信が一日遅れちゃいましたが、少しずつ左手の感覚が戻ってきましたので! 慣らし運転がてらに更新再開です!※お休みは一日だけだった件
 今回のお話は情報量過多なのですが、ふんわり理解して頂けたら大丈夫…の、筈ですw この物語って「禍神がうんたん」って話題がちらほら出てきますが、この禍神って奴がそもそも歴史を遡るに「世界をしょっちゅう滅ぼしてる神様」だったりします。迂闊に信用しちゃいけないって事だね!w
 今回から新章「四天の宴」編が始まりましたが、暫くは彼ら「禍神の遣い」との話し合いが続きます。何が真で何が嘘なのか、何を成したくて何を隠そうとしているのか。四者四様の思惑が渦巻く議場なので、やっぱり次回も情報過多の予感ですw おったのしみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    無理なさらずお身体お大事になさってください。

    いやこれなんかこぅ、整理しないと訳わかんなくなりそう!
    ふんわり理解で大丈夫なら…いや、そこまでいってないぞぅw
    何にせよ次回更新までには少しぐらいふんわり理解しておきたいですw
    がんばります!!

    ユキノっちらぶりぃ~vv

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんと今は無理せず安静にしていたいと思います…(´ω`)

      固有名詞とかモリモリ出てきましたからね!w 整理した方が良さそうです!w
      ふんわり理解にも至っていない…!w いやきっと大丈夫ですよたぶん!w
      次回更新はたぶん来月になると思いますので、きっと大丈夫! がんばえ~!

      ユキノっちの可愛いシーンで(・∀・)ニヤニヤして頂けたのなら幸い…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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