2018年11月7日水曜日

【滅びの王】55頁■神門練磨の書14『意気地なし』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/02/20に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第56話

55頁■神門練磨の書14『意気地なし』


 ……時計を見ると、時刻はすっかり昼になっていた。
 寝惚け眼で居間に向かってみると、置手紙が一つ。
「ん~……?」
 見てみると、……母さんは買い物に出掛けたらしい。夕方には帰るって書いてあるけど……母さんの事だ、寄り道を含めると夕飯ギリギリ間に合う頃に帰ってくるだろう。
 オレは目覚ましのために、キンキンに冷えた緑茶をコップ一杯飲んで、「う~ん」と背伸びした。
「さて、と……今日はどうすっかな」
 現実の世界と夢の世界の分別が付かなくなって来てるのか、ここが現実の世界だって分かっていても、向こうの世界も現実のようにしか思えないので、二つの境界が薄くなってきてるような気がする。
 頭は覚めてきたけれど、やっぱりシャワー位は浴びとこうかな、と思って脱衣所へ向かう。
 今度は風呂場を覗き込んで、誰もいない事を確認してから服を脱ぎ、着替えを置いておく。
 風呂場に入って、シャワーのコックを捻ると、始めは生温かった水が徐々に熱いお湯に変わり、オレの体から眠気を洗い落としていく。
「あ~~~……」
 気持ち良い。
 眠っても向こうの世界で冒険しているものだから、疲れがちゃんと取れているのか不思議なのだが、何故か朝起きても倦怠感こそあれ、引き摺るような疲労は感じない。ちゃんと寝た分だけ体力は回復してるように感じられる。
 やっぱり、夢の世界は夢の世界って事か。現実の世界と一緒くたにするべきじゃないのかも知れない。
「おっはよぅ、練磨!」
「――――ッッ」
 思わず体が震え上がってしまった。
 狭い浴室の中から声が聞こえてきた。怯えながら声の主を探すと、――蓋が閉めてあった浴槽から崇華が顔を出していた。
「おまっ……!? 何でここにいるんだ、てめぇ!」
「えぅ? 練磨のおばさんが、『ここに隠れてたら、練磨を出し抜けるわよ』って言ったから……」
 あの鬼母……!
「つか、オレを出し抜いてどうするつもりなんだ、お前……?」
「え? えとえと……え、えへへ?」
「えへへ? じゃねえ! 笑う所じゃねえし意味不明だしつーか出てけ!」
 取り敢えず股間だけは隠して、崇華に追放を命じる。
 崇華は何故かキョトンとして、「えぅ?」と変な声を上げた。
「てめえはオレの裸体をそんなに見たいのかッ!?」半絶叫でオレ。
「えとえと、出来る事なら……」恥ずかしそうに崇華。
「見たいのかよッ!? ダメだ! ダメだったらダメだ! 早く出て行けェェェェ!」絶叫するオレ。
「う、うん、分かったよぅ……そんなに怒らなくても……」シュンとする崇華。
「あのな……自分の身になって考えてみろよ? オレに裸を見られたいか?」呆れ気味にオレ。
「……練磨が、見たいって言うなら……」頬をほんのりと赤らめて崇華。
「見られても良いのかよッ!? ――い、いや、ダメだろ!? ダメなんだ! つー訳で早く出るんだ! いつまで見てんだチクショォォォォオオオオオ!」
 そんな問答が続いて崇華が立ち上がると、
 ――一糸も纏わない、あられもない姿がそこに有った。
「ストォォォォオオオオップッッッッ! 何でお前も服着てねえんだよ!?」叫び過ぎて声が嗄れてきたオレ。
「練磨。お風呂に入る時は、服は脱がないといけないんだよ?」物分りの悪い生徒を見る目で、崇華。
「ンな常識分かってるから! 何で覗き見するだけなのにお前も服を脱いでんだよッ!?」お前の常識は明らかにおかしい! と絶叫に疲れてきたオレ……。
「だってだって練磨、わたしが練磨の裸を見るなら、練磨もわたしの裸を見たいかな、って……」やっぱり頬を桜色に染める崇華。
「展開的に有り得ないだろッ!? 何おかしな交換条件持ち出してんだッ!?」またも絶叫するオレ。
「練磨はわたしの裸、見たくないの……?」ちょっと寂しげな崇華。
「い、いや、そりゃ見たいけど……じゃなくて! そうじゃなくて! 違うだろッ!? 見たくても見ちゃダメだろッ!?」自分の頭が壊れてきた事を自覚し始めるオレ。
「練磨。我慢は良くないよぅ?」開き直り気味に崇華。
「てめえは少しは遠慮とか常識を守れェェェェ!」
 取り敢えずこのままだとオレの理性が完全に崩落しそうだったから、オレの方が先に退出してやった。
 全く……幾ら幼馴染とは言え、この歳になってまで一緒に風呂に入ろうだなんて言い出したら、ただのヘンタイだぞ……分かってるのか、あいつ……? ……いや、きっと分かってないんだろうな、うん。
 早々に服を着替え、脱衣所を出ようとした瞬間、浴室の戸がガラリと開く。
「待ってよぅ、練磨~! 置いてかないで~!」寂しそうに崇華。
「うわっバカっ! オレが出てから出てこいよ! 完全に上から下まで見えちまうだろーが!」慌てて自分の目に手を当てるオレ。ちゃっかり隙間から崇華が見えてるけど。
「えぅ……えとえと、練磨なら、……良いよ?」再び紅潮する崇華。
「何がだよッ!? ちゃんと着替えてから出てこいよッ!」
 脱衣所から飛び出すと、居間に入って心を静める。
 ……それにしても……やっぱり、あいつももう十五歳だもんな。体も成長するよな……。
 見ないように見ないようにと思っても、オレの煩悩はどうしても、あんな所やそんな所に視線が行ってしまう訳で……ちょっと得した気分。――って、ヘンタイかオレは!
 まあ、オレも健全な十五歳の男の子であるから、こういう事が有ればどうしても興奮してしまう訳で…… 
 暫くオレは悶々としたまま、動けずにいた……。


「んもぅ、練磨ったらすぐに逃げ出しちゃうんだもん」
 居間に入ってきた崇華は、今日も色の控えめな地味な服を着ていた。崇華に派手な服は似合わないだろうと分かってるけれど、毎日地味な服を着ていると、もしかして服装には無頓着なのかな、と思ってしまう。決して地味な服が似合ってないとか言う訳じゃないけれど、たまには別の趣向の服を着て来ないかな、とか考えてしまう。
 煩悩だ、煩悩。さっきの裸の件で、頭の中の理性機関が瓦解してしまっているようだ。復元を早急にせねば。
「あのな……あんな時、間違いが起こったらどうするつもりなんだよ、お前は? 一応お前、女なんだぜ? 少しは警戒しろよ……」色々疲れてグッタリなオレ。
「あはは、何か練磨、お爺さんっぽいよぅ」ケラケラ笑い出す崇華。
「お爺さん言わない! ……それに今、ここにいるのはオレと崇華だけなんだぜ? それだけでも間違いが起こりそうだってのに……」
 母さんにも困ったモノだ。
 ……いや、それだけオレは信用されてるって事か。それならちょっと納得。――って、納得も何も、そんな事でホッとする自分と言うのも悲しいモノが有るな。
「……えとえと、間違いって、何なのかなぁ?」
「へ?」
「練磨は、どんな間違いが起こると思ってるの、……かな?」
 ……メチャクチャ応え辛い質問が来たな…… 
 間違いってのはつまりその……なんだ。
「まぁ……何でもない。気にするな!」
 結論。説明できるかッ!
「え~? 気にするよぅ~。練磨と二人っきりになったら、何が起こるのかな? とっても気になる。うん、気になる」猫のような上目遣いで崇華。
「……それはだな。誤って母さんが買ってきたカップラーメンを食べてしまう事だ!」ズバリ指差して叫ぶオレ。
「えぇ!? おばさんのカップラーメンを食べる事が、間違い……?? よく分からないよぅ?」本気で首を傾げる崇華。
「オレも崇華も料理は出来ないだろ? そこで、カップラーメンを食べたくなる。と言う事は、たくさん有るカップラーメンの中に有る母さんの好物も食べてしまう……それが間違いなのだッ! 母さんがいないから、間違えて母さんの好みのカップラーメンを食べる事が発生するから、今の状態は危険なんだッ!」言い切るオレ。
「ふわぁ~~~そんな所まで考えてるんだね、練磨は! 凄いなぁ~……」とても感動してる崇華。
 まあ強ち間違いって訳でも無いんだけどな。母さんが大切に保存していたカップラーメンを食べて怒られるのはオレだし。
 オレが適当な事を言って誤魔化せたと感じて、今日はゲームでもしようかと崇華に勧める時、
「……意気地無し」
「え?」
「ううん、何でもないよぅ♪ ――そうだ! 練磨、向こうの世界の話なんだけど……本当に、死んじゃったの……?」
 そう言えば、崇華に〈風の便り〉を送っていないから、オレが生きてるか死んでるか分からない状態か。
 ……ん? でも何でそんな『死んじゃったの?』って具体的に分かってるんだ?
 オレは少し不思議になって崇華に視線を向ける。
「オレが死んだの、知ってるのか?」
「うん……あのねあのね、〈風の便り〉を一度使った人が死ぬとね、その人と〈風の便り〉をした相手全員に死亡通知が届くの。だから、わたしの所にも、届いたの……」
 ……て事は、やっぱりあの世界でオレは、死んだ事になってるのか。
 恐らく黒一も、オレを殺した張本人だから分かりきってる事だろうし、死亡通知の届く相手……崇華だけじゃなく、一度ならず〈風の便り〉を使った鷹定にも伝わっている筈だ。……そうなれば、オレはあの世界では亡き者……《滅びの王》は死んだと偽装できる。つまり、オレが狙われる事は無くなる。
 願っても無い事だろう? もう命も狙われる心配は無いんだ。これから、平和に……『普通』に暮らしていける。危惧する事が何も無くなるんだから。
 ……そんな人生の、何が面白いってんだ?
「……練磨がいなくなった世界なんて、わたし、悲しいよぅ。……だからね、今、ミャリと葛生さんの三人で弔いに……」
「――来るのか?」
「へ? う、うん……だってだって、練磨、死んだままになってるでしょ……? そんなの、わたし、もっと嫌だもん……」
「……」
 言いたかった。オレは向こうの世界でも、ピンピンしてる! って、大声で叫びたかった。……だけど、考え直した。言うのは、後でも良いかな、――と。
 それは、《滅びの王》が生きてる事を誤魔化すためじゃない。……結果としてそうなるけど、オレの目的はそこには無い。
 鷹定もミャリもオレを弔いに来る……つまり、あの場所まで来ると言う事だ! それがオレには好都合だった。
 話は簡単だ。死んだ人間がそこでピンピンしてたら、誰だって驚くだろう? ちょっとしたドッキリを、ミャリと鷹定、そして崇華に仕掛けようという魂胆だ。
「そうか……ごめんな、戻ってくるって、約束したのに」
 だから今だけは、オレが死んだ事にしておく。そうする事で、三人の驚きは極致を迎えるだろう!
 オレからのちょっとしたイタズラに、彼らは驚いてくれるだろうか? ちょっぴり不謹慎だけれど、楽しみだ♪
「ううん、良いよぅ、練磨は謝らないで! ……でも、やっぱり寂しいなっ……折角、練磨に逢えたのに、全然お話できなかったし……」寂しげに俯く崇華。
「そうだな……でも、くっ、ぷふっ、また……ぷー! だはははは!」我慢崩壊のオレ。
「あ、あれ? 練磨? どうしたの?」思わず驚く崇華。
「あはははは! はははっ、あははははははは!」笑いが止まらないオレ。
「練磨!? おばさん大変! 練磨が壊れちゃったよぅー!」
 狼狽える崇華の前で爆笑するオレ。だ、ダメだ……やっぱりオレは嘘を吐けない性質みたいだ!
 必死に腹を抱えると、ようやく笑いが納まって、崇華に真実を告げた。
「え? 練磨、生き返っちゃったの……?」
「ああ、ごめん。ちょっと嘘吐いた」
「……」
 崇華が俯いて震えている。やべ、怒らせちまったか?
「ごめんって、謝る、いや謝らせてくれ! オレが悪かった!」土下座し掛けるオレ。
「うぇ……」ポツリと崇華。
「うぇ?」崇華を見上げるオレ。
「よかっ、ぅっ、良かった、よう……っ」しゃくり上げる崇華。
「崇華?」思わず、動きが止まるオレ。
「うわああああああああああんっっ」
 オレの胸に頭をめり込ませて、崇華が泣きじゃくり始めた。
 数瞬、呆気に取られたけど、……ようやくオレは、自分の吐いた嘘がどれだけ崇華の心を傷付けていたのか悟って、本当に申し訳無くなった。
「ごめんな、崇華……」
「ひっ、うぅう……っぐ、うわ、わあぁああぁぁっっ」
 ……ここまで女の子に泣かれて、自分の命の重みをようやく悟れるなんて……何だか、自分がとても惨めで、滑稽に思えた。
 オレは《滅びの王》である以前に、『神門練磨』なんだって事を、今とても感じる事が出来た。

【後書】
 先日【ベルの狩猟日記】でサーヴィスシーンがうんたんと綴っておりましたが、そう言えば【滅びの王】ってサーヴィスシーンめちゃめちゃ出てくるな…w と、今回読み返してて思わずにいられませんでした(笑)。
 崇華ちゃんの小悪魔感がヤバいです。天然っ子のようで、実は…って辺りが恐ろしいw 練磨君しっかり!w
 そして最後、そんな崇華ちゃんを泣かせちゃう展開ですが、何と言いますか、九死に一生を得た系の経験をした当人って、実のところ笑い話として認識してる部分が多く、他者にそれを話して、初めて「実はヤバかったんだな…」って実感する事が多いような気がします。分かっているつもりでも、案外当人って気づかないものです。
 と言う訳で「意気地なし」の練磨君は次回、崇華ちゃんと…? お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    堪能させていただきますよぅ~練磨くんのシャワーシーンv
    と思っていたらまさかの崇華ちゃんw
    これあれだ、練磨くん蜘蛛の巣に絡め取られちゃうやつだww
    まじしっかり練磨くん!

    九死に一生を得た系の話はたしかにそんな感じですね。
    聞いてるこっちのほうが((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしちゃうみたいなw
    でも、知り合いの方から聞いた話なのですが最初は大声で笑いながら
    状況を話していたのですが、だんだんと震えが来て
    最後は立っていられないほどで涙が溢れて止まらなかったそうです。

    生と死の境目やばいです(語彙力><

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv意気地なし…

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    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      堪能して頂けましたか!w (*´σー`)エヘヘ嬉しいですわふ!w
      蜘蛛の巣に絡め取られちゃう奴wwwまさにそれですわwww
      まじしっかり練磨君!ww

      ですよねぇ、わたくしもそんな意図を込めて後書を綴りましたw
      実際に死の恐怖を体感できるのって、そういう「自分の言葉で頭が理解した時」なのかも知れませぬよね。

      生と死の境目やばい…!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪ それはそっとしといて!w(小声)

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