2018年12月22日土曜日

【バッドガール&フールボーイ】6.Bad girls reveal【モンハン二次小説】

■あらすじ
不運を呼び寄せる女が、頭の足りない少年と出会う時、最後の狩猟が始まる――。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書とサブタイトルを追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/77086/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1043940
■第6話

6.Bad girls reveal


「…………う、……ん……?」
 小鳥の囀り、虫の鳴き声、そして温かな陽射しに包まれた、静寂の世界。そこにトルクの呻き声が混ざったのを聞き咎めたテスは、慌てて彼の元に駆け寄った。
 ベースキャンプのテントの中に設置した簡易ベッドに寝かされたトルクは、虚ろな表情で天井を見上げている。どうしてこんな所にいるのか、まだ判然としないのだろう。テスは傍に寄り、隣に座り込んだ。
「大丈夫? まだ傷は痛む?」不安げにトルクの顔を覗き込むテス。
「…………?」ぼんやりと視野に映り込んだテスの顔を見上げ、トルクはようやっと口を開いた。「……テスは、無事……だっただか……?」
 トルクの発言にテスは暫し言葉を失った。彼は――こんな怪我を負いながらも、まだ自分の事を心配しているのか。途端に胸が締めつけられるような苦しさに襲われ、テスの目許に温かな雫が浮かぶ。
「……うん、私は大丈夫、だよっ」何とか気丈に振る舞えるのも、そこまでだった。テスは震える声を押し殺すように、俯く。「……ごめん、ね……私を庇って……」
 気が緩んでいた訳ではない。気づくのが一瞬遅れたのと、“不運”が繋がっただけ。……いや、フィールドを入念に調べ、どこに何があるか把握しておかねばならない。一流でなくとも、ハンターならばそれくらい出来ねばならないだろう。慢心が下地を作り、油断で発露したミスだ。
 にも拘らず――トルクは怒らずに笑っていた。傷の関係だろうか、笑声は小さかったが、その顔には確かに笑みが浮かんでいる。その笑みの理由が理解できないテスは戸惑いを隠せなかった。
「怪我したのがオラで良かっただぁ~。最後にちゃんと大事な相棒を守れて、これでハンターを辞めるのも、悪くないだな~」
 ――ズキリと、テスの胸が痛みを発した。
 ゆっくりと上体を起こしたトルクは、温かな笑顔でテスの頭をポンポンと叩いた。
「オラァ満足だぁ~。最後の狩猟も失敗に終わるがぁ、良かったと思ってるだぁ」
「――っ!」
 涙が浮かぶ顔をトルクに向け、テスは何かを訴えようと口を開いた。……が、すぐには声は出てこなかった。トルクが不思議そうに見つめる中、彼女は泣きそうな表情で、絞り出すように声を落とした。
「……本当は、狩猟を始める前に言っておくべきだった事が、有るんだ。……聞いてくれる……?」
 懇願するようにトルクの顔を覗き込むテスに、彼は穏和な表情のまま、「あぁ、聞きたいだぁ」と小さく首を上下した。
 トルクの反応を確認すると、テスはゆっくりと語りだした。己の忌々しい渾名の由来と、その意味を――

◇◆◇◆◇

 生まれる時から彼女は“不運”を身に宿していた。
 出生と共に母親を亡くし、父親は生まれた娘を“母親を殺して生まれてきた悪魔”と忌み嫌い、何度と無く彼女は父親の暴力に襲われた。併しその暴力の嵐も彼女が十の年を数えた時に忽然と途絶えた。――父親が事故で亡くなったのだ。
 そんな幼少の頃から彼女は、己が不運を纏い、人を不幸に陥れる存在なのだと信じて止まなかった。そんな自分でもきっと誰かのために役立てる筈だと信じ、危険な職種だと理解しながらも、ハンターの門を叩いた。
 ハンターになってからも、彼女が撒き散らす不運の犠牲者は増える一方だった。彼女と狩猟すると必ず怪我人が出る。怪我の大小は問わず、ともすれば依頼を失敗する事さえ有った。
 初めは偶然だと片付けて彼女を慰める者も少なからずいた。併しそれが毎回続き、半年、一年と経っても変化の兆しが見えなくなった頃、彼女をこう呼び始める者が出てきた。
 曰く、“バッドガール”――“不運を呼ぶ女”。
 彼女に係わればあらゆる者が不運に落ちる。ハンターとしても忌み嫌われた彼女は、その渾名を知らぬ者、或いは渾名を知りながらも物珍しさにパーティを組んでくれる者としか、狩猟に出掛けられなくなった。
 そうなってでもハンターを続ける彼女は、そうしてまた無知のハンターとパーティを組める喜びに浮かれ、大事なその話を隠し通した。
 今回のクエストに限っては不運が起きませんように。そんな彼女の儚い願いは、容易く砕かれたのだった。

◇◆◇◆◇

「……本当は、パーティを組む時に話しておくべきだったんだけど……ごめん」声は落ち着いていたが、表情は悄然としたまま、テスは微笑を滲ませた。「トルクがハンターを辞めるって言ったから、自分に出来る事をしたかったんだけど……結局、こうだしね」
「それじゃあ、ハンターになった理由って言うのは……」トルクが得心して頷く。
「……うん。こんな私でも、誰かを幸せに出来るんじゃないかって。……そう思って……」そこで顔を伏す事無く、テスはトルクの顔を正視した。「ちゃんと依頼を達成して、喜んでくれる人がいたんだ。こんな私でも、ちゃんと人を幸せに出来たんだよ。だから……そんな誇り有るハンターって職を……辞めて欲しくなかったんだ……」
 トルクにも事情が有る事は判っていた。そしてそれが、テスにとって羨望に等しい感情を呼び覚ました。ハンターとして皆のために依頼を遂行する事でしか、周りを幸せに出来ないと考えているテスは、ハンターを辞めても皆のために出来る事が有るトルクが、羨ましくてならなかったのだ。
 テスは、仲間を不幸に見舞わせながらでしか依頼人を幸せにする事が出来ない。自分ではなく、他人を犠牲にして、別の他人を救うような自分の性分が嫌で嫌で仕方なかった。けれどもそれしか方法が無かったから――結局、誰も自分に近づかなくなった。当然の成り行きと分かっていても、苦しかった。全てを投げ捨てたかった。でも出来なかった。
 全てを投げ出してハンター稼業まで辞めてしまったら、まるで本当に自分が不幸を体現する人間なのだと確定してしまいそうで、怖かったのだ。
「テスはちゃんと幸せを皆に分けてくれてるだよ」
 キャップを脱いだテスの頭を優しく撫でるトルク。その顔には優しげな笑みが浮かび、諭すように続きを告げる。
「オラァ、今とっても幸せだぁ。――嘘じゃねえぞう? こんなに人の事を想ってくれてるテスが皆を不幸にするなんて、有り得ねえだよ」
「でも――」テスが思わず声を上げそうになったが、トルクは首を否と振った。
「――よっし、だったら証明するだ!」グッと力を込めて立ち上がると、トルクは意気揚々と歩き出した。「これでリオレウスさ狩猟できたら、依頼人は幸せで、オラも最後の狩猟が成功して幸せ、テスはそんなオラを見て幸せ! ほらっ、皆幸せだぁ!」
「ちょっ!?」思わず立ち上がってトルクに追い縋る。「そんな怪我でリオレウスと戦うなんて無茶だよ! トルクの最後の狩猟が失敗に終わるのは嫌だけど――トルクが死んじゃう方が、もっと嫌だよ!!」彼の手を取り、制止を試みるテス。
「オラァ馬鹿だけど判るだ!」テスの手を握り返し、振り返った。「テスが不幸を撒き散らすって言い続ける限り、それは終わらねえだ! オラがここでテスの不幸をぶち壊してやる!! 最後は皆で笑ってる方が良いだ!!」ギュッと手に力を込め、トルクは吼える。「だからお願いだ、テス!! オラに力を貸してくれ!!」
 滅茶苦茶だった。トルクの言っている事が理解できない訳ではない。併し彼はどう考えても無理をしていて、このままでは依頼の失敗どころか彼の命まで喪いかねない。そうなればもうテスは立ち直れない。そんなリスクを犯してまで狩猟を続行するなど間違っている。
 けれど――テスは魅入られてしまった。トルクの無茶苦茶な言い分に幽かな光明を見たような気がして、即座に否と断じる事が出来なかった。自分の勝手な思い込みとトルクの命を天秤に掛けるなんてどれだけ傲然たる所業かは、理解できている。それでも――
「……絶対に無理はしない。それだけは約束して」トルクの手を握り返し、テスは眼光鋭く彼を見据えた。「ちょっとでも危なくなったら、この依頼は破棄する。トルクの命の方が、大事だから」
 些細な機微ですら逃さぬように、トルクを見つめるテス。こんな自分に付き合ってくれると言う、奇特なくらい優しいハンターを喪う訳にはいかない。彼のようなハンターと一緒に狩猟に出掛けられただけでも、自分は多大な幸福を貰っている。それを仇で返すような真似だけは、したくなかった。
 トルクは真剣な表情でテスを見返し、やがて小さく頷いた。「判っただ、無理はしねえ! だったらテスも絶対に無理はしねえって約束してほしいだ!」
 テスは迷わず頷き、了承した。
 ギルドの定めた制限時間はもう半分を切っている。その時になって二人はようやく、本当の狩猟を始められた――

◇◆◇◆◇

「グルルル……」
 エリア3まで戻ってくると、リオレウスは警戒心も露わに周囲を見渡して佇んでいた。己のテリトリーに小賢しい獲物が迷い込んだ事に立腹しているようだ。それも三度も追い縋って攻撃を仕掛けてきたのだから、彼も最早この地に安寧を取り戻すには彼らを殲滅する以外に手は無いと気づいているだろう。
 テスはちらと隣を歩くトルクに視線を転じる。顔色は毒を抜いたためか、悪くは無い。けれど脂汗と思しき雫が浮き上がり、呼気も乱れがちだ。リオレウスの爪の毒が完全に抜けきっていないのか、そのせいで体力が刮げ落とされたのか判然としないが、何れにせよ長時間の狩猟は困難だと知れる。早急にリオレウスを狩猟し、彼には街で確りとした治療を受けて貰わねばなるまい。
 トルクは自分を見つめるテスの視線にまるで気づいた様子も無く、意識は完全にリオレウスに傾注していた。あらゆる所作をも見逃さないと言わんばかりに集中して見つめる姿は、いつもの間の抜けた感じが削げ落ち、まさに熟練のハンターとしての貫禄さえ覗わせるものだった。
「――それじゃさっきと同じで、トルクは自由に動いて。私はそれをカヴァーするから」
 小声で指示を出すテスの声が聞こえているとは思えないほど集中していたが、彼は即座に「判っただ」と反応した。その返答が指示の意味を理解しての事だとテスは信じる事にした。
「じゃ、行こう!」
 テスがポンとトルクの肩を叩いた瞬間、彼は猛然と駆け出していた。瞬間、悟る。彼は既に“熱くなっている”のだと。
 それだけ狩猟に――リオレウスに対して集中している証でも有るため、テスはそれが良い方向に向かう事を信じて走り出す。仮に悪い方向に向かったとしても自分が諌め、フォローしてやれば良い。一人で狩猟をしている訳ではないのだ、仲間に危険が及べば救いの手を差し伸べれば良い。
 やがてリオレウスの意識圏に入ったのだろう、トルクの姿を見咎めた空の王者が振り返り、大きく首を仰け反らせて――「ゴァアアアアアアッッ!!」――咆哮を奏でた。
 ギリギリでバインドボイスの射程圏外だったのだろう、トルクの体は恐怖に縛り付けられる事無く走り続けている。彼の向かう先はリオレウスの向かって左側。まっすぐ頭に向かわず、やはり様子見に徹したままなのだろうか。
 テスもリオレウスが咆哮を奏でている間に距離を詰め、ガンナーの射程へと辿り着くと、走りながらデザートストームを背中から引き抜き、腰溜めに構える。手早くスコープを覗いて狙点を定めると、既に装填してあった通常弾LV2を撃ち放つ。
 銃声と共に飛翔する通常弾LV2は過たずリオレウスの頭へと吸い込まれていく。狩猟開始時はガンガンと音を立てて弾かれていた弾丸だが、今や傷だらけになったリオレウスの顔は弾丸を弾く鱗や甲殻が砕かれ、着実に新たな傷を増やしていく。
「ガァァアアアアアア!!」前触れ無く疾走を始めるリオレウス。
 トルクは斜め前に陣取っていたため難無く躱せたが、テスはリオレウスのほぼ真正面にいた。射撃しながら移動しているため常に真正面にいた訳ではないが、リオレウスは巧みに後ろ足を捌き、軸を合わせてくる。そうなればどの位置に立っていようが、ほんの僅かな時間でリオレウスは真正面に外敵を捉える事が可能になる。
 充分な距離が開いていたため、テスはデザートストームを構えたまま駆け足で移動し、難無くリオレウスの突進で轢死するのを回避した。リオレウスは己の出した高速度を後ろ足だけでいなしきれなくなり、何も無い緑地を全身で磨り潰し、やっと静止する。
 テスが照準をリオレウスに再び固定している間に、トルクがジェイルハンマーを抱え込むように構えたまま駆け抜けて行くのを見届けた。あっと言う間にリオレウスに追いつくと、彼が振り返った瞬間を狙ってジェイルハンマーを振り上げ――頭に、渾身の一撃を叩き込む!
「グォオアアアッ!?」仰け反る程に怯むリオレウス。
 踏鞴を踏んで体勢を立て直すリオレウス。併しその時には既にトルクは立ち位置を変え、リオレウスのどんな攻撃にも対応できる射程外へ移動を終えていた。剣士の間合いとしては若干遠いが、一撃離脱を是とするハンマーなら充分な間合いと言えよう。
 テスはトルクを見直すと共に、やはり今まで様子見に徹していたのは理由が有るからなのだと悟った。恐らくリオレウスの動きを完全に把握するまで手を出せなかったのだろう。ハンマーは剣士の中でもガードの出来ない武器種の一つであり、且つ一撃が重いために、一撃離脱を要求される事が多々有る。ガンナー同様に大型モンスターの攻撃をほぼ全て回避する必要が有るため、剣士の中でも大型モンスターの動向を事細かに注視しなければならない。
 本来ならば熟練のハンターでなくとも、街である程度情報を得て、実践の中で対処法と狩猟法を組み立てねばならない。初見のモンスターで無い限り、ハンターは以前狩猟した時の事を想起し、それらの経験を活かして狩猟を進めていく。トルクもリオレウスと戦った経験こそ有れ、狩猟は成功していないと言っていた。ならばその時の立ち回りと現在の状況を比較し鑑みて――今の一撃が有るのだろう。様子見の時間が長かっただけで、彼なりに確りと狩猟に臨んでいたのが、今明らかになった。
 恐らくは今まで何度も指摘されてきた助言を踏み台に、自分なりに納得しようと思って、ひたすら観察に回っていたのかも知れない。彼は言っていた、どこに攻撃を仕掛けようとも被弾したと。今回はリオレウスの挙動を具に観察し、今やっと安全な場所で攻撃する立ち位置を把握したのだとしたら、相当な進歩である。
 テスは思わず綻んでしまいそうになる口許を引き締め、デザートストームのスコープに視線を転じる。彼が本格的に狩猟を開始した今、彼の足を引っ張る訳にはいかない。己も先刻のような失態を見せまいと、意志を再び固め直して引鉄を絞った。

【後書】
 トルク君みたいなハンターさんって、実際いると思うんですよ。
 何と言いますか、オンラインやマルチプレイでも、戦闘に参加せずにうろうろしてるだけのハンターさんをね、稀に窺うんですけれど、きっとそういうタイプなんだって思ってる訳ですよ…!(キラキラした眼差し)
 仮に違ってるとしてもね、アレですよ、こんな風に優しく見守ってくれる先輩ハンターさんもね、稀にいるって事ですよ…!
 さてさて物語も佳境です。遂に過去が明らかになったテスさんですが、トルク君がもー、ねw 良い子過ぎてね…! 次回は相変わらず普段のわたくしからは考えられないくらい濃密な狩猟シーンです! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    明らかになったテスさんの過去。
    ようやく始まる二人の本当の狩猟…
    お互いを思いやる気持ちがあふれでててたまらんっすvv

    次回の濃密な狩猟シーンに期待!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      >お互いを思いやる気持ちがあふれでててたまらんっすvv
      ほんとこの物語はこの一行に濃縮されてると言っても過言ではありませんからね!w (*´σー`)エヘヘ!w そこをしっかり見届けて頂ける幸せよ!w

      次回もわたくしの作品では珍しい濃密な狩猟シーン! ぜひぜひご期待くだされ~!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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