2018年12月15日土曜日

【バッドガール&フールボーイ】5.Bad luck comes【モンハン二次小説】

■あらすじ
不運を呼び寄せる女が、頭の足りない少年と出会う時、最後の狩猟が始まる――。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書とサブタイトルを追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/77086/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1043940
■第5話

5.Bad luck comes


 戦闘中にリオレウスが飛び去り、それをペイントの実の匂いで追いかけ、再戦を繰り返すのも三度目になった。森丘と言う広大なフィールドを飛び回るリオレウスの敵影を追うだけでも骨が折れるのだが、再開した途端に怒り心頭のリオレウスの全力の攻撃を回避するだけで、攻撃に転じる余裕が殆ど摩滅している現状に、テスは早くも疲弊を感じつつあった。
 三度目の邂逅に至ってもトルクは怯えた態度で狩場を走り回るだけで戦闘に参加する意志を見せない。ただ一度目とは違い、リオレウスの周囲を走り回る際、背中からジェイルハンマーを抜き放って移動している。ハンマーを携えて走ればそれだけ機動力が落ちる。リオレウスの攻撃圏から若干外れているとは言え、回避に対して十全であるとは言い難い。回避に専念するのならば、武器を仕舞うべきだ。
 併し――テスはその事を非難せず、敢えて彼のやりたいようにやらせていた。彼に忠言としてジェイルハンマーを仕舞うよう勧告する事は容易い。だが、彼の性分を鑑みるに、既にトルクの思考は煮え滾っている……テスの忠告を頭から聞き入れるだけの冷静さを持ち合わせているか不安材料が残る。それにテス自身、トルクの不審な挙動を咎めるつもりは無かった。トルクが独自に何かを掴もうとしている最中に冷水を浴びせる必要は無い。彼が得心に至る領域に達するまで、テスは彼を見守りたかった。
 エリア10――背の高い樹木に覆われた薄暗いエリアを、リオレウスの吐き出した灼熱の塊が朱色に照らし出す。燃焼性の有る火球ではないのだろう、火球は勢いを殺さず大木を叩き折ったが、叩き折った樹幹もそうだが周囲の木々に火が燃え移る事は無く、風前の灯火のように音も無く掻き消えた。
 ギルドが設けている制限時間の既に三分の一を消費している。にも拘らずリオレウスは未だ尚健在だった。力強く足踏みをし、怒りを露わに口角から火の泡を噴き出している。ガリガリと後ろ足で緑地を刮げ取り、視線の先にいる忌々しいガンナーに向かって地面を蹴る。
「ゴァァアアアアアッッ!!」雄叫びを上げながらの突進は併し、あまりに明快な軌道だ。
 通常弾LV2を撃ち込んでいたテスの手が止まり、デザートストームを構えたまま駆け出す。向かう先はリオレウスの突進射程外。両翼を大きく広げて、全身を後ろ足で支えて緑地を疾走する巨影は、見る間にテスの視界を一杯に埋め尽くしていく。
 距離が開いていた訳ではない。エリア10は今まで戦っていたエリアに比べると圧倒的に手狭である。ガンナーとしての間合いを維持するのは困難で無いにしても、対象の些細な挙動で大きく位置取りを変えねばならない難点が有る。リオレウスと言う巨体に対し位置取りが悪ければ、突進などの攻撃を回避するための移動距離が足らず、巻き込まれてそのままハンター生活に終止符を打たねばならなくなってしまう。
「はっ、はっ、はっ、」リズム良く吐き出される呼気と共に、肩と胸が揺れる。
 デザートストームを握る手に汗がビッシリと浮かんでいる。銃把が手のひらの放熱で熱くなっていた。程良い緊張感に浸された体は無理の無い動きで稼動してくれる。相手は狩猟経験の有るリオレウスだが、以前狩れたからと言って今回も当然のように狩猟が成功するとは限らない。全力で屠りに掛かっている自然界の王者に対し、ハンターである自分も全力で当たらねば礼に失すると言えよう。
 リオレウスの巨体が押し迫る気配を感じつつも、速度を落とさずに前へ前へと腐葉土の地面を踏み続ける。迫り来る大地を踏み拉く音を鼓膜に認め、ギリギリのタイミングでデザートストームを抱え込むように前へ身を投げ出し、転がる。
 ザァ――――ッ、と巨体が腐葉土と下草を巻き上げて滑り込む音が、背後数十センチ先から響いてくる。追い駆けるようにリオレウスが連れてきた突風が全身に叩きつけられ、テスは一瞬眩むような青臭さと泥臭さに眉根を顰めた。静止する思考はそこで途絶え、再びテスは駆け出してリオレウスから距離を取る。ガンナーの間合いへと戻り、振り返りながら軽くスコープを覗き狙点を定め――引鉄を絞る。
 ばすんばすんっ、と連続で掃き出された通常弾LV2は過つ事無く、起き上がる間際のリオレウスの腹部を捉える。柔らかい部位なのだろう、出血と共に弾丸が腹部に突き刺さっていく。
「ゴァアアッ!!」起き上がって間も無く、リオレウスは喚声を上げながらブレス――火球を吐き出し、背後へ向けて飛び立った。
 両翼を軽くはためかせながら着地を果たすと、リオレウスの顔の前にテスが佇む形になった。――テスの上空を飛び越えて着地したリオレウスを見て、彼女は戸惑いを見せる事無く、黙々と足を運ぶ。とにかく射程圏外へ離脱する事。攻撃など二の次である。
 併しリオレウスは即座にテスを追撃する姿勢を見せなかった。両翼を羽ばたかせ、上空へと飛び立つ。逃げるのだろうか。そう思って視線を上空に向けると、――こちらに意識を向けて後ろ足を向けているリオレウスの姿が視野に入った。
「――しまったッ!?」リオレウスがこれから執る挙動を把捉していたが故に、テスの判断は迅速であり、行動も咄嗟に出ていた。
 デザートストームを背に戻し、リオレウスを視野に納めながら駆け出す。一瞬だけ……一瞬だけ攻撃を掻い潜れば良いのだ。――そう思ってリオレウスの攻撃に合わせて身を投げ出そうとして――地中から飛び出ていた木の根に躓き、体勢が崩れた。
「――――あっ――」思考が、白紙化する。
 タイミングがズレた――そう理性が現状を正しく認知しているにも拘らず、本能はその情報全てを否認する。リオレウスの意識は自分に向いていた。ならばあの攻撃――後ろ足の鉤爪を叩きつけるモーションは、自分に降りかかる。そしてそれは、この好機を逃さずに振り下ろされるだろう。まさに不運の極みだ。
 ――“不運”。その単語が本能によって現出された瞬間、テスの胸裏に諦念の墨がじわりと滲み広がった。
 結局、最後まで自分は不運――不幸な神様に憑かれていたのだろう。その事が無念であり、悔しかった。
 視界には下草に覆われた腐葉土の大地が一杯に広がっている。やけに時間がスローモーションに動いている。これから自分は転倒し、駄目押しにリオレウスの猛毒が滲み出る鉤爪で切り裂かれる。良くて大怪我、最悪――人生の幕を閉じる。
 もう、これで終わりか――そう、全てを断念し、諦めようとして――「テスぅぅぅぅ―――――ッッ!!」――相棒の我を失った声で、意識が再生する。
 どんっ――と右肩から衝撃が走り、倒れるベクトルに別の力が加えられる。転倒には違いなかったが、傾いだ視野に映ったのは――トルクにリオレウスの鉤爪が刺さり、鮮血を撒いている姿だった。
 どさっ、と音を立てて左肩から大地に叩きつけられる。衝撃でデザートストームを取り零したが、痛み自体は予期した程のモノではなかった。寧ろ――視界に映り込む仲間の惨状に、目を覆いたくなる程の衝撃を覚えた。
「――トルクッ!?」喉を焼き、悲痛な絶叫が迸る。
 錐揉み状態のまま腐葉土の大地を転げ回るトルク。ジェイルハンマーはその手に無く、テスの視界には映らなかった。やがて回転する力が無くなると、トルクはグッタリとしたまま動かなくなった。顔は突っ伏しているため覗えない。背中は、赤色を基調としたイーオスメイルの上からでも判る程に出血している。
 最悪の映像が現実として展開する。テスの思考は既に停止寸前にまで陥っていた。
 ――予期していた。こうなるとは思っていなかったが、何かしらの悪辣な事態が起き、これに順ずる状況になるだろうとは、予期できていた。そうなる事を話さず、直隠しに隠し続けた自分に責任が有る。その話を口にする事を憚り、そうならない未来を願い続けた結果が――この最悪の結末だった。
 空転する思考。併し状況は逡巡する彼女を待ってはくれなかった。鉤爪での攻撃で獲物を仕留める事に成功したリオレウスが悠々と着陸する。後はその口腔に覗く鋭い牙で獲物を食い千切るだけでこの狩猟は終わりへ向かう。――ハンターにとって、最悪の終焉へと。
 ――迷っている余裕など、有りはしなかった。突き飛ばされて倒れた姿勢から起き上がり、涙で視野を阻害されながらもトルクの元に駆け寄る。その間自分が何を口にしていたのか、テスは意識を向けられる程の余裕さえ喪失していた。
 辿り着いた先にいたトルクは俯せのまま身動ぎ一つ取らない。イーオスメイルの上から刻まれた毒爪の刻印は生々しく出血を噴き上げ、今尚滔々と防具を赤く濡らし、緑地に血溜まりを築いていく。――死んでいるのか。白熱する思考が理解してはならない現状に手を伸ばし、あらゆる意識を粉砕していく。
「――かッ、ぁ……」ビクンッ、と痙攣を起こし、トルクの体が小さく跳ねた。
 ――生きている。絶望に染まった視野が途端に開け、テスは思わず泣き顔を濃くした。
 今すべき事は、トルクを助け起こす事ではない。テスはトルクの体から視線を引き剥がし、悠然と両足で下草を踏み躙る天空の覇者を正視した。彼は未だ腹の虫を治めた訳ではなく、仕留めた獲物をその口で貪るまで気を静めるつもりは無いようだ。その両眼に烈々たる闘志を滾らせ、体勢を整え次第飛び掛かる意志を見せつけていた。
 ……そう、リオレウスの意識は完全にテスとトルクに釘付けにされている。それならば現状を打破する術はまだ残されている。
 テスはポーチに手を伸ばすと、求めている道具を即座に探り当て、引き抜く。ペイントボールやこやし玉同様の球状の道具を手にしたテスは、その球状の道具から伸びる糸を引き抜き、リオレウスに向けて投擲した。
 投擲された球状の道具は弧を描いて飛翔していく。併し放物線を描いて飛翔するその道具はどう見てもリオレウスには届かない。――その眼前で、道具は威力を発揮するからだ。
 ぱんっ――と道具が弾けて中身をぶち撒ける。中に入っているのはペイントの実でも、モンスターのフンでもなく――“光蟲”と呼ばれる、絶命時に強烈な閃光を放つ虫である。投擲する時に引いた糸が、外殻が砕ける瞬間に中にいる光蟲を死に至らせ、竜ですら眩ませる閃光を放つ。――“閃光玉”と呼ばれる、ペイントボール共々ハンターご用達の道具の一つである。
「ゴァアア!?」呻き声を上げて踏鞴を踏むリオレウス。
 こちらに意識を向けていたリオレウスの眼前で閃光が瞬いたのだ、幾ら飛竜と言えども視力が退化している種族ならともかく、視界が潰されない筈が無かった。目を眩まされ、リオレウスはその場を即座に動き出せず、「グルルァアア……ッ!!」と悔しげに唸り声を上げ、足踏みをしたり尻尾を振り回したりと、ハンターを寄せつけないような挙動を取り始めた。
 本来なら閃光玉でモンスターの足を止め、その隙に攻撃を叩き込むのが定石だろう。けれども中にはこうやってモンスターの視野を奪い、その隙に回復したり撤退したりと言う使い方も有る。
 テスは動けなくなっているトルクの体を背負い、落ちているデザートストーム、そしてジェイルハンマーを引き摺るように脇に抱えると、全速力でその場を離脱した。背にリオレウスの苛立つ唸りを負いながら、脇目も振らずに撤退する。
 その顔には後悔が滲み出、口の中では「ごめんね、ごめんね」と謝罪の言葉が反芻していた。
 背に負ったトルクの意識が回復する兆しは見えず、ただただテスの胸中は暗雲で埋め尽くされていく。

【後書】
 遂に恐れていた事態が起きてしまいました。と言う回なのですけれど、正直な話、モンハンやってたらこういう不運は日常茶飯事と言いますか、些細なミスで三乙とかしょっちゅうなGameですからね、テスさんは言うほど悪くないと思うんですよ!
 その、些細なミスで人命が喪われる訳ですから、言うほど悪くないもへったくれもないんですけどね!w そんな感じで訪れた「転」…ここからどう組み立て直すかが、ハンターの粋ですよね! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    レウスの空中蹴り痛いんだよなぁ~。
    本当はサポートしなければいけない先輩をサポートしてしまったトルク君
    レウスの動きが見えてきたかな?
    ここからの二人の立て直しに期待です!

    テスさん…
    なんか泣けてきちゃうよ。ほんとがんばって!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      あれ地味にダメージしんどいですよね!w
      た、確かに…! トルク君、レウスの動きが見えてきたのかも知れませんねこれ!
      ぜひぜひ! 期待してお読み頂けると嬉しいですぴょん!

      泣けてきちゃう…! ぜひぜひ応援のほど宜しくお願い致します~!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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