2018年12月17日月曜日

【余命一月の勇者様】第43話 伝承、再び〈3〉【オリジナル小説】

■あらすじ
在りし日の彼女の隣に並ぶために。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第43話

第43話 伝承、再び〈3〉


「じゃあ、僕、行ってくるね!」

 黄昏に沈む王都・シュウエンの櫓門の前に、豪奢な馬車が停車していた。
 客車の中に、手を振りながら入っていくクルガを見送ったサボは、客車の前で改めてミコトに向き直った。
「ミコト君。君には恐らく今後も……迷宮に入るまでの間にも、数奇な運命が待ち受けている。僕はそう確信しているんだ」こほん、と咳払いし、真剣な眼差しでミコトを捉えるサボ。「ソウセイの国の姫様の問題も確かに重要だが、それ以上に君の寿命に関する問題は、喫緊の問題と言って差し支えないだろう」
「あぁ、だからドラゴンに願いを叶えて貰えるよう、気分を良くして貰わないとな」思わずと言った様子で苦笑を浮かべるミコト。
「無論、その話で解決するのならそれに越した事は無いのだけどね」おどけた表情で肩を竦めるサボ。「――ミコト君。僕は、冒険者を纏めるギルドの長としてもそうだが、一人の人族として、君を大事な友人と想っている。だから……」一呼吸置いて、ミコトの瞳を真正面から見つめる。「君には、死なれたくないんだ」
 その場に居合わせたマナカとレン、そしてオルナが苦しげな表情を覗かせるも、ミコトは達観した様子で、「有り難う、……と言うのも、不思議な感じがするな」と肩を竦めた。
「僕なりに、ミコト君の寿命を取り戻す術を模索してみようと思う」両手の指を合わせ、小さく微笑を滲ませるサボ。「もしドラゴンに願いを叶えて貰えなくても、別の方法が有るなら試してみる価値は有る。……君とは、まだまだ話したい事がたくさん有るからね」
 柔らかく微笑むと、サボは「それじゃあ、五日後に」と言って客車に乗り込み、馬車がゴトゴトと音を立ててシュウエンを後にして行った。
 櫓門の前は今も人だかりで埋め尽くされている。その中でミコトは静かに頷き、皆を振り返った。
 皆、柔らかく微笑んでいる。サボの言葉が嬉しかったのもそうだが、誰もミコトの死を受け入れようとしていないのだ。
 ミコトは、生きなくてはならない。ずっと共に歩き続けて欲しい人族だからこそ、皆それぞれに為せる事を為していく。皆が幸せになれるように、……ミコトが幸せになれるように。
「よっし、じゃあ王城に戻るか」ん~っと背伸びして脱力するオルナ。「陛下が今夜も晩餐を開きたいんだってさ。来てくれるだろ、ミコト?」
「あぁ、勿論だ」コックリ頷き、オルナの肩を叩くミコト。「それに、俺も少し興味が湧いてきたところだったんだ」
「興味? 何に対して?」不思議そうにミコトの隣に並ぶレン。
「ネイジェや、トワリちゃんの事」王城に向かって歩きながら、ミコトはレンに向き直った。「王様にはどういう風に伝わってるのか、姫様はどんな事を知っているのか、気になってきた」
「俺、ムズカシイ話は分かんねえから、その辺はミコトに任せるぜ!」グッと親指を立てるマナカ。「俺は肉食べる専門だからな!」
「いやいやマナカ君? お前さんはこれからもっと話を聞かなきゃだろ、何れこの国を担う国王になるんだからさ」グイグイと肘でマナカの脇腹を刺すオルナ。「まっ、もしマナカが国王になるってんなら、俺は近衛騎士として支えてやっからよ、あんま心配すんなって」
「俺が王様になるならミコトは第二の王様で頼むぜ!」ミコトの肩を抱いてナハハハ、と大笑するマナカ。「そうじゃなきゃ、俺、王様なんてやんねーからな! ナハハハ!」
「責任重大ね、ミコト?」クスクスと笑うレン。
「いや、レンちゃんもそうなったらやべーっしょ。だって王様の嫁さんなんだから、妃様っしょ?」煙草を銜えながらニヤニヤと笑うオルナ。「作法とか色々勉強しないとやべーぞまじで」
「……そ、そう言われれば、そうね……」一瞬惚けた表情を浮かべるレン。「えええ、それって……えぇ……何か、全然自分の話とは思えない展開に頭が付いて行かないわ……」困惑しきりと言った様子で頭を抱え始めた。
「大丈夫さ、俺とマナカがいるし、それにその時はクルガも一緒だし、オルナも助けてくれるって言ってるんだ、何も心配なんて無いさ」ポン、とレンの頭を撫でたミコトは、マナカに視線を向けた。「マナカ。お前には王様になって欲しい。だから俺も、その時はマナカと一緒だ」
「へへっ、だったら俺、王様になってもいいぜ!」ニカッと快活に笑うマナカ。「ミコトが一緒なら、何も怖くねーからな!」
 二人して笑い合っている様子を、間近で眺めていたレンは、嬉しそうに微笑み、小さく頷いた。
「何て言うか、ミコトとマナカは、二人揃って初めて成立する、って感じよね」そう言いながら二人の間に割って入り、二人の腕と己の腕を絡めるレン。「……あたしも、いつか自然にこの中に入れるようになりたいわ」
「「レンはもう家族だろ?」」ミコトとマナカの声が重なった。
 不思議そうに二人の少年に見下ろされ、レンは嬉しそうに俯くと、「うん、ありがと!」と笑顔を持ち上げた。
 黄昏に沈む王都に、幸せな笑声が木霊する。
 オルナはそれを満足そうに眺めていたが、不意に視線を感じて振り返るも、溢れ返る人族の群れが映るだけで、不審な者は見当たらなかった。
 不思議そうに思いながらもオルナは三人に置いて行かれている事に気づき、慌てて速足で彼らを追い駆けて行く。
 王都の路地裏から見つめる視線の主は、それを見て取って、静かに宵闇の中へと姿を眩ませた。

◇◆◇◆◇

「――ネイジェの話を聞きたい、ですか」
 落陽に至り、王城の中が煌々とした灯りに照らされた頃。
 昨夜同様、ダンスホールを貸し切ってバイキング形式のパーティ会場に変貌させた場所で、ミコトは国王陛下であるマツゴに声を掛けていた。
 彼は昨日より若干体調が思わしくないのか、血の気が薄れた顔で果実酒を口にしていたが、グラスをテーブルに戻すと、ミコトに向き直ってその豊満な白髭を撫で始めた。
「ネイジェ=ドラグレイとは、この世界を創造した神に仕える天使、と言う風に伝え聞いております」マツゴは白髭を撫でながらゆっくりとした語調で続けた。「天使、と言っても、その実情は神と呼ばれても遜色の無い権能を有しているそうですが」
「じゃあ、この世界には、ネイジェよりもまだ上の奴がいるのか」
 ミコトはグラスに注がれた果実を絞った飲み物で舌を湿らせてから、瞑目する。
 ネイジェ=ドラグレイは伝説の人物、伝承に残された人物として、冒険者ギルドの幹部や上層部の間で口伝として語り継がれてきた。
 この世界を管理している者。それがネイジェ=ドラグレイと言う伝承だ。同じように伝承として残っている人物であるトワリちゃん……トワリ=ネカミチも、ネイジェ=ドラグレイのように世界を管理している存在なのだろうか。
「正確な数は定かではありませんが、この世界の創造主である神に仕える天使は、ネイジェ=ドラグレイの他に何人もいる、と聞いた事が有ります」手振りを交えて、ゆっくりと語るマツゴ。「その一人が、先程お伺いした、トワリ=ネカミチです。彼らは不老不死で、何百年も昔から、ずっとこの世界を見守り続けている、我々人族の……いえ、人族だけではありませんね。魔族、亜人族、全ての種族にとっての、守り神なのです」
 マツゴが再びグラスを取って、果実酒を口の中で転がしている姿を見つめながら、ミコトはぼんやりと思索に耽る。
 この世界の守り神とまで言われるネイジェ=ドラグレイやトワリ=ネカミチが、己に力を貸してくれた事は、恐らく……いや、確実に、奇跡と呼んで差し支えない幸運だ。
 併し、彼らにも事情が有ったように思える。ネイジェ=ドラグレイはその限りではないが、トワリには呼雨狼とシマイの住人との間の問題を解決したいと言う意志が見え隠れしているように感じた。
 あのまま放置していたら、ミコト達が呼雨狼の問題を解決しようと動かなかったら、呼雨狼が討伐され、シマイとの交流は断絶……両者の関係は最悪を辿っていた可能性が有る。
 トワリはそうならないためにあの場にいた。そう、ミコトは考える。
 ミコト達に近づいたのは、ミコト達にこの問題を解決に導いてくれる可能性を感じた……確信が有ったからなのではないか、とまで邪推してしまう。
 所詮は推測に過ぎないが、それが一番自然な推論のように思えてくる。
「……伝承に残されている彼らは、ともすればとてもミコト様に近しい存在のようにも感じられますね」
 ぼんやりと思索に耽っていたミコトに、優しい声でマツゴが話しかけてきた。
 意識を向け直すと、彼は白髭を撫でながら、穏和な声調で微笑んでいた。
「困っている獣や人族に、他意無く手を差し伸べる姿を、私は、同じように、ミコト様から感じております」微笑を浮かべたまま、ゆっくりと首肯するオワリの国の王。「己の利する事のために動こうとする者……己のためであれば、他人をも蹴落とそうとする者。今、人族の中には、そういう者が多くおります。斯く言う私自身、そういう想いを懐いた事が有る身です。けれどミコト様は、誰かのために動く事に躊躇が無い方であると、私は感じております。それは……この世界を管理する伝承の者と、何が異なるのでしょうか」
 マツゴは優しく微笑みかけ、それ以上言葉を連ねる事は無かった。
 誰かのために、躊躇無く動ける者。
 それは、確かにミコトが今までやってきた事の一つだ。けれどそれは、ミコトの意志ではなく、ミコトが受け継いだ、母の意志だと、ミコトは痛感していた。
 母がいなければ、この意志の灯火を受け継ぐ事は有り得なかった。
 だから、本当に褒められるべきは、称えられるべきは、語り継がれるべきは、己ではなく、己の母であると、ミコトは息が詰まる想いに襲われた。
 伝承に残るべきは、あの時死んでしまった、母であると。
「……俺は、母さんの意志を受け継いで、ここにいる」
 低い声で、ミコトは口にした。張り裂けそうになる胸を縫い留めるように、右手で胸倉を掴みながら、叫びそうになる喉が震えないよう、懸命に声を殺しながら、ミコトは己の慟哭を、言葉に変えた。
「母さんの口癖その一。“頑張っている人は報われなくちゃいけない”」マツゴを正視して、ミコトは歪みそうになる顔を必死に整え、口を開いた。「母さんが、いつも言ってたんだ。頑張ってる人には、手を貸してやれって。頑張ってる人が報われないのは、とても悲しい事だから、もしお前が応援してやりたいと思う人がいたら、全力で手伝ってやれって」
 あの晩。ネイジェに語り聞かせた話を、再び口にする。
 あの時は何も感じなかったその言葉には、力が宿っているように、ミコトには感じられた。
「母さんの口癖その二。“自分が相手だったらどうする?”」噛み締めるように、言い聞かせるように、ミコトは話を続ける。「俺自身が頑張ってる時に、応援されたり手伝ったりされると、嬉しいからさ。だったら俺も、頑張ってる奴を応援したり、手伝ったり、したい……そう、俺は、母さんから教えられたんだ」
 それは、ずっと己を縛り上げる呪いのようでさえある文言だったが、今は違うと感じる。
 己の目指すべき存在が残した、とても大切な言葉であると、確信を持って言える。
 母が死んだから、母の代わりになろうとしていた。でもきっと、それは己の勘違いだ。
 母の代わりなんて、誰も出来ない。母が生きていたら、なんて想像しても、それは夢見る事しか出来ない幻想に過ぎない。
「俺は、俺の誇りだった母さんのように生きたい。……そう思って、今まで、ここまで、来たんだ」
 やっと分かった気がする。
 母の代わりではなく、母の隣を歩めるような人に、なりたかったのだ、と。
 今の己は、母の隣を歩けるだろうか。在りし日の母は、笑って隣を歩いてくれただろうか。
 零れそうになった涙を乱暴に拭っていると、ポン、と頭を撫でられた。
 顔を上げると、一瞬マツゴの顔が、在りし日の母と面影が重なった。
「ミコト様の母上様も、きっと喜んでおられるでしょう」
 そう言って微笑むマツゴに、ミコトは心がスッと軽くなる想いに駆られた。
 嬉しくて、気持ち良くて、ミコトは口唇が喜悦に緩むのを感じながら、「……ありがとな、王様」とはにかむのだった。
 母が残してくれた大切な言葉は、己の幸せを案じての言葉だった。
 だから、こんなにも素敵な人達と巡り合う事が出来た。
 これからもずっと、母の言葉には救われて行くのだと言う確信が有った。
 彼女は、誇り高き、己の道標なのだから。

【後書】
 ネイジェさんやトワリちゃんの設定は、この物語を綴る以前から有る…と言いますか、【魔王様がんばって!】と同じ世界観ですからね!w この物語、【余命一月の勇者様】にはこれ以上“世界の管理人”さんは出てこないのですが、何れまた他の物語…進行が止まっている【魔王様がんばって!】などで登場させられたらいいな~と思っております(^ω^)
 さてさて、2018年最後の更新がこの話で良かったですw 或る種の完結感の溢れる進行度ですから、ここで更新が終わっても、何と言いますか、綺麗な締め括りですからね!w 勿論来年もモリモリ配信して参りますので、これからのミコト君達の運命も、最後までお楽しみ頂けたら幸いに御座います!
 2019年はもしかしたら、【余命一月の勇者様】完結の年になるかも知れませぬ。物語は終盤に差し掛かっております。残すエピソードも少なくなって参りましたのでね、是非最後までお見逃しなく! それでは今年もお付き合い頂きまして有り難う御座いました! 来年も【余命一月の勇者様】を宜しくお願い致します!(*- -)(*_ _)ペコリ ではでは、次回もぜひぜひお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    もしかしたら新たなる伝承が生まれた瞬間なのかな?
    なんて思ったりしています。
    一度読んで一晩寝かせます。本日もう一度読んでも号泣w
    やっぱすごいぜ勇者様!

    ミコトくんすこし軽くなってきたかな?
    出会った人たちと交流する中で少しづつ少しづつ。
    これからも良い出会いがあることを祈ります。

    なんて言ってたら不穏な人影…きになるぞいw

    今年も泣かせて頂きました!
    来年も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      新たなる伝承が生まれた瞬間…! 何て誌的な表現…!w
      そう思って頂けるだけで、何と言いますか、こう、嬉し過ぎますよね!w
      二度までも素敵な涙を頂いてしまったワシは嬉しさの塊になっておりまする…!
      やっぱすごいぜ勇者様!w(*´σー`)エヘヘ!w

      ミコトくん、村では出逢えなかった人達と交流を深める事で、少しずつ、軽くなっていく…変わっていってるのかも知れませんね。
      もうここから先の出逢いは極端に狭まるのですが、まだまだ素敵な出逢い、待ち受けていると信じて…!

      そうなんですw 不穏な人影…まだまだこの物語には闇も、待っているんですなぁ!w

      今年も素敵な涙をたくさん頂きました!
      来年もぜひぜひお楽しみに~♪ そして宜しくお願い致します!(*- -)(*_ _)ペコリ

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