2018年12月19日水曜日

【滅びの王】61頁■神門練磨の書15『滅びの王の力』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/03/20に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第62話

61頁■神門練磨の書15『滅びの王の力』


 歩き続けて、八宵が言っていた町に辿り着いた。
 荒廃した町に似た、西部劇で見るような、砂風が舞う閑散とした町だった。
 カサカサと綿埃が転がり、町を行く者は皆、他人を見ないように、そそくさと少し早足気味に歩いている。それはまるで……人が人を拒絶しているような錯覚を植え付ける。
「こっちだよ」
 八宵が首の入った袋を握り締めながら、迷いの無い足取りで町の中をズンズン突き進んでいく。
 周りの人間は誰一人としてオレ達に注意を払わない。見て見ぬ振りをするかのように、視線を向けないようにしてその場を立ち去っていく。
 ……何だか、オレには馴染めそうに無い町だった。
 そう広くも無さそうな町を歩いていると、目に付くのが茣蓙を敷いただけの露天商だった。砂避けのためだろう、屋根には布のような物が被せてあるだけで、殆ど意味を成していない。商品のどれもが砂を被って価値を下げているような気がしてならない。
 立ち並ぶ家々は煉瓦造りが多くて、頑強そうな雰囲気は、これまたよそ者を拒絶しているように映った。色は砂に塗れて全部同じように見える。流石に砂風の中、洗濯物を干している家は見かけなかった。気になったのは、家の窓を見ると硝子ではなく木製の板のような物が遮っており、中を窺い知る事は出来なくなっていた。カーテンの代わりなんだろうか?
「邪魔するよ」
 ノックしつつ声を掛け、同時に扉を開けるという三重の行動を一遍にした八宵に続き、オレも家の中に入って行く。どうやら土足のままで良いようだった。
 中も閑散としていた。入ってすぐが応接間らしく、テーブルが一つに、ソファがテーブルを囲うように三つ設けられていた。部屋自体はそう大きい物ではなく、テーブルとソファ、そして奥に事務用らしい机が一つだけで、もう一杯になっていた。部屋の左手の奥に一つ扉が在る事から、他にも住居スペースは在ると悟った。
「ああ、あんたかい。やっぱり、大鬼はあんたの手には余るものだったろう?」
 事務用の机で仕事を熟していた男が顔を上げ、嫌味ったらしく言葉を吐いてきた。ニキビの多い顔は細面で、黒い髪はあちこちに無意味にカールしていて、どこかの音楽家にこんな奴がいたような気がした。黒瞳は目玉だけが顔の比率に合わない大きさで、妙にギョロ眼になっていて不気味だった。
 八宵は男の声を無視して、つかつかと突き進み、事務用の机に袋を叩き下ろした。男はギョッとして袋と八宵の間を何度も視線で往復する。
「討ち取ってきたさ。言ったろ? ウチがやってやるってね」
「……本当にやりやがったのか? ……有り得ない! 王国の猛者共でも引き返してきたと言うのに! どんなイカサマをやったんだ?」
「何て事無かったさ。その猛者共が弱かっただけだろ?」
「嘘を吐け! 何を使った? 〈魔法〉か? 〈附石〉か?」
「うるせえなお前! ンな事どうでも良いだろーが!」
 ビクッと男の顔に怯えが滲み、弾かれたように怒鳴りつけたオレに視線を向けた。
「き、君は誰だね? 子供がこんな所に……」
「そんな事はどうでも良いから、さっさと出すもん出しやがれ」
「何を偉そうに……大体、君は――」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃと、うるせえんだよ!」
「ひぃっ!」
 男はあからさまに怯えている。
 オレはこういう奴が嫌いだった。相手を根っこから認めようとしない奴は、見ていて心底ムカついてくる。八宵がちゃんとやった事を、この馬鹿野郎に何度聞かせても無意味なら、こんな奴とは早々に別れた方が良い。
 こんなムカつく奴は、本当に一発ぶん殴ってやりたくなる。
「……ま、そういう事。じゃ、褒賞金を頂こうか?」
「わ、分かったよ……。全く、最近のガキはこれだから……」
 ブツブツと呪詛を唱えながらも、男は引き出しの中から紙幣を取り出し、それをわざわざ目の前で封筒に入れ始める。その前に紙幣は何度と無く繰り返して確認していた。
「全部で十五万だ」
「あんがとさん。じゃ、また何か遭ったら一報頂戴ね?」
「ふんっ」
 男はまた事務に戻り、オレは八宵と外に出た。
「十五万も貰えるなんて……実はこの仕事、割が良いのか?」
「そんな事無いさ。仕事が無い日の方が多い位だからね。今日は偶々だよ。……でも、やっぱり感謝しとくよ。ありがとな、練磨」
 オレはキョトンとしてしまう。
「へ?」
「あんたの力が有ったからこそ、あの大鬼を倒せたんだ。きっと、あんたがいなけりゃ今頃遺跡の中で、あの骸骨兵と……。だから、あんたには感謝してる。連れてって正解だったよ」
「へへっ、そう言って貰えると、やっぱ嬉しいな、オレも♪」
 ちょっと得意気になって応えると、八宵も笑って応じる。
「じゃ、今日はウチの奢りだ! 好きな物、食べさせてやるよ!」
「ホントかっ!?  ……って、実はこの世界の食に疎いんだよ、オレ」
「そう言えばあんた、《出人》なんだっけ? じゃ、ウチの行きつけの店にでも行こうか?」
「おうっ、頼むぜ!」
 そう言って立ち寄ったのは、『茶屋』としか記されていない、小さな店だった。戸を開けて中に入ると、奥に向かってカウンターが続き、椅子が五つしか用意されていない。椅子は固定されておらず、自由に動かせるみたいで、客は一人もいなかった。
「親仁、いつもの二人前!」
「おっ、お嬢じゃねえか。今日は男引っ掛けて逢引かい?」
「ンなに言ってんだい! こいつはそんなんじゃないよっ。……ま、弟みたいなもんさ」
「照れんな照れんな♪ どうせ誰も構やしねえんだからよ」
「親仁!」
「はっはっは」
 親仁と称されるおっさんは、見た感じヤーさんでもやってそうな強面だった。顔面には切り傷が幾つも走り、左眼には黒い眼帯を付けている。背の丈はオレよりも低そうだったし、格好も見窄らしい感じがしたけど、何故だか侮れない雰囲気を纏っている。まさに「おやじ」って感じの人だった。
「ったく……練磨は気にすんなよ?」
「弟、ね。まあ、八宵は『姉ちゃん』って感じするもんな」
「……真に受けてどうすんだい……」
 やれやれと肩を竦める八宵。
「でも、弟分になら、してやっても良いけど?」
「へっ、それはお断りだな。オレは八宵とは対等の位置に立ちたいからなっ」
「へえ? そんな事言うんだ?」
 半眼になって、やけに胡散臭げに呟く八宵。
 言い返せば逆にオレが不利になりそうな感じがしたから、オレはそれ以上の追及を断念する。……こういう時、女は怖いって実感する。
「ほいよ、『いつもの』二人前」
 親仁が運んで来たのは、……団子と茶だけ。団子は餡子だけのようで、何の細工もされていないシンプルな品だった。茶の方は淹れたてなのか湯気が立ち上っている。団子の数も五本と、そう多くない。
 本当にシンプルイズベストな品だ。
「……八宵、オレがこれだけで満足すると思うか?」
「まっ、そう言わずに食べてみなって」
 八宵がニヤニヤと笑いつつ、自分の分の団子を歯で滑らせて口に納める。
 ……団子は、一つの串に五つ刺さっている。どれも餡子だけのように見える。中に細工でもしてあるのか?
 色んな疑惑を考えながらも、一つ、恐る恐る口に運んでみる。
 もぐもぐ……ん?
 素朴な味だった。何の味付けもされていない、調味料の類さえも感じられない、純然たる餡子だけ。その素朴さが、意外なほど美味い! 思わず、二個目を頬張ってしまう。
「どうだい? ウチの団子の味は?」「美味いかい? 練磨」
 親仁と八宵に同時に訊かれて、オレは顔を輝かせて叫んだ。
「うめーよ、これっ! 何か、自然……って感じだぜ!?」
「どうやら気に入って貰えたようだな。お嬢の連れにも分かって貰えたか、この味が!」
「当然! ウチの眼はまだ曇ってないよっ」
「うめー!」
 あっと言う間に平らげて、――気づいた。
 妙に口の中が甘ったるくて、茶を飲んで――少し苦めの緑茶が、また団子に合うのだ。飲み干した直後の何とも言えない快感を貪ると、妙に腹が落ち着いたような錯覚に陥る。
 これぞ、団子マジック。侮れない。
「でも、やっぱ一皿じゃ腹が減るな。もっと食いてえよ!」
「あいよ、もう出来上がってるぜ!」
 空になった皿の上に、新しい団子が載った皿が載せられ、オレは瞳を光線が出んばかりに輝かせた。
「いただきます!」


「……あんたもムチャクチャたくさん食べるね。親仁の頭、落ちそうだったぞ?」
 結局あの後、二十皿ほど完食して、ストップを掛けたのだ。それにしても……美味かった!
「でも、あれだけ喰っても、千円なんだな」
 驚いた事に、団子一皿の値段は五十円。破格の値段だった。
 八宵は頬を引き攣らせて、
「千円も、だろ!? ……ま、奢るって言ったのはウチだから、文句は言いたくないけどさ」
「え? 千円でも高いのか?」
「……あんたの世界はどうか知らないけどさ、この世界で千円って言えば、安週給の半分はいくよ」
「マジか!?」
 千円、侮り難し…… 
 ともあれ、今日も教会にお世話になる事を決めたオレ達は、砂嵐吹き荒れる荒野を、教会に向かって歩き続けていた。
「思ったんだけどさ……どうして八宵は動物に乗らないんだ? こんな荒野だと、そういう動物がいた方が楽なんじゃないか?」
 雪花や湖太郎を見ていると、こういう場所でも頑張って走ってくれそうな気がするのだ。そうすれば徒歩よりも何倍も早く着けるだろうに。
 なのに、八宵は渋い顔をした。
「もしかして……八宵、動物が……?」
「嫌いな訳じゃないよ? 寧ろああいう奴は心を和ませてくれて、ウチは好きだな」
「じゃあ……?」
「……乗れないんだよ」
「へ?」
 オレは一瞬、八宵が何を言ったのか理解できず、間抜けな顔をして振り返る。
 八宵は砂風を遮るように顔を隠し、ぶっきら棒に続けた。
「ああいう動物に乗ると、どうしても酔うんだよっ。……何か、足が地面に着いてないと落ち着かない性質でさ。乗せてくれるのは嬉しいさ、ウチも。……でも、一度乗ると……」
 その先は続かなかった。
 意外な発言に、オレは終始、眼を点にしたままだった。
 八宵の意外な弱点、はっけーん……なんて。
「……言っとくけど、今の話は……」
「他言無用、だろっ? 分かってるって♪」
「すっっごい不安だけど、……喋ったら、ぶっ殺すからな♪」
 すっっごい笑顔でそんな事を言われた日には、もう怖くて発言権すら剥奪された気になります……。


 日も暮れ、オレは教会で夕飯をご馳走になると、また子供達とはしゃぎ回って食後の運動を熟した。……実は蟹頃の時の傷が癒えてなくて、本気で悲鳴を上げそうになった事は、絶対に内緒だ。
 ――ふと、〈風の便り〉が届いているのに気づいて、そっと開いてみる。
 崇華からだった。
 内容は、『今、どこにいるの? 場所を教えてよぅ』と言った簡潔なモノ。
 オレはどう応えれば良いのか分からず、八宵に訊いてみた。
「ここって、場所的には何て所なんだ?」
「あんたに町の名前教えて分かるのかい? 一応、さっきの町の名前は城峯(しろみね)だけど。ここはそこから東北に当たる場所だね」
「王国って、どっち方面?」
「城峯から更に南に行った所さ。……何だい? もうどっかに行っちまうのかよ?」
「それは……」
 オレは鷹定の問題を解決させたい。その気持ちは未だに変わらない。……でも、それが咲希の言う通り世界を滅ぼしてしまうものだとしたら……オレは鷹定のために世界を滅ぼす事になってしまう。
 口を酸っぱくして言ってるけど、オレは世界を滅ぼしたいとは思わないし、力が有っても行使しようとは思わない。命令されても、したくなかった。だけど、それを望んでいる奴がいる。……鷹定を見放してでも、世界を守りたいか? オレは自分にも嘘を吐けない。人一人救えなくて、世界を守るとか言うのは、偽善に違いないし、何より説得力も信頼性も無い。愚か者の戯言だ。
 だからと言って、そう簡単に世界を滅ぼせるものなのか? 鷹定が望んでいるから、それだけの理由でオレは世界を滅ぼせるか? ……答は否。オレには滅ぼす力は有っても、それを使う意志が無い。序でに言うなら、覚悟も、そして度胸も無い。
 どっちつかずなんだ。世界も、鷹定も、どっちも救えない。優柔不断と言われても、オレは何も言い返せない。言い訳しても見苦しいだけだ。そんな男にはなりたくない。
 この場に鷹定やミャリ、崇華が向かっている事を知って、オレはどんな対応をすれば良いのか、未だに分からなかった。
 ……そりゃ、オレとしては、また鷹定達と旅が出来るんだから、嬉しいに違いない。だけど、その目的……最終地点が世界の終わりだとすれば、否でも悩んでしまう。オレみたいなガキに、世界の命運を握らせるなんて、荷が勝ち過ぎてるんだ。
「……ま、無理には訊かないよ? そんな深刻そうな顔を見る位なら、聞きたくないしね」
 八宵はオレの頭をポンと叩くと、部屋を出て行った。
 戸が小さな音を立てて閉まる。
「……そうだよな。もう、決めなきゃいけないんだ」
 オレが、自分で出来る限りの事を考えて、自分で決断しないといけない。大きな岐路に立たされてるんだ。選択を誤れば、この後オレは、どうしようもない後悔を懐いたり、悔恨で悶え苦しんだりするかも知れない。オレの独断で、世界は左右されるんだ。
 ……だから、オレには大き過ぎるんだよ、問題が。
 ちょっと自分が惨めに思えて、暫く黙考してから、崇華に〈風の便り〉を送った。


 夜も更け、時刻は大体九時を回ろうという頃。
 オレは眠りに就こうとしたのだが……どうしても起きた時の事を考えて、躊躇ってしまう。確かオレは、公園で意識を失うように寝た筈である。つまり……最悪、路上に放置されたまま寝ているか、病院にいるかのどちらかだろう。……また病院で目覚める事を考えると、気が滅入った。
 別に病気じゃないのに病院に行くなんて……嫌な感じだ。
 そんな事を考えていると、自然と瞼が重くなってきて、……いい加減、眠りに就こうと考えた。
 明日にでも鷹定達はやって来るだろう。さっき崇華と〈風の便り〉をしていると、かなり近くまで来たらしい。逢えたら今日にでも来ると言っていたが……時間も時間だ、今日は諦めて明日に回したのだろう。そう結論付けて、オレは現実の世界へと戻るべく、眠る事にした。
 ……色んな問題を抱えながら眠ると、頭の中で渦を巻いているような気分だった…… 

【後書】
 練磨君、青さが際立っておりますねw>依頼主への反応シーン
 わたくしもこういう輩は好きではないのですけれど、練磨君は躊躇が無いと言いますか、青いね!w 何度火傷しても怯まないその姿勢、まさに勇者の器です!(笑)
 さてさて、離れ離れになっていた鷹定君や崇華ちゃんが近くまで来ていると言う所で夢の世界はターン終了なのですが、次回は久方振りに練磨君ではない書です。そんな次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ほんと、躊躇がないというかなんというか…
    前にも書きましたが、自分にまっすぐなんだよね練磨くんw
    ほんと清々しいほど青い!w

    八宵ちゃんの苦手が可愛らしくてちょっと想像つかないw
    すっごい笑顔でおっかないセリフ発言権剥奪は想像つきますw
    ギャップ萌えか?w

    次は誰の書かな?あの方か?いやあの女性か?う~むw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんとそれww自分にまっすぐなんですよね!w
      清々しいほど青い!ww 頷き過ぎて首がもげそうですよ!ww

      ギャップ萌えww確かにあの勇壮さからは想像できないかも知れませぬが、そんな一面が有ると更に可愛らしく映りませぬか…!w
      そしてそのすっっごい笑顔は想像できると言う!ww 八宵ちゃんもキャラが固まってきましたね…!(笑)

      次の書もぜひぜひ楽しみにお待ち頂けたらと思います!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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