■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/01に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。
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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公
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■第63話
62頁■獅倉八宵の書1『真夜中の訪問者』
――教会の表の扉が控えめな音で叩かれた。
時刻は夜半過ぎだ、こんな時間に来訪の予定は無かった筈だ。ウチは槍――雲峰(くもみね)を携え、背中に小太刀――槍居(やりすえ)を差し、警戒に警戒を重ねて教会の扉を開いた。
「誰だい、こんな時間に?」
「夜分申し訳ない。人を尋ねているんだが……ここに、神門練磨なる少年はいないか?」
「――――」
嫌な予感が、背筋を這い上がってきた。
神門練磨とは、紛れも無く昨日訪れたあの少年の事だろう。その少年を追っている……もし、練磨の正体が知られているのだとしたら、扉の向こう側の男は《滅びの王》を探している、と直結してもおかしくないだろう。
何者だろう? 気にはなったが、普通の人物ではないと気づいた。《滅びの王》の存在……練磨の事を知って、それもこんな辺境まで追って来たとなれば、並の人間ではないと感じる。
「……あんた、何者だい?」
「故有って話せない。……練磨に、葛生鷹定がやって来たと言えば、通じると思うが」
「……ちょっと待ってな」
葛生鷹定、という名に聞き覚えは無い。
……いや、咲希と練磨の話を聞いていた時に、耳に挟んだ記憶が有る。確か、鷹定を助けたいとか、鷹定が世界を滅ぼしかねないとか……
考えつつも急いで教会の奥の部屋に入ると、――布団で眠っている練磨を見つけた。完全に熟睡している。
「練磨、ちょっと起きとくれ、練磨!」
「……すぅ」
全く起きる気配が無い。……この肝心な時に!
どうしようかと考え倦ねていると、不意に眼前に小さな人が映った。
「神門練磨に何か用?」
「あんたは……確か、咲希とか言ったね」
「そうだけど……何か遭ったの?」
「葛生鷹定って奴が来てる」
「……そう。嗅ぎ付けるのが早過ぎるわね……練磨のバカ、どっかで漏らしたわね……」
ブツブツと独り言を吐き始める咲希には悪いけど、ウチも気が気ではない。
「あいつは……何者なんだ?」
「……何故かは知らないけれど、神門練磨が救いたがってる人間よ」
「救う……? 《滅びの王》の力で、人が救えるのか?」
咲希はフヨフヨと宙を舞うと、足と手を組んで、ゆったりと浮遊する。
「力の使いようによっては、人を救えるだろうし、名の通り世界を滅ぼせるでしょうね。……言ったでしょ? 神門練磨の力は、『全ての術式を理解している』事だって。こいつなりに言うならば、〈魔法〉を全て使えるんだから、使いようは多種多様、千差万別でしょ? 言い方は乱暴だけど、それさえあれば何だって出来るわ」
……全ての術式を理解している。
そんな事が有るとは、思えない。ウチが生まれる前に遭った大戦争の時も〈魔法〉が多く使用されたらしいけど、その時でさえも全ての〈魔法〉を掌握する人物などいなかった筈である。それだけ術式を理解するのは難しいんだ。簡単な下級〈魔法〉……〈風の便り〉などはすぐに頭に馴染むが、それだって個人差が有るし、それ以上の中級〈魔法〉……〈談話室〉などは術式を頭に組み込む事だけでも難しく、一般には出回っていない。
その何れもが《魔法使い》……〈魔法〉の素質が有る人間しか使えないと言うのも、難点である。
そんな《魔法使い》でさえも、〈魔法〉の全てを掌握する事は出来ない筈だ。自ら〈魔法〉を創り出す事自体、《魔法使い》の中でも何十億に一人と言う割合だし、術式を理解するのも、やはり限界が有る。頭の許容量の問題ではなく、それだけの数の術式を見つけられないのだ。
稀代の《魔法使い》が持っていた術式は、確か四十。……術式の数は未だにどれだけ有るのか定かではないのだが、今現在、その数は百を軽く超えていると言う説も唱えられている。
そう考えると、練磨は或る意味、地上最強の《魔法使い》と言える。
「……でも、そいつを救うってのは、世界を滅ぼす事に繋がるんだろう?」
なまじ咲希の話を聞いていたから、こういう事を言える。
咲希は応えず、ウチを見て浮いているだけだった。
「そんな奴を受け入れる訳にはいかないね。……例え練磨が救いたがっていても、それが世界の滅びに直結するってんなら、話は別だよ」
もし練磨がそれでもあの男に付いて行くと言うなら――。
ウチは咲希を見据え、
「……頼みたい事が有る」
「何?」
「立会人になってくれないか? ……ウチと、葛生鷹定とか言う奴の」
「……」
ウチの腕にも劣るような奴に、世界の行く末を委ねるつもりは更々無い。……そんな奴は、ここで斬って伏せる! これ以上、練磨の気を煩わせたくない。……練磨がどんな道を歩むのか、ウチには分からないけれど、世界を滅ぼす道を採るのなら、ウチは……。
「……良いわ。あたしがいた方が、話も通じるだろうし」
「助かる」
ウチはそれだけ返すと、すぐに玄関に戻った。扉を壊してでも入って来るかと思ったけど、そこまで無作法ではないらしい。
「練磨は何と?」
「あんた、ウチと一戦立ち会いな。……ウチを認めさせたら、練磨に逢わせてやる」
相手は一瞬沈黙したが、すぐに返答が戻ってきた。
「……分かった」
相手が扉の前から退く気配。ウチはそれが罠でない事を咲希に見て貰い、外に出る。
月夜の下に立つ男は、ウチよりも頭一つ分大きく、妙に落ち着いた雰囲気を纏っていた。背後には長刀を携えた少年と、眠っているのか走平虎に寝そべった少女と、最後に銀色の野渡狼が伏せていた。
……こりゃまた、えらい大所帯で来たもんだ。
この人数で相手となれば、流石のウチでも梃子摺るだろう。……敵わない、とは思いたくない。
「おーぅい、何する気だヤサイ?」
「……ここで見極めるらしい」
葛生鷹定が充分に距離を取ってから、腰に佩いていた刀を抜く。――鞘に入れたまま。
「俺が、――練磨に相応しいかどうか、を」
「……」
気配だけで、実力が知れた。
ビリビリと空気が振動しているのが分かる……! あいつ、気力だけでも相当の強さだ。ただ、いるだけの重圧で、ウチは早くも気圧されそうだった。
「……どうすれば、君は俺を認めてくれる?」
「……それは、自分で考えなっ!」
問答無用で接近し、男――葛生鷹定に、槍術〈千突(ちづき)〉を放つ!
〈千突〉――槍術の基本である『突き』を限り無く速く、そして防御する暇さえ与えずに何度も繰り返す突きの技で、一度ウチの間合いに入れば、そう簡単に脱出は出来ない。それどころか、急所を狙っている全ての突撃を受け止めるだけでも、体力は根刮ぎ奪われていく。受ける事も避ける事も出来なくなった瞬間、勝負は決する。
この技を喰らった者は、繰り出される矛のあまりの突撃の速さに、まるで千本モノ槍が突き出されたような錯覚に陥り、実力の伴わない相手なら、それだけで死に至る技である。
――だが、葛生鷹定はそれを全て、鞘に納まったままの刀で受け止めた!
きっ、ぎぃ、と刃物が擦れ合う閃きが走り、切っ先が月夜に照らされて青白く仄めく。
速い――自らの突きは自負できる位に速いのに、それを更に上回る速度で、男は全ての切っ先を鞘で受け止めていく。尋常じゃない速度に、ウチは驚嘆していた。
そして――、
「ぐッ―――!」
がぎぃぃんッ、と火花が散る程に凄まじい速さで、鷹定の刀が槍をすり抜けて、ウチの体に肉薄した。
――が、ウチはそれを受け止めていた。〈千突〉の隙間を抜かれる直前、小太刀の槍居を抜いて、防御を始めていたのだ! それが間に合わなかったら、今頃ウチは……
「……俺の〈抜刃(ばっぱ)〉を受け止めるとは」
槍居に走る衝撃を殺しつつ、また距離を取って男を見やる。……息一つ乱れず、あくまで平常心のまま、ウチを見て鞘に納まったままの刀を構え直す。
「……あんた、一体……?」
大鬼に負けたウチが言っても説得力は無いけれど、男の強さは尋常じゃなかった。あれだけの防御を呼気一つ乱さずに受け止めきるなど、人間業じゃない。……自分の力を過大評価し過ぎたかも知れない。けれど、あの技を完全に受け止められたのは、初めてだった。
現に、あいつには全く外傷が無い。……手応えも感じなかった。
……強い。心の内で、正直に思った。ウチじゃ、敵わないかも知れない。
だけど、ウチだってここで退く訳にはいかないんだ!
「……あんたにゃ悪いけど、本気でいかせてもらうよ?」
「出来れば、これ以上は戦いたくないんだが」
「吐かせ! 勝負はこれからだよ――ッ!」
男に先手を取るべく、今度はさっきよりも速い〈千突〉を放つ! そして、今度は槍居を使って、その首を――取る!
男は刀を鞘ごと構え、ウチに対向する。
「ならば――俺も本気を出さねばな」
――瞬間、鷹定の姿を見失った。
次の瞬間には、腹に強烈な衝撃が走って、前に走っていた筈なのに視界がどんどん後ろに流れていき、――教会の離れである小屋にぶつかって、大きな衝撃が音を伴って月夜に響いた。
「か……ぁ……?」
腹に衝撃が走った後、鈍痛が全身に響き、動けなくなった。立ち上がれない……きっと、大鬼と戦った時に受けた傷に響いたのだろう、鈍痛に混じって激痛が走る。
見えなかった。分かったのは、鷹定がさっきウチが立っていた場所に立っている事だけ。刀は、既に腰に納まっていた。
「ヤサイすげ~な~。流石は、《蒼刃》って呼ばれるだけの事は有るよな~」
少年が気怠げに呟いたのが、ここまで聞こえてきた。
《蒼刃》……? どこかで聞いたような気がするが、どこで聞いたか思い出せない。
葛生鷹定はウチを見下ろして、――手を差し伸べてきた。
「大丈夫か?」
「―――ッ」
瞬間、頭の中が沸騰しそうになった。
屈辱だ!
ウチはその手を払い除け、軋む体を押して立ち上がった。
「敵に情けを掛けられる覚えは無いよ。……っ」
「っと」
蹌踉いて倒れ掛けたウチの肩を両手で支え、防いでくれた。
それも、屈辱だった。
ウチはその手すら払い除けて、苛立たしげに毒づく。
「……逢わせてやるよ。付いて来な」
【後書】
と言う訳で初めての八宵ちゃんの回でしたが、今回はアレですね、技の名前がちらほら出てきましたね!
この物語を綴っていた当時はアレです、テイルズオブシリーズにハマっておりましてね。ついつい剣術やら槍術に技名を入れて、カッコよく決めたい奴だったのです。この話から先でもちらほら出てきますので、技名に(・∀・)ニヤニヤしながら読み進めて頂きたいと思います!w
さてさて、次回も引き続き八宵ちゃんの回ですが、果たして鷹定君は練磨君と再会できるのか…! 今回で2018年の分の再掲が終わりまして、次回から2019年の更新になります! このペースだと来年一杯更新できそうですが、はてさてw そんなこったで本年もご愛読有り難う御座いました! 来年もぜひぜひご贔屓にして頂けると幸いです! ではでは~!
更新お疲れ様ですvv
返信削除八宵ちゃんの書でしたーv
見事に予想は外れてしまいましたが、
二人の剣術、槍術のぶつかり合いがチョーカッケーvv
鷹定くんはもちろんですが、八宵ちゃんもかなりのものですよね。
お師匠様がいるのか?それとも生き延びるために身についたのか?
ちょっと気になるなぁw
屈辱で頭の中沸騰しそうでも動物にはのrおっと誰かきたようだ
今年も楽しませて頂きましたー
来年も楽しみにしてますよーvv
感想有り難う御座います~!
削除八宵ちゃんの書でした~!┗(^ω^)┛
チョーカッケーvv頂きました~!w (*´σー`)エヘヘ!w
そうなんですよ! 鷹定君の強さも然る事ながら、八宵ちゃんの強さも感じて頂けたのなら嬉しいです…!
お師匠様とかこの辺のアレは、残念ながらこの物語上では明かされないのですが、設定上では…もにょもにょ…と言う…!w
いつか続編を綴る機会に恵まれたら、この辺も明かしたいですのう!w
八宵ちゃんが凄まじい剣幕で向かってますよ逃げてぇーっ!ww
今年もお世話になりました!
来年もぜひぜひお楽しみに~♪