2018年12月29日土曜日

【バッドガール&フールボーイ】7.End of bad luck and fool【モンハン二次小説】

■あらすじ
不運を呼び寄せる女が、頭の足りない少年と出会う時、最後の狩猟が始まる――。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書とサブタイトルを追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/77086/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1043940
■第7話

7.End of bad luck and fool


「っしょぉおぁあ!!」
 聞いた事の無い裂帛の気合と共に、ジェイルハンマーが再びリオレウスの頭部を捉える。重たい破砕音と共にリオレウスの頭が僅かに変形し、「グォオオオオッ!?」と呻いて大きく仰け反る。
 これで七度目になるリオレウスとの交戦で、流石のリオレウスも疲労感が見え隠れし始めた。両眼に宿る力強い生命の意志は薄弱になり、逞しい後ろ足が若干上がるのが億劫になっているように見える。
 もう少し。テスはデザートストームに新たな通常弾LV2を装填しながら疲弊の籠もった吐息を漏らす。もう少しで、この狩猟は終わりを迎える。自信を持って言える訳ではない。そうあって欲しいと願っているだけかも知れない。それでも――半日以上森丘を駆け回り、トルクが傷を押して頑張っている姿を見て、どうあっても成功で締め括りたいと思わずにいられなかった。
 自分一人だけで狩猟をしているのならば、自分の判断だけで狩猟をリタイアした所で、依頼主が別のハンターに依頼を回すだけのこと。実質的には契約金が返ってこないだけで、殆ど損失は無いに等しい。けれど今回の狩猟にはトルクがいる。彼の最後の狩猟になるかも知れない今回だけは、頑として成功を納めたかった。
 エリア4――何度訪れたか判らない森丘の中腹に座する見晴らしの良い台地で、リオレウスは遂に――足を引き摺って、逃げるように歩き出した。その姿を視認した瞬間、ドッと勝利に対する貪欲な意志が鎌首を擡げた。もう少しで終わる――それは焦燥にも似た感情で、テスの思考を加速させる。
 トルクの立ち回りはほぼ完璧と言って差し支えないレヴェルだった。攻撃の頻度は低いながらも、一撃一撃が重く、そして反撃を喰らわない範囲で確実に当てていくその姿勢は評価できるものだった。それは狩猟が長引けば長引く程に洗練を増し、もう制限時間まで幾許も無い頃に至った今、彼の動きは熟練のハンターを思わせる程に、危なげな場面が皆無だった。
 上空へ逃げて行く空の王者を見上げると、トルクはジェイルハンマーを地面に下ろし、それを杖にして呼吸を整える。先程見た時よりもだいぶ顔色が悪くなっている。やはりリオレウスの鉤爪から分泌される毒が抜けきっていないのだろう。あれから一度も被弾していないにも拘らず、顔色は悪くなる一方だった。そして今、ジェイルハンマーを杖代わりにしなければ立てない程に衰弱している。
 リタイアすべきか――否、リタイアせずとも、ギルドが新しく定めた一定ダメージは疾うに過ぎている。サブターゲットの達成で狩猟を終える事も今なら可能だ。それなら大成功とは言えずとも、失敗で終わる訳ではないのだ。まだ妥協できる――と言う思考は、今のトルクを見れば忌避すべき選択だと分かる。
 トルクは今、全力で、貪欲なまでに、――命を賭してまで、リオレウスの狩猟を敢行している。純粋な命のぶつかり合いに、テスでさえ意識を奪われそうになる。止めなければトルクの命が剥奪されるかも知れない――けれど、彼は無声で意志をぶつけてくるのだ。止めるな――、と。
 被弾せずとも走り回って銃撃しているだけで体力は磨耗していく。テスは呼気を整えながらトルクに歩み寄った。彼はテスの接近にすら気づかない様相で喘ぎ、その細い眼は遥か彼方へ飛び立って行った王者に今尚注がれている。どれ程までの集中力で為せる業なのか判らないが、彼は晩熟型のハンターなのだろうとテスは察した。狩猟が終わりに近づけば近づく程に集中力が高まり、失態も摩滅していく。狩猟開始の際にあまりに愚挙が多過ぎるため、他のハンターはそこで見切りを付け、彼にそれ以上狩猟に係わらせようとしなかったに違いない。今の彼を見れば驚くのは間違いなかろう。
「……リオレウスは巣穴に戻ったみたいだね」肩で息をしているトルクに声を掛けるテス。「最後まで気を抜かずに頑張ろう!」
「――はぁッ、――はぁッ、」呼気が中々落ち着かずに喘ぎ続けるトルク。「――んだぁッ、――頑張るッ、――だぁッ、」
 息も切れ切れに応じるトルクの肩を軽く叩き、テスは駆け出した。今は彼の意志を尊重したい。何が何でも狩猟を成功させたい。その意志だけで、テスは前を向き、シルトン丘陵の頂上――竜の眠る洞窟へと歩を進めた。

◇◆◇◆◇

 緩やかな傾斜を上りきり辿り着いた洞穴からは、腐敗した死骸のような生臭い臭気が漂ってきている。森丘を棲み処とする大型モンスター……取り分け飛竜種は大概この頂上に位置する洞窟を寝床とする。リオレウスもご多聞に漏れず、無数の獣の骨とフンが散らばっている直中で、両翼で体を保護するように丸め、休眠を取っていた。
 中にはリオレウスの取り零しを狙っているランポスが群れを成し、飛び回っていた。リオレウスの狩猟に際して邪魔になるのは言うまでも無かった。洞窟の入り口でテスはデザートストームを抜き構え、悽愴たる様相のトルクに小声を差し向ける。
「ランポスの掃討は任せて。トルクはリオレウスをお願い」
 酷な判断かも知れないと思ったが、随所に散らばっている小型モンスターを退治するにはガンナーのボウガンが最適だ。無理をしないようにと願いつつ、テスは洞穴の中へ足を踏み入れて行く。
「ぜぃ――、ぜぃ――、わッ、判っただッ!」若干遅れて反応したトルクもテス同様、洞穴へと足を踏み入れ、リオレウスに向かって一直線に駆け抜けて行く。迷い無き歩みでリオレウスの眼前へと辿り着いたトルクは、抱えるように構えていたジェイルハンマーを思いっきり振り上げ――「せぇええいいやああッッ!!」――渾身の一撃をリオレウスの頭に叩き込む。
「グギャァアアアアッッ!?」悲鳴を上げ、リオレウスの体勢が休眠から一転、崩れるように転び倒れた。
 若干距離が離れていたがテスには見えた。リオレウスの両眼の焦点が合っていない。――眩暈を起こしているのだ、と。両翼をばたつかせ、もがいているがすぐに立ち上がる気配は無い。トルクが何度も執拗なまでに頭を叩き続けた結果、脳震盪を引き起こし、それがリオレウスの平衡感覚を喪失するに至らせ、眩暈と言う状況を作り出したのだ。
 リオレウスが戦線に復帰するまでの間、トルクは駄目押しとばかりに頭にジェイルハンマーを叩きつけ、更なるダメージを負わせていく。テスはその隙にデザートストームに込められた通常弾LV2でランポスを掃討していく。
「ゴァァ……グァアアアアア!!」
 ゆっくりとした所作で立ち上がり、頭を振って覚醒するリオレウスは明らかに先刻と比べて動きが鈍かった。確実にダメージは蓄積されている。もう少し――あと少し――テスは無数にいたランポスの最後の一匹を通常弾LV2で仕留めると、リオレウスに向き直り――「ギャオアアアオオオオオッッ!!」――原初の恐怖で、足を縫いとめられた。
 バインドボイスの効果圏内に入っていた――ッ!? 耳を塞ぎ、立ち竦んでリオレウスを見つめる思考に、暗雲が立ち込める。視野に映っているのは、テス同様、耳を塞いで立ち往生しているトルクの姿だ。彼はリオレウスの真正面に陣取っている。――否、リオレウスが咆哮を奏でながら軸合わせをし、咆哮が終わると同時にトルクに焦点を合わせたのだ。
 リオレウスとトルクの視線が噛み合う。突進がくれば――トルクの今の状態を鑑みずとも、生命に係わるだろう。助けねば――何としてでも、彼は生き延びなくてはならない。狩猟の過酷さだけでなく、面白さも知って、それからハンターを辞めるか否かの判断をして貰わねばならないのだ――ッ!!
 咆哮が、止む。塞いでいた耳から手を下ろし、デザートストームに手を伸ばすまでの僅かな時間、テスは思考を極限まで加速させた。どうすれば彼を窮地から脱せられるか。その事だけをひたすら思索し――テスは、手よりまず足を動かした。
 リオレウスが、駆け出す。逞しい後ろ足に支えられた巨大な筋肉の塊が、瞬く間にトルクとの距離を殺していく。到達までの時間など、数える間も無いくらいだ。トルクもリオレウスの突進に気づいている。ガードが出来ないハンマーを携えた彼は回避する以外に攻撃を捌く手立ては無い。
 どう足掻いても間に合わないその瞬間、テスはデザートストームを――“投げた”。
 不運ならば――“不運しかない”と、咆哮が止んだ時点で諦めている。ただテスは、依頼を達成する事で依頼主だけは幸せに出来ると信じていた。――でも、トルクは否と唱えた。テスは皆にも幸せを分けていると。トルクは今、幸せだと。
 だったら――ここで諦めるのはやっぱり無しだ。テスはデザートストームが描く軌跡を見ながら、強く願い、信じた。自分には幸福を与える機関が存在して、――今ここで発揮できる筈だと。
「いっけぇぇぇぇええええ――――――――――ッッ!!」
 デザートストームはテスの意志を受け継ぎ滑空し――トルクもその意志を刹那に見極めた。普段の鈍感な彼では有り得ない程の反射神経、動体視力、そして判断力。全てが制限時間が末期に迫った今だからこそ最大限に発揮される。
 極限まで濃縮された時間の中、トルクもまた、テスが無声で伝えた策を完遂すべく、ジェイルハンマーを振り被っていた。
 軌跡と言う線と、狙点と言う点が重なった瞬間、それは――紛う事無く奇跡と相成る。
「ずうううりゃあああああッッ!!」
 トルクが振り被ったジェイルハンマーの狙点は、リオレウスの頭。テスが投擲したデザートストームの軌跡が辿り着く場所も、リオレウスの頭。二人が散々攻撃し、ボコボコにした箇所もまた――リオレウスの頭。
 あらゆる要素が組み重なり――トルクがジェイルハンマーを振り抜いた瞬間、デザートストームが狙点に到達し、――激しい暴発音を奏でてデザートストームが破砕、リオレウスの頭で装填されていた弾丸が弾け、――ハンターが起こした三重の攻撃が、リオレウスの突進を制止させた。
「グォ……」頭が爆発したような衝撃を受けて仰け反るリオレウス。その瞳には、既に生命の灯火は点っていなかった。
 ずずん……と地鳴りを立てて崩れ落ちる巨体。若干動き出す気配を見せたものの、緩やかに肉体が弛緩していくと、それ以上動き出す事は無かった。両眼の瞳孔は拡大し、焦点を結ぶ事は永遠に訪れなくなった。
 事切れた巨大な生物を見つめるトルクの瞳に、大きな感情のうねりが発露した。力を蓄えるようにしゃがみ込むと、余力を爆発させるように飛び跳ねた。
「やっ、やっただーっ!! 初めてッ、初めてリオレウスを狩猟できただーっ!!」
 轟々と勝利の雄叫びを上げるトルクだったが、意識が保ったのはそこまでで、リオレウス同様、脱力するようにその場に崩れ落ち、動かなくなった。
「――トルクっ!?」
 脱力して崩れ落ちそうになっていたテスは、両足を奮い立たせて駆け寄った。まさかこのタイミングで毒が回り、命が――ッ!? と思って抱き起こすと、安らかな寝顔を拝顔する事が出来た。あまりの疲労感に、子供のように意識のブレーカーが落ち、眠り込んでしまったようだ。
 その無邪気な子供のような寝顔を晒すトルクを見て、テスは安堵の吐息を漏らした。
「良かった……本当に、良かった……」
 嬉しさのあまり、瞳から感動の粒が零れ落ちた。雫はトルクの顔を濡らしていく。泣き顔を見られなくて良かったとも、テスは思った。
 不運だけを纏っているなら、こんな嬉しさを感じる事は無い。テスはトルクの体を抱きながらそう強く感じた。自分でも、仲間に幸せを与える事が出来る――そう気づいた時には、胸に蟠っていた大きなしこりが取れて、晴れ晴れとした笑みが覗いていた。

【後書】
 モンハンのSSを綴る際に毎回考えていると言いますか、何かしら「原作Gameに無いアクション」を入れたいな~と思っておりまして。今回の話の「ライトボウガンを投げつける」と言う辺りが、今作でのテーマの一つみたいになっておりますね!
 生きた人間が奇跡を信じてアクションを起こす、と言う、Gameとは異なるベクトルの「熱さ」を表現したかった奴ですね! Gameでも奇跡を信じてPlayする側面も有りますから、一概にGameだからうんたん、物語だからうんたん、と言うのは有りませんけれども!w
 さてさて、次回でいよいよ最終回! 年内に完結させたかった感は有りましたが、ちょこっと配信時期を見誤りましたね!w 新年始まって即完結になりますが! 来年も宜しくお願い致します!(*- -)(*_ _)ペコリ ではでは次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    GJ!素晴らしいコンビネーションでした。
    言葉は交わさなくとも、お互いがなすべきことをきちんと理解していてこそのシーンだったと思われます。泣ける。・゚・(ノД`)・゚・。

    それにしても熱い狩猟シーンでした!堪能しましたぞ!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      いえい! GJ&素晴らしいコンビネーション頂きました!┗(^ω^)┛
      それです!! 一度きりの狩猟にも拘らず、互いに真剣に狩猟に向き合ったからこそのシーンなので、この感想は嬉し過ぎましたね…! 有り難う…!

      (*´σー`)エヘヘ! 堪能して頂けてめちゃんこ嬉しいです!! 重ねて有り難う御座います!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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