2019年1月1日火曜日

【ベルの狩猟日記】073.帰郷【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
■第73話

073.帰郷


 ワイゼン屋敷――客室。
 テーブルを囲むようにソファが設置されている部屋には今、香ばしいハーブティーの匂いが漂っている。採光窓から射し込む陽光が、シックな色合いで統一された部屋全体を明るく照らし出している。
「――どこかで聞いた事が有る名前じゃと思っとったら、フェイローの小悴じゃったか。道理でふてぶてしい訳じゃわい」
 ふかふかのソファに腰を沈め、ハーブティーを啜りながら呟く白髪の老爺。
「そんなに褒めても元気ドリンコしか出ないぜ?」ポーチからオレンジ色の液体が入ったビンを取り出すフォアン。
「褒めとらんわアホタレ! 全く……で、そっちの〈アイルーフェイク〉の嬢ちゃんは何者じゃ?」
 老爺が水を向けると、ザレアは胸の前で拳を握り締め、意気揚々と応じる。
「オイラは〈アイルー仮面〉――ザレアにゃ! ワイゼン翁に逢えて嬉しいのにゃ!」
「そうかそうか♪」表情筋を緩める老爺――ワイゼン。「どれ、ちょっと猟人としての実力を見るために身体チェックを……」
「そこのエロジジイ。今すぐ脳天搗ち割られるのと、後で五体バラバラにされるのと、どっちが良い?」
 満面の笑みで手の指の骨をペキポキ鳴らすベル。背後には禍々しき悪鬼の姿が見え隠れしている。
「じょ、冗談じゃよ冗談! てかどっちにしろワシ死ぬんじゃないそれ!?」
「んもう、旦那様ったら冗談言い過ぎだよ~♪ それ以上何か巫山戯た事を吐かしたら、お姉さんがベルちゃんの代わりに脳天搗ち割って五体バラバラにしてるトコだよ~♪」
「ロザ!? 笑顔で鉈持って言われると、本気で命の危機を感じちゃうのじゃけれど!?」
「それはともかくとして――師匠。あんた、実は有名人だったの!?」
 ベルの質問に、ワイゼンは「ふむ?」と髭を撫でながら片眉を持ち上げる。
「まぁ、有名人っちゃー有名人じゃのう。ギルドから【猟賢】の渾名を貰っとるし。……おろ? ベルちゃんには話しておらなんだか?」
「今初めて聞いたよ!! てか有り得ない!! 師匠はただの変態助平で腐れゴミクズの猟人の風上にも置けない気狂いじゃなかったの!?」
「今までワシをそんな目で見てたの!? まぁ、当たらずと雖も遠からずじゃが」白髭を摩りながらワイゼン。
「おやっさん……そこは否定しないとダメじゃろ……」思わずギースがツッコミを入れる。「それにしてもお嬢。何年もおやっさんの元で修行しとったじゃきん、よく気づかんかったのう? てっきりワシは知っててここに転がり込んできたものじゃと思とったんじゃが」
 ギースがワイゼンのように顎を摩りながら呟くと、ベルは苦笑を滲ませる。
「いや、あたしはただ、金を稼ぐにはやっぱり、金持ちの話を聞いた方が良いかなー、って思って、この豪邸を選んだだけよ。……それで、何の因果か猟人になっちゃったのよね~」
「何の因果も何も、ヌシが選択したんじゃろうが。金を稼ぐなら、ワシの元でメイドしとった方がよっぽど稼げると言っても聞かなかったくせして、よく言うわい」
「師匠の元で働くなんて、考えただけで虫唾が走るわよ」
「うわぁぁぁんっ、ベルちゃんがいたいけなお爺さんを虐待するーっ」
 ロザの胸に飛び込んで泣きじゃくり始めるワイゼン。ロザは「よしよし、お姉さんが慰めると思ったら大間違いだぞ☆」と拳骨をワイゼンのこめかみに添えてグリグリ回し始める。ワイゼンは「いだだだだいッ」と喚きながらもロザの胸に顔を押しつける行為を止めない。
「何て言うかな。ワイゼン翁のイメージが丸ごと粉砕された気分だぜ」
 腕を組んで難しい表情のまま呟きを漏らすフォアン。
「う~ん、でもきっと、狩猟をしたら凄い人にゃ!」とフォアンの感想は否定しなかったが、フォローを入れる事を忘れないザレア。
「まぁ確かに? 師匠の狩猟の腕前は人並み以上だとあたしも自信を持って言えるけど、……どう? この有様。どこをどう見ても、渾名持ちとは思えないでしょ? 寧ろさっさとくたばって遺産を丸ごと寄越せって感じよね?」
「お嬢!? そりゃ幾ら何でも言い過ぎじゃけえのぉ!?」
 ベルが黒い笑みを浮かべて呟いた台詞を聞き逃さず、ギースが思わずツッコミを入れる。
「――所でベルや。遂に猟人稼業を辞め、ワシに尽くす気になったんじゃろ?」
「巫山戯るのは存在だけにしてね♪ エロジジイ」
「巫山戯た存在って何!?」思わずツッコミを入れるワイゼン。
「知り合いの付き添いで来ただけよ。用が終わったらすぐに帰るわ」
 素っ気無く応じるベルに、ワイゼン屋敷の者は皆、一様に顔を暗くする。
「くぅ……お嬢、冷たいんじゃなぁ……昔は“お兄ちゃん、お兄ちゃん”って慕ってくれちょったのに……」
「お姉さんは“お姉様”だったな~。小さい頃のベルちゃんは、お姉さんの後に付いて『お姉様、次のスケジュールは裏庭で掃除で御座います』なんて言ってたっけ~。お姉さんは何でも憶えてるのさ!」
「ワシなんか“お爺ちゃま”じゃぞ? 小さい頃に、『お爺ちゃま、ベルね、いつか大きくなったら、お爺ちゃまと結婚するの!』って散々聞かされとったのに……うぅ、誰がベルをあんなに変えてしまったんじゃ……」
「グラァ!! 勝手に人の過去を改竄するなそこォ!! 昔から“ギース兄”、“ロザ姉”、“師匠”としか呼んでないでしょーが!! あとエロジジイ!! それ以上巫山戯た事吐かすと頭髪根刮ぎ引き毟るぞ!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、――って、軽くあしらうには内容が悍まし過ぎるぞベル!? 両手をワキワキしてワシを見ないで!! 違った! ワシの頭を見ないで!!」
「もう旦那様ったら♪ ギースもぉ、あんまりおふざけが過ぎるとー……お姉さん、覚醒しちゃうぞ☆」
「ロザ姐!? ワ、ワシが悪かった!! じゃきん、覚醒だけは勘弁してくれッ!!」
 ワイゼン屋敷の者がテンヤワンヤしている様を見て、フォアンは微笑を浮かべる。
「良いな、こういう雰囲気。いつもこんな感じなのか? ベル」
「え? ……まぁ、そうね。師匠が殺意漲るお茶目して、あたしがツッコミを入れて、ギースがその中間で、ロザ姉が皆殺し☆ って感じかなぁ……」
「ロザさん、カッコいいのにゃ! 流石だにゃ!」興奮気味のザレア。
「いや、ザレア。まずは『皆殺し☆』に就いてツッコミを入れるべきだと俺は思うんだ」冷静に応じるフォアン。
 暫くワイゼン屋敷の者達がやんややんや騒いでいたが、やがてワイゼンが大きく咳払いし、場が納まる。
「ベルや。その知り合いの用事はどれ位で済むんじゃ? まさか日帰りと言う訳でもあるまい?」
 落ち着いた所作で尋ねるワイゼン。先刻までのハイテンションジジイとは思えない落ち着きっぷりだったが、誰もツッコミを入れる者はいなかった。
「明日には出て行くわ。これから宿でも取ってこようと思ってるの」
「そうだねー、早い内に宿を取るのはお姉さんもお勧めだよ。最近、巷の治安が良くないらしくてねー。ガーディアンも手を焼いてるとか焼いてないとか」ロザが親指を立てて御機嫌な笑みを見せる。――と思いきや、左手を腰に当て、右手の人差し指を立てて前屈みになると、「――でーも、ベルちゃん? 水臭いじゃなーいっ? ここはベルちゃんのマイホームなんだよっ? 何を遠慮してるのさー?」
 ベルのマイホーム。確かにベルは、数年前までこの屋敷で起臥していた。ただそれは、居候として、だ。世話になったのは確かだが、本来の彼女の家ではないのだ。
 ベルがその事を舌に載せようとする前に、ワイゼンが大きな嘆息を落とした。
「ベルや。ヌシはワシ達を何じゃと思っとるんじゃ? ワシとヌシ、ギースとロザ、皆で家族じゃ。即ち、ここはヌシの家でもあるという事じゃ。それを忘れるでない」
 穏やかな微笑を浮かべて告げるワイゼンに、ベルは心が温かくなる想いを懐いた。
「師匠……」
「折角来てくれたんじゃ、今日はゆっくりしていくと良い」と、それだけ告げると頬が緩み始めるワイゼン。「……ぐへへ、今日は久し振りにベルちゃんの寝顔が拝めるぞぉ……!」
「結局それかーっ!!」
 ベルの回し蹴りが見事にワイゼンのこめかみを捉えたのは、言うまでも無い事だった。

【後書】
 ワイゼン翁ですが、綴ってる当時はふんわりと「こういうスケベ爺さんを綴ってみたいなぁ」と言う発想しかなかったのですが、これが中々、綴ってみるとやりたい放題やってくれる、とんでもねーキャラクターになりましてなーw そりゃベルもツッコミ力が鍛えられるわと、ベルの設定を補強する材料としても仕上がってホクホクでした(笑)。
 何と言いますか、わたくしの中で「凄い人」と言いますか、最前線を行く者、強者足り得る者、人を導く者、こういう「何かしらのコンテンツに於ける先駆者或いは頂点付近或いは頂点に座す人物」と言うのは、往々にして「常人とはズレた感性・感覚を有する存在」と言う認識で考えておりまして。
 今まで登場したぶっ飛んだキャラクター達も全てその持論に当て嵌めて作成したキャラクターだったりします。裏返せば、常人では成し得ないような事を為す人物が、マトモである筈が無い、と言う確信が来てる訳ですなw
 ワイゼン翁も、この世界では渾名持ち、列強の一方ならぬハンターですが、その実、リビドーに忠実なスケベ爺と言う側面が有るからこそ愛嬌が有り、人間味が有り、あぁ、こんな人なら確かにヤバそう(ふんわり)。と、思えるのではないかなーって!w
 ただこのワイゼン翁と言いますか、このメイド長と執事長に関してはまだまだ盛ってる設定が有りますので、その辺も今後の配信を楽しみにお待ち頂けたらと思います!
 と言う訳で長くなりましたが! 新年初更新は「ベルの狩猟日記」でした! 再掲がまだまだあと50話分ほど続きますが、今年もぜひぜひご贔屓して頂けたらと思います! それでは次回も! おっ楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    今年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m

    みんないきいきとして楽しそうでお正月にピッタリ!w
    そんな中でもいきいきし過ぎ感たっぷりなワイゼン翁ですが、
    先生の仰る通りのぶっ飛んだキャラクターでマトモでない感満載w
    さすがベルちゃんのお師匠様ですw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      今年も何卒宜しくお願い致しますです!(*- -)(*_ _)ペコリ

      ですな!w いきいきとして楽しそうなのは正月感有りますよね!w
      やったぜ!w「いきいきし過ぎ感」とか「マトモでない感満載」とか言うのがもーワイゼン翁にぴったり合い過ぎてしんどいですな!ww
      ベルちゃんのお師匠に相応しいキャラクターに仕上がって、わたくしもほっこりです!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!