2018年12月1日土曜日

【バッドガール&フールボーイ】3.Velociprey vs Fool【モンハン二次小説】

■あらすじ
不運を呼び寄せる女が、頭の足りない少年と出会う時、最後の狩猟が始まる――。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書とサブタイトルを追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/77086/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1043940
■第3話

3.Velociprey vs Fool


「温厚な心」と言う意味を持つシルクォーレの森とシルトン丘陵からなる地方――アルコリス。そこでハンターが狩猟を許された狩場を通称“森丘”と呼んでいる。地平の遥か先まで続く新緑の大地には多くの草食竜の姿が散見できる。山々から流れ出る湧水は大きな川となって新緑の大地を分かち、そこに群れをなして草食竜達が水呑場として利用している。
 空は高く、木々の傍に寄らずとも小鳥達の囀りがあちこちで唱和している。温暖な気候によって、植物群は青々と生い茂り、採掘をすれば鉱石類も豊富に採れる豊潤な土地。それ故に生息する生物も、視界に映っている草食竜に留まらず、肉食竜や果ては――今回のターゲットである飛竜など多岐に亘る。
 飛竜や肉食竜が寄りつかない安全地帯にベースキャンプを設営した二人は、早速広大な面積を誇る狩場“森丘”の地を踏み締めていた。茫漠と広がる空から降り注ぐ温かな陽光。温暖期特有の乾いた温風がそよそよと草花を撫でていく。赤や黄色に咲いた名も知らぬ花が風に戦ぎ、――次の瞬間には草食種の小型モンスターに食まれていた。
 牧歌的な風景を堪能しながらも、テスの意識は狩猟のそれへとシフトを済ませていた。狩場に立つ事は即ち、常に何かしらの脅威に晒されている事と同義だ。大型モンスターは何も地を這うモノばかりではない。上空から強襲を仕掛ける飛竜種、砂中や水中から襲いかかる魚竜種、中には地中を潜行するモンスターも存在する。人間が定めた境界を一歩でも踏み出せば、そこは人跡未踏の地と言って差し支えない、無数の竜の住まう、自然と言う名の壮大なる領域なのだ。
 ここが狩場として認定されているのは無論、少なからず人間の手が入っているためであるが、それでもここは竜達のホームである。草食竜が食欲旺盛に下草を食んでいる様子こそ牧歌的であるが、いつ何時飛竜が上空から現れ、一触即発の事態に陥るとも限らない。故に狩場に足を踏み入れた瞬間から常に或る程度の緊張感を強いるべきだった。
「はぁ~……久し振りに来たがぁ、いーぃ空気だなぁ~……」
 ベースキャンプを出立して間も無く、緊張感を根刮ぎ奪われそうな平和ボケした声が、テスの耳朶を打った。纏っていた緊迫した空気の鎧が剥げ落ち、テスは呆気に取られた表情でトルクを振り返った。
 安穏とした声調同様、トルクは渺茫と広がる新緑の大地を見晴るかして深呼吸していた。胸一杯に青々とした酸素を取り入れると、気持ち良さそうに体を弛緩させる。
「……余裕だね?」ちょっと意地悪に声を掛けるテス。「リオレウスなんて狩り慣れてるのかな?」
「とっ、とんでもねえだ!」慌てて首と手を同時に振りまくるトルク。「リオレウスなんて、いっっっちども狩猟できたためしがねえだ!」
 キョトンとするテス。若干の間を置いて、テスは納得したように頷いた。「……そうだよね、まだ狩猟が本格的に始まった訳じゃないもんね」
 狩場での態度や挙動は、無論ハンターに寄って区々だ。徹頭徹尾精神を昂らせて真剣を通り越して神経質なまでの緊張を強いる者もいれば、大型モンスターと対峙しても泰然自若の態を貫き、肉体的には弛緩したまま狩猟を終える者もいる。それぞれに狩猟に臨む態勢は違うから、各々の狩猟に対する姿勢を咎めるのは、余計なお世話に他ならない。
「オラァ、狩場の空気って好きなんだぁ~」
 現にトルクはテスとは真逆の神経を有しているのだろう。狩場にありながら街にいる時と変わらぬ平静さを保ち、悠然と話しかけてきた。テスはその事を忌避する訳でもなく、「そうなの?」と彼に同調するように軽い口調で応じる。
「オラの住んでた村ってのがぁ、すんごい辺境でなぁ~。見慣れてるっちゅうか、懐かしいっちゅうか……」
 郷愁染みた通念でも懐いているのか、トルクはうんうんと首を上下しながら呟いた。
 辺境の地と言えば、モンスターの徘徊する領域に半分入っているような寒村も含まれる。そういう村々の中にも格差が有るのは当然で、時折小型の肉食竜が近づいて来る程度の村から、終始飛竜の脅威に晒されるような、最早そこに村を興した理由を問い質したくなるような村も在る。
 環境の違いもそれに含まれる。寒暖の差が激しい土地も在れば、温暖期でも氷点下の極寒の地や、寒冷期でも半袖でいられる熱帯地方も在る。人間は自然界でも最低限生活が可能な土地であれば村を興せる。村が発展すれば何れ街となり、そこを拠点にまた新たな村が勃興する事も有るだろう。
「それじゃあ、ランポスとかなら狩り慣れてるのかな?」
 狩場である森丘が故郷に似通っているのなら、温暖な気候に住まう肉食竜――鳥竜種のランポスを見慣れているかとテスは考えたのだ。森丘以外にもテロス密林と呼ばれる狩場にも生息するランポスは、極寒や極暑な地域を除くと生息圏が広い。竜が生息する域の近くに居を構えている村ならば、ランポスなどの小型モンスターとの衝突は避けられまい。
「んだなぁ~」とトルクは神妙な顔になって頷いた。「あいつらは農作物じゃなくて人を襲うだからなぁ~。よく弟と一緒に山狩りを手伝わされたもんだぁ~」
 ランポスは、飛竜種などの狩猟を任されるようなハンターであれば恐れるに足りないモンスターだ。逆に言えば飛竜種を狩猟できる域にまで到達した実力を持ち得ねば梃子摺る――或いは狩られる側に立たされる事も有る。一般人が迂闊に手を出せば全滅も有り得るくらいだ。
 ランポス一頭だけを相手にするのなら、新米のハンターでも、或いは一般人でも複数人で掛かれば何とかなるだろう。けれど彼らは群れを成して獲物を狩る習性を持つ自然界のハンターだ。絶えず単独行動は取らず、複数の仲間と共に行動し、危機に陥れば更に仲間を呼ぶ事も有る。それ故に新米ハンターはランポスの数を減らすつもりが、仲間を呼ばれていつの間にか窮地に立たされる事も少なくない。
 ランポスが群れを成して村々を襲う事も少なくないため、村はギルドを通してランポスの間引きを要請したりするが、要請に必要な資金が足りない場合は村の男手に頼む事も、やはり少なくなかった。恐らくトルクはそれで山狩りなどと言うハンター紛いの仕事をしていたのだろう。
「もしかして、それでハンターになろうと思ったの?」
 広大な新緑の大地を歩くような速度で進みながら、テスは尋ねた。当初懐いていた緊張感は刮げ落ち、最低限の警戒心だけを残したまま、意識はトルクの話に傾注していた。
 もしかしたらトルクと話が出来るのは今しかないかも知れないのだ。この狩猟が終わった時、トルクの心が変わらずにハンターを辞めれば、もう二度と逢う事は無いかも知れない……そうならなければ良いなとは思うが、あくまで理想は理想であり、テスの願望を押しつける訳にもいかない。故に、今聞けるだけの話を聞いておきたいと思ってしまったのかも知れない。
 頭の中に叩き込んだ地図と、ドンドルマで仕入れた森丘の情報を重ね合わせると、そろそろランポスが現れてもおかしくない。先に見える岩壁と川に続く崖の間に出来た自然の道を抜ければ、エリア2――ランポスが徘徊していると聞くエリアだ。
 傾斜の緩やかな坂を上りながら「んだぁ」とトルクは懐かしげに身振りを交えて呟く。
「オラのやりたい事はこれだっ、って思ったんだなぁ……工房のハンマー握って、村の奴らと一緒にランポス追い払って……あれからオラァ、ハンターってのに憧れたんだぁ……」
 ――でも、現実は違った。テスはそんな想いをトルクの口調から読み取った。
「ハンターになれば稼ぎも増えるし、これで家族を養っていけるぞぉ、って思ったんだがなぁ……狩猟に出ても失敗続きで、採取の依頼ですら全うできねえし……オラァ、やっぱりハンターは向いてなかったんだろうなぁ……」
「――ハンターに、向き不向きなんて関係無いよ」
 悄然としたトルクの弱音に、テスは間断無く否定の言を差し挟んだ。トルクは不思議そうにテスを振り返り、テスは強い意志を持ってトルクを見返す。トルクはその強い眼差しの意味を掴み取れない様子だった。
 立ち止まりかけた足を再び動かし、エリア2へと向かう。トルクはテスの前を進みながら思い出したように口を開いた。
「テスは、どうしてハンターになろうと思ったんだぁ?」
「私は――」
 口を開きかけ、――静止する。やはり、とテスは納得した。エリア2に入った瞬間、開けた視野に青い鱗に黒い斑が入った肉食竜の姿が映り込む。大人の背丈を優に越える大きさ。頭を丸呑みに出来る黄色いクチバシ。前脚の鉤爪で引っ掛けられれば、ハンターの纏う防具ですら傷だらけになってしまうだろう。
 “青き狩人”――ランポスである。
 障害物の無い開けたエリアに屯しているランポスの数は四頭。何れも遠く離れた場所で盛んに跳ね回っている。まだ二人に気づいた様子は無く、互いに交信を取るように短く鳴き声を上げながら走り回っている。
「……ドスランポスの情報は聞いてないし、まずはリオレウスの探索を先にしよう。まずはエリア5――飛竜のねぐらに行こう」
 要するにランポスは無視して突き進もうと提示した訳だ。トルクが今までの狩猟でどんな失敗をやらかしたか色々と聞いていたが、それは単にトルクへの指示が足りなかったのではと邪推した。適確な指示を出せば、迂闊な行為には出ないのではないかと思ったのである。
 そう思ってテスがトルクの顔を見ると、彼は素直に「分かっただ!」と頷いて駆け足で進み出した。テスも胸を撫で下ろしてランポスの群れへと駆けて行く。適確な指示さえ出せば問題なく狩猟を進められる――とテスは安堵してしまった。
 その安堵を粉砕するような問題はすぐに起こった。
 距離を縮めると、流石にランポスも自分達に接近する外敵に気づいた。ギャァギャァと喚声を上げ始め、仲間に注意の喚起を促す。瞬く間に四頭のランポスは意思疎通を終え、二人の外敵を認識――臨戦態勢にシフトする。
 併しテスは彼らに構う事無くエリア3――飛竜種が立ち寄る広いエリアへと移動するつもりだった。そうトルクにも伝えたし、ランポスの動きを回避する程度なら問題は無いと、思っていたのだが――
 ランポスの群れの中心を突っ切るように全力疾走していた、その最中。確りと四頭の挙動を把捉していたし、急な飛び掛かりにも対応できる自信が有った。そして背後に回ったランポスが飛び掛かってくるのを鳴き声で察し、前転回避しようとして――「――テスに何するだぁーっ!」――突如、間近でトルクの咆哮が上がった。
 次の瞬間、重たい打撃音が弾け、続け様にランポスの悲鳴が連なった。驚いて振り返ると、トルクはジェイルハンマーを振り抜いた格好で、飛び掛かってくる筈のランポスは不自然な体勢で宙を舞っていた。
 重たく鈍い音と共にランポスの体が大地に叩きつけられる。その瞬間にはトルクはジェイルハンマーを脇に抱える体勢に戻り、落下したランポスに向かって駆けていた。ランポスは一挙動で起き上がり、警戒心を露わにトルクを睨み据える。トルクの後ろ姿から、彼がどんな表情をしているのか分からなかったが――背中から鬼気とした感情が見え隠れしている。
 ランポスの敵意はトルクの挙動で完全に統一されてしまった。相手せずにやり過ごそうとした策は断念せざるを得なくなり、テスは彼がどういう性格なのか瞬時に理解してしまう。
「うおおおおぉぉぉぉ――――――――――っっ!!」
 猛然とランポスに挑みかかるトルク。怒りに我を忘れているのか、戸惑っているテスなど気にも掛けずにランポスを打ちのめしていく。我を失っているにも拘らず、その動きには無駄が無かった。併し無駄を極限まで省くために相手の攻撃を躱すと言う概念が消え失せている。ランポスに噛まれ、引っ掻かれながらもジェイルハンマーを振り抜き、殴り飛ばす。
 五分と経たずにランポスは殲滅され、辺りには骨格が拉げたランポスが四頭分転がされている。その直中に佇むハンマー使いの男は敵意を有する生命が絶えた事を視認して間も無く、青褪めた表情でテスを見つめた。
「ご、ごめんだぁ~! またやっちまっただぁ~!」
 駆け寄りながらペコペコと頭を下げ始めるトルク。その様子を見て、テスは自分が理解した彼の性格に相違は無かったと確信を得た。
「トルクって、熱くなると我を忘れちゃうタイプ……なんだね?」
 簡潔に言えば沸点が低く、且つ問題が解決するまで冷める事が無い。ハンターにも寄るだろうが、致命的な性格と呼ぶ者はいるだろう。我を忘れると言う事は、協力して狩猟を進める事が出来ないだけでなく、指示を出しても蔑ろにする可能性が高率だ。なるほど、他のハンターが倦厭する理由が分かったと、テスは納得した。
 ――だが、その性格を理由にトルクを突き放す事なんて出来る訳が無かった。
 トルクはテスの確信を衝く発言に悄然と俯き、「そうみたいなんだぁ……」といじけながら応じる。テスにも他のハンターのように、嫌な印象を与えてしまったと怯えている……そう見えた。
「――でも、ランポスを狩猟してる間のトルク、凄かったよ! あっと言う間に全滅させちゃうし」
 トルクの熱くなったら周りが見えなくなる性格は、何も悪い面ばかりではないだろう。テスはそう感じていた。トルクはテスに降りかかろうとしていた危難を振り払うべく、意識を戦闘にシフトしたに過ぎない。現にテスに脅威になりそうな存在が完全に絶息したのを認識すると我に返り、その事を謝るだけの心を持ち合わせている。
 トルクは優し過ぎるんだ、と彼の性格を結論付けた。
「そ、そうだか? えへへ……」ポリポリとイーオスヘルムの下にある頬を掻いて照れるトルク。
 純朴な彼は多分、味方が些細な怪我を負う事すら我慢できないような性格をしているのだろう。それ故に沸点が低く、可能な限り脅威が消滅するまで気を静める事が出来ない。難儀な性格ではあるが、仲間想いと言う面では誰にも負けまい。
 それが原因で狩猟に失敗しているのだとしても、どうしてそれを責める事が出来ようか。悪意を持って狩猟を失敗させている訳でもないのに、一方的に断じるのは間違っている。テスはそう強く思った。
「とにかく、まずはリオレウスを探さなくちゃね。見つけられない事には、始まらないし」
 その道中でランポスなどの小型モンスターを見つければ、逐一退治していけばいい。リオレウスと戦闘に至った時に小型モンスターがいない方が立ち回りもし易いだろうし、間引きし過ぎる事も無いだろう。
 日も高い。まだ狩猟は始まってすらいないのだ。――それに、まだ致命的な問題が発生した訳ではない。願わくは、最後まで“不幸”が起こらないように――テスは小さく祈りを捧げ、エリア3へと続く道を突き進む。

【後書】
 今回は本編とは関係無く、サブタイトルのお話。今作はタイトルが(残念な)英語のタイトルなのですが、今までサブタイが無かったんですねこれ。で! 今回再掲するに当たって、折角ならイカシたサブタイを! イングリッシュで!! 付けよう!!! と思ってちょこっとだけ頑張っております。英語力絶無マンだからね、ゆるしてんこ盛り!
 でまぁ今回のサブタイに付いてる「Velociprey」って何ぞや? と言いますと、これ「ランポス」の英語表記らしいです。たぶん。詳細はググられたし(雑説明)。
 つまりザックリ翻訳で「ランポス対バカ」になる訳です! ひえ~っ! 英語力もここに極まれりだ~!!(全力脱走)
 まぁアレですよ、見た感じ一瞬でも「ん? もしやかっこよさげサブタイ??」と思わせたら大勝利です。えっ? 思わない? そんなー(´・ω・`) そんなこったで次回もお楽しみに!w(ナンダコレ…)

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「狩猟シーンに重きを置いております」の通り
    戦闘シーンがかっこよく展開されています。
    その裏でトルクくんの難儀な性格が明らかになり、
    なんとか上手く狩猟を成功させたいテスさんですが、
    自身のもつ特殊能力が発動しないよう祈るばかりw
    なんといいますか似た者同士の二人、応援したいですよねv

    気になっていたイカしたサブタイw
    どんな経緯でつけられるようになったのか判明して、ひえ~っ!w

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      戦闘シーンがかっこよく展開されてる…! それが聞けただけでもうわたくし大満足です…!(*´σー`)エヘヘw
      ですです!w ぜひぜひ応援して頂けたら幸いです…!w

      ひえ~っ!www そうなんです、実はこんな経緯が有りました!(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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