2019年1月2日水曜日

【滅びの王】63頁■獅倉八宵の書1『真夜中の訪問者』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/02に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第64話

63頁■獅倉八宵の書1『真夜中の訪問者』


「あ~~っと、一つ、良いか?」
 長刀を携えた少年が手を挙げてウチらを呼び止める。ウチも葛生鷹定も振り返って、その姿を捉える。
「何だよ?」
「あ、お前じゃなくて。ヤサイ。お前」
「……俺が、何だ?」
「一度、オレと手合わせ願いたいね」
「はあ?」
 鷹定ではなく、ウチが素っ頓狂な声を上げていた。
「あんたら、仲間じゃないのかい?」
「仲間さ。……でも、戦ってみたくなった。ヤサイ。オレと戦ってみろよ」
「……今はそんな事をしてる場合じゃ」
「大丈夫大丈夫。どうせメンマはまだ起きねえよ。スイカと同じで、朝になるまで、な」
「……」
 少年は鷹定に歩み寄り、背中に携えた長刀の鯉口を切る。
「……本気なのか、矛槍」
「あたぼーよう。……本気で来ねえと、オレもマジで殺しちまうかもよ?」
 矛槍少年は歌舞伎役者のように右足を前に出し、踏ん張るように膝を少し折ると、上体を前のめりに倒す。
「――鉞(まさかり)の構え」
 矛槍が呟くのが聞こえ―― 
 鷹定へと一歩で距離を縮め、長刀を抜き様に、振り下ろす――!
「〈鉞の下ろし〉!」
「―――ッ!」
 鷹定が刀を地面に水平に倒して受け止めようとして―― 
 ――受け止められないッ!
 ウチが瞬間的に下した判断を、鷹定は先に読んでいたらしく、振り下ろされた長刀の刀身を滑るように鷹定の鞘が走り、――矛槍の胴を殴りつける!
 鈍い衝突音がして、矛槍がウチと同じく吹き飛ばされ、――空中で姿勢を整えると、何とか長刀を杖代わりに持ち堪えていた。
「速いなー、お前。……今の速度に付いて来れるって事は、〈荒土耕耘(こうどこううん)〉も使えねえな……」
 そう言って矛槍は長刀を振り被ると、先程と同じ構え――体の重心を低くし、相撲取りのように膝と腰を折り、長い刀身を肩に預ける――鉞の構えを取る。
「……効くとも思えねえけど、やってみるか」
「諦めてはくれないのか?」
「オレ、こう見えても諦めは早い方だから、すぐに済むぜ。――〈地崩這駆(ちほうはいく)〉!」
 先程の構えから振り下ろされた長刀が地面に亀裂を走らせ、――そこに太刀風が生まれ、地面を抉りながら鷹定へと向かって行く! 視認できるのは地面に走る亀裂だけだった。
 鷹定はそれを冷静に捉え、避ける素振りも見せずに、瞬間移動したと錯覚する程の速度で、走る斬撃――〈地崩這駆〉を躱し、矛槍へと間合いを詰め、鞘ごと矛槍の胴を振り抜く!
「――はっやッ!」
 矛槍が長刀を棒代わりに跳び上がり、空中で前転を決め、――着地しながら長刀を横薙ぎに一閃!
 鷹定も頭上を越えて行った矛槍を尻目に、振り返り様に鞘を一閃する!
 ――鮮烈な音が迸り、青白い瞬きが弾ける!
 鞘と長刀が拮抗し、二人は刀の間合い越しに見据え合う。
「やっぱ、《侍》は強ぇーなー。……まだ本気じゃねえんだろ?」
「……元《侍》だ。もう《侍》の肩書きは捨てた。それと、……俺を本気にさせるな」
 見ていて、確信した。
 練磨はやっぱり《滅びの王》で、その力を欲している者がいると言う事を。
 恐らく鷹定や矛槍ほどの腕が有れば、相手になる者など、そうはいないだろう。それでも《滅びの王》の力を欲するのは、今の自分の力よりも強大な力を使って事を起こそうとしているからに違いない。それが……或いは、世界を滅ぼしてしまう事なのかも知れない。
 それに…… 
「《侍》、だって……?」
 鷹定が無言で背中を向けている。
 確か《侍》は、王国に二人しか残存していない筈だ。王国で一番栄誉の有る地位と言われていて、大戦争時にも最前線で敵国であった帝国の兵士を震え上がらせた猛将……王国史上最強と呼ばれる人の事だ。何年か前に二人の少年が空位だった《侍》の座に就いた事から、確か《双刀(そうとう)》の呼び名に加え、一方を《蒼刃(そうじん)》、一方を《橙刃(とうじん)》と名付けた筈である。
 そいつが、この男……葛生鷹定が、《双刀の蒼刃》であると同時に《侍》だって言うのかっ!?
「本気になってくれねえと、オレも本気出せねえじゃん?」
「……今ので諦めるのではなかったのか?」
「オレ、次の一撃で諦めるなんて言ったか~?」
「……」
 あくまで軽薄そうな口調で受け答えする矛槍を、硬い表情のまま見据え続ける鷹定。
「別に、本気にならなくってもさ、……その剣、抜かせたいじゃん」
「……」
 ウチは完全に観戦の側に立っていたが、……ウチも見てみたいと思ってしまった。
 ウチと戦った時も、あくまで鞘から刀を抜かずに戦い、そして勝利を収めた葛生鷹定。その実力……技術には底知れないものを感じる。だから余計に、鷹定の強さの底を見てみたいと思ってしまうのだ。せめて、あの刀を抜き身にさせるだけで良いから、本気にさせてみたい。
 どちらも初対面の相手だったけれど、この勝負には興味が湧いた。どっちが勝っても良い。ただ、決着までに葛生鷹定に一度で良いから抜刀して貰いたい。
「それとも、本気にならねえと抜いてくれねえの?」
「……無闇に抜刀するなと言う教えを受けたからな。力試しや興味本位でなら、止めて貰いたいところだ」
「ふぅん、根っからの《侍》って事か。……尚更見たくなった。絶対に抜かしてやる」
 葛生鷹定は無言で応え、矛槍が刀に力を込めて、鷹定を一歩分、押す。
 弾かれるように押された鷹定は、足を巧みに動かして、姿勢を崩さずに刀身の重心を移動させる。半ば倒れ込むようにして矛槍が前進すると、鞘で首を―― 
「――ふッ」
 ――倒れ込みながら半回転し、無理な体勢になりつつも刀身を走らせ、首に振り下ろされた鞘を、矛槍は受け止めた。
 涼やかな音が響き、矛槍は横に転がりながら鷹定と距離を取り、立ち上がり際に刀身を横に薙ぐ。
 すると、宙を走る刀身から太刀風が発生し、それが飛ぶ斬撃となって鷹定に肉薄する!
 葛生鷹定は咄嗟に防御の姿勢に入ったが、――鞘で受け止められるような物ではなく、濃紺の外套に切り目が走る!
 剃刀で切ったような傷から赤い筋が飛散し、鷹定は一瞬、苦悶の表情を浮かべると、すぐに平常の難しそうな顔に戻った。
 速い……ウチは何とか眼で追える攻防に息を呑んでいた。動きが機敏過ぎて、眼で追うのがやっとだ。二人とも常人離れした剣技を熟しているんだ、きっとウチが入り込む余地は無い…… 
「まだ抜けねえか? あと一歩かな? ヤサイ、本気で掛かってこいよ。お前、この程度の腕じゃないんだろ?」
「……」
 鷹定は黙考したように返答せず、鞘に入ったままの刀を、――スッと脇に据えた。
「……“抜かせるんじゃねえよ”……!」
 低い咆哮を思わせる唸り声を発すると、鷹定は前屈みに姿勢を変え、脇に据えた刀を後ろへ滑らせる。
 気配が、――変わった。
 今までの鷹定の動きは何と言うか……模範的だった。無駄な動きはせず、基礎で固めた動きで一つ一つ矛槍の攻撃を防ぎ、隙有らば攻撃に転じる……剣術の基礎だけで動いていたように思える。その象徴と言えるのが、〈抜刃〉――基本中の基本である、相手の体に刀を接触させるだけの剣技――それが彼の必殺技のようだった。ただ、基本技である〈抜刃〉でも、彼が使えば一撃必殺の技になると言う、敏捷さが有るからこその賜物だ。故に、鷹定は基本技だけで大抵の人を斬り伏せられるのだろう。
 その『基礎で倒そう』という、或る意味『余裕』に近い気配を発していた鷹定の気が、――落ち着いていた感情が、突如として殺意を剥き出しにしたような、そんな錯覚を感じさせたのだ。
「遂に来たか……!」
 矛槍もその闘争心を感じ取ったのだろう、口許に薄い笑みが浮き出ていた。
 鷹定が腹を抱え込むような前屈みの姿勢で止まっていると、時間が止まったような錯覚が生じる。
 いつ動くのか。刀を抜いたらどうなるのか。刀を抜いた鷹定はどれだけの強さを誇るのか……全く分からない。
 ウチが生唾を飲み下そうとして――、
 ――気づくと、鷹定は矛槍の背後に立っていた。
 瞬きもしていないのに、ウチは幻でも見たかのように、立ち尽くす矛槍と、その背後に立ち、一瞬だけ見えた蒼い刀身を仕舞う鷹定を見た。
「――はっや……」
 ばしッ、と脇腹から鮮血が飛び散り、長刀を杖にしても立っていられずに崩れる矛槍。
 鷹定はすぐに振り返り、腰に吊っていた道具袋から包帯などの医療道具を取り出し始めた。
「そこの君。手伝ってくれないか?」
「は? あ、ああ。分かったよ」
 一瞬、鷹定が何を言ってるのか理解できなかったけれど、すぐに矛槍に駆け寄ると、斬られた部分の服を捲り上げた。――見て、また驚いた。
 さっきの噴水のような出血は見られず、傷口は殆ど接着していたのだ。それは矛槍の皮膚の再生速度が早いんじゃなくて……見て分かったけれど、傷口が凄く綺麗だったのだ。綺麗過ぎる切断面は、分子間引力や結合力が強く働いて、くっ付くようになると聞いた事が有る。
 それが今、矛槍の脇腹で発生したらしい。
 消毒と軽い止血、包帯を巻くだけで治療は終わってしまった。
「……認めるしか、ないみたいだね」
 ウチは腹を括って呟いた。――と、
「君は……」
「ウチ? ウチは獅倉八宵ってんだ。八宵で良いぜ? ウチもあんたを鷹定って呼ばせて貰うから」
「……獅倉。君に、練磨の事を頼みたい」
「は?」「え?」
 矛槍とウチの声が同時に発されると、鷹定は月夜の下、煌々と地上を照らす月を見上げた。
「練磨にはこれ以上、俺の問題に付き合わせる必要は無い。そう思ったんだ」
「……それは、世界を滅ぼすかも知れない問題だから?」
 ウチが問い詰めると、鷹定は小さく鼻で笑った。
「……かも知れんな」
「へえ? 葛生鷹定。心境の変化でも有ったのかしら? 初めの時と言ってる事が違うじゃない?」
 咲希が皮肉っぽく感想を漏らすと、鷹定は視線を地上に戻した。腕と足を組んでいる咲希を見て、
「練磨が《滅びの王》じゃない可能性も有る。……俺は、それを信じ――」
「――神門練磨は《滅びの王》よ」
 瞬時に断じられ、鷹定は言葉を失った。
 数瞬の間が在ってから、鷹定は口を開いた。
「……何故、分かる?」
 当然の質問に対し、咲希はあっさりと、
「《滅びの王》の力が分かったからよ」
「……」
 鷹定は眼を見開いて愕然としていたが、……その顔から驚嘆は薄れていった。
「……そうか」
 それだけ返し、鷹定はウチらに背を向けた。
「ヤサイ?」
「……俺の気持ちは変わらない。練磨にこれ以上、俺の問題に付き合わせたくない。……このまま別れるのが、一番だろう」
「顔も見せないで行くのかい……?」
「幸い、ここには練磨の事を想ってくれる奴がたくさんいる。俺の事は、君らが話してくれれば事足りる。……頼まれてはくれないか? 練磨を守る、と……」
「……」
 約束できない程、自分に自信が無い訳じゃない。
 ただ、……鷹定を一人にすべきじゃないって、ウチの中で何かが叫んでる。
 きっとこいつは、一人で何かしようとしてる。《滅びの王》の力を頼ってしようとしていた事を、自分一人の力で成し遂げようと、そんな無茶を考えてる。それは……危険とか言う前に無謀だ。
 でも……それが世界を滅ぼす事ならば、これで良い筈なんだけど……この葛生鷹定って男から、そんな気配は全然しないんだ。寧ろ、世界を良くしていこうという感じしかしない。
 鷹定は外套の下から煙草――いやタバチョコというお菓子を取り出すと、口に咥えて歩き出した。
「鷹定……あんたは、何をするつもりなんだい……?」
「……国を、動かそうと思ってるだけさ」
 そう言って片手を挙げると、鷹定は銀色の野渡狼に跨り、
「それにしても、まさかウチの〈千突〉を全部受け止めるとは思わなかったぜ?」
 ウチが捨て台詞を吐いた直後、鷹定の動きが止まった。
「……何だって?」
「だから、ウチの取って置きの技が――」
「〈千突〉――と言ったのか?」
 鷹定が振り返り、さっきよりも強張った顔で問い質してきたので、ウチはちょっと怯む。
「あ、ああ、そうだよ?」
「…………」
「何だい? そんなに強かったかい? ウチの〈千突〉は、そんじょそこらの魔物じゃ太刀打ちできないからねぇ」
「……失礼だが、その技はもしや、辻宮(つじみや)と言う男から教わらなかったか?」
 ウチは驚いた。何故こいつが、辻宮の名を――?
「どうして……?」
「……俺の剣の師なんだ。それだけだ。……もう逢う事は無いだろう」
 そう言い捨てると、鷹定は野渡狼に跨って、そのまま走り去ってしまった……。
「……あ、やべー……」
「へ?」
 不意に、地面から声がして、視線を向けると、矛槍が寝転がったまま、ボーっとした顔で夜空を見上げていた。
「スイカにヤサイを逃がさないように言われてたんだった」
「……何だい、そりゃ?」
 疑問符ばっかりだった。

【後書】
 今回はちょこっとだけ明るみになる情報が多い回でしたね!
 本編でもチラッと触れましたが、八宵ちゃんと鷹定君の師匠は同一人物…そりゃ強い訳ですし、そりゃ対策もされる訳と言う…w
 後アレです、綴ってた当時は「カッコいい名前の技!」と言うイメージで綴ってたんですけれどね、当時感想をくれた友達が「痴呆俳句は流石にヤバいと思うワラワラ」って言われたのが未だに心に残っておりましてなーw 漢字の組み合わせしか考えてなかったので、まさか読みがそんな大変な語呂になってるとは、読んで貰うまで全く気付かなかったと言いますか…w
 いやまぁ、未だにその辺はあんまり活かされてないんですけれどね!w 時折不思議なネーミングセンスが飛び出るのはこの辺が今も抜けてないからですたぶんw
 さてさて、今回で八宵ちゃんの書は終わり、次回から再び現実の練磨君です! どこで目が覚めるのか楽しみですね!(笑) そんなこったで今年も「滅びの王」を宜しくお願い致します(*- -)(*_ _)ペコリ

4 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    まさかの師匠同一人物!強い訳さw
    そして覚悟を決めた鷹定君、どうなっていくのか…
    あの練磨くんがほっとくわけないよな、うんうんないない…ない…よね?

    読んでいるときは興奮していて気が付きませんでしたが、
    漢字で書いてある「地崩這駆」うんうんちゃんと技が想像できるな。
    音だけだと「ちほうはいく」えっ?えっ??
    お友達の冷静さには関心しきりでございます。w

    「鷹定は銀色の野渡狼に跨り」…八宵ちゃんが恨めしそうに見ていますよw

    今年も楽しませて頂きましたー
    来年も楽しみにしてますよーvv


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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですです!w 同一人物に教わったのならそりゃ強い訳ですよ!ww
      練磨君のいない所で勝手に去って行った訳ですからね、あの練磨君ならきっと…!

      そうなんですよwwわたくしも綴ってる時は興奮して気づかなかったんですけどね!ww
      確かに音にするとこれ…!ww って、流石友達、冷静に読みよる!ww って、悔しさが凄かったんですよ!ww
      いやー、何かこう、敗北感がね…(笑)

      八宵ちゃん、確かに恨めしそうに見てそうですけど、気づいたらこれまた八宵ちゃんに追い駆け回される奴ですよ!www

      ことs…まだ今年始まったばかりだよ!ww
      らいねn…来年の話はまだ気が早過ぎるよ!www
      定型文が新年早々グダグダだぞ!wwww

      と言う訳で次回もお楽しみに~!www
      失礼ながら今年の感想での初笑いでしたね!wwwww

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  2. 初やらかしw
    誠に申し訳ないm(__)m

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    1. うむwww
      失礼ながらめちゃめちゃ笑わせて頂きましたwww
      寧ろ有り難う御座いますですよ!www

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