2019年1月11日金曜日

【艦娘といっしょ!】第14話 暁といっしょ!【艦これ二次小説】

■あらすじ
ちょっと頭のおかしい提督と艦娘達の日常生活を切り抜いた短編集です。
※注意※2016/08/31に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
艦これ 艦隊これくしょん コメディ ギャグ 暁 隼鷹


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/68881/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/series.php?id=627932
■第14話

第14話 暁といっしょ!


「暁よ! 一人前のレディとして扱ってよね!」

執務室で執務に追われている司令官の前で、胸に手を当てて高らかに宣言する暁に、司令官はペンを置き、「分かった。ではレディ、今晩は夜景の綺麗なレストランでお食事などいかがですか」と真剣な表情で見据える。
「えっ、えっ、し、司令官……?」明らかに挙動不審の暁。
「紳士として、一人前のレディをお食事に誘うのはマナーでしょう。お受けして頂けますか?」椅子から立ち上がり、暁の前でひざまずく提督。
「あっ、えっ、はっ、はい……っ」顔を真っ赤にして司令官の手を取る暁。
「良かった。では本日ヒトキューマルマルにここで待ち合わせをしましょう。夜景の綺麗なレストランまで、わたくしがエスコート致しますので」そう言って暁の手に口づけをする司令官。
「ひゃ、ひゃい……」訳が分からない様子で頭から湯気を発している暁。
「司令官が壊れたのです……」それを傍目に眺めていた電が仏のような顔になっていた。

◇◆◇◆◇

ヒトキューサンマル。普段よりパリッとした軍服姿の提督と、普段よりおめかし気味の暁の姿が、鎮守府の食堂で見られた。
「……司令官。夜景が綺麗って言ってなかった?」ジト目で司令官を見やる暁。
「勿論ですレディ。私は夜景が綺麗なレストランでお食事をと誘いましたから」ニッコリ笑顔の司令官。
「ここ、いつもの食堂だと思うんだけど」ジト目のまま変わらない暁。
「この時間帯だと、窓に遠征から帰ってくる艦娘達が見えるのです、レディ。チカチカと灯りが見えませんか? あれがそうです」微笑が微動だにしない司令官。
「もう! 司令官の嘘つき! 私、ちょっぴり期待してたのに!」プンプン、と頬を膨らませてそっぽを向く暁。
「怒りましたか?」恐る恐ると言った態で尋ねる司令官。
「怒るわよ! 司令官の嘘つき!」ツーンとそっぽを向いたまま司令官を見ない暁。
「そうですか、残念です。レディなら喜んでくれると思っていた私が浅はかでした。申し訳ありません」スッと頭を垂れる司令官。
「な、何よもう……調子が狂うわね……っ」頭を下げたまま上げない司令官に戸惑う暁。
「一人前のレディとして相対してるのです、これぐらい当然です」頭を下げたまま上げない司令官。
「むぅ……わ、分かったわよ、分かったから頭を上げなさいよ。これじゃ私が悪いみたいじゃない……」ばつが悪そうに告げる暁。
「有り難うレディ」顔を上げて、テーブルに置かれた、普段は置いていないベルを鳴らす。「済まない、オーダーを取りたいのだが」
「……食堂ってこんなんだっけ?」不思議そうに司令官の様子を窺う暁。
「御用でしょうか、お客様」現れたのは正装をした隼鷹だった。
「オーダーを取りたいのだが」「畏まりました」司令官の言葉に合わせるように、隼鷹がメニューを手渡す。
「レディ、何を召し上がりますか?」
「え? 何が有るの?」見た事の無いメニュー表に興味津々の暁。
「御覧になりますか?」と言ってメニュー表を手渡す司令官。
「ありがと、ちゃんとお礼は言えるし」受け取りながらメニュー表を覗く暁。
【比叡の純白カレー風白米】【飛鷹のネギ盛】【隼鷹推薦三十年もの赤ワイン】とだけ有った。
「……三つしかないのだけど」メニュー表の上からジト目で司令官を見やる暁。
「これは失礼を」ハッと気づく司令官。「給仕さん、他にメニューは無いのでしょうか?」
「心苦しいのですが、当店で扱っているメニューは以上の三つしかなく……本当に申し訳ありません」苦しげに頭を下げる隼鷹。
「レディ、申し訳ない、その三つの中から選んで頂けないだろうか。店の者もこう言ってる事だし……」恐る恐ると言った態で尋ねる司令官。
「……別にいいけど」不機嫌そうに応じる暁。「じゃあ、この、隼鷹推薦三十年もの赤ワインを頂戴」
「畏まりました」メニュー表を受け取り、司令官を見やる隼鷹。「そちらはいかがなさいますか?」
「私も同じ物をお願いする」「畏まりました、暫しお待ちください」丁寧にお辞儀をして去って行く隼鷹。
「……何か、いつもの食堂なのに、高級レストランみたいじゃない?」妙に浮足立っている暁。
「レディがそう思えるのなら、そうなのでしょう」ニッコリ笑む司令官。「常連の私としても、鼻が高いです」
「いや、私も常連なんだけど」呆れ顔の暁。
「お待たせ致しました、隼鷹推薦三十年もの赤ワインで御座います」スッと音も無く現れた隼鷹が持つトレイには、紫色の液体の入ったビンと、対のグラス。
「待ってたわ!」顔を華やがせて赤ワインが注がれるのを眺める暁。「美味しそうね、司令官!」
「えぇ、何せ隼鷹ご推薦ですから、間違いは有りません」穏やかに微笑む司令官。
「お褒め頂き、有り難う御座います」朗らかな笑顔を浮かべる隼鷹。
半分ほど注がれた赤ワインを見て、司令官がグラスを手に取る。その挙措に合わせて暁もグラスを手に取った。
「では、乾杯しましょうか、レディ」グラスを傾けて微笑む司令官。
「えぇ、乾杯!」「乾杯」キンッ、とグラスが重なって音が鳴る。
グッと赤ワインを口に流し込むと、芳醇なブドウの味が口一杯に広がった。
「美味しい……赤ワインって、ずっと前からグレープジュースみたいと思ってたけど、味もグレープジュースそのものなのね」陶酔した様子で感想を告げる暁。
「そうでしょう。何せグレープジュースですから」
司令官が笑顔で告げると、暁は「そうよね、グレープジュースだと、おも、った……わ……?」と徐々に思考が停止していく。
「これ、グレープジュースなの?」隼鷹を見上げて尋ねる暁。
「そうだよ?」きょとんとした様子で普段の表情に戻る隼鷹。「隼鷹さんが選び抜いた美味しいグレープジュースを気に入ってくれて、あたしゃ嬉しいよ~♪」
「だ……だ……騙したのね!?」ガタッと椅子を蹴倒して立ち上がる暁。「隼鷹も一緒になって、私を騙したのね!?」
「うん、騙したよ」あっけらかんと応じる司令官。「私は暁ちゃんに、赤ワインと偽ってグレープジュースを飲ましたよ」
「な……な……ッ、もう……ッ、許さない……ッ、許さないんだから!!」目元に涙を湛えて叫ぶ暁。
「悲しいかい?」冷静な表情で尋ねる司令官。
「見て分かるでしょ!?」涙を拭いながら喚く暁。「司令官のばかぁ!!」
「そう、そういう思い出が大切なんだよ、暁ちゃん」暁の目元をハンカチで拭いながら、司令官は呟いた。
「ふぇ……?」目元を真っ赤にしながら、呆気に取られた様子で司令官を見上げる暁。「どういう、事……?」
「一人前のレディになるには、たくさんの経験を積まなくちゃいけない」
暁の目元を拭いながら、司令官は言い聞かせるように、ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「たくさん喜んで、たくさん怒って、たくさん悲しんで、たくさん楽しんで、そういうたくさんの思い出が、一人前のレディを形作るんだと、私は思うんだ」
目元の涙を拭いきると、ポンポンと暁の頭を撫でる司令官。その表情は穏和で、優しげな、いつもの司令官の顔だった。
「いきなり一人前のレディとして扱っても、経験が足りてないんだから、すぐに無理が来ちゃうよ。だったら、ゆっくりでもいいから、たくさん色んな思い出を作って、本物の、一人前のレディになった方が、素敵だと思わないかい?」
一足飛びで一人前になろうとしても、今みたいに辛い想いをするだけだと、司令官は言っているのかも知れない。
だったら、のんびりでも、少しずつでも、たくさん経験を積んで、一杯思い出を作って、本来の意味での一人前になった方が、断然良い。
暁は自分の発言が恥ずかしくなったのか、顔を隠すようにうつむいて、ぼそぼそと呟き返す。
「司令官が……そう言うなら……分かったわ……」そこで顔を上げて、無理矢理に笑顔を浮かべる暁。「いつか、いつか司令官をあっと言わせるような、本物の一人前のレディになってみせるんだから!」
会心の笑みを見せる暁に、司令官もいつもの楽しげな笑みを返して、「その意気さ! 私もその頃には一人前の提督になってみせるから、それまで一緒に、たくさん思い出を作っていこうぜ!」と親指を立てるのだった。
今はまだ一人前のレディではないかも知れない。けれど、慌ててなって転ぶより、一緒に横を歩いてくれる人と、一緒に一人前になっていけるのなら、きっとその方が素敵だと、暁は笑顔を浮かべて思うのだった。
「まぁ、それはそれとして、提督? あたしの出演料は明日の夕食奢りって話、忘れないでねー♪」ポン、と提督の肩を叩く隼鷹。
「え? あ、あれー、やっぱり奢らないと……ダメ?」引きつり笑いで下手に出る司令官。
「モチ♪ よーし、明日はたくさん飲めるぞー! 那智も誘っちゃおうかなー♪」
浮足立ちながら去って行く隼鷹を、「か、堪忍やでぇ! お願いだから私の財布にダイレクトアタックするのはやめてぇ!」と這いつくばって見送る司令官を見て、暁は「こんなダメな大人にはなっちゃダメね、うんうん」と頷くのだった。

【後書】
ここから当時は二クール目に突入した「艦娘といっしょ!」なのですが、この辺から(と言うかここから三話限定で)一話完結式でありながら流れるように登場艦娘が出てくると言う仕様になっていたりします。ちょっとやってみたかった試みですね!
それはそれとして、この話はお気に入りだったりします(^ω^) 檻夜提督をイケメソ風に仕上げつつも最後にガッツリ残念感を漂わせると言う流れがほんと好きです(笑)。

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