2019年1月12日土曜日

【嘘つきの英雄】1.人を助けるのに理由っていると思うか?【モンハン二次小説】

■あらすじ
「カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ」……かつて相棒として傍にいた“彼女”に想いを馳せながら、男は己の底に残留する言葉を拾い上げていく。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書とサブタイトルを追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/70030/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1066152
■第1話

1.人を助けるのに理由っていると思うか?


「――ルーグ。人を助けるのに理由っていると思うか?」
峻険な尾根が切り立つフラヒヤ山脈。年中雪で閉ざされたその地に、二人のハンターの姿が有った。一人は太刀を背に担いだ女、一人はガンランスと呼ばれる砲撃機能を有した槍――銃槍を背に担いだ男。
精悍な面立ちの女は眼下に広がる雲海を眺めながら、男の答を待つ。三十代も半ばを過ぎたくらいの女だが、その瞳には炯々たる輝きが満ち、ともすれば背後に立つ二十代の男よりも若く、そして勇ましく見えた。
ホットドリンクを服用してもなお酷寒と言う環境で、男は寒さに震えないように身を強張らせ、決して弱音を覗かせないように白い気息を吐き出す。びゅうびゅうと吹き薙ぐ風雪に呼気は消し飛び、頭と肩に少しずつ白を塗していく。
「……あんたは、いらないと思ってるのか?」
男――ルーグの不満そうな返答に、女は不服そうに肩を竦めると、振り返りもせずに険しい表情を浮かべる。
「質問に質問で返すのは良くないな、ルーグ。お前には、人を助けるために理由が必要なのかと訊いているんだ」
「……別に。助けたいと思ったら、助ければ良いんじゃないのか?」
ルーグの煮え切らない返答に、女は今度こそ無念そうに嘆息を落とした。男を振り返り、正面から見据える。
年季の入った顔。そう言って差し支えない程に、年齢に相応しくない皺と傷が無数に走った顔立ちをしている女。幾つもの修羅場を潜り抜け、あらゆる試練を突破してきた、ハンターとして成熟した年輪を窺わせる女だった。
「お前が私に付いてきた理由をもう一度ここで言ってみろ」
「それは……」思わず口ごもるルーグ。
「咎めるつもりは無い。ただ、私のようになりたいのなら、お前が望む形になりたいのなら、それじゃダメだな。及第点すら与えられない。そう言いたいだけさ」
すれ違い様に、ルーグの肩に温かな手が一瞬だけ触れる。
「――“英雄”になりたいなら、選んでる余裕なんて無いんだよ」

◇――◇――◇

「…………グさん、ルーグさん? おーい、聞こえてますかー? もしもーし?」
――意識が現実に帰還する。眼前でウェイトレスが巨大なこんがり肉を皿に載せて立ち往生していた。
場所は酷寒の雪山ではなく、食欲をそそる臭気と、無数の喧騒と、人間が発する熱気に満ちた、メゼポルタに在る酒場だ。その一角でルーグは一人、ホピ酒が注がれたタル型のジョッキを握り締めたまま、在りし日の幻影に囚われていた。
ウェイトレスは「お、やっと返ってきた。へい! アプトノスのこんがり肉お待ちぃ!」と姦しく声を上げると、無造作にこんがり肉が載った皿をテーブルに叩きつける。肉汁が飛び散り、ルーグの鼻腔に空腹の虫を刺激する香りが染み込んでくる。
「どうしたんです? お疲れですか、ルーグさん?」
ウェイトレスは即座には立ち去る素振りを見せず、ルーグの顔色を窺うように覗き込む。ルーグは彼女を見ないように小さく頭を振って、ジョッキに並々注がれたホピ酒を呷った。
「ちょっと昔を思い出してただけさ。だいぶ酒が回ってきたのかもな」
「ありゃ、あんまり深酒しないでくださいよー? 酒は飲んでも呑まれるな、ですよ~?」
警句を告げるとウェイトレスは立ち去り、ルーグは「あぁ、全くだ」とその背に小さく返答を投げた。
――昔を思い出していた。アレはもう何年前の事だろうか。ルーグがまだ新米のハンターで、彼女が健勝だった頃だ。何年も経た今でもこうしてすぐに思い出す事が出来る。それだけ自身の奥深くまで染み付いた、懐かしき幻想。
こんがり肉に齧り付きながら、今日はこれでお暇しようと考えていた矢先だった。隣の席に誰かが入り込んできた。
客の入りは上々だが、何も席が足りないと言う訳ではない。わざわざこんな酒場の奥にまでやってくる者は多くない。
誰だろう、と思ってちらりと横目を向けると、ヒゲこそ生やしているがまだあどけなさの残る中性的な顔立ちの、少年と言って良い年頃の男がこちらを見つめていた。その瞳にはキラキラとした眩い光が点り、刹那、ルーグの表情に「面倒臭いモノに遭遇した」と言わんばかりの苦渋が滲む。
「ルーグさん、でありますよね!?」まだ変声期も経てないような幼い声が弾けた。
「違う」
「あの伝説の猟団【黒虎の尻尾団】の副団長、ルーグさんでありますよね!?」
「人違いだ」
「あぁ、やっと逢えたであります……! 本当に嬉しいであります! あの、えっと、サインを頂けるでありますか!?」
「人の話を聞け」
「自分、ユニって言うであります! ルーグさんの弟子にして欲しいであります!」
今日は厄日だ、と思わずにいられない程にルーグの表情は窶れていた。
こういう輩に遭遇する事は珍しいが、全く無い訳でもない。どこからか噂を聞きつけ、どんな男なのか一目見たいと現れては、喧嘩を吹っかけられたり、今みたいに師事を乞われたり。
大体そういう理由で現れる輩は実力の乏しい新米ハンターか、ハンター業に従事していない人間だが、未だかつて彼らが提示する要求を承認した事が無いにも拘らず、こうしてまたどこかで噂を聞きつけた白痴が現れたようだ。
ただ、今回はどうにも今までとは趣が異なっている。風貌は十代も半ばと言った若さなのに、纏っている防具はアナキシリーズ……凄腕級のハンターしか着用する事が許されていない代物だ。武器は双剣で、ドン・デュアル……“呑竜”の異名を持つ飛竜、パリアプリアの素材で作られる武器だが、こちらも上位相当のハンターしか手に入れる事が出来ない。
ルーグが纏っている防具はアナトリシリーズ……こちらも少年――ユニ同様、凄腕級のハンターしか作成できない代物だ。武器は牙狼銃槍【巨星】と呼ばれる“響狼”オルガロンのガンランス。こちらも上位相当の実力が無ければ挑めないモンスターの武器である。
このユニと言う少年、少年の年齢ながら、三十代に差し掛かっているルーグとほぼ同等の実力者と認める必要が有る。そんな若き実力者が一体何ゆえ己に師事を乞うのかと、ルーグは眉根を顰めざるを得なかった。
「俺は弟子を取るつもりは無い。帰れ」
ルーグにとってユニは関心の向く相手ではなかった。素っ気無く応じると、こんがり肉を貪り食う。
「そこを何とか!」食い下がるユニ。
「帰れ」
「帰らないであります!」
「……」
こんがり肉を粗方食し終えるまで無視を決め込んでいたルーグだったが、頑として譲らないユニに痺れを切らし、食事の手を止めて改めて彼に向き直る。
線の細い男だな、と言う印象を覚える。美少年、と言える程の整った顔立ちは、如何にも女受けしそうに見える。何より若い。十代半ば……多く見積もっても二十代前半と言った瑞々しさだ。そして、その屈強な装備に見合うだけの力強さも窺える。
間違い無い。彼もルーグ同様、数多の苦難を乗り越えてきた、本物のハンターだ。
だからこそ解せない。ルーグには彼が己に師事を乞う行為を解す事が出来なかった。
「……予め言っておくが、俺はもう猟団には属していない」
ユニと言う少年が何を求めてここに来たのか杳として知れないが、彼が真剣に話をしたいと望んでいると認識を改め、ルーグは面倒臭かったが、それでも彼に向き合って話をする想いを固めた。
「はい、聞き及んでいるであります!」
闊達とした様子でユニは頷く。この時点でルーグの当てが一つ外れた。
もしかしたら己が以前属していた猟団へのコネクションを求めて訪れたのかと思ったのだが、彼の発する雰囲気からそれは否だと判断が下った。
だとしたらもうお手上げだった。自分を師事する理由など考え得る要素が見当たらない。
「自分、ルーグさんの傍にいたいのであります!」
有り体に言えば、降参だった。彼の熱意がどこから来るのか分からないが、とてもではないが己一人では彼の要望を退ける事は不可能だと、この時点で察する以外に無かった。
「一つ聞かせてくれ。どうして俺なんだ?」
言外に降服宣言を含ませると、ルーグは肩を竦めた。元々口数の少ないルーグでは彼を言い含める事が出来ない以上、せめて彼の口から説明を聞かせて貰うほか無い。
ルーグの質問に己の言い分が通った匂いを嗅ぎ取ったのだろう、俄かに表情を明るくしたユニは、嬉々として口唇を綻ばせた。
「自分は、ルーグさんに命を救われた一人であります。だから、いつか、命の恩人であるルーグさんに恩返しが出来たら良いなって、ずっと思ってたのであります!」
命の恩人。
身に覚えが無い訳ではなかった。猟団【黒虎の尻尾団】にいた頃もそうだし、猟団を抜けた後も幾度と無く人助け染みた事をしてきた。その中の一人なのだろうが、記憶の底を漁っても彼のような人物が浮かび上がる事は無かった。
「ルーグさんは憶えてないかも知れないであります。その時の自分は、今よりもっと幼かったでありますし」
記憶が無い、と表情に出ていたのだろうか。ルーグは居心地悪そうに顔を背けると、ジョッキを傾ける。ユニはその様子を嬉しげに眺めているだけで、嫌な感情を懐いているようには見えなかった。
「……自分の村はとても貧しくて、モンスターに襲われてもハンターを呼ぶ余裕が無かったのであります。でも、そんな時、ルーグさんが来てくれたのであります」手を合わせ、夢見る乙女のような表情で、ユニは語る。「大きなモンスターを相手に、たった一人で……村のみんなは諦めかけていたのに、ルーグさんはたった一人でモンスターを追い払って、村を救ってくれたであります。お礼も受け取らずにどこかに行っちゃった姿を見て、自分、とても、とぉーっても、憧れたのであります……」
えへへ、と眩い微笑を覗かせるユニに、ルーグは気恥ずかしさを覚えずにいられなかった。
一人で、と言う事は猟団を抜けた後の事だろう。猟団にいる間は団員と共に活動する事が多かった。とすれば古くても七~八年前になる。確かにその位の時期に彼の村を救ったのならば、そんな時に子供の顔など憶えている訳が無かった。
一人納得していると、過去の映像が脳裏にふと蘇った。土砂降りでぬかるんだ畦道の直中に這い蹲り、見上げる高さの女に声を荒らげていた自分自身の姿が。そしてそれを見下ろす冷たく、何故か奥深くに優しげな炎が見える、厳しい眼差しが。
――俺を、弟子にしてくれ!
(……そうか、そう言えば俺も、そうだったな……)
思わず口唇に笑みが滲んでしまう。自分が歩んできた道程の始点に立つ彼女。彼女のようになりたいと願っていた昔の自分が望んだ姿に、今の自分が追いついたかのような、そんな想いが過ぎる。
「……俺は、弟子は取らない主義だ」
ジョッキをテーブルに戻すと、ルーグはユニを正面から見据える。真剣な話は相手の目を見て、相手の一挙手一投足を逃さず、行う。全ては彼女から教わった手法だ。
ユニもルーグの想いを察したのだろう、背筋を正し、正面に向き直って瞳を覗き込んでくる。一回り歳が離れていても、臆せずに向き合えるだけで、彼の素質が窺えた。
「弟子は取らない主義だが、お前の熱意を汲んで、一度だけ」人差し指を立て、ユニを眼光鋭く捉えるルーグ。「一度だけで良い、お前の狩猟を俺に見せてくれ。それで判断する」
「は、はいでありますっ!」
ユニの表情が再び明るくなるのをルーグは見届けた。まるでもう弟子になったかのように小躍りを始めるユニに、ルーグは苦笑を刻み、残り僅かになったジョッキの中身を呷る。
ジョッキを空にしたルーグは「じゃあ明日の朝、またここに来い」と言い残してユニの肩を叩くと、そのまま酒場を後にした。
あちこちに灯りの点ったメゼポルタは深夜にも拘らず真昼のように明るく照らされ、街路を歩く者も楽しげで心が踊っている。
その中を歩くルーグの表情は、酒場にいた時とは別人のように暗く沈んでいた。ユニに期待を持たせるような言い方しか出来なかった自分を恥じ入るように、暗鬱な表情で家路を急ぐ。
弟子は取らない。そう、初めから結論は決まっていた。ただ問題を先延ばしにしただけで、至るべき結果は確定している。にも拘らず彼に一度のチャンスを与えたのは、彼の迸る熱意に負けたから、だけではないような気がしていた。
「……お前もあの時、こんな気持ちだったのか……?」
インナーの下に潜り込ませていたペンダントを開き、中に納まっている在りし日の彼女を見やると、胸が締め付けられるように苦しくなった。
メゼポルタの夜は更け、踊る火の光に紛れるように、ルーグは街の闇へと溶けて行った。

【後書】
今週から連載(と言う名の再掲)が始まりました「嘘つきの英雄」の第一話をお届けです!
当時は友達の誕プレとして綴っておりましたが、誕プレとしてではない読み物としても作成しておりましたので、折角なのでと再掲する事に!
この物語も、「ベルの狩猟日記」を知る方で有れば違和感を覚える程にシリアスな構成になっております。コメディも好きですけれど、こういうシリアス系も好きなんじゃよワシ~!
と言う訳で本日から毎週土曜の枠に配信して参りますゆえ、どうか最後までお付き合い頂けますように~♪ 次回もお楽しみに!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    始まりましたね。
    だいぶ忘れてきてしまっているので、再掲ありがたいです。
    このお話も終盤けっこう涙しながら読んだ記憶が…
    がんばってねユニちゃn(おっと…)

    シリアス系こそ先生の真骨頂なのでは?などと申しており…

    あぁ今回も暴走気味w

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      始まりましたよう!┗(^ω^)┛
      それは良かったです~! ぜひまたこの世界を堪能して頂けたら幸いです!
      って憶えとるやないかーい!ww 大事なシーンをしっかりと!www

      真骨頂…! (*´σー`)エヘヘ!w これはもうシリアス綴りまくらなきゃですな!w(※すぐ調子に乗るマン)

      いやぁ最高の感想ですよう!w もっと暴走してして!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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