2019年1月21日月曜日

【余命一月の勇者様】第45話 オワリュウと迷宮〈1〉【オリジナル小説】

■あらすじ
行くって、――まさか。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第45話

第45話 オワリュウと迷宮〈1〉


「――エンドラゴンに、第二王子の事故死の真相を聞く……!?」

 王城のお偉方が住まう一室。シュンはマシタがいびきを掻いて眠っている様子を背景に、今し方部屋を訪れた部下の騎士の話に、一瞬表情を歪めてしまった。
 部下の騎士は「えぇ、これで第二王子、引いては第一王子謀殺の犯人が判明するかも知れないとの事です」と、嬉しそうに応じた。「あの連中も、中々見所の有る奴らかも知れませんな」
「……」一瞬部下の騎士に睨み殺しかねない殺意の眼光を穿つも、即座に真顔に引き戻したシュンは、「……そうだな、これは我々もうかうかしていられないようだ」と小さく首肯を返した。
「シュン様? まだ謹慎の身は解かれていないのでは……?」マシタを置いて部屋を出て行くシュンに、慌てて声を掛ける部下の騎士。「陛下の不興を買われませぬか……?」
「――良いか?」部下の騎士を振り返り、シュンは厳しく、且つ丁寧に説明を始めた。「第二王子、第一王子の謀殺の犯行を暴くのは、第三者であっては困るのだ。王族の問題は、王族が解決する。であるなら、この問題をエンドラゴンに問うべき資格が有るのは、誰だと思うかね?」
「……!」驚きに目を瞠り、部下の騎士は素早く敬礼を返した。「失礼致しました。そうですよね、この問題は王族の問題。であるなら、マシタ様こそ、この犯行の真相を知るに相応しい……流石はシュン様です、そこまで見通されておられましたか……!」
「近衛騎士なら当然の思惟。貴様も胸裏に刻んでおくといい」と告げると、部下の騎士に背を向けるシュン。「私は陛下に謹告が有る、貴様は私の代理としてマシタ様の警護の任に就きたまえ」
「はっ、御心のままに」敬礼を返し、即座にマシタが眠る部屋の前に戻っていく部下の騎士。
 シュンはそんな部下の騎士にもマシタにも意識は最早向けておらず、胸の内に渦巻く焦燥感に顔色が悪くなる一方だった。
 あの冒険者が来てから、突然計画が狂い始めた。何もかも上手く行っていた筈なのに、彼らが現れてから全てが破断されていく。どこで間違えたのか――否、彼らこそが、間違いそのものなのだ。
 何とかせねばならない。計画を恙無く遂行するのも確かに肝要だが、何よりまずあの問題の塊である冒険者を取り除かねばならない。
 既に騎士の大多数が認め、国王陛下の恩寵すら受けている冒険者を罪人に落とす事など不可能だ。何とかして――その命を絶たねばなるまい。
 シュンは画策する。まずは陛下に上告し、取り次いで貰わねばならない。彼らを消すための前提、問題を解決する前段階――“迷宮に潜る許可を頂かねばならない”……
 白み始めた窓の外に、併しシュンは意識を向けない。練るべき計画は尽きない。全ては負の遺産を清算するため……そのためなら、悪鬼羅刹となる事も厭わない。

◇◆◇◆◇

「寝坊助共ー。起きんかいワリャー」
 パタパタと何かが羽ばたく音と共に、ペシペシと頭を何度も叩かれる感覚を浴びて、ミコトが難しい表情を返して瞼を持ち上げると、見慣れない生物が眼前に浮かんでいた。
 手のひらサイズほどの、小さなドラゴンだ。橙色の竜鱗で埋め尽くされた、首が長く胴体が丸っこいドラゴンは、くりくりッとした瞳でミコトを見下ろし、愛嬌の有る顔を笑みで綻ばせた。
「おう、起きたかワリャー」ドラゴンはパタパタと小さな翼を羽ばたかせて、ゆっくりとミコトの腹の上に軟着陸した。「ワレがあれやろ? 迷宮に潜りたいとか言う命知らずの鉄砲玉っちゅう兄ちゃんは」
「……ドラゴンだ」ゆっくりと手を伸ばして、小さなドラゴンを撫でるミコト。「温かい……」
「おう、何勝手にワイの事撫でとんねん、噛み殺すぞワリャー」
 幼子のような拙い声にも拘らず内容があまりにも物騒で、ミコトは思わず手を離して、まじまじとドラゴンを観察してしまう。
「あっ、こちらにいらっしゃいましたか!!」
 部屋の扉が勢いよく開いたと同時にオルナの焦りに焦った声が飛んできた。
 小さなドラゴンから視線を逸らしてオルナに向けると、彼はミコトの上に佇むドラゴンを見て言葉を失っていた。
「オ、オワリュウ様……?」
「おう、あんまりにも使いが遅うて暇やったから、ワイ直々に見定めに来てやったわ」偉そうに踏ん反り返る小さなドラゴン――オワリュウ。「ワレがネイジェ様が言うとったミコトっちゅう人族のガキやろ?」
「ガキって歳でもないが」ポリポリと頭を掻いて訂正するミコト。「オワリュウ? って言うのかお前。エンドラゴンじゃないのか?」
「ミミミミコト君んんん?? そのお方はアレだから、エンドラゴン様の御使いだから、親善大使だから、ああでもこいつ丁寧語使えないんだった! くそう俺の寿命がモリモリ削られていく!!」モダモダとのた打ち回り始めるオルナ。
「エンドラゴンの、御使い?」改めてオワリュウに視線を向けるミコト。
「せやで。ワイがエンドラゴン様の御使い、オワリュウ様や。よう憶えときや」ふふん、と偉そうに踏ん反り返るオワリュウ。「まぁそっちの近衛騎士のガキは敬えだの何だの喧しいかも知れへんけど、無理に敬わんでもええで。別にワイがオワリの国を守っとる訳やないし。ワイの主様であらせられるエンドラゴン様がこん国の守護者やさかい」
「エンドラゴンもそんな言葉遣いなのか?」ようやく起き上がり、膝の上に乗っているオワリュウを見下ろして尋ねるミコト。「独特だな」
「エンドラゴン様の言葉遣い? ワイとはちゃうでー、ワイのこれはあれや、むかーし迷宮に挑んだ冒険者の口調真似とるだけやねん。せやから若干どころかあっちこっちおかしいとこあるで。何かこの言葉遣いあれやろ? 親近感湧くやろ?」と楽しそうに捲くし立てると、「ボッ」と小さく炎を吐き出すオワリュウ。「まぁそれはええねん、ミコトっちゅうたな? ワリャ、迷宮ってどんなトコか知っとるか?」
「危険な場所ぐらいの認識しかないが」オワリュウに向き合ったまま小さく応じるミコト。「罠や謎を解かないと進めない、名の通り、“迷う宮”って思ってるんだが」
「せやな、強ち間違ってはおらんな、うん」長い首をゆらゆらと縦に振るオワリュウ。「言うても、エンドラゴン様がおられる迷宮には罠も謎もあらへん。あんのは試練や、試練」
「試練?」とミコトが不思議そうに反芻した瞬間、「うおおっ!? ミコト!! ドラゴンがいるぞドラゴン!! ちっちぇえなぁ!? これがエンドラゴンって奴か!?」とマナカの爆音が轟き、部屋にいた全員が驚きで飛び起きて、何が起こったのか分からずワタワタし始めた。
「……話はまぁ、皆が落ち着いてからでも遅くは無いですよね……? オワリュウ様」
 オルナの困惑しきった声も聞こえないほど、オワリュウは突然耳元で弾けたマナカの爆音に、フラフラと頭をふら付かせて「な、何やこいつ……」と弱り果ててしまうのだった。

◇◆◇◆◇

「――改めて自己紹介するで? ワイがエンドラゴン様の御使いの、オワリュウや! 宜しゅうな!」
 そう言ってパタパタと小さな翼を羽ばたかせて飛び回り、一人一人と、その小さな前脚で握手を交わしていく。
「美味そうなドラゴンだなミコト!」「マナカくぅーん!? それだけは絶対に言っちゃダメな感想だからねー!?」マナカの口を大慌てで塞ぎに跳び上がるオルナに、周囲から笑声が零れた。
「お、恐ろしい奴やであのクソガキ……」怯えた様子でミコトの元に羽ばたき、肩にちょこんと乗るオワリュウ。「マツゴ様が受け取ったっちゅう、ネイジェ様からの書簡は、ワイも読ませてもろたで。ミコト、ワリャ大変な運命に選ばれたみたいやな」
「大変な運命かも知れないが、そのお陰で得た思い出は、俺の財産になってるぜ」オワリュウの首を優しく撫でるミコト。「こう言っちゃ難だが、俺はこの運命に選ばれて、良かったとさえ思ってるぐらいだ」
「ほほーう、中々胆の据わっとるガキやないけ」翼を羽ばたかせてミコトの手を振り払うオワリュウ。「あと気安く撫でんなや! ワイは高貴な竜種やぞ! 丁重に扱え丁重にぃ!」
「丁重に扱ってるつもりなんだが」苦笑を滲ませるミコト。
「ふん、まぁええわ。ワリャ迷宮に潜りたいと、そんな願いを叶えるためにここまで来たっちゅう話やったな?」ちょこちょこと後ろ脚を踏み締めて、ミコトの肩の居心地のいい場所を探るオワリュウ。「んで、あわよくばエンドラゴン様に願いを叶えて貰えればええなーって、そんな話やったな?」
「そうだな」コックリ頷くミコト。
「あのドラゴン、俺より頭いいんじゃねえか?」レンに声を掛けるマナカ。
「それはあまりにもドラゴンに失礼過ぎでしょ……」呆れ果てた声を漏らすレン。
「マナカくぅーん? 君ヤバいよ色々?? 仮に王族だとしても俺もう何の擁護も出来ないレヴェルの失言のオンパレードで俺の心臓が持たない!!」小声で必死にマナカの口を押さえようと青褪めているオルナ。
「ワシもあまりの不敬に胃痛がしてきたぞ……」青褪めた表情でニメとサメに寄りかかるミツネ。
「まず先に言うとくで。エンドラゴン様の治める迷宮には、罠や謎の類いはあらへん。有るのは試練や。試練さえ突破できれば、誰でもエンドラゴン様に逢える」ミコトの肩の上で踏ん反り返るオワリュウ。「勿論、今回みたいに、挑むためにはマツゴ様の許可を得たり、エンドラゴン様の許可を得たり、色々手順は踏まなアカンけどな?」
「試練って、例えば難問を解け、とか、そんな感じのモノか?」左肩の重さに少しずつ肩が下がっていくミコト。「それとも、魔獣と戦うとか」
「試練は三つ!」ボッ、と火を吐くオワリュウ。「せやけど、ワイが教えられるのは一つだけや。当然やな? 試練の内容が分かっとったら、対策と用意が出来る。迷宮はその性質上、一度挑んだら二度と挑めへんのよ」
「なっ」「おっ?」「えっ!?」ミコト、マナカ、レンの驚きの声が重なった。
「ん? まさかおたくらそれも知らずに迷宮に挑むつもりだったのか……?」驚きに目を瞠るオルナ。「そもそも誰でも何回でも挑める場所なら、何れ誰でも願いを幾つでも叶えられる場所になってると思わないかい?」
「……確かにそうだ」盲点だった、と頭を押さえるミコト。「つまり、俺達が願いを叶えて欲しければ――――」
「せや、そのたった一回の挑戦権で、最奥――エンドラゴン様の元まで辿り着かなアカンっちゅう訳や」
 ミコト、マナカ、そしてレンの表情に緊張感が走った。
 今まで想像すらしていなかった。そもそも、迷宮に挑めば必ずエンドラゴンに逢えるとも限らないとは、確かに考えてはいた。
 けれど、その権利自体が、たったの一度きりと言うのは、想定外だった。
 つまり、些細なミスでも、迷宮攻略が失敗に終わった時点で、エンドラゴンには逢えず、願いを叶えて貰える、その前提自体が崩れると言う事になる。
 対策が立てられない。用意も準備も出来ない。その環境下で、たった一度きりの挑戦権を片手に、三つの試練を攻略する……
 それは今までの冒険の何倍、……否、何十倍、何百倍の難度を誇る探索だろうか。
 突然生じた緊張と、失敗を連想する恐怖に震えそうになるミコトだったが、その首筋をスリスリと、優しく撫でる竜鱗に気づいた。
 眼前で「ボッ」と小さく炎が弾けた。驚きに瞬きするミコトに、オワリュウは「弱気になったんかワリャ? それとも怖なったか?“何もかんもがオジャンになる未来が”」と笑い飛ばした。
 ミコトは一瞬忘我に陥った後、自ら頬を両手で張ると、「――いや、ちょっと眠気に襲われただけだ」と左肩に向かって笑みを見せた。
 そんなミコトの様子に、マナカとレンは互いに小さく吐息を漏らすと、挑戦的な笑みを見せて頷き合う。
 空気が変わった事に気づいたのか、オワリュウは嬉しそうに「カカッ」と笑声を漏らした。
「せやで、根性見せたれガキンチョ共! ワリャが挑むのは、オワリの国を守護してきた、偉大なる竜種、エンドラゴン様のおわず居城やで! そう来なくっちゃなぁ!!」
 カッカッカッ、と嬉しそうに笑っていたオワリュウだったが、やがて落ち着きを取り戻すと、「ボッ」と溜め息のように炎を吐き出した。
「んじゃまぁ、話を戻すで。ワイが教えられるんは、試練その一だけや。試練その一、これは――“欲を試される試練”や」
「欲を試される、試練」反芻するミコト。
「俺の食欲を嘗めて貰っちゃ困るぜ!」むんっと力こぶを作るマナカ。
「せやなー、そこのクソガキが一番難儀しそうな試練やな」陰鬱な笑みを覗かせるオワリュウ。「ワイから言えるんはそんだけや。さて、ほんなら行こか」と、ミコトの肩から飛び立って、パタパタと扉に向かっていく。
「行くって、――まさか」
 ミコトが思わずと言った様子で椅子から立ち上がると、オワリュウは振り返りながら、意地の悪そうな笑みを見せた。
「勿論、迷宮に決まっとるやろ?」

【後書】
 いよいよ始まりました迷宮編! ぜひミコト君達と一緒にドキドキ読む進めて頂ければ幸いです!
 ところで先週は突然お休みして申し訳ぬいでした…どうやら職場でインフルさんを賜ってしまったようでして。体調管理がね~今年も頑張らないとですね~。
 あとこの物語は二月の末で一度お休みを挟む予定です。単純にストックが無いからですが、二月の末辺りまでオフラインの方がドタバタしそうなので保険として…それが終わったら当分暇の予定なので、またモリモリ更新できたらいいなー…!
 さてさて、次回はいよいよ第一の試練! ではなく! もう少しだけ導入が続きます。お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    インフルさんからよくぞご無事で戻られた!待ってましたぞ!!
    無理はせぬようのんびりとな。

    オワリュウ様らぶりぃ~vv(突然w
    もーやばいっす!可愛すぎてやってられないっすよ!
    うちにもぜひぜひいらしてほしいです!先生なんとかonegaiitasi(錯乱
    てか、あれだオルナさん頑張って生きて!

    冒頭の黒いパート、まだまだ波乱がありそうで…

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

    返信削除
    返信
    1. 感想有り難う御座います~!

      有り難う御座います~! ただいま戻りましたぞ~!ヾ(*ΦωΦ)ノ
      うっかり初日から飛ばしてしまいましたが、のんびりとねのんびりと!w

      「オワリュウ様らぶりぃ~vv」頂きましたーっ!w
      (*´σー`)エヘヘ!w そこまで可愛さを感じて頂けたのなら大勝利です!w
      オワリの国じゃなくてとみちゃん家の守護者にしなくちゃね!ww
      オルナさんはほんともういつの間にか苦労人属性がねwww

      ですです、まだまだ仄暗いシーンが出てきますのでその辺もお楽しみに…!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

      削除

好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!