2019年1月29日火曜日

【ベルの狩猟日記】076.犠牲多き走り【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
■第76話

076.犠牲多き走り


 時は少し遡り――ラウト村。
 静かな酒場を一人でせっせと掃除する人影が有った。――コニカである。彼女は頭に三角巾を載せ、いつもティアリィが着ている給仕服を身に纏い、箒を使って店内の清掃作業に従事していた。
「ふぅ。綺麗になったかしら」
 小休憩を挟んで店内を見渡してみる。輝いて見える――などと言う事は無いが、見る限りでは埃や汚れは無い。それだけでコニカの心は澄んだ風が入り込んだようにスッキリするのだ。
「やっぱり、皆さんがいつも使う場所ですし、綺麗な方が良いですよね♪」
 と、一人で納得して喜び始めるコニカ。今度は彼らが寝泊りしている小屋を掃除しようと思い、掃除道具を纏めようと動き出した、その時だ。酒場の外から絶叫が聞こえたのは。
「!」
 驚きに体を竦め、恐る恐る酒場の入口を見やるコニカ。絶叫は止み、続いて誰かが駆けて来る音が聞こえる。併もその足音は、徐々に酒場へ向かって来ている。
 ラウト村には今、コニカとアネ――武具屋のガーネハルトしかいない筈だ。にも拘らず、聞こえてきた悲鳴はアネのモノではない。だとすると、一体誰が――
 コニカはそこで思考を一時凍結する。怖くて、声が出ない。体が自然と震えだす。まさか、野盗なのだろうかという思考に辿り着きそうになり、コニカは顔を真っ青にする。
 足音は酒場へ辿り着き、扉を壊すように跳ね開けると――
「た、助けてくれェェェェ―――――――――ッッ!!」
 一人の青年が転がり込んで来た。
 倒れ込んだ青年は身の丈よりも大きい風呂敷を抱えている。梳かれていない茶髪から覗く碧眼は恐怖一色に染まっていたが、コニカを見て、見る間に喜びに移り変わっていく。
「コニカさん!! 抱き締めて良いですか!?」
「――ウェズさん!? ど、どうしたんですか!? さっきの悲鳴は……っ!?」
 突然現れた行商人の男――ウェズの発言を無視して尋ねるコニカ。ウェズは「それが……」と口を開こうとしたが、その想いが言葉になる事は無く、扉を開け放った何者かに遮られた。
「んもう! ウェズちゃんたら恥ずかしがり屋なんだからぁん♪」
 ずんッ、と一歩踏み締める度に、“仙高人”の異名を持つ巨大な甲殻種――シェンガオレンの闊歩に似た足音を立てる、メイド服を纏った筋骨隆々の男――ガーネハルトが、酒場の戸口で「ふしゅるるるる」と口から怪物染みた吐息を吐きつつ、瞳をギラギラ輝かせながらウェズを見つめる。
 ウェズはそれを視認するや否や言語障害に陥ったように、言語化できない声を口から走らせ、ワタワタとコニカの元へ何とか逃げようとするが、ひょい、と首根っこを掴まれ、アイルーのようにぶら下げられてしまう。二メートル近い巨躯を誇るアネだからこそ出来る芸当だった。
 くりっ、と摘まんだままのウェズを回転させ、間も無く衝突すると言う距離で見つめ合うアネ。
「あちしに逢いに来たんでしょう?」うっとりと陶酔したような顔でアネ。
「ちがッ、断じて違いますッ!!」折れる位に首を否と振るウェズ。
「あん? 今、何て言ったんだグルァ?」突如として牙を剥くアネ。
「いや~、アネさんの顔を一目見たくてやって来ちゃいましたよ僕ァ♪」頭から滝のように汗を流しながらウェズ。
「そうよねぇ~ん♪ んもうウェズちゃんたら♪ 可愛い♪ キスしちゃいたいわぁん♪」すりすりと頬を擦りつけるアネ。
「ぐぇえぇええええ……剃り残しの髭がじょりじょりするぅ……」泣きながらされるが儘のウェズ。
 二人の様子を見て、コニカは「二人は仲が良いんですね~♪」とはにかみ笑い。
「ちっ、違ァァァァ―――――ッッ!!」
 ウェズの悲痛な絶叫がラウト村に響き渡ると同時に、近くに止まっていた小鳥達が一斉に羽ばたいていく。

◇◆◇◆◇

「……あの、それでベル達は狩猟にでも出掛けたのですか……?」
 青褪めた表情で、ウェズが呟きを落とす。その体は、アネの膝の上に有る。アネの体躯を以てすれば、ウェズなど子供みたいなものだった。
 ご満悦の表情でウェズの頭を撫で撫でしているアネを無視して、ウェズは意識の全てをコニカに向ける。最早コニカしかこの場にはいないのだと自分に言い聞かせるように。
「ベルさん達なら、ティアリィさんの付き添いで、オートリアの街に出掛けて行かれたのですけど……用事でも有りました?」
 ティアリィの代わりにお茶菓子とお茶を用意するコニカ。普段は見る事が無い給仕姿のコニカを見て、「眼福だ~」と、つい鼻の下を伸ばしてしまうウェズ。
「あ、いやぁ、エルちゃんから手紙を預かってて……――って、オートリア?」
 鼻の下を伸ばしただらしない顔から急に真顔に戻ったウェズに気づいたのだろう。ひたすらウェズの頭を撫でていたアネが「オートリアがどうかしたのぉん?」と野太い猫撫で声で尋ねる。
「いや、オートリアって、ベルの故郷みたいなもんなんですよ。あいつ、そこでワイゼン翁に拾われて、猟人になったんですし」
「ワイゼン翁!」驚いて大口を開けるアネ。「そりゃまた、大層な有名人に拾われたのねぇ、ベルちゃんって……」
「ベル自身は気づいてなかったみたいですけどね」苦笑を返すウェズ。「――って、ちょっと待って下さいよコニカさん。ティアリィさんの用事って事は……ティアリィさんは私服で向かったって事ですか!?」
「え、ええ、そうですけど……?」
 突然大声を張り上げるウェズに驚いてたじろぐコニカ。ウェズはその言葉を聞き、ごくりと喉を鳴らす。
「ティアリィさんは普段ここで働いているから、私服姿など見る事が出来なかったのに……くうっ、もう少し早く来ていれば……ッ!!」
 ダンッ、と悔しそうにテーブルを殴りつけるウェズ。コニカには彼の心情がよく解らず、頭の上に疑問符を並べてしまう。
「あらぁん? ウェズちゃん? それはつまり、あちしの私服姿が見たいってこ・と・よ・ねっ?」
 バチィンッ、と強烈なウィンクをしてウェズを熱烈に見つめるアネだったが、当の本人はそれ所ではなかった。
「こうしちゃいられない! 僕も今からオートリアへ行かなければ!!」
「はい? で、でも、ティアリィさんはすぐに帰って来るって……」
「――コニカさん」
 ウェズは不意に立ち上がると、コニカの両手を握り締める。その顔は真剣そのものだ。思わずドキッ、と、ときめいてしまうコニカ。
「男には――否、このウェズには、どうしても行かねばならない時が有るのです」
「は、はぁ……」小首を傾げて曖昧な微笑を浮かべるコニカ。
「――そう! ティアリィさんの私服姿を一刻も早くこの瞳に映さねばならないのですッ!!」
 ダンッ、と片足をテーブルの上に載せて吼えるウェズ。コニカはそれを見て「あぁ、テーブルを汚さないで下さいぃ~っ」と笑い泣きの表情。
「でも、ここからオートリアまでって、相当な距離よぅ? 竜車は無いし、徒歩で行ったら行き違いになるんじゃなぁいぃ?」
 アネの指摘は尤もだ。どれだけ速く走った所で、人と竜車では速度も体力も違い過ぎる。フルマラソンを軽く凌駕する距離にも拘らず、ウェズには何か策が有るのか、ゴソゴソと風呂敷を漁り始める。
「これだけは使いたくなかったんだけど……もう使うしかあるまい……!!」
 どこか目が逝っちゃってるウェズに、怖ず怖ずとコニカが声を掛ける。
「あ、あの、ウェズ、さん……? そこまでして、ティアリィさんの私服姿は見ないといけないんでしょうか……?」
「勿論ですとも!!」
 グァバッ、と上半身を百八十度回転して振り返るウェズ。その動きにコニカは恐ろしさのあまり、「ひぃっ」と短い悲鳴を上げてしまう。アネも驚きに目を瞠っていた。
 ウェズは体勢を直し、「良いですか?」と教師のように二人の生徒を相手に弁を振るい始める。
「ティアリィさんは基本、メイド服を着ているじゃありませんか。あのままでも充分に可愛いです。僕は大好きです。愛してます。――でもッ、外出と言う状況変化で訪れるコスチュームチェンジッ、これを見逃しちゃダメなんですッ」
「はぁ……」「ウェズちゃん、いつに無く熱いわねぇん……」どこか醒めた眼差しのコニカとアネ。
「コニカさんのメイド服も僕にはかなり来てます。至福以外の何物でもありません。正直、ずっとこの場に居座っていたい……でもッ、僕にはそれは出来ないッ。何故ならッ、ティアリィさんの私服姿を拝まずして男と言えるのかッッ……そう、僕は思ったんです……」
「ウェ、ウェズさんって、変わってるんですね……?」
 話の内容を殆ど理解できないコニカは、そう応じるしかなかった。
「そこで僕は、これを使ってオートリアに向かいます」
 右手に持って掲げた代物は、液体の入ったビンだ。無色の液体だが透明度は若干低く、まるで水飴のように見える。
「それは?」ビンを指差して問うコニカ。
「これはですね……ゲリョスと呼ばれるモンスターから抽出された体液……“狂走エキス”と呼ばれる代物です」
「あぁん、こんがり肉と調合すると強走薬グレートって薬になる素材よねぇん? 強走薬グレートでも作って、走って追いつくつもりかしらぁん? 流石に無理じゃなぁいぃ?」
 アネが腰をくねらせて告げるが、ウェズは否と首を振る。その表情はいつに無く険しかった。
「調合するのではなく、原液を飲むんです……ッ!!」
 直後、アネの両眼が大きく見開かれる。
「ちょっと!? ウェズちゃん止めなさい!! モンスターの体液を原液のまま飲むだなんて……正気の沙汰じゃないわ!!」
「……済みません、アネさん。でも僕には、為さねばならない事が有るんです……ッ!!」歯を食い縛って、苦痛に耐えようとウェズ。
「ウェズちゃん……っ、貴方って人は……っ!!」
 くっ、と視線を逸らしたが、やがて諦めたようにウェズの体を抱き締めるアネ。ウェズも、今回は嫌悪感を顔に出す事は無かった。
「……生きて、帰ってくるのよ……ッ!!」
「……はい、必ず……!!」
 二人は確りと抱き合い、帰還を誓い合う。
「……ティアリィさんに逢いに行くだけなんですよね……?」
 空気に付いて行けないコニカは目を点にして見守るしか出来ない。
 やがてウェズは、ビンの蓋を開けながら、ゴクリ、と生唾を飲み込む。
「うぷっ、凄い匂いだぜ……!!」
 確かに、ビンから漂ってくる臭気はとてもではないが飲物の発する匂いではなかった。汚物や廃棄物などの混ざった腐臭に似た臭気が酒場を満たしていく。
「うぅ……酒場が酷い事になっていきますぅ……」
 あまりの臭気に目を回し始めるコニカ。
「いざッ!」
 それでも英断のままにウェズはビンを口に当て、仰け反る。
 どろっとした液体がウェズの口に入り、喉を通過する様を見届けたアネは、畏敬の眼差しを投げ、「貴方の男気、確かに見せて貰ったわ……ッ!!」と感嘆の声を漏らした。
 ごくん、とビンに入っていたゲリョスの体液を飲み干したウェズは、ビンを放り投げ――床に体を投げ出すように倒れた。
「ウェズさんッ!?」「! 待って!」
 コニカが咄嗟に駆け寄る前に、アネが腕を掴んで引き止める。どうして? と視線で問うてくるコニカに、顎でウェズを示すアネ。
 端的に言えば、ウェズは痙攣していた。
 ただ、小刻みに震えると言うレベルではなく、動きに残像が走る程の痙攣である。体が軟体生物のように滅茶苦茶に撓り曲がり歪み弾み――人間とは思えない動きでのた打ち回っている。
「ウェウェウェ、ウェズさんッ!?」
 恐怖のあまり身を竦めてしまうコニカ。その眼前でウェズは、残像を付けながら立ち上がると、「うふぇうはえくあるあ――もぴーッ!!」人語を解さずに絶叫すると、シャツを筋肉の蠕動だけで弾き飛ばし、刹那に姿を消した。
 直後、凄まじい破壊音と共に酒場が軽い震動に襲われた。コニカが驚いて蹌踉いたのを、アネが逞しい腕で受け止める。
 視界を巡らせると、酒場の一角に人型の穴が穿たれていた。
「ウェ、ウェズさんは……?」
 恐る恐るコニカが口にすると、アネは小さく首を否と振った。
「……あの子はきっと戻って来るわ。だから――」
 ――まずは、掃除しましょ?
 そう言って、惨状と化した酒場を振り返った。酷い悪臭の漂う、震動で埃が舞った、壁に穴が穿たれた酒場。コニカは今更それに気づくと、泣き顔を作った。
「せ、折角お掃除したのにぃ~!」
 コニカの鳴き声が、鳥のいなくなったラウト村に朗々と響いた。

【後書】
「一方その頃――」みたいな感じで綴られる閑話が大好きな日逆さんです。どうも!
 このエピソードはだいぶお気に入り度高めです。ウェズ君が大惨事になる話はどれも大好きなんですが!(笑) やー、アレです、「狂走エキスを人間に飲ませて「もぴー!」って言わせたい」って発想から生まれた話ですこれw でまぁ飲ませるとしたら候補がもうウェズ君しかいなかったんでね、必然です。やったなぁウェズ君!w
 とまぁここまで平和平和の平和~な展開でしたが、いよいよ雲行きが怪しくなってくる次回です。いやまぁ今回の話でもうウェズ君の雲行きが真っ黒なのはさておいてですよ!ww ここまで狩猟シーンも無いままひたすら日常シーンでしたが、はてさて。そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    やったなぁウェズ君!w

    どこから湧いてくるのその情熱、素晴らしいですww
    愛されてるなウェズ君!

    これまで日常シーンだけなのに満腹になってしまうベル日恐ろしす…
    愛すべき登場人物たちがちゃんと自分の物語を持ってるから、
    何気ない日常でもたのしめるのかな?なんて思ってみたりw
    大好きベル日!

    ついに雲行きが…

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      やったなぁウェズ君!ww

      ほんそれwwwウェズ君ってもー訳の分からない所で情熱爆発させますからねこの子!ww(笑)
      愛されてますよう!w もー好き!w

      満腹になってしまいましたか…! ベル日ヤバいな…!ww
      「自分の物語を持ってるから、何気ない日常でもたのしめる」
      と言うのがも~!w わたくしの目指した世界の一つでも有るので、も~!w 最高最高の最高です…有り難う…!
      やったぜ!(*´σー`)エヘヘ!w 大好きと言って貰えるこの嬉しさよ!w

      そしていよいよ雲行きがね…! ぜひ楽しみに…いやそれも何かおかしい気がしますなw お待ち頂けたらと思います!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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