2019年1月31日木曜日

【春の雪】第2話 恋純の相談【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2008/11/15に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


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■第2話

第2話 恋純の相談


 翌日。
 いつものように遅刻ギリギリに登校すると、……何故か俺の机を中心に人が集まっている。何事だ?
「あ、ニイさんが来たぞ!」
「おいニイ! こりゃ何だ!?」
「ニイって言うなっつってんだろ! ったく……ん?」
 俺の机の上に何か置いてあるのが見えた。近づいて気づく。ハンカチだ。昨日女子に渡したハンカチが、綺麗に洗濯されて、丁寧に折り畳まれて鎮座していた。隣には、可愛らしい便箋。中身はただ一言。『昨日はありがとうございました』……昨日の奴だと、一瞬で分かった。
「おいおい、ニイさん、一体何したんだテメー?」
「ニイさんも隅に置けませんなぁ、んっふっふ」
「るせぇな散れ! 見世物じゃねえんだぞ!」
 手で振り払うモーションを取ると、今度は遠巻きに俺を見守る野次馬共。……いつか殺す。
 ともあれ、昨日の女子は今日も無事登校できたんだな、と思考を切り替える。あの後、再び奇行に走らなかった事を考えると、俺のした事もそれなりに役立ったんだな、と少し誇らしい。最後の人助けだと考えると、最後の最後に本当に良い事をしたと思えて、ちょっぴり嬉しい。
「おはよう、一非(いちあら)」
 肩を叩かれて振り返ると、そこにはムカつく位に爽やかな好青年の姿。
「よう空冴(くうご)。朝から生きてたか」
「いつもは死んでるみたいに言うなよ!? 朝から酷いなー、君って奴は」
 隣の席に腰掛けると、空冴は我が物顔でクラスメイトに挨拶を交わす。誰からも好かれていて、俺にとっちゃいけ好かない野郎だ。
 星織(ほしおり)空冴(くうご)。クラス一の優等生にて容姿端麗・運動神経抜群・成績優秀な天才。家が金持ちで、学校にも多額の寄付をしているとか何とか。お陰で先生の受けも宜しくて、同時に生徒からの信頼も厚い凄い奴。……と言えば聞こえは良いが、俺にとっては目の上のコブでしかない。容姿端麗と言うだけあって、目鼻立ちが完璧と言える程に整い、まさに絵に描いたような美少年なのだが、それを自分で認めている事が気に入らない。
「今日の調子はどうだい、一非? 何か変わった事は無い?」
「るせぇな、一々ンな事聞くな」ぶっきら棒に返す。
「君の健康状態を逐一観察するように言われてるんでね。仕方ないんだよ、いつも言ってるけど」
「お前の存在が仕方ないけどな」
「それってどういう意味かな!?」
 からかい甲斐が有ると言えばそうかも知れない。何より、留年生である俺に話しかけてくるのは、彼のような超優等生か、
「ハロ~、ニイくん、ホシくん♪」
 ――ゴシップ好きな女子くらいのものだ。
 俺と空冴の肩を同時にぶっ叩き、軽い挨拶を交わしてくる女子の名前は紀原(きはら)美森(みもり)。通称美森。誰にでも分け隔てなく話せる凄い奴。俺みたいなロクデナシや、学校のアイドルである空冴に、全く臆面無く話しかける事が出来る変人だ。
「よう。朝からテンション高ェな、お前はいつも」
「やぁ美森。今日は新しいネタは無いのかい? 君の話はいつもどこから仕入れてくるのか、いつだって新鮮そのものだからね」
「でしょー♪ あたし様はいつかアメリカの謎も解き明かすつもりなのよ!」
 お前の思考回路が一番の謎だけどな。
 突っ込む気にもなれずにだれていると、噂話好きなマイクが俺の鼻の穴に突っ込まれる。
「ふが!? って何してやがんだ美森!」
「インタビューですよニイくん! これは歴としたインタビューなのです!」
「人様の鼻の穴にマジック突っ込むのがインタビューかゴルァ!?」
「日本ではね」
「日本の記者全員に今すぐ謝れ!」
「それはともかくニイくん。今朝のハンカチ事件の真相を教えてよ~。あたし、気になって授業中にも聞きに来ちゃうぞっ☆」
「多大な迷惑だ。先公にも謝れ。や、別にオニセンには謝んなくて良いか」
「じゃあ今、話しなさいよ~。で、誰なの相手は? 下級生? 同級生? まさか、禁断の先生との……!?」
「あっはっはっ。美森は本当に噂話好きだなぁ。一非、僕にも聞かせてくれよ。君が一体何をしたのか、非常に気になるからね」
 くッ、ウゼェ奴らだ。そんなんどーでも良いだろーに。……第一お前らは相手の気持ちを考えないのか。俺がどうでも良くても、渡した相手が嫌な想いする位、気づかねえのか。
 ……まぁ、こいつらなら気づいたところでそれすらオカズか。サイテーだな、けっ。
「知らねえよ。さっさと席に戻れ。授業が始まるぞ」
「おや? いつもはフツーに不真面目代表のニイくんが授業を気にしている? もしや、あたしの予想通り相手は先生かー!」
「大声で言うな! 皆が俺を見て密々話しだしてんだろーが!」
 ――盛大に戸が開け放たれる音がして、オニセン乱入。とてもヤーさんっぽい眼差しを俺達に満遍無く向けて、一言。
「おら、授業始めるから席に着けよー。委員長、挨拶!」
「は、はいっ」
 ファッション誌に出てくるモデルのように凄まじく整った、と言うか男子から見たら悩殺プロポーションに、これまた空冴とは別種の容姿端麗な顔立ち。生徒教師の柵を無視した、気さくな先生だと言われているオニセンこと鬼野(おにの)笑美(えみ)教諭。俺との関係は水と油。或いは犬猿とも言う。
「お。今日は二位(にくらい)来てるな。よしよし、ようやく私の指揮下に入る気になったか」
「なってねえよ! 何だ指揮下って!? ここ学校だろ!?」
「この教室で私に従っていないのはお前だけだ二位。それを自覚しろバカ」
 ゆらりと立ち上がる俺。ペキポキと指の骨を見せしめに鳴らしてやる。
「先公の分際で生徒にバカとか吐かしてんじゃねえよ、あァ?」
「ほほう、またもこの私に逆らうと吐かすか小童。良いぞ、掛かって来い。その顔、見るも無惨なものに変えてくれる!」
「どんな教師だお前は!? ――てぶッ」
 ぱかーん、と出席簿で顔面張手。……ねぇ、これって訴えたら俺、勝てるよね? この先公、あまりに普通に体罰振るうから誰も何も言わないだけで、明らかに俺に分が有る筈なのに、おかしいよここ!
「はいはい、二位席に着けー。退席禁止にするぞー」
「普通逆だろ!? 出席させないようにしろよ! 学校から出さない気かお前は!!」
「お前が従順な生徒になるまでここに縛りつけたいのを抑えて、仕方なく退席禁止なんだ、それを分かれ」
「分かるか!」
 つか怖いよこの教師! 俺、いつか学校に磔にされるんじゃね!?

◇◆◇◆◇

 授業はオニセンの熱弁で終わっていく。時折脱線するのが彼女らしい授業で、それ故に生徒からの人気が高い。俺は大抵寝てるんだが、度々チョークが飛んでくるので安心して眠る事すら出来ない。いつか、いつかぶっ飛ばしてやる、オニセンめ。
 その授業中の事だ。
「この問題を前に出て解いてみろ。そうだな、順番から言って……恋純(こいずみ)、前に出て来い」
「あ……はい」
 物静かな声。俺は再び眠りに就こうとして、出来なかった。眼が見開かれて、恋純と呼ばれた女子生徒を凝視する。小柄な体躯。暗そうな印象を与える、俯き加減な姿勢、顔の半分を覆う黒髪、そして――手の甲の絆創膏。
 彼女だ。
 ぽかん、と女子――恋純を眺めている自分に気づき、慌てて視線を逸らす。ヤバいヤバい。今のが美森に見つかっていようものなら、何を言われるか……
 その後、恋純は席に戻り、あまり目立たない感じで授業を続行していた。……あまりに目立たない生徒だったからだろうか、今までクラスメイトだとも気づかなかった。あの小さな体躯から連想して、てっきり下級生だと思っていた。
 そっか。ちゃんと学校にも来れてるんだな。俺はちょっと安堵して、再び眠りに就いた。
「起きろ二位ー。私のとってもタメになる話を聞かないと怒るぞー。殴るぞー。ぶっ飛ばすぞー」
「お前本当に教師として大丈夫か!?」
 本気で不安になる俺だった。

◇◆◇◆◇

 昼休み。俺は大抵コンビニで買ってきたお握りを食べて腹を満たす。隣の空冴は学食派で、この時間だけは席を外している。美森は他のクラスメイトとどこかで雑談に花を咲かせながら食事会でも開いてるのだろう。なので、自然と昼の時間は一人になれる。
 屋上へと上がり、誰もいない事を確認して、扉の上の空間に寝転がる。こうやって静かに一人で空を見上げているのが好きだ。まるで、世界が終わったような感覚に浸れる。俺が世界から隔離されたような感覚は、淋しいようで、苦しいようで、……生きてるようで。
 ――扉が遠慮がちに開く音が聞こえて、俺は寝転がって移動する。先公か? にしては、やけにビクビクした感じだな。
 戸惑った感じで時間が静止する。……誰だろう、俺は気になって身を乗り出すが、丁度影になって、入って来た人物が見えない。暫らくそのまま入って来た誰かが去るのを待とうとも思ったが、相手に去る気配が無いのを悟ると、俺は躊躇ってから声を掛けた。
「屋上に何か用か? ここ、立入禁止になってんだけどな」
「――――」
 扉の影が震える。直後、逃げ出すような気配も有ったが、動けないのか、立ち去る事は無かった。
 ……何だか気分の良くない時間が流れる。
 俺は気になって扉の上の空間から下りると、――やっと分かった。昨日の女子――恋純とかいう奴だ。
「あ、お前か。どうした? 俺に用が有るのか?」
「…………」
 ビクビクと俺に視線を向けたり逸らしたり。……俺、そんな怖い顔してんのかな。ちょっと自覚が有るだけに、何気に傷つくんだよな。
 暫らく口ごもっていた恋純は、躊躇いがちに口を開いた。
「えと……相談が、……有るんです」
 蚊の鳴くような声で、でも確かに意志を持って、恋純が呟いた。
 俺はちょっと気恥ずかしくて頬を掻くと、苦笑して応じる。
「良いけど……俺、あんな事言っといて何だけど、力になれそうか?」
「…………」分からないのか、答え難そうに口ごもる恋純。
「……そっか。ま、座れよ。汚いトコだけど」
 屋上の真ん中辺りで腰を下ろすと、恋純も始めは躊躇っていたが、最終的には遠慮がちに、少し距離を置いて腰を下ろした。
「で、相談って? やっぱ、あの三人組の事?」
「……違い、ます……えと、……」
 言い難そうに、そこで再び沈黙。俺は暫らく辛抱強く待ってみる事にした。自覚してるが、俺って短気だから、ちょっと耐え難かったけど、やがて俺が口を開く前に恋純が言葉を零した。
「……星織くんの、事……」
「――空冴の事? 空冴がどうかしたのか? ――まさか、あいつにも苛められてるとか?」
「ちっ、違うのっ」
 ブンブンと慌てて首を振る恋純。野暮ったく伸ばした髪が揺れて、顔が再び隠れる。
 顔を少し紅潮させて、恋純は掻き消えそうな声で続きを告げた。
「……星織くんの事が………………好き、なの……」
 かぁぁ、と顔を更に赤面させる恋純。
 なるほど、と何と無く一連の話の流れが掴めてきた俺。恋純は多分、あの苛めっ子グループにその事をうっかり漏らしちまったんだろう。そしたら、あのグループも恐らく空冴のファンクラブに属していて、苛められっ子がそんな事を言うなんて生意気だ、とか何とかイチャモン付けて、暴力を振るった、――と言う所だろう。
 ……それにしても空冴の野郎、あんだけモテてんだから、いい加減彼女作れってんだ。じゃないから、こうやって嫌な想いをする女子が出てくるんだ、ったく。
 何はともあれ、話の内容は大体呑み込めた。後は解決策だけだ。
「空冴の事、すげぇ好きなのか?」
 確認のために尋ねると、恋純は顔を真っ赤に染めて、小さくコクコクと頷いた。
「他の誰よりも好きな自信、有るか?」
 その質問には、若干の迷いが有ったが、それでも恋純は頷いた。俺も頷く。
「だったら、告白するべきだと思うぜ?」
「―――こく、はく……?」
 一瞬言葉の意味が分からなかったようで、初めて俺の顔を見て、俺の発した単語を反芻する。それから徐々に頭が理解してきたのか、再び顔を紅潮させていく。
「で、出来ないよ……っ」あたふたと手振りを交えて呟く恋純。
「でも、やらない事には気持ちは伝わんないぜ? もう、あんなイジメ受けたくねえなら、一発コクってスッキリした方が良いと思うけどな、俺は」
 好きな相手がいるなら、その相手に好きって伝えないと、心の中はモヤモヤのままだろう。そんな状態で別の誰かに「あいつを好きになるのは許さない」とか言われたら余計にストレスが溜まるだけだ。一度好きになったのなら、告白して気持ちを伝え、そこで結ばれるなり振られるなりしてハッキリしなければ、モヤモヤは一生晴れまい。
 恋純は躊躇う素振りを見せていたが、俺は焦れったくて更に言葉を重ねる。
「あいつらに嫌な事を言われたくないだろ? だったら、空冴を彼氏にして、守って貰えば良い。そしたら、あいつらだって表立った攻撃は出来なくなるだろ? その分、空冴に甘えりゃいいんだし」
「……でも、」
「大丈夫だって! それに俺、あいつの友達だしな、一応は。少しは手助け出来ると思うぜ?」
 そう言って胸を張る。空冴の趣味は知らないけど、恋純は一度気持ちを伝えるべきだと思う。それで振られたとしても、踏ん切りが付くかも知れない。また気持ちを入れ替えて、新しい自分を始めれば良いんだから。
 何度かそうやって説得すると、恋純も渋々ながらも了承した。自分でも気持ちを伝えたかったんだろう、と俺は思う。
 苛められる側は、大抵物事を自分の内に溜め込む。それをどこかで解放できたら、少しは良いかも知れない。尤も、家庭で当り散らすようならそれは考えものだが、塞ぎ込んだままどこにも気持ちをぶつけられなかったら、最悪の結果を招く事だって充分に有り得る。
「俺も出来る限り手伝う。気持ち、伝えられたら良いな」
 そう言って励ます。あまりに他人事だったけど、人助けの延長には違いない。せめて最後の人助けはちゃんとした形で終わらせたい、そう思っての行動だったのかも知れない。

【後書】
 この当時のわたくしは「好きになったら告白しろ!」って思考だった訳ですね!(既に恥ずかしい)
 実際この後告白した身としましては、失恋と言う形では有りますけれど、確かにスッキリはしましたよね。これで次の恋が出来る~みたいな感じで! いやもうダメ恥ずかしい!ww コイバナ苦手なのワシ!ww
 と言う訳でキャラクターの名前が出ましたのでサクッと紹介。「二位一非」と書いて「ニクライ イチアラ」と読みます。どんだけ一位になりたくないんだ…って名前ですけれど、特に深い意味は有りません。有ったんですけれど、この物語では活かしきれませんでした…w
 そんなこったで何やら恋愛相談に乗り…? と言う展開ですが、果たして恋純ちゃんの恋は叶うのか! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    恋純(こいずみ)ちゃん…素敵なお名前です!
    わたしはどちらかというと恋純ちゃんタイプw
    モダモダしてなかなか言い出せなくて、結局最後まで言えなかったりw
    でも、今思えばそれが結構楽しかったりしてたのかなぁ…
    二位くんのような人がいてくれたら違ったかなぁw
    なんかこぅ良いです。瑞々しい感じw

    二位くんの言葉の端々にでてくる「最後の人助け」というのが
    どうも気になるなぁ…

    先生が画面の前でモダモダしてるのを想像して(・∀・)ニヤニヤw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      (*´σー`)エヘヘ!w ネーミングセンスを褒められると途端にはしゃぎ始めますよう!ww
      モダモダしつつも、結構楽しいと言うのは正直分かり味がしゅごいですね…!
      何かこう…言語化が難しいのですが、そういう恋愛って、もう、ね!w (・∀・)ニヤニヤが止まりませんよね!ww
      確かに! 二位くんのような人がいたら、また違った模様を描いていたかも知れませんねっ!
      うんうんw 「瑞々しい感じw」と言うワードに全て詰まってる感じです!ww

      鋭いっっ!! その辺も気にしながら読み進めていくと、また深みにはまるかも知れません!w

      もうほんとにwwwしゅんごいモダモダするぅ!wwですよほんと!wwww恥ずかしいぃーっ!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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