2019年1月28日月曜日

【余命一月の勇者様】第46話 オワリュウと迷宮〈2〉【オリジナル小説】

■あらすじ
《あなたは、欲を試される》

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第46話

第46話 オワリュウと迷宮〈2〉


「――ようこそお越しくださいました、オワリュウ様。ミコト様も、おはようございます」

 王城を地下へ地下へと進み続け、地下牢とは異なる道を下り続けて約一時間。岩で出来た階段を抜けた先には、開けた空間――地下に在るとは思えない広大な空間が広がっていた。
 ほぼ全域が闇に潰れているが、天井は目を凝らしても見えず、道標となる篝火以外何も見えない空間が、四方八方に広がっている。
 背後を振り返ると、唯一そこには岩で出来た階段が地上に連なっているのが見える。後は全て闇、闇、闇――――無限に広がる空間が、音も無く蹲っている。
 点々と連なる篝火を追うように進んで行った先には、マツゴと護衛であろう騎士が二人、そして見晴るかす高さを有する門が佇んでいた。
「おう、マツゴも元気しとったか? すっかり老いさらばえよってからに」オワリュウはパタパタと羽ばたいてマツゴの肩に乗ると、スリスリと首筋を撫でるように頭を擦り始めた。「そんなんで、よー政なんかやれるもんやの。ちゃんと肉食うとるか肉?」
「すっかり食が細くなりましてな……オワリュウ様は相変わらずお元気そうで何よりです」嬉しそうに微笑むマツゴ。「さて、オワリュウ様とは積もる話も有りますが、今は……」ミコトに視線を転じ、「ミコト様。前以て迷宮に就いてのお話に触れられず、申し訳ありませんでした」と、深々と頭を下げた。
「いや……俺達も聞かなかったからな。お互い様だ」苦笑を滲ませるミコト。「……もう、挑めるんだな?」
「……はい。エンドラゴン様の認可は得ました。私も……オワリの国を代表して、ミコト様の迷宮攻略の許可を出しました。今を以て、ミコト様の迷宮攻略を承認……後はミコト様の意志次第、と言う訳で御座います」
「……」
 聳える高さの門を見上げ、ミコトは知れず生唾を呑み込んだ。
 豪奢な門ではない。木製の、古めかしい門だ。随所に様々な幾何学模様の紋様が刻まれ、木目が色濃く浮かんだ、立派な門。その上部は闇に覆われ、左右の端もまた、闇に潰れている。
 この先に、エンドラゴンがいる。そう考えるだけで、闇の中から大気を震わせるような息遣いが感じられた。
 音を吸い込むような闇の中、ミコトは瞑目して一度、二度、三度――深呼吸し、意志強く、目を開いた。
「――――――挑もう」
 ミコトの静かな決意の声に、マナカが「おう!」と胸板を叩き、レンが「……ここまで来たんだもの、やるしかないでしょ……!」と震えそうになる手を握り締めて、彼の隣に並んだ。
「ガッチガチやんな。緊張し過ぎて失敗したら目も当てられへんでー」
 ケラケラと笑ってミコト、マナカ、レンの周りを羽ばたくオワリュウに、ミコトは思わず肩の荷を下ろすように溜め息を零し、「あぁ、それもそうだな」とオワリュウが留まれるように腕を差し出した。
 オワリュウは「おっ、気ぃ利くやん」と差し出されたミコトの腕に留まり、「ボッ」と小さく火の粉を吐いた。
「ただな、ミコト。今回この迷宮に挑むんは、おたくら三人だけやないんやで」
 オワリュウの意味深な笑みに、ミコトが何故と問おうとする前に、その声は聞こえてきた。
「こんな陰気な場所に俺様を連れ出すとはな……シュン、後で覚えとけよカスが……ッ」
「どうやらお揃いのようですね、皆々様」
 悪態を吐きながら現れたのは、マシタ。そしてその隣には、感情の一切塗布されていない真顔で控える、シュンの姿が有った。
 途端、オワリュウ、マツゴ、そして騎士以外の人間に緊張の色が走る。
 何故彼がここに――? そう誰かが確かめる前に、マツゴが口を開いた。
「昨晩突然申し出が有りましてな。マシタとシュンが、どうしても迷宮攻略に参加したいと」こほん、と小さく咳払いをするマツゴ。「どうやら、第一王子の死因と第二王子の事故原因を確かめるべく、その真偽をエンドラゴン様に問いたいと、殊勝な事を……これも、ミコト様の来訪による心境の変化でしょうか」
 嬉しそうに囀るマツゴには悪いが、この場に居合わせる誰もがそんな認識でいる訳が無かった。
 マシタは相変わらずミコト、マナカに険悪そのものの視線を投じ、シュンに至っては殺意すら感じられる程に冷酷な雰囲気を纏ったままだ。
 マツゴが如何に優しい王様だとは言え、流石におかしいとミコトが口を開こうとする直前、突然脳裏に声が弾けた。
《マツゴはなぁ、今ワイの力で“物事を正確に判断できん”ようになっとんのよ》
 驚きに目を瞠って眼前のオワリュウに視線を転じると、彼は翼を器用に操り、口元で翼爪を立てて「しぃ」と沈黙を貫けと明示した。
《今のワイの声は、ミコト、マナカ、レン、そしてオルナにだけ聞こえとるから安心しぃ。あの真っ黒な王子と騎士……マシタとシュンには聞こえとらん》
 ミコトは思わず声に出してオワリュウに質問しようとしたが、――“声の出し方が分からない事に気づいた”。
 今までどうやって声を出していたのか、その方法が、やり方が、全く思い出せないのだ。
《同様に、今挙げた四人にはワイの力で強制だんまりや。まぁ聞けや。ワイは別にあの二人に肩を持つ訳でも、おたくらにとって悪いようにするつもりもないねん》
 四人の視線を浴びるオワリュウは、ふてぶてしく笑みを刻む。
《エンドラゴン様はな、こう仰ってん。“ネイジェ様に遣われし貴様らを用いて、オワリの国の負の連鎖を断ち切らせて貰おう”……そう言うたってん。ぶっちゃけて言えば、おたくら使うて、この国をもっと良うしよう言う話や。どや? 悪い話や無いやろ?》
「……」
 それはつまり、オワリの国の悪しき部分が、あの二人に存在していると、明言しているも同然だ。
 そう思ってオワリュウを睨み据えていると、彼は悪い笑みを浮かべて小さく火の粉を「ボッ」と吐き出す。
《ワイらは基本的に人族には手ぇ出せへんのよ。守護者やからな。人族が勝手に滅ぶなら、ワイらはその滅びを見守るだけ。せやから今回も無視するつもりやったんやけど……エンドラゴン様っちゅうか、ネイジェ様っちゅうか、どっちもお人好しやからな、ついつい手ぇ出したなるんよ。困り者やでホンマ》
 やれやれと肩を落とすオワリュウに、やっと悪意が無い事を感じ取ったミコトは、喉の違和感が無くなった事を意識して、小声でオワリュウに声を掛けた。
「……つまり、あの二人に灸を据えてやればいいのか?」
《どやろなぁ。エンドラゴン様も気分屋やさかい、もしかしたら……》ニヤァと嫌な笑みを覗かせるオワリュウ。《ミコト、おたくの願いを叶えんようにするための意地悪かも知れへん》
 マナカがつかつかとオワリュウの元に歩み寄ると、その頭を鷲掴みにした。
「ンギャッ!」悲鳴を上げるオワリュウ。
「お前、あんまりおかしな事ばっか言ってると殴るぞ?」真顔で呟くマナカ。
「ママママナカくぅ~ん!? 気持ちは大いに分かるんだけどそれだけはやめて!? 気持ちはほんっっとに分かるから、お願いだから手を離して!? 俺もうこれ以上心労で煙草の本数増やしたくないのねぇ分かって!?!?!」
 マナカの背後から懸命に抑え留めようとするオルナだったが、マナカは全く力を緩めずにオワリュウを握り締め続けた。
「ななっ、何事ですか!?」
 シュンとマシタ、そして騎士と話をしていたマツゴの悲鳴が上がった瞬間、「だぁーっもうっ、離さんかいワリャッ!」とマナカの手の中から逃げ出すオワリュウ。
「こ、こいつホンマにワイの事絞め殺そうとしたで……恐ろしい奴やぁホンマ……」青褪めた表情でマツゴの肩に戻るオワリュウ。「まぁ気にせんでええって、ちょっとした戯れやん、マツゴも気にせんで、な?」
「オワリュウ様がそう仰るのでしたら……」心配そうにオワリュウを見つめるマツゴ。「とまぁそういう訳でして、ミコト様、マナカ様、レン様とご一緒に、マシタ、シュンも同行する事になりました。何卒宜しくお願い致します」と、頭を下げるマツゴ。
「おう、そういう訳だ。精々俺様のために尽くせよ下民」ペッと吐き捨てるマシタ。
「マシタ様に無礼を働けば斬首も吝かではない事を先に申しておくぞ」眼光鋭く睨み据えるシュン。
「……は、始まっても無いのに迷宮の難易度が跳ね上がったわね……」こそこそとミコトに耳打ちするレン。「最低最悪のお荷物と、冷酷無比の近衛騎士なんて、こんな最悪な組み合わせ、そうそう無いわよ……」
「――陛下」スッと前に出るオルナ。「そういう事であれば近衛騎士オルナ。私も彼らの攻略に同行したく存じ上げます」
「オルナ……?」ミコトの驚きの混じった声。
「オワリュウ様の認可は頂いておりますゆえ、何卒陛下の許可も頂きたく」スッと儀礼の仕草をするオルナ。「近衛騎士の末席に控える者として、此度の迷宮攻略、直にこの目で見届けたい所存であります」
「はぁ? 何でこんなタイミングでそんな事言い始める訳ぇ? ダメダメそんないきなりとか無理でしょ?」心底からの嫌悪を舌に載せるマシタ。「俺様はさぁ、昨晩ギリギリのタイミングで許可を頂いた訳ぇ。こんな土壇場で言われても困るんだよ、近衛騎士だからって粋がってんじゃねえぞ、カスが」
「……」
 マツゴは胡乱な瞳のままオルナを見つめていたが、やがて瞳に光を取り戻すと、穏やかな微笑を浮かべて頷いた。
「いいでしょう、許可します」
「父上ぇ!?」マシタの悲鳴が上がった。
「オルナが付いていてくれるのであれば、心配も減ると言うものです。オルナとて私が認める近衛騎士、皆様の邪魔にならないでしょう。そうですね? シュン」
「……陛下がそう仰るのであれば、認めるほか有りますまい」表面上は真顔だが、声が既に苦虫を潰したかのような苦りを帯びているシュン。
「シュ~ン!? 何であんな奴の肩持つ訳ぇ!? バカなのぉ!?」
「マシタ様、陛下の御言葉に逆らうのは賢明では御座いません」
「はぁ!? チッ、ハァ~……クズが」苛立たしげに地面を蹴りつけるマシタ。
「……今のも、オワリュウの力か?」マツゴに向かって、静かに問いかけるミコト。
「うんにゃ、今のはマツゴの本心やで」ククッ、と悪い笑みを覗かせるオワリュウ。「さて、役者は揃ったな? ミコト、マナカ、レン、マシタ、シュン、オルナ。この六名を迷宮攻略者として認めたる。この迷宮は入ったが最後、最奥まで辿り着くか、試練に失敗するか、その二つの経路でしか出られへん。気張ってきぃや!」オワリュウがマツゴの肩から羽ばたくと、固く閉ざされていた門が音も無く、ゆっくりと開いて行く。「ほな始めようか! 迷宮攻略、行ってみよー!」
 門が開いた先には、更なる深淵が広がっていて。
 ミコトはふと、辺りが闇に閉ざされている事に気づいた。
 門を潜った訳ではない。あの場から一歩たりとも動いていないにも拘らず。
 景色は全て闇に落ち、周囲には誰の姿も無い。
「――――」
 己の声も聞こえない。体の感触すら、どこか朧気だ。
 生気が希薄な闇の世界に落とされ、ミコトは呼吸する事すら忘れ、意識すら明滅し始め、やがてその思考すら遠退く、その直前。
《あなたは、欲を試される》
 不意に、声が聞こえた。

【後書】
 前途~? はい! 多難、つってね!(突然のヒロアカ)
 何とも危うい面子が揃っての迷宮攻略開始です! いや~遂にここまで来ました。物語も佳境なのですが、ここから展開が割かし早いです。サクサク進みますよう!
 予定では50話で完結する筈でしたのでね、つまりもうそれぐらいの進行度と言う事になります。長い長い一月の冒険も…いやいや、まだまだどうなるか分かりませんからね! ぜひ最後まで、まずはこの第一の試練をお楽しみ頂けたらと思います!
 …もしかして春までに完結するのではー? と思ったりもしますが、その辺はミコト君達のはしゃぎ回り次第なのです(笑)。次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    どうしてだろう?
    彼らならきっと大丈夫って思える。ちょっとぐらい問題あったって、
    「大丈夫だ、問題ない。」なんて言いながら迷宮を進みそうな気がします。
    ただ…オワリの国の闇の深さが気になります。

    オワリュウ様、相変わらずらぶりぃ~です!たまりませんv

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そう思えるだけの信頼を、ミコト君達は獲得してきたって事なんですかね…!
      そしてオワリの国の闇の深さ。これもじきに明らかになって参りますが、きっとミコト君達なら「大丈夫だ、問題ない。」と言ってくれそうな予感もします…!

      オワリュウ様可愛いですよね!w やったぜ!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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