2019年1月27日日曜日

【嘘つきの英雄】2.お前にはこのパーティから外れて貰いたい【モンハン二次小説】

■あらすじ
「カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ」……かつて相棒として傍にいた“彼女”に想いを馳せながら、男は己の底に残留する言葉を拾い上げていく。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/70030/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1066152
■第2話

2.お前にはこのパーティから外れて貰いたい


「――ねぇルーグ。副団長を辞めるって、猟団を出て行くって、……本気なの?」
 猟団部屋に置いていた荷物を整理していると、不意に先輩である女に声を掛けられた。驚きに満ちた声は、慌ててここまで来たのだろう、呼気が乱れて焦燥を感じさせる響きを伴っていた。
 ルーグは振り返りもせず、ただ小さく「あぁ、本気だ」と短く返すに留めた。素っ気無い態度に、先輩は「本気だったのね……」と目を手で覆って天を仰ぐ。
「団長が亡くなったのがショックなのは分かるわ。だけど、だからって猟団を辞めるなんてどうかしてる。今のこの団には、【黒虎の尻尾団】には、貴方の力が必要なの。分かるでしょ?」
 先輩の言い分が分からない訳ではなかった。でも、理性では理解できても、本能がそれを許さないのだ。もうここにいても、己が本当に助けたいモノは、守りたいモノは無いのだと、魂が叫んでいる。
 ……が、それは建前だ。本当は、もっと浅い問題なのだ。そしてそれは、先輩には解決できない問題で、ルーグにも解決できない、浅くて、深刻な溝。その溝を埋める事が現状不可能と認識したルーグは、回避する以外に手立てを知らなかった。それ以上進展しない問題ゆえに、ルーグは説明を口にせず、ただ黙する。
 荷物を纏める手を止めずに、先輩の視線を背中で受け止めていると、視線に落胆が積載するのも時間の問題だった。失意の嘆息に、ルーグの心が軋みを上げる。
「……貴方は昔からそうだったわね。言い出したら頑として譲らない、そういう人だわ」諦観の混ざった声に、最早期待の色は糊塗されていなかった。「もう止めないわ。だけど、その気になったら、いつでも戻ってらっしゃい。私は、……いいえ、私達は、貴方を家族同然だと思ってるから」
 ルーグにとってそれは、胸を抉るような鋭い言葉だった。
 彼女はもういない。守りきれなかった自分の不甲斐無さを受け止める自信も無い。後はもう朽ちるだけ、そう思っていた。それでも受け入れてくれたのが【黒虎の尻尾団】であり、ハンターの先輩であり、そして人生の先輩でもある彼女らだった。
 元気を取り戻すまでずっと辛抱強く見守っていてくれた彼女らを裏切るような行為をする自分が、どれだけ惨めで、カッコ悪く、おこがましいか、分かっているつもりだった。分かっていながら、ここを離れるしか自分の心を静める方法を知らなかった。
 だから、ルーグは、
「……悪いな」
 礼も言えず、ただ謝るしか出来なかった。
 顔向けも出来ず、ただ逃げるしか出来なかったのだ。

◇◆◇◆◇

「……もうあれから八年になるのか」
 お世辞にも良い材質とは言えない硬く軋むベッドの上で、ルーグは全身に掻いた嫌な汗を拭う。
 場所はルーグのマイルーム。一切手を入れていない手狭な部屋の中で、ルーグは新しいインナーを求めてベッドから立ち上がる。
 雇っているお世話アイルーは、今はいない。マイルームを拡張せず、マイガーデンも手付かず、マイトレも管理人が不在のままで、マイギャラリーは埃が舞っている、そしてマイサポートも教官に退去して貰い、どこを見渡しても無人の空間が広がる、静かな自分だけの領域と化している。
 元々はお世話アイルーが何匹かいて、賑やかな空間だった。併し、彼女が亡くなってからは全てが億劫になり、雇っていたアイルーにも愛想を尽かされ、おまけに雇うだけの賃金を支払えなくなったので、一匹、また一匹といなくなり、いつしか誰もいないがらんどうが出来上がっていた。
 朝になってもルーグを起こす者はいないし、朝食を用意する者もいない。自炊が出来る訳ではないルーグは、いつもの装備であるアナトリシリーズの防具を身に纏うと、最低限の戸締りだけ確認し、そのまま酒場に繰り出す。
 ふと、昨夜の事を思い出し、彼――ユニの要望をどう断ろうかと、寝惚けていた思考が緩やかにエンジンを掛け始める。将来有望そうな少年だ、己の元に身を置くより、もっと優秀なハンターに師事させるべきだ。
 そんな事を取り留めなく夢想している内に酒場に辿り着いた。いつもの席には珍しく先客がいる。彼はルーグにとって古くからの知己であり、つまり何らかの依頼が持ち込まれたのだと把握する。
「お早うさん、ルーグ。今日は一段と冴えない顔してるな?」
「……何の依頼だ? カジャ」
 ルーグの固定席である酒場の僻地で待っていたのは、ガーディアンシリーズを纏う男、つまりは“ガーディアンズ”と言う組織に属する男、カジャだった。
 ガーディアンズとはドンドルマの大老殿の守護や、ドンドルマの迎撃戦などを主にする組織であり、メゼポルタにも拠点を置く、言わば大都市を専門に防衛するハンターのような存在だ。彼らの実力はハンターの中でも一目置かれ、ハンターを律する立場にある“ギルドナイツ”にすら匹敵すると言われている。
 街の市民から尊崇の目で見られているはいるが、面倒見の良いお兄さんと言った趣の方が強いかも知れない。街の警邏や、重要施設の警備、要人の護衛なども行っている事から、どちらかと言えば自警団に近い印象を与えるからだ。
 カジャはそのガーディアンズの一員であり、ハンターに対して狩猟や討伐などの依頼を斡旋する立場にある。その彼が食事も飲酒もせずに酒場で待機している時点で、誰かしらに難題の依頼を持ち掛けに来たとしか思えなかった。
 口下手なルーグの素っ気無い応答に、カジャは堪えた様子も無く「返事も冴えないなお前は。立ち話も何だ、まぁ座れ」と愛想の良い笑顔で隣席を勧める。
 断る道理の無いルーグは不服そうに着席すると、カジャの手元を横目に見やる。己の見解が的を射ていた事を示す依頼書が窺えた。
「お前の想像通り狩猟の依頼だ。エルデ地方の境目に位置する火山、ラティオ活火山だな。ここでグラビモスの姿が確認された。こいつを狩猟してきて欲しい。早急にだ」
 羊皮紙がテーブルを滑ってルーグの手元で止まる。依頼文を読むに、ラティオ活火山に採掘に出ていた炭鉱夫が、グラビモスに襲われ立ち往生している旨が簡潔に記されていた。
 解せないのは、何故この依頼が自分に回ってきたのか、と言う点である。
 グラビモス。別名“鎧竜”と呼ばれる飛竜種。異名の通り鎧のような頑健な甲殻に覆われたその巨体は、ともすれば小高い山ほどの大きさを誇る。新米ハンターならば命を落としかねない危険な飛竜だが、上位ハンター程度の実力が有れば、狩猟は難しい話ではない。
 このメゼポルタにはピンきりの実力者が揃っている。何も凄腕ハンターであるルーグに頼まずとも、上位ハンターにチームを組ませれば何事も無くクリアできそうな案件だ。
「通常種のグラビモスだったら、お前に直接頼まずとも誰かが解決してくれそうな話だ、それぐらい俺も分かってるさ。つまりどういう事か、その冴えない頭でも分かるだろ?」
「……特異個体か」
 近年増加の一途を辿っている、モンスターの特異個体。一定の実力を超えた者の間では“ハードコア”――“HC”の通称で呼び交わされている、通常種では有り得ない挙動をするモンスター。
 通常種や亜種とは別種の個体と認識されているハードコアモンスターは、当然新米ハンターや上位ハンターでは太刀打ちできない強さを誇る。故にこそ凄腕ハンター、更にその上の実力者であるハンターにしか依頼が回らない。
 ならば納得できる話だった。ハードコアのグラビモスともなれば、凄腕クラスのハンターですら手を焼く強さを誇るに違いない。ルーグのように失うモノが何も無い、且つ実力が相応に有るハンターに白羽の矢が向けられるのも理解に難くなかった。
「冴えないお前一人に任せるには荷が重い事案だと思って、こっちで適当な人材を見繕っておいたぜ? もうじき現れる筈だ、仲良くやってくれよ」
「……待て、聞いてないぞ」思わず声を上げてしまうルーグ。「俺一人で充分だ。今までもそうしてきただろ」
「いつまでもお前一人に任せっ放しじゃ後進が育たねーだろ」やれやれと呆れた様子で首を振るカジャ。「よく考えろルーグ、お前がこの先何十年も一人だけでやっていけるか? 無理だろ? 自分の歳を考えろ。もうお前三十過ぎてんだろ? 生涯現役で通してる偉いハンターもいるがな、そんなの一握りだ。後は使い物にならない老害だけだ、若手育成の邪魔だ、人間社会に於ける有害物質に他ならない」
 そこまで言うのか、とルーグは声一つ上げられず、カジャの怒涛のマシンガントークに思わず閉口する。
 自分が老いている、技術が衰えてきていると言う事実を、ルーグは受け入れていたし、理解もしていた。自分が近い将来狩場に立てなくなる事も承知の上だった。
 だからこそだ。まだ総身を余す事無く稼働できる今だからこそ、己の力、己の武器、己の狩猟技術だけで最前線に立ちたいと言う欲を抑えられなかった。
 死に場所を求めている、と言われても反論は出来ない。この肉体が駆動する最後の一瞬まで鉄火場の直中で足掻き続けたいと言う意志は、揺らがないのだ。
 カジャの口舌に異論をぶつけたい気持ちは有ったが、それはあくまで自分の我がままでしかない。人間は社会を形成して生きる生物だ。爪弾きにされても生き存えられる程、ルーグは強くない。黙して、了承の意を見せるしかなかった。
 異を唱えないルーグにカジャは彼の意を汲み取ったのだろう、依頼書である羊皮紙を丸めて封をすると、依頼を受理した証明だとでも言わんばかりに、ルーグの頭を丸めた羊皮紙で叩くと、「そういう訳だ、無理にとは言わんが協力して狩猟に臨んでくれ」羊皮紙をルーグの前に落とし、背を向けて立ち去っていく。と、足を止めて肩越しに振り返り、「あとお前、その冴えないガンランスをいい加減整備しろ。相当痛んでるだろ。いざって時に壊れても知らんぞ」小ばかにしたような微笑を見せると、鼻歌混じりに酒場を後にして行った。
「……」
 言いたい放題言って立ち去った古い知己に、溜め息しか出てこなかった。面倒臭い厄介事を押しつけられ、小言を言われ、拒絶も反論も出来ずに、流れるまま引き受け、認めてしまう。
(……こんなの、全然カッコ良くないな)
 脳裏で囁かれた小さな独り言が、妙に引っかかった。とても大事だったような、そうじゃないような……
「なるほど、グラビモスの特異個体でありますか。自分、初めてでありますよ!」
「うお」
 突然隣で声が弾けたかと思えば、ユニが意地悪そうな笑顔を浮かべて「お早う御座いますであります、ルーグさん!」と小さく手を挙げる様子が見えた。
 昨夜同様、アナキシリーズにドン・デュアルと言う装備で現れたユニは、昨夜より更に活気に満ちた様子でルーグの隣席に座す。
「昨日言っていた狩猟とは、この事でありますね? 任せてくださいであります、自分、こう見えてハードコアのモンスターの狩猟経験が有るでありますよ!」
「お前が……?」
 確かに一見した限りでは、彼の纏う装備にはハードコアのモンスターにも対応できる防御力が有るだろうし、同時にそれだけのモンスターを相手にしてきたと言う実績からの実力の裏返しが見込める。重ねて言えば、ルーグより実力が上である可能性も否めない程だ。
 にも拘らずルーグが半信半疑の想いを隠さなかったのは、一つは彼の年齢、もう一つは彼の言動の軽さが大きかった。十代に見える彼がハードコアのモンスターを狩猟すると言う事態は中々想像し難いし、仮に狩猟を為し得ていたとしても、彼の纏う気配や雰囲気がそれを否定している。
 極端な話、彼の装備は誰かからの借り物で、ハードコアの脅威を解してないただの阿呆なのでは、そうルーグは感じていた。
「――こちらにルーグさんと言う方がいると聞いて来たのですが」
 訝しげに若年のハンターを見定めていると、ルーグの背に聞き慣れぬ声が掛かった。ユニと共に振り返ると、これまた若そうな二人組みのハンターが視界に映り込んだ。
 一人はシャランシリーズと呼ばれる防具を身に纏い、アートルメンティアと呼ばれる弓を担いだ二十代前半に見える男。もう一人はクロースシリーズと呼ばれる防具を身に纏い、ドドン・トウと呼ばれる太刀を担いだ十代後半に見える女。
 両者共に相応の実力を秘めている事が窺える武装だが、緊張感はユニとどっこいの雰囲気で、外見と実力が不一致のようにルーグには映った。
「俺がルーグだが」座ったまま、弓使いの男を見上げるルーグ。
「貴方がそうでしたか」小さく咳払いを落とし、「初めまして、私はヴェントと申します。今回は彼女――ネーヴェと共に、グラビモス狩猟のパーティを組ませて頂きます。宜しくお願い致します」と言って手を差し出してくる男――ヴェント。
「初めまして~ねーべって言います~。宜しくお願いします~」ヴェントの隣で小さくお辞儀をする女――ネーヴェ。
「初めましてであります! 自分はユニって言うであります! 宜しくお願いしますであります!」
「……」
 若い。ルーグの感想はそれだけだった。
 確かにこの年代こそが一番力が漲り、体が確りしていて、状況判断や奇抜な動きを難無く熟せる、言わば黄金期と言えるが、だからこそ余計に不安や心配が付き纏う。
 ルーグ自身が熟達のハンターと自負している訳ではないにしても、技術が熟練し、知識や情報をぎっしり蓄えた往年のハンターにこそ任せるべき狩猟ではないのか、そう思わずにいられないのだ。
(……若手育成、か)
 自分も老いたと言う現実を押しつけられているようで、あまり居心地の良いものではなかった。ただその事実は受け入れざるを得ないし、許容できない問題ではない。だが、ルーグにとって譲れない一線がここには存在した。
「……不躾で悪いが、ネーヴェとやら。お前にはこのパーティから外れて貰いたい」

【後書】
 やっと二話目の更新が出来ました! くそうインフルお前は許さない!!
 二話にしてキャラが突然ぶわっと増えましたが、このお話の主要キャラクターはこれで全部です。少ないキャラクターで短いお話を綴りたいマンですからねワシ…!(あくまで理想)
 この当時はまだMHFでもG級が未実装の頃でして、凄腕~と言うとHR100以上…上位の上であり、G級以下と言う、何とも不思議な環境になります。HCモンスターと言うのも、実装当時はそれはもう大変だったんですよう。G級実装と共に、だいぶ薄れてしまった感は有りますが…w
 さてさて、と言う訳で今回のお相手はグラビモス! の、ハードコア! と思いきや突然のパーティ破断の予感!? どうなる次回!w そんなこったで次回もお楽しみに~♪w

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