2019年2月13日水曜日

【滅びの王】68頁■葛生鷹定の書4『王国を敵に回す訳』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/08に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

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■第69話

68頁■葛生鷹定の書4『王国を敵に回す訳』


「……また、ここに戻ってくるとは、な」
 王都・軍兵舎。
 その中に在る《侍》の執務室へと赴いた俺は、叩扉もせずに扉を開いた。
 中には十畳程の部屋が佇み、どれも渋めの色で統一されているために、自然と厳かな雰囲気を醸し出している。中心の奥寄りには執務用の大きな机が一つ置かれ、その肘掛け椅子には、真面目そうな面影を残したままの青年が腰掛けて、視線も上げずに呟きを漏らす。
「無礼だぞ。叩扉も無しに入ってくるとは、どこの部署の者だ。名乗り給え」
「……変わらんな、臣叡(しんえい)」
 ピクリと、微細に表情が変化した事に俺は気づいたが、敢えて気づかぬ振りをしたまま、青年――希塚(きづか)臣叡を正面から見据える。
 茶色の髪は伸ばさず短めに切ってあり、活発そうな印象を与える髪型だが、決して運動家ではない。やや細めで吊り気味の目のせいで、普段から眼光が強そうに見えてしまう茶色い瞳。身長は俺より高く、もう少しで百八十に到達するだろう。見た目はとても良く、女性に見惚れられるなんてざらだ。
 希塚臣叡。俺と並ぶ《双刀》のもう一人である《橙刃(とうじん)》……、俺と同じ師を持ち、同門であり、……親友だった、と言うべきだろうか。
「……敢えて問おう。鷹定。何故、王国に背いた?」
 生真面目な臣叡の事だ、その疑問が常に胸の中でしこりになっていたに違いない。
 俺は扉を後ろ手に閉めつつ、部屋の中に置かれた長椅子の許まで歩きつつ、応えた。
「俺は今まで、一度も王国に背いたつもりは無い」
「巫山戯るな。私はそんな世迷言を聞きたいんじゃない」
「巫山戯てるつもりは無い」
 俺は長椅子に腰掛けると、腰に差していた伽雅丸(かがまる)を、低めの長卓の上に音を立てないように置いた。
 その間にも、臣叡は仕事の手を休めて俺を問い詰める。
「ならば聞かせてくれ。王国から離脱した訳を」
「……その話をしに来たんだ。訊かれずとも言うつもりだったさ」
「……」
 臣叡は椅子を軋ませて立ち上がり、黙ったまま長椅子まで赴くと、俺に対面するように腰掛けた。
 白い着物の上に落ち着いた感じの緑色の毛編みの事務服という格好は、臣叡には似合っていないような印象を与える。こういう奴こそ、もっと若者的な服を身に付ければ良いのに、と思ってしまう。きっと、町に出た途端に声を掛けられるだろう。
「……私は未だに信じられん。おまえが何も告げずに王国を脱した事が。王室が大恐慌に陥り掛けた位だ。……私の一任でその事だけは伏せておいたが、それでも内部の混乱は隠しきれるモノではない」
「ふ……だが、事実だな」
 懐からタバチョコを取り出して、口に咥える。最近、甘い物を食べる量が少なくなったような気がする。以前までは常に口の中に甘い物が入っていたと思うのだが、ここ最近色んな事が有り過ぎて、習慣付いていた糖分の摂取を怠っていたようだ。
「……臣叡。お前が《贄巫女》の儀式に就いてどう思っているのか、それを先に聞きたい」
 俺の出した単語に臣叡は眉を顰める。露骨に嫌な顔をしても、それはそれで格好が付いているので、きっと何をしても好青年なんだろうな、と思った。
「王国の繁栄・発展に欠かせない儀式、と言った所か。……まあ、私はあの儀式の反対派ではあるが……それが?」
「――止めようと思う」
 即答した俺に、臣叡は言葉を失った。……が、俺の返答はどうやら予測済みだったらしい。
「……本気なのか?」
「……ああ。幾ら臣叡でも、止めようとするなら斬って伏せるまでだ」
「……本気、なんだな」
 ふー……と重い溜め息が漏れ、臣叡は組み合わせた指に額を乗せる。
 暫く沈黙が続いた後、臣叡は“つ”と顔を上げた。
「理由を聞かせて貰おうか」
「……臣叡、菖蒲(あやめ)を憶えてるか?」
「ん? ――ああ、春原(すのはら)菖蒲だろう? 憶えているとも、懐かしいな」
「彼女が、今年の《贄巫女》だ」
「――――」
 臣叡の顔から血の気が引いていくのが、よく分かる。
 ……俺も、知った時はこんな感じだった。まさか、嘘だろ? 信じられない……そんな気持ちで、一杯になり、徐々にその事実を受け止めると……絶望した。
 どうして? 何で? と今度はどうしようもない疑問を自問する。答など出る筈が無い。すぐに絶望の色が濃くなり……事実として受け止め、――諦める。
 でも……俺はそれで終わりたくなかった。
「……俺は、菖蒲に死んで貰いたくない。絶対に止めてみせる。そのために、《不迷の森》にまで足を運んだ」
「! 《西の魔女》に逢いに行っていたのか? ……それで、どうするつもりだ?」
「色んな事が遇ったが、結論として俺一人で阻止する事にした。……とある奴に逢って、諭されたんだ。誰にも迷惑を掛けないつもりだ。無論、臣叡、お前にもだ」
「……」
 諭された、と言っても練磨が何か言った訳じゃない。生き方と言うべきか、志に打たれるモノが有り、俺は考えを変えられた。
《滅びの王》と言う存在の力は絶大だ。それは確かにそうだろう。だけど、その絶大な力に頼るだけじゃ、きっと問題の解決には至らない。……《滅びの王》の力を使えば、菖蒲を救う事が出来るだろうし、それ以後の王国の追撃も凌げるだろう。だけど、それでは駄目なのだ。
 この世界にとってはどうでもいい事件に、練磨を関わらせるべきじゃない。特に、これは俺の勝手な我儘だ、そんな事のために《滅びの王》は有るんじゃない。《不迷の森》じゃ練磨の力を借りたいと言ったが、……それは藁にも縋る気持ちだったからで、練磨と行動を共にしてから俺の考えは変わった。
 確かに、誰かに力を借りるのは悪い事じゃない。だけど、この問題には練磨を関わらせるべきじゃないと、俺は判断した。
「……《贄巫女》の儀式を止めれば、王国と敵対……謀叛に直結するだろう。それでも、俺は断念するつもりは無い。王国を敵に回してでも、儀式を止めるつもりだ。……臣叡だけには、その理由を知っておいて貰いたかった。同門の誼とでも思ってくれれば、助かる」
「……私が、ここでお前を全力で止めるとしたら?」
「無論、俺も……全力で相手させて貰う。……お前と戦うのだけは避けたいからな、菖蒲を連れ出して、とっとと遁ずらさせて貰うさ」
 そうする事は無いと分かっていても、臣叡と一戦交える事になれば……本気で退却を考慮しなければなるまい。ここで争いが起これば、間も無く王国軍の精鋭達が押し寄せて来るだろう。ここは今の俺にとって、敵陣の真只中なのだから。
 それを承知の上で臣叡に話をしに来たのは……自殺に等しい行為だと分かっていても、臣叡にだけは分かって貰いたい、と言う心情からだろう。……自分でも無理をするようになったものだと実感してしまう。
 まるで昔に戻ったみたいだな、と苦笑してしまう。
「話は分かった。ならば私も――」
「臣叡。お前は……来るな。……いや、お前だけじゃない。誰にも来て貰う訳にはいかない」
 俺はタバチョコを食べきり、懐から二本目のタバチョコを取り出すと、指に挟んで口許へ運んだ。
「……結果的には王国と敵対する事になっても、やっぱり王国は……俺の故郷に変わりないんだ。……それを守るべき《侍》がいなくてどうする? ……臣叡。お前には王国を守り続けて貰いたい。烏滸がましい事を言うようだが、……俺のため、菖蒲のため、そして師のため」
「鷹定……」
「それに、裏切り者……売国奴は俺一人で充分だ。それ以上増やしてどうする? 《侍》は二人しかいないんだ、お前が抜けたら、誰が王国を守る? ……だから、頼む。この国を預けられるのは、お前しかいないんだよ」
 俺は立ち上がると、伽雅丸を腰に差し直す。
 臣叡は俺を見上げて、――不意に立ち上がり、机の許へと駆けた。
 そこから取り出したのは――《橙刃》と言われる証の霊剣……舜天童子(しゅんてんどうじ)だった。
 滑らかな白鞘に、使い込まれた柄。……相変わらず刀の手入れだけは欠かしていないようだ。
「約束しろ」
「……何を、だ」
 臣叡は息を吸い込むと、――俺を睨みつけるように見据えた。
「……何が遭っても、菖蒲を守り抜くと」
「…………」
 俺は一瞬呆気に取られたが、……不意に微笑が浮かんだ。
 やはり、この男になら任せられる。この……大きな国を。
「なら、俺にも約束してくれ」
「……何だ」
「何が遭っても、この国を守り抜くと……」
 臣叡は既にその約束事を察していたように、軽く微笑を浮かべた。……きっと、この男のこの笑みを見た瞬間、女性は見惚れるであろう、会心の笑みだった。
「……ああ」
 俺は差し直した伽雅丸を抜いて掲げると、臣叡も舜天童子をそれに交差するように掲げ―― 
 ――二つの刀……《双刀》が交わった時、契約は確かに交わされた。

◇◆◇◆◇

 俺は執務室を後にする時、ふと伝えていなかった事を思い出した。
「臣叡。ようやく師の足取りを掴んだ」
「それは誠かっ?」
 臣叡の驚く姿に、俺は共感めいたものを懐いた。……俺も、聞いた瞬間、自分の耳と相手の言葉を疑ったものだ。
「帝国領土に足を向けた事が有るらしい。……〈千突〉を使える双武士を見た」
「……帝国領土……? 鷹定、この数日間であちこち見て回ったようだな……だが、先生の足取りはそこまでだろう?」
 ああ、と俺は頷き、思案した。
 師……辻宮師父は放浪の旅に出たまま、王国に戻ってこない。……ただ俺達が見ていないだけで、戻ってきているのかも知れないが……足取りを掴ませないように名前や姿を変えてると聞いた事も有るが、実際見た事が無いために何とも言えないのが現実だ……。
「あの人も今頃、何をしているのか……そうだな。鷹定、国外逃亡する序でに、先生の足取りを追ってみるのはどうだ? 案外、近くにいるような気がするぞ」
 ……師を探すとなれば、王国軍を総動員しても難しいような気がする。師には色んな後援者が控えているため、隠れ蓑が多過ぎるのだ。かくれんぼなどやらせると、一生掛かっても見つけるのは無理そうだ。
「……それは、王国から無事に脱出できてからにするさ。済まんな、無理に時間を取らせて」
「構わん。……これで二度と逢えないと思えば、まだ足りない位だ」
 臣叡は苦笑を浮かべて、舜天童子を机の脇に置くと、少し寂しげな空気を漂わせた。
「……私も出来得る限りの事をしよう。それ位の手伝いはさせてくれ。同門の誼だと思ってな」
「……助かる」
 俺は深く頭を下げると、臣叡を見て顔を引き締めた。
「さあ行け。私の気が変わる前に。――それと、最後に一つ。……先生に逢ったら伝えてくれぬか? 先生の故郷は、先生がいつでも戻ってこられるように、いつまでも平和で有り続けています、――と」
「ああ。……じゃあな」
 パタン、と扉を閉めて、……吐息を漏らした。
 来て良かったと思う気持ちと、決意が鈍りそうな気持ちが綯い交ぜになって、不思議な昂揚感に包まれていた。
 これで……もう後には戻れない。進める所まで進んで、それで…… 
 俺は固く眼を瞑ると、……ゆっくりと開いて、タバチョコを噛み砕いた。
 決意は、固まっていた。

【後書】
 と言う訳で遂に判明した鷹定の目的! その動機もチラッと明るみに出ましたが、まだまだ謎がちらほらと…
 正直臣叡さんがいるから王国が成り立ってるまで有るので、鷹定の判断は正しいの一言だったりしますw 今後明るみに出る王国の闇を考えるとどうしても、ね…w
 徐々に徐々に明かされていく謎の数々。そんな次回も引き続き鷹定のターンです! そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    鷹定くんカッコ良すぎぃ~w
    自分の決意を確認して、それを確固たるものとするために
    臣叡さんを訪ねたのではないかな?なんて思っています。

    それにしても幼馴染を助けるために、たった一人で王国を敵にまわしちゃうとかロマンだなぁw

    ただこれからのことを想像するとそんな事言ってられないような…
    練磨くん速くっっっ!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      (*´σー`)エヘヘ!w 鷹定くんがカッコよく映ってるようで嬉しさMAXです!w
      ですです! もう後には戻れない事を自覚した上で、最後にどうしても話だけ…と言う、王道な奴です!!

      ですよね!w ロマンですよねこれ!w ベタな展開ではあるのですけれど、故にこそ堪らなく愛しいんですよう!w

      そうなんです、いよいよ物語も佳境を迎えますから、この後鷹定くんがどうなっていくのか…
      練磨くん早くっっ!!(あと八宵ちゃんも頑張って!w)

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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