2019年2月14日木曜日

【春の雪】第4話 恋純の再挑戦【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2008/11/18に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


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■第4話

第4話 恋純の再挑戦


 翌日。明日が休みという事も有って皆が浮かれている金曜の朝。俺は早速、美森に恋純の話をした。
「ふぅん、振ったんだホシさん。か弱い乙女の純情を踏み躙るなんて、サイテーね!」
「おう、俺もそう思う。あいつは至上最低の人間以下の下等生物に違いない」
「そこまで言いますか!? 僕の言い分も少しは聞いてくれませんかね!?」
 隣から史上最低の人間以下の下等生物が話しかけてくる。非常に鬱陶しい。
「何だよ、発言はオール却下だってさっき言っただろ?」
「聞いてないですよそんな非道話!? 僕の趣味だって考えて欲しいねっ。突然あんな根暗女にコクられたって、対応に困るだけさ」
「おい聞いたか美森。この愚図、まだ更に外道から外れ足りないらしい」
「生きてる価値が無いわよね~」
「あまりに扱いが酷過ぎませんか!? 美森だって嫌だろ!? 突然一非にコクられても!」
 美森が品定めするように俺を観察。な、何だよ。ジロジロ見てんじゃねえよ!
「ニイ君が告白か~。その話、受けても良いかな♪」
「ぶっ」思わず噴き出す俺。
「本気か美森? 僕じゃないんだぞ?」確認するように空冴。ってコラ、そりゃどういう意味だコノヤロウ。
「えー? ホシさんにコクられてもウザいだけだし。悪即断ってね♪」
「僕の告白は悪扱いなの!?」
「どーでもいいが、美森。今日から恋純を可愛くする作戦を始めるぞ。何としてでもこの阿呆に認めさせてやる」
「りょーかーい♪ 何か楽しそうだね~♪ どんなのにするの? アキバ系みたいな感じで、猫耳メイドとか、ゴスロリとか?」
「ンなマニアックなのはパス。フツーに可愛く見せろ。お前、そういうの大好きだろ」
「うんまあ。ニイ君よりかは」
「当たり前だろそれは!?」
「と言うかそんな話は本人の前でするべきではないと思うのだがね、諸君……」
「お前は黙ってろ」
「僕の扱い段々と手酷くなってないかい!?」

◇◆◇◆◇

 あっと言う間に昼休みになり、再び屋上に集合する俺・恋純・美森の三人組。
「ニイ君が前髪を上げた方が良いとか何とか吐かしたそうだから、こんなの持って来たよ~。じゃじゃ~ん☆ カチューシャ♪」
 変な効果音を口ずさみながら取り出したのは、口に出してるカチューシャだった。赤色だったり茶色だったり、リボンが付いていたり色んな模様が入っていたりと種類は様々。……たったこれだけの物を一体どれだけ買い揃えているんだこいつは……と思ってしまうのだが、それは俺の価値観。女の子の気持ちはよく分からない。
 早速使用を敢行してみる。美森が手早く恋純の髪を上げて、カチューシャで固定。たったそれだけ。たったそれだけなのに、随分と印象は変わっていた。
「うん、確かにこれは可愛いのですよ! やっぱり前髪が顔を隠してた分、見えていなかった分だけ可愛く見えますですねー」
 と自画自賛な美森。俺もその愛らしい顔を見て、微笑が自然に浮かんでくる。
「俺もこっちの方が可愛いと思うんだよな。これだけでも充分あの野郎に一泡吹かせてやれそうな気がするぜ」
「ダメダメ。まだ足りないわ……そう、この暗そうな印象を払拭するようなイメージが必要よ! もっと積極性が必要なんだわ!」
 徐々に熱を帯び始める美森。こ、こいつこんなキャラだったのか……と、今更気づく俺。
 その後も美森の熱演が続き、恋純も真剣に話を聞いているようだった。俺の出番は中々来そうに無かったので、その間かなり退屈だった。
 予鈴が鳴る。もう昼休みも終わりだ。
「よし! 明日も来るわよ! 咲結ちゃん強化期間なんだから!」
 何か言い出したが、聞き流す事に決定。
 恋純に耳打ちする。
「お前、無理に来る必要は無いからな? 来れそうに無かったら無理に顔出すなよ?」
「あ、はい……でも、紀原さんも、二位君も、面白い方ですし……」
「……俺、面白いか?」
 自分の人物像を疑ってしまう。俺、どんな風に見られてんだ……? ちょっとした疑心暗鬼に駆られたが、まあ気にしない事にする。

◇◆◇◆◇

 それから数日間、三人で過ごす昼休みが続いた。日に日に恋純は明るくなり、教室ではそうもいかなかったが、俺や美森の前ではよく喋るようになった、五月の或る日。それは唐突に起こった。
「もう大分完璧に近いわ。――明日、告白を決行するわよ」
 とうとうその日が来たんだな、と俺も幾分か緊張する。父親が娘を嫁に出す時の気分て、こんな感じかな、とか変な想いが脳裏を過ぎる。
 恋純も緊張した面持ちで、美森の言葉に慎重に頷く。硬い表情を浮かべる恋純を見て、俺は苦笑した。
「ンな緊張すんなって。一回経験済みじゃんか」
「でも……やっぱり、緊張しますよ」
「心配すんな! 俺と美森が付いてんだ、絶対に上手く行くって!」
 不安を取り除くように、会心の笑みを浮かべて言ってやる。すると恋純は恥ずかしそうに赤面して俯き、言葉をごにょごにょと口ごもらせた。
「でも、忘れないで咲結ちゃん。これが或る意味ラストチャンスよ。次は無いの。これが最後だと思ってやるのよ。良い?」
「は、はいっ。……頑張ります」
 グッと握り拳を作ってそれらしい意志を見せる恋純。それだけで俺と美森はニヤリと笑っていた。
「本当、咲結ちゃん変わったよね? やっぱり、好きな人がいるって大事よね~」
「お前はいないのか? 美森」
「いる訳無いじゃな~い。そんな奴、見渡す限りいないし。取り敢えずこの県にはいないですねー」
「お前の守備範囲広過ぎねえか!? どこまで調べてんだよ!?」
「……あのっ、」
 恋純が恐る恐ると言った感じで話しかけてくる。前まで一切話しかけてこなかった事を考えれば、大分進歩したと言える。
「……二位君は、今、好きな人とか、いないんですかっ?」
「俺か? ……まぁ、そういう事はあんま考えてないからなぁ。可愛いと思う奴はいるけど、好きかどうかって聞かれると……」
 頭をがりがり掻いて返答を曖昧に濁す。そういう感情はあまり懐きたくない、と言う意志が有るのも事実だ。どうせ俺が好きになっても……と言う意味合いを込めて。
「そうですか……」
 どこか残念そうな、でもどこか――嬉しそうな声を呟いた恋純を見て、俺は不思議そうに小首を傾げる。
「とにかく明日よ、明日! ニイ君、分かってるわね!?」
「おうよ! 明日あのクソッタレ――もとい、恋純の彼氏をぶん殴ってでも連れて来てやらぁ!」
「ぶ、ぶん殴っては連れて来ないで下さいね……?」
 あははは、と冗談で笑い合う少女達。まあ、俺としては冗談を言ったつもりは無いんだが。

◇◆◇◆◇

 告白決行当日。
 最後の調整――と言う名目で集まった昼休み。幾分か緊張した面持ちで座る恋純を見て、俺は気持ちを和らげるように声を掛ける。
「そう硬くなんなよ恋純。お前はいつものお前をやれば良いんだ、別に飾らなくても充分お前は可愛いぞ!」
「う、うん……有り難う……」
 頬を赤らめながらも、どこか心ここにあらずな感じで頷く恋純。……果てし無く不安だ。
 美森は今日、フレンドの付き合いで席を外している。朝の時間に恋純に激しく謝っていたそうだが、そんなの後の祭りだ。そもそも、いた所で何かしてやれた訳でもないだろうし。
 残された俺に出来る事は、恋純をいつもの状態に落ち着かせて、ベストの状態で送り出してやる事に尽きる。それ位しかやる事が無い、とは言えない。それをやらなければ俺の名が廃る。後で美森に何を言われるか分かったモンじゃないしな。
「……」
 俯いたまま、何事か小声で呟いている恋純。告白の練習か何かだろうか。手伝ってやれる事があまりに少ないため、俺は終始所在無さ気だ。
「……あの、」
「ん?」
 不意に声の矛先が俺に向いたのを感じ取って、俺は恋純に視線を向け直す。
「……今、二位君は、付き合ってる人、いないんですよね……?」
「ん? ああ、そうだな」
「……じゃあ、もし告白が失敗したら――――」
「おい」
 ちょっと険がこもった声を発してしまい、恋純がビクッと震えるのが分かった。
「今からそんな弱腰じゃダメだろ? 失敗したら、じゃない。成功させるんだ。成功しかないんだ、成功だけを考えろ! 失敗した後の事は、失敗した時に考えれば良い。――違うか?」
「あ……うん、そうですね。……うん、ごめんなさい、そうですよね」
 一瞬落ち込んだような表情を見せたが、すぐにいつもの顔に戻り、恋純は俺を真っ直ぐ見て頷いた。
「わたし、頑張ってくる」
「おう、その意気だ。絶対に成功する、俺を信じろ!」
「うん!」
 ニコッと華やぐ恋純を見て、俺は図らずもドキッとしてしまった。やっぱり女の子はこうやって笑っている方が可愛い。髪を上げて明るくなったのは、正解だと思う。以前の恋純を思い出せない位に、今の恋純は輝いていた。
 昼休みも終わる頃、恋純が躊躇いがちにこう切り出してきた。
「――ねぇ、二位君」
「ん?」
「あの、ね……その、告白が終わったら……話、聞いて欲しいんだけど……良い?」
「ああ、良いぞ。……でも、成功した時は、俺に逢いに来るなよ? そのまま空冴と一緒に帰れな? その方が絶対に良いから」
「う、うん……分かった。……でも、待ってて欲しいな……っ?」
 心配なのがヒシヒシと伝わってきて、俺は快く頷いてやった。
「俺の事なんか心配しなくても、お前なら絶対に成功するって!」
「それでもっ、……待ってて、欲しいの……」
「……分かったよ、そこまで言うなら待っててやるよ」
「うんっ」
 やっと安心したように華やいだ恋純。そんなに不安になるのだろうか。……なるんだろうなぁ。何せ、人生の中で大事なターニングポイントなんだ。もしかしたら自分の一生を左右する事柄になるかも知れないんだ。
 俺は何気にかなり深入りしてるんじゃないかと、今更のように気づいた。

◇◆◇◆◇

 放課後になり、空冴に声を掛ける。
「おいクズ」
「それって僕の事じゃないよね!?」
「お前以外に誰が該当するってんだよ?」
「そこを疑問に思わないでよ!? もっとマトモな名称が存在する筈だよ!?」
「そう言えば濁点が足りなかったな」
「愚図でもないからね!?」
「お前、今すぐ屋上へ向かえ。行かない場合、明日からのお前の生命の保証は無い」
「明らかに殺意を感じる脅迫を受けてますよね僕!?」
「そんな事は無いぞ、空冴。お前の命は今日に限って無事だ」
「明日からの保証は何で無いのでしょう!?」
「いいから行けよ。……今度は自信アリだぜ空冴? 度肝を抜かれるんじゃねえぞ?」
 へっへっへ、と笑って空冴を送り出すと、俺は以前のように保健室に向かう。
「あら、最近来ないと思ってたら。ここは仮眠室じゃないのよ?」
 保険医が何か言ったが、無視してベッドへ。
「良いじゃん、どうせ誰も使ってねえんだから」
「全く……。それにしても、二位君。何だか浮かない顔してるわね。何か遭ったの?」
「は?」
 浮かない顔? 俺が? 何で? 今、俺、すげぇ喜んでる筈じゃないのか?
「や、浮かない顔してるか俺? 寧ろ今の俺、すげぇ楽しみっつーか……」
「そうなの? 何だか淋しそうな顔してたわよ。何か、玩具を取られた子供みたいだった」
 保険医がクスッと笑って事務的な仕事に戻っていく。
 ……玩具を取られた子供、か。よく分かんない例えだな。俺の何が取られたってんだ。
 何だか今の一言が気に掛かって、モヤモヤしたまま中々寝付けなかった。

【後書】
 バレンタインの日に、図らずも甘いお話をお届けできましたね!w
 学生同士の恋愛模様ってこんな感じなんじゃないかな~と妄想しながら綴ってたマンなので、あちこち若気の至りと言いますか、青春してるな~的な文章が出てきまして、中々甘美です…(併し恥ずかしい!w)
 次回は咲結ちゃんの告白…最後の告白回です。どうかお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    あまずっぺぇなぁ~w
    もーキュンキュンしまくりぃー(併し恥ずかしい!w)

    自分の気持の変化に気づかない二位君、てか咲結ちゃんのことを考えて気づかないようにしてる感じかなぁ。
    そしてきっと空冴君は気づいているのでは?

    なんて妄想をして楽しむバレンタインの夜です!
    甘いお話楽しませていただきました!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      甘酸っぱいですよね!w
      (*´σー`)エヘヘ!w キュンキュンしまくってくれて嬉しいですぞい!┗(^ω^)┛(併し恥ずかしい!w)

      確かに! 二位君自身、自分の気持ちに実は気づいていながらも、咲結ちゃんのために…!
      って考え始めるとも~キュンキュン止まりませんなぁ!w
      そして空冴君に関しても鋭いっ! 何だかそんな気がしますね…!

      バレンタインに相応しい妄想だと思います!!
      甘いお話、楽しんで頂けて光栄ですぞ~!ヾ(*ΦωΦ)ノ

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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