2019年2月16日土曜日

【嘘つきの英雄】5.カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ【モンハン二次小説】

■あらすじ
「カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ」……かつて相棒として傍にいた“彼女”に想いを馳せながら、男は己の底に残留する言葉を拾い上げていく。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/70030/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1066152
■第5話

5.カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ


「――尻尾が来るぞ!」
 大きく振り上げた尻尾が、大地を抉るように振り下ろされ、背後から側面に掛けて薙ぎ払われる。溶岩が固まって出来た地面が悉く破壊され、石礫が辺り一帯に飛び散る。
 尻尾の間合いで双剣を振るっていたユニは咄嗟にグラビモスの股下へと潜り込み、そのままの動きで足へ斬撃を見舞う。グラビモスの足は今や度重なる斬撃によって裂傷が随所に刻まれ、甲殻が弾け飛んだ箇所からは出血も確認できる。確実にダメージが蓄積されている事が窺えた。
「ゴァア……!」
 苛立ちを隠しきれない様子のグラビモスだったが、遂に痺れを切らしたのか足早に溶岩の海へと向かって進んで行く。その様子を見て取ったルーグは咄嗟に牙狼銃槍【巨星】を折り畳み、ポーチの中から取り出したペイントボールを投げつける。
 ベチャ、と音を立ててグラビモスの巨体にへばりついた液状のそれは、甲殻の隙間を縫うように浸透し、独特の臭気を狩場一帯に放っていく。完全に溶岩の海の底へと姿を消したグラビモスだったが、その臭気は溶岩の中でも完全には消えず、狩場の中であれば追う事は難しくない。
「上々の滑り出し、ですかね」
 アートルメンティアを背に担ぎ直し、ヴェントが二人の元に歩み寄る。ポーチの中に仕舞っていたクーラードリンクを取り出し、三人で分け合うように手渡していく。
「まずまずだな」クーラードリンクを口に含みながら、ルーグは端的に応じた。
「お二人とも流石であります! 自分、置いて行かれないようにするので必死でありました!」瞳を爛々と輝かせてルーグとヴェントを見やるユニ。「いやぁ~流石は英雄と名高きルーグさんと言いましょうか、それに張り合えるだけの実力を有するヴェントさんも凄いと言いましょうか、自分、そんな素敵な方々と狩猟をご一緒できて、感激であります! 勉強になるであります!」
「ユニさんも中々の腕前ではないですか」謙遜するようにヴェントが口を挟む。「双剣使いとしては一流……立ち回りも完璧ですし、非の打ち所が有りませんでしたよ。私も負けてはいられませんね……!」
「……話はその辺で良いか?」
 クーラードリンクを飲み干すと、砥石を使って牙狼銃槍【巨星】の斬れ味を直していく。彼らと馴れ合うつもりが無いルーグにとって、今はこの狩猟を如何に迅速に終わらせるかが課題だった。
 ルーグの動きを見て、ユニも慌ててドン・デュアルを研いでいく。手数の多い双剣や、砲撃を多用するガンランスは斬れ味が落ちるのが他の武器種に比べて速いため、自然と砥石の使用頻度が多くなる。
 常に万全の状態で挑まねば、自然の猛威は人間など容易く消し飛ばしてしまう。それを理解しているのがハンターであり、それに果敢に立ち向かうのがハンターである。
「ルーグさんは、何と言いますか、狩猟に対してとても厳格な方なんですね」
 砥石でガンランスの斬れ味を取り戻そうとしていたルーグの背に、ふとヴェントが声を掛けた。
 狩猟に対して厳格。そうだろうか、と自問してしまう。これが普通だとルーグは感じていたし、彼らが特別お喋りな気がしていた。ハンターは己の技量を後世に継がせる時だけ弁舌を振るい、狩猟の時は寡黙に自然と相対する、と言うイメージがルーグの中に有った。
 ――お喋りなハンターってのはさ、どうにもカッコ悪い。喋る暇が有るなら腕を磨け。馴れ合う暇が有るなら情報を集めろ。語りたいならその背中で語れ、ってな。
 彼女の言葉が脳裏に反響する。その教えを守っていたら自然とそうなっただけで、他のハンターが違う可能性を考慮できなかった、それだけの話だろう。
 併し、斯く言う彼女自身、ルーグに対しては多くを語ってくれた。どうしたら良いのか、どうすれば良いのか、何を為せば、ルーグの目指す偶像に近づけるのか。
 確かに、今思い返せば彼女は自分以外の人間に対しては寡黙だったように感じる。ルーグに対しては、自分の教えを滔々と言い聞かせ、まるで……自分の愛息のように接してくれた。
 お陰で今のルーグが有る。彼女には感謝が尽きないし、故にこそあの時救えなかった自分が憎く、恨めしい。返しきれない恩をどこにぶつければ良いのか分からず、煩悶する日々を送らざるを得なかった。
「……ハンターは背中で語れ、か」
 ポツリと呟いたその台詞に、ユニが両眼を輝かせて迫ってくる。
「カッコいいでありますな、それ! ハンターは背中で語れ……! くぅーっ、英雄は言う事が違うでありますっ!」
 思わず「その台詞は受け売りだ」と口を挟みそうになったが、ルーグは黙って彼の賛辞を受け入れる事にした。もうその台詞を言ってくれる存在はいない。ならば自分が継いで、また別の誰かに継がせていくほか無い。
 彼女ももしかしたら、その脈々と繋いできた誰かの台詞を己に言い聞かそうとしたのではないだろうか。そこまで想像を働かせたルーグは、頭を振って思考を払った。確かめようの無い事で、ロマンに満ち溢れてはいるが、今のルーグにとっては心底どうでも良い事だった。
 だけど、何故だろうか。彼女にその事を告げたら、きっと渋い顔をされるだろうな、と、そんな思考が朧気に浮かび、霞んでいくのだった。

◇◆◇◆◇

「ゴォアァアァァアアアォォォォオオオオッッ!!」
 二度目の遭遇はすぐだった。火山洞窟内部の更に奥まった場所で、その巨体はハンターを待ち構えるように佇み、姿を視認した瞬間に怒りの咆哮を奏でた。
 癒えない傷に憤怒の形相を滲ませ、グラビモスは後退りすると、その巨体からは考えられないような身軽さで跳び上がり、腹を地面に擦るように滑らせて突撃してくる。当然そんな巨体に引き潰されれば人間など簡単にペーストになってしまうだろう。
 三人は散開しつつ己の射程圏内に身を寄せる。一度目の会戦時に仲間の動きは大まかにだが把握できている。ここからは全力で己の狩猟に没頭できる。
 グラビモスが体勢を立て直しきる前に、牙狼銃槍【巨星】を抜刀ざまに砲撃を浴びせる。爆音と共に鎧竜の頑健な甲殻が爆ぜ飛び焦げ散り、僅かだが出血も確認できた。
 併しそんなもの掠り傷だと言わんばかりに身じろぎすら見せず、グラビモスは突進のモーションに入った。足元近くにいたルーグは咄嗟に盾を構え、突撃の反動に備える。
 重たい衝撃が盾越しに伝わり、三メートル以上押し込まれていく。その途中でルーグは盾を斜めに構え直し、グラビモスの突進を受け流す。その場で回転するようにグラビモスの突進を躱したルーグは、鈍重な動きから解放されるべく背に戻し、再び身軽な状態でグラビモスの後を追う。
「うぉぉぉぉおおおおッッ!!」
 その間にグラビモスが静止する空間を見極めていたユニが鬼人化を果たして斬撃を繰り出す。砥石によって斬れ味を取り戻したドン・デュアルは再びグラビモスの足に猛威を振るい、甲殻と血液を撒き散らして鮮烈な裂傷を次々に生み出していく。
「グァアゥウ……」
 堪らず呻き声を発して怯むグラビモス。頑強な甲殻に覆われているとは言え、何度も何度も斬り刻まれた裂傷はグラビモスの肉体に確実にダメージを与えていた。その巨体を支えるたった二本の足である、尋常ならざる筋繊維で守られているが故に、抉られた傷跡は致命傷になりかねない。
 まだ二度目の戦闘だと言うのにそこまでの損傷を与えたユニの功績は大きい。その装備に見合うだけの実力はやはり備わっていたのだと再認識できる。
 グラビモスが再び熱線を吐き出そうと仰け反ったその時、一本の矢がその巨体の腹部を覆っていた甲殻をベロリと剥がした。岩盤染みた甲殻とは全く異なる、生物らしい赤色の肉を曝け出したグラビモスはその場で大きく震えて体勢を立て直す。
「腹の部位破壊が完了しました、一気呵成に攻めましょう!」
 後方でヴェントが吼えた。彼の弓の技術もユニに引けを取らない。アートルメンティアと言う弓自体がそもそも韋駄天杯と呼ばれる祭りで優秀な成績を出した者に与えられる代物で、それを有しているだけの技術が有る事は予め想定済みだったが、それを踏まえても彼の実力は秀逸に過ぎた。
 ルーグ自身、砲撃でグラビモスの腹部に何度か攻撃を仕掛けていたが、それ以上に貫通矢で腹部に執拗に攻撃を繰り出していたヴェントである。全ての矢が一点のみに集中した事で、二度目の会戦間も無く腹部を破壊する事が出来た。
 グラビモスは腹部の甲殻を破壊する事で、柔らかな腹部の肉を曝け出させる事が可能になる。その肉質は全身を覆う岩盤染みた甲殻の何倍も柔らかく、あらゆる攻撃……斬撃、打撃、射撃、全てに於いてダメージの増強が望める。
 故にこそグラビモスの腹部の部位破壊は何よりも急がれる要点なのだが、それをほぼヴェント一人で達成したと言っても過言ではない。熟練のハンターであっても何度も狩猟を重ねる上でやっと破壊できる部位を、彼はたった二度の接敵で成し遂げたのだ。
 邂逅したばかりの認識を改めざるを得ない、そうルーグは思考を切り替える。彼らは保有する装備に相応しい実力を備えている。この狩猟で、背中を預けるに足る存在だと確信した。
 一度主観が切り替われば全体の評価は一変する。彼らなら己が守らずとも自ら戦況に対応してくれる。ならば己は己が為すべきを迅速に為すだけだ。
「オオオッ!」
 牙狼銃槍【巨星】を振り上げ、その鉾先をグラビモスの柔らかな腹肉に突き立てる。今までの岩石を抉るような感触が、筋繊維が裂ける柔らかな感触に変わり、先刻より明らかにダメージが加わっている感覚がガンランス越しに伝わってくる。
 グラビモスの体内を突き破る牙狼銃槍【巨星】の矛が、灼熱に燃え上がる。引鉄を過たず引き絞り、巨体の内臓を破砕すべく砲撃を放つ。爆音と共にグラビモスの悲鳴が弾け、巨体が大きくよろめく。鮮やかなピンク色の肉は黒ずみ、傷痕からは滂沱と温血が流下している。
「ゴァアオァアアオオオオッッ!!」
 火山地帯全域が鳴動する咆哮を掻き鳴らし、グラビモスは眼光に鋭い殺気を滾らせてルーグを睨み据える。己の何倍も小さく小賢しい生物にここまでされては、生物の頂点に座すと言われる竜の沽券に係わるのだろう、先刻よりも動きが機敏になっていく。
 後退りからの、突進。直線上に在る全てを粉砕する巨体の突撃に、ルーグは正面から対峙し、瞬間を見極める。
「ルーグさんっ!?」
 ユニの悲鳴が弾けた。ガードの体勢にも入らず、まるでグラビモスの体当たりで自殺を敢行するかのような姿のルーグに、最悪の想像が働いてしまったのだろう。
 ユニの悲痛な叫びは確かに耳朶を打ち、脳髄にも届いていたが、腹の底に熱く滾る芯のようなモノが理解を拒む。ルーグには今、眼前に浮かぶグラビモスしか見えておらず、周囲一帯の全てがホワイトアウトしていた。
 今己が為そうとしているそれは、蛮勇でも暴勇でもない。ただ、腹の底に沈殿する熱い塊が、為せと、やってみせろと、吼え立てるのだ。
 彼我の距離は秒単位で縮まっていく。グラビモスの、見上げる高さの巨体がルーグの全身を覆う――その瞬間、分厚い両脚の隙間を縫うようにバックステップを踏み、直後に砲撃を撃ち放つ。爆炎はグラビモスの足に留まらず、露出した腹肉も炙り、突進の慣性を殺せなかったグラビモスはその場で足を縺れさせ、盛大に転倒した。
 全身に冷や汗が浮かび、同時に脳内では興奮状態になる物質を大量に生成し、自然とルーグの口唇に笑みが浮かぶ。
 そうだ、これだ。これがやりたかったのだ。ルーグは総身を震わせる快感に思考を浸し、名状し難い法悦に蕩けそうになる。
「うおおおおおおっっ!! 素晴らしいロマンだ!! 燃えてきたあああああああっっ!!」
「カッコいいであります!! カッコ良過ぎるでありますよ、ルーグさん!!」
 後方でヴェントとユニの歓声が爆発する。グッと牙狼銃槍【巨星】を振り上げて、ルーグは背中で応えた。
 そもそもこんな無茶をする必要など無いのだ。狩猟とは己より強靭且つ堅牢な生物である自然との戦いである。少しでもリスクを減らし、少しでも多くリターンを得る、そのために技術を行使し、知識を共有し、情報を蓄積せねばならない。
 可能な限り素早くダメージを与える事は確かに肝要だが、それと同程度に危険な真似を排斥するのがハンターの定石だ。「もしかしたら次の瞬間突進を喰らうかも知れない」と言う時節にすべきは攻撃ではなく防御や回避なのだ。
 一瞬でも読みを誤ったら即犬死にと言うタイミングで攻撃を仕掛けるのは一流のハンターでは有り得ない。堅実に、且つ効率良く攻撃を加え、じわりじわりとモンスターの体力を削るのが狩猟であって、綱渡りをするような行為は仲間の身を危険に晒す真似でしかない。
 それでも、だ。それでもルーグはやらずにいられなかった。仲間から非難を浴びる可能性が介在したにも拘らず、躊躇せずやってみせた。運が悪ければ死んでいたかも知れない可能性を考慮しても、だ。
 結果論として、ルーグは賛辞に浴した。そしてルーグはこの声を待ち望んでいたのだと、己が間違った選択をしたのではないと、改めて確信した。
 ――こうした方が、カッコいいだろ? だったら、やるしかない。カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ。
 思考の奥深くで蘇生する彼女の台詞に、今なら全面的に頷けると、ルーグは思わず苦笑を浮かべてしまうのだった。

【後書】
 ガンランスもそうですが、ランスや弓のバックステップでモンスターの攻撃を回避するのって、あんまりその武器を使わない方や、使っていても練度の低いハンターさんだと、すんごいカッコよく映るんですよあれ!
 むかーし、P2Gの高難易度クエストと言いますか、ラージャン二頭クエを裸ランス且つ被弾0で討伐するって動画を見た時の興奮は今でも忘れられませんw ひたすら「神や! この人は神!!」と連呼しましたとも!w それぐらいにね、わたくしにとってバックステップ回避を上手く使える人は凄まじく熟達したハンターさんなのだと映っておりました…!
 と言う辺りの事を表現したかった感は有ります。今では回避性能+2やブシドースタイルが当たり前の世界ですけれど、そういうスキルやスタイルを行使せずに、己のプレイヤースキルのみでモンスターの攻撃を完封する人間辞めちゃった系ハンターは、いつの時代も輝かしいものです(安直に廃人と言いたくなりますが!w)。
 と言う訳で物語も折り返しです。順調に進むグラビモス狩猟ですが、果たして…? 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    バックステップでの回避はカッコいいですよね!
    どんだけ攻撃されても「ヒョイッ、ヒョイッ」って感じで華麗に回避w
    そしてその回避が攻撃を避けるためだけではなく、
    次の攻撃のための位置取りだったりするんだから素晴らしいロマンですw

    おお!折返しですね。
    ここまで大変順調に来てますが、このまま済むなんて到底思えない訳でw
    ねっ!センセv
    3人が無事狩猟を終えることができるよう祈っておりまするv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      バックステップの回避ってほんとカッコいいですよね…!
      軽やかにヒョイッ、ヒョイッって回避されると「あれ? 実は簡単なんじゃ?」って思えてくるんですけれど、実際にやってみて分かるあの高練度の業よ…!w
      ですです! あの回避って攻撃を避けるため“だけ”ではなく、距離を詰めたり、攻撃を加えるための動きですからね! ほんと素晴らしいロマンですw

      ですです! 遂に折り返しです!
      (ΦωΦ)フフフ…そうですよねぇw わたくしの作品を愛読されてる読者様なら、そういう発想にならざるを得ない」ですよね…!ww
      ぜひぜひ! お祈りを欠かさずに宜しくお願い致します!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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