2019年2月18日月曜日

【余命一月の勇者様】第49話 最後の試練【オリジナル小説】

■あらすじ
エンドラゴンの元へ辿り着いた四人が迎える、最後の試練。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第49話

第49話 最後の試練


「ようこそ我が褥(しとね)へ。伏せたままの顔合わせになるが、許して欲しい」

 階段を登り切った先には、確かにドラゴンがいた。
 全身を覆う黒色の鱗。伸ばせば如何な動物よりも長かろう首は、ゆったりと床に寝かされ、頭だけがミコト達の前に佇んでいる。体に至っては、視界に納める事が出来ない程に巨大だ。
 端的に言えば、頭だけでミコトの数倍――否、数十倍は有ろうかと言う大きさで、見上げる先に尖った鼻と眼球が窺える。膨大な白い髭が、一瞬白色の草原の只中にいるように思わせる程に、辺り一帯に敷き詰められていた。
 人族とは比較にならない巨大さを誇る威容に、居合わせる誰もが絶句していた。これほどの威容を人族が生きている間に拝む事など、まずまず有り得ないだろう。
 併し――それほど圧倒的な生物でありながら、ミコトは眼前のドラゴンから生気を感じ取る事が出来なかった。時折吹き荒ぶ鼻息とも吐息とも取れるそよ風が彼の呼吸であると分かっていながらも、まるで静物……生き物であると言うオーラが漂ってこない。
「挨拶が遅れた。ワシこそがオワリの国を預かる守護者、エンドラゴンである」透き通るような男声が、白い草原を靡かせて通り過ぎていく。「予め視ておるゆえ、既知ではあるが、敢えて名を問うておこうか。人族の子らよ」
「――俺はミコト。咲原ミコトだ」エンドラゴンを見上げ、堂々と告げるミコト。
「俺はマナカ! 追瀬マナカだ! 宜しくな!」と言ってエンドラゴンの手を探すも見つからなかったために、白い髭をワシャワシャ撫で始めるマナカ。「宜しくな!」
「マツゴ陛下の近衛騎士を務めております、二式オルナと申します」スッと儀礼的な敬礼を行うオルナ。
「同じく、樹樽シュンと申します」オルナに続いて儀礼的な敬礼を取るシュン。
 エンドラゴンはそんな四人をゆっくり見下ろした後、優しく目尻を下げて微笑んだ。
「……さて、其方らはワシに大願を叶えて欲しく、ここまで来た……そうであろう?」
「――おう、そうだぜ! ミコトの寿命を元に戻して欲しいんだ!」
 即座に応じたのはマナカだった。ミコトはそれに小さく首肯を返し、エンドラゴンを見上げる。
「エンドラゴンは今、気分が良いのか?」
「……クフ、クフフ……」空気が抜けるような笑声を漏らすと、エンドラゴンは口唇を動かさずに、周囲一帯を埋め尽くしている白い髭を棚引かせて応じる。「そうだのぅ、気分は、良いのぅ……」
「じゃあ願いを叶えてくれるのか!?」マナカが嬉々として大声を張り上げてミコトに振り返った。「やったなミコト! これでお前は――」
「併し――まだ最後の試練を終えておらぬじゃろう。最後の試練を超えた者にこそ、大願を成す資格が与えられる」微笑の形に瞳を歪めたまま、エンドラゴンは続けた。「……そうじゃの、ワシは今、気分が良い。因って、ミコト。試練を超えられたならば、其方の大願を成就すると、確約しよう」
 ミコト、マナカ、そしてオルナの顔に驚喜の色が走り、マナカの歓声が弾けるのも束の間、一人冷厳な面持ちでエンドラゴンを睨み据える騎士がいた。
「――お待ちくだされ、エンドラゴン様。私も――どうか私めにも、その大願成就せし機会、与えては下さらぬか」
 三人の視線がシュンに向く。彼は儀礼的な敬礼の仕草をしたまま、有無を言わさぬ眼力でエンドラゴンを睨み据えていた。
 シュンが何を願い、何を叶えるつもりなのか、三人には杳として知れない。あのマシタに仕える近衛騎士である、もしかしたら碌でもない事なのではないか――そう勘繰る事も出来たが……
「……良いだろう。シュン、其方にも最後の試練を超えた暁には、其方の大願を成就すると確約しよう」
「えっ!? じゃ、じゃあ俺も俺も!」はいはいはーい! と何度も挙手するマナカ。
「……私も、良いでしょうか」シュンのように儀礼的な敬礼をしてお伺いを立てるオルナ。
「……クフ、いいや、ワシの今の気分では、そこな二人に限る。其方らは、残念ながら、大願を成就する事は確約できぬ」
「そんなぁー!」「……承知致しました」
 がーん! と泣きべそを掻きながら跪くマナカと、消沈した様子で一歩下がるオルナ。
 そんな二人に、ミコトは後頭部を掻きながら「何か、悪いな。俺だけで」とばつが悪そうに呟いた。
「ミコトばっかりズルいぞ!」ぷんぷん、と頭から蒸気を発しながらミコトに詰め寄るマナカだったが、すぐに笑顔を浮かべて、「でもよ、ミコトの願いが叶うなら、それで俺は満足だ! もうそれ以上の願いなんてねえよ!」とミコトの肩をバシバシ叩いた。
 そんなマナカの反応にミコトも嬉しそうに相槌を打つと、エンドラゴンに一歩、詰め寄る。
「それで、俺にどんな試練を課すんだ?」
 エンドラゴンは優しい眼差しを降り注ぎながら、ゆったりとした語調で、こう告げた。
「最後の試練は、勇気の試練。其方の、勇気を試そう」
「……勇気の、試練、か」小さく反芻するミコト。「挑むぜ、俺は」
「そうか、そうか」老成した声が、楽しそうに跳ねた。「では、ミコトよ。次の問いには、“はい”か“いいえ”とだけ答えよ。それ以外の返答をした時は、其方は門前に帰っておる事じゃろう。……それでだな、ミコト。寿命が更に二週間……“十四日減っても”、其方は試練攻略を優先するや、否や」
 ――ミコトの両眼が、見開かれる。
 エンドラゴンは、それ以上言葉を紡がない。
 それは――その問いは、勇気の試練である、のか。
 そう問おうにも、問うた瞬間、ミコトは迷宮の門前に立たされる事になると、今し方エンドラゴンは明言したばかりだ。
 もしこれが……最後の試練“ではない”としたら。最後の試練でもないのに、エンドラゴンの力で、“ただミコトの寿命が十四日も減るのであれば”。
 昨夜の段階で、ミコトの寿命は二十日を切り、十九日となっている。それが、十四日も減ると言うのであれば……この試練がどうであれ、五日しか残らない。
 それは、試練を失敗した時のリスクがあまりにも大き過ぎるのではないか。
 大願が叶うと信じて、“はい”と答えるべきか。
 それとも、“いいえ”と応じ、残り十九日を家族のために費やすべきか。
 ミコトは口の中がカラカラに乾く感覚に身を浸しながら、詰まりそうになる喉を一度、ゴクリ、と蠕動させて、――小さく、深呼吸した。
「――――“はい”」
 ミコトは、そう、告げた。
 エンドラゴンは日溜まりのような眼差しをミコトに注ぎながら、「そうか、そうか」と何度も頷くように、相槌を繰り返した。
「ミコトよ。其方は、最後まで希望を――大願を捨てぬと、そう言うのだな?」
「……最後まで試練を攻略しないのは、エンドラゴンに失礼かと思ってな」
 そう切り返せたのは、単純に胆が据わっていたから――ではない。
 つい先刻、イメに諭されたから……そんな想いで、ミコトはエンドラゴンを見上げていた。
 最後まで諦めない。最後の最後まで、やり通す。それでダメだったら、その時考えれば良い。
 何が最善だったかなんて、その瞬間には分からないだろう。であれば、己が最善だと“思う”方を選べばいい。
 寿命が無くなっても、願いを叶えて貰えばそれで良いだなんて、そんな大博打……まるで親父みたいだなと、ミコトは思わずにいられなかった。
「では、ミコトよ。契約通り、“其方の寿命を頂くぞ”」
 すぅ――――と、ミコトは自身の体から空気が抜けるような感覚に襲われ、一瞬立ち眩みを覚えた。
 マナカに体を支えられてやっと立っていられる状態だったが、「大丈夫かミコト!?」と心配しきった声を掛けられる頃には意識が戻り、ミコトは頭を押さえながらではあったが、マナカに「大丈夫だ」と親指を立てて微笑を返せるぐらいには立ち直っていた。
「おいテメエ!! ミコトの寿命を返せよ!! 何て事してくれてんだよお前!!」
 元気になったミコトを確認するや否や、マナカが喧々囂々とエンドラゴンを指差して吼え始めた。咄嗟にオルナが羽交い絞めにするも、マナカは構わず喚き続けた。
「これでミコトが死んだらお前!! 絶対に許さねえからな!? お前だけは、絶対に!!」
「落ち着いてくれまじで!! ミコトっ、お前もマナカを止めてくれ!! こいつやべーぞエンドラゴン様をまじで殺しかねん!!」
「クハッ、クフハハハッ!」白い髭の海が波を打って、辺り一帯に楽しげな笑声が輪唱し始めた。「人族の子よ、そう憤るな。その者は最後の試練を攻略したのだ、ワシが願いを叶えるに値する者と見做したと言う事ぞ。其方が憤る事は、何も有るまい?」
「何言ってるか分からねえけどなお前!! ミコトの寿命をよぉ!! 何だってそんな簡単に奪うんだ!!」怒り沸騰の顔で、マナカは口角泡を飛ばしながら吼えた。「ミコトのじゃなくて、俺のを奪えよ!! ミコトを! 俺の家族を! 苦しめるんじゃねえ!!」
 遂にオルナの制止を振り切ってエンドラゴンに突撃したマナカだったが、彼が大剣を振り抜く前に、彼の前にミコトが立ち塞がった。
「ミコト……ッ!?」
「マナカが怒るのは、流石に俺だって分かる。でもよ、これで願いを叶えて貰えるんだ。つまり、寿命が戻るって事だろ? なら、大丈夫だ。大丈夫だから、マナカ」
 ポン、とマナカの肩を叩いて落ち着かせようとするも、マナカは数瞬歯を食い縛って地団太を踏み、「あ~ッ!!」と喚声を上げた後、憑き物が落ちたように、けろっと「それもそうだな! ミコトの寿命が戻るなら、俺はそれで満足だ!」と興奮した色合いを残した表情で、親指を立てて笑顔を刻んだ。
「話は済んだかの? では、次はシュンとやら。其方も、勇気の試練。挑むや否や?」
 ミコトとマナカの話し合いに然して関心が無さそうに呟いたエンドラゴンに、シュンも二人を一瞥するだけで、「是が非でも」とエンドラゴンに意識を戻してしまう。
「そうか、そうか」優しい眼差しをシュンに落とすと、エンドラゴンは穏和な語調で、こう告げた。「では、シュンよ。其方が生涯隠し通すと決めた罪業を、この場で聞かせてくれぬか」
 ――シュンの表情に変化は無かった。
 ミコト、マナカ、オルナが、エンドラゴンの課した試練の意図を勘繰る前に、近衛騎士は口唇に――悪辣な笑みを、浮かべる。
「……全ては看破されている、と言う事、か」
「シュン……?」
「必要とあらば語りましょう。あれは――」
 そう、シュンが語り出すのかと、思った次の瞬間だった。
 一切の違和を感じさせない自然な動きで、シュンは腰に佩いていた長剣を抜剣――ミコトに、躊躇無く斬りかかった。
 あまりに滑らかで、あまりに違和感が無く、あまりに自然体での斬撃に、ミコトは一瞬――否、致命的に判断が遅れ、反射神経が応じる事も無く、袈裟懸けに――――される直前、ギィンッ、と言う鉄同士が噛み合う硬音が弾け、眼前で火花が散るだけで、ミコトの肉体に裂傷が走る事は無かった。
「――――ミコトッ!?」「――――どういうつもりだテメエ……ッ!?」
 マナカの悲鳴と、オルナの困惑の声が副音声に走る。
 ミコトは突然の事に後じさり、五体が無事だった事に安堵するのも束の間、シュンの凶刃から咄嗟に庇ってくれたオルナに意識が向かう。
 オルナは――どうしてそんな速度で反応できたのか分からないくらいに、シュンの長剣をマトモに受け止めていた。あの瞬間、オルナも同時に抜剣していたとしか思えない程の、刹那の判断力、咄嗟の行動力の末に、ミコトの無事が有る。
 シュンはまるで人族を相手にしているのではなく――虫けらでも叩き潰そうとしているかのような峻拒(しゅんきょ)の眼差しでオルナを見下ろし、力を一切緩める事無く鍔迫り合いを続ける。
「……どういうつもりか知らねえが、」スッと、片手剣を抜き放つミコト。「生憎と、こんな所で死ぬ訳にはいかねえんだ。やるならこっちも全力で相手するぜ?」
「おうよ、ミコトに喧嘩を売るってんなら、」素早く大剣を構えるマナカ。「俺に喧嘩を売ったって事だ、叩きのめしてやるぜ」
「……“やはり”貴様が楯突くか、オルナ」ミコトとマナカには一瞥すら向けず、オルナを冷厳な眼差しで射止めるシュン。「安心しろ、固より“貴様も葬る予定だったのだからな”」
 鍔迫り合いが硬直から解き放たれ、シュンが反転して狙いをミコトからオルナに変更――瞬斬せんとばかりに長剣を振り翳す。
 オルナは斬り伏せられる間際に体勢を立て直そうとするも、間に合わず――――ミコトの片手剣と、マナカの大剣が、シュンの凶刃を間一髪で防いだ。
「――ッ、三対一、だな」歯を食い縛ってシュンの斬撃を受け止めるミコト。「不意打ちに失敗した時点でお前の敗北は決まったようだが、――まだ続けるつもりなら、俺とマナカが黙っちゃいねえぞ」
「ほざくな下郎」涼しい表情で吐き捨てるシュン。「“順序が変わっただけだ”。些末事でしかない。……であるなら、聞かせてやろうか。我が罪、我が覇道を」
 キィンッ、と言う鉄の弾ける音と共にシュンは長剣を引いてバックステップ――三人から距離を取り、未だかつて見た事の無い、悪辣な笑みを浮かべて、歪んだ口から告解が始まった。
「マナカ、と言ったな。第二王子と称するのならば、こう言えようか。貴様の愚母、そしてオルナの愚兄を凶害したのは――この私だ」

【後書】
 矢継ぎ早の展開ですが、遂に願いを叶えてくれる直前まで来ました!
 寧ろそんな事を喜んでる場合ではない展開なのですが!w いよいよこのマナカ編と言いますか、迷宮編で生じた謎が明かされる時が来たと言う事です。ガンガン加速して参りますよう!
 ここから怒涛の展開ですのでどうかお見逃しなく! 最終回までもう間も無くです! 次回もぜひぜひお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ついに大願成就!やったぜミコトくんvv
    なんて喜ぶ暇もない展開、ついにオワリの国の「闇」が牙を剥くっ!

    オルナさんはこういう展開を読んでいたのでは?
    っていうか、第二の試練のときお兄さんから言われた“後は、鍵を鍵穴に”
    これですな!
    この後の展開楽しみです。…っが、終わっちゃうの寂しいなぁw

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      やりました! これで遂に…!
      と、喜んでる場合じゃないんですよね!w ここからどう転がっていくのかも、ぜひぜひお見逃しなくっ!

      流石に鋭いっ!w そうです、オルナさん、もしかしなくてもこの展開を読んでいた可能性が有りますよね。
      ですです! その台詞のFlagをしっかり回収していた…? と言う事になりますね!
      ですのうw もうやがて2年半も続いていた物語です、終わってしまうのが作者としても寂しいです…w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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