2019年2月20日水曜日

【滅びの王】69頁■葛生鷹定の書4『王国を敵に回す訳』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/09に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第70話

69頁■葛生鷹定の書4『王国を敵に回す訳』


 軍兵舎を出て、王都内に在る喫茶店に入り、珈琲を頼んだ。砂糖と牛乳をたっぷり入れて、甘ったるくする。
 ――不意に〈風の便り〉が届いた事に気づいて、人知れず開けてみる。
『鷹定? オレ、練磨だけど』
「――――」
 思わず珈琲を噴き出しそうになって咽返ったが、〈風の便り〉は勝手に続きを紡ぎ始める。
『鷹定。……訊きたい事が有るんだけど、良いか? 実は……麗子さんから聞いたんだけど、鷹定、お前、《贄巫女》の儀式を止めようとしてるのか? ……もしそうなら、理由を聞きたいんだ。話せないなら、オレは我慢する。でも、話せる事なら……相談に乗れる事だったら、オレにも話してくれよ! オレ、鷹定の仲間だろ? それとも、鷹定はオレを仲間だって思ってくれなかったのか?』
 ……違う。俺は練磨を仲間だと思ってる。今も、ずっと。
 だけど……違うんだ。仲間だからこそ、言いたくない事だって、有るんだ……っ。
『……返信、待ってるぜ? オレは、……鷹定を信じてるから』
 そこで〈風の便り〉は切れていた。
 ……分かってる。ここで練磨に理由を話せば、俺の自分勝手な行動に巻き込む事ぐらい。
 話したくないんじゃなくて、話せないんだ。話して巻き込みたくない。練磨が《滅びの王》だとしても、……それでも、練磨にはまだ、普通に生きていける道が残されてる。それを自ら潰す必要なんて、無いんだ。俺に関わったばかりに王国を敵に回すなんて、馬鹿げてる。それだけは、絶対に阻止せねばなるまい。
 分かってるのに、……俺の心は完全に動揺していた。
「……」
 甘ったるく茶色い珈琲を飲み干すと、タバチョコを咥えて黙然と考え込む。
 ……俺は、練磨のお陰で、こうして自ら行動を起こせる位に現状を考える事が出来た。それは、俺にしてみれば凄い成長だ。ようやく、自分が何をしたいのかに気づけたのだから。
 だからと言って俺の件に練磨を巻き込むのは、お門違いだ。わざわざ泥沼に浸からせる必要は、無い。
 ……やはり話さない方が良い。俺はそう決断すると、喫茶店を後にしようとして――〈風の便り〉に気づいた。
 返信がすぐに来ないから、練磨がもう一つ余分に送ってきたのだろうか? 開いてみると、
『こんにちは、鷹定君。あれから逢ってないから、私は寂しいわ♪』
「……鈴懸」
 はぁ、と重い溜め息が漏れて、思わず頭を抱える。
 そもそも、この女が練磨に口添えしなければ、今みたいに苦悩する破目にはならなかったのに……ちょっと八つ当たり気味に考えてしまう。
『君、王国を敵に回そうとしてるんだって? 《贄巫女》の儀式を止めるとか? そこで物は相談なんだけど……私にそれを手伝わせてくれない?』
「……?」
 手伝う? 《贄巫女》を止める儀式を? 何故?
 色んな疑問が浮かんだが、鈴懸は一方的に話し続ける。
『鷹定君は知ってる? 【世界の終わり】って組織』
 ……聞いた事は有る。帝国の背後にいる、と言われていた組織の事だ。王国と大戦争を行った時にも、その影がちらついていたと聞いた覚えが有る。
 大規模な組織と聞いたが、実際の所、どの文献にもそれらしい組織名は記述されていないし、先人達もそう言った事は何一つ言い残さずに亡くなってしまっている。
 謎多き組織ではあるが、王国軍内部ではそのような組織は夢幻という扱いを受け、暗黙の内に調査は中止されている。何より、軍上層部の連中が首を縦に振らないばかりか、申告した兵士を有耶無耶に抹消してしまうと言う実しやかな噂により、今では誰も調べたがらない、ある種の禁忌と化している。
『その組織が関与しているみたいなのよ。――《贄巫女》の儀式に、ね』
 ……確かに、あの儀式はそういった色の強い存在だ。そういった組織が関与していても何ら不思議ではあるまい。
『だからお願い。私にも一枚噛ませて欲しいの。……そうすれば、私も手伝ってあげられるわ。助けたいんでしょ、彼女?』
「……」
 思わず頭を抱えて卓に突っ伏す。
 ……この女、全て計算ずくと言う訳か……油断も隙も有ったもんじゃない。
 先読みされ過ぎて、どこまでが操作なのか分からなくなってくる。だから関わり合いたくなかったんだ、この女とは。
『じゃあ待ち合わせ場所は千万(ちよろず)図書館と言う事で……最上階で逢いましょう? 久し振りに、君の顔を見たいわ♪』
 そこで〈風の便り〉は切れ、……俺はただただ頭を抱えていた。

◇◆◇◆◇

 王立千万図書館。
 王都の華やかな印象がそのまま投影している。地上五階・地下三階の巨大さも圧巻ながら、中の様相は重苦しいものではなく色取り取りの色彩が眼に飛び込む。さながら子供部屋を連想させる造りになっている。
 最上階は閲覧室……屋上へと続く短い階段や、子供用の遊具が置いてある空間が広がっている。屋上は当然屋外で、今の時期なら日光浴をするのに絶好の場所と言える。
 昔は臣叡や師に連れられて来た事も有ったが……最近は一度、《贄巫女》の儀式に就いて調べに来ただけで、流石に最上階まで来た事は無かった。
 刀を差したまま中に入り、階段を踏み締めて最上階まで辿り着くと、手近の本を取って、木製の長椅子に腰掛けた。
「……結局、ここじゃ何も手掛かりを得られなかったんだよな……」
《贄巫女》の儀式に就いて調べに赴いたと言ったが、その時は全く資料が手に入らず、結局何の成果も得られなかったのだ。……あの時は、一日掛け探したのに成果無しという現実に、心身ともに打ちのめされた、と言う苦い記憶が残っている。
 今取って来た本は剣術の指南書だ。色褪せた、人の垢塗れの汚らしい本。
 それだけ色んな人物が、色んな想いで使ったと言う証だ。
 それを浅く読んでいると、こちらに向かってくる足音と気配を感じて、俺は然程の警戒も無く視線を上げる。
「お待たせ♪ ちゃんと女よりも早く来てるじゃない♪ やっぱり、男の子はそうじゃないと♪」
「……待たせた事は謝ろう。何せ、都内を雪花で走り回っても、これ以上早く来る事は出来なかったんだ」
「あら。気づいてたの?」
 鈴懸麗子は俺が来る以前から図書館にいた。それを知って尚、彼女の許へ行かなかったのかと言うと、彼女が姿を現そうとしないから、無理に出向く必要も無いと思っての事だ。こんな風に待ち合わせを意識したかったからじゃない。
 鈴懸は少し不満そうに口を尖らせたが、俺は無視して話を進める事にした。
「……どう手伝うつもりだ?」
「せっかちさん♪ 少しは私を誘ってみせてよ?」
「生憎、俺にそんな余裕は無い。……出来れば、今すぐにでもここから出たい所だ」
「じゃあ、私を想ってここに留まってくれてるの? 嬉しいっ♪」
「……」
 どうしても話を進める気は無いらしい。
 俺が立ち上がり掛けて、――隣に鈴懸が腰掛けたので、視線を向けつつ、座り直した。
「――悪い話じゃないと思うわ。私の狙いも、《贄巫女》の阻止なんだから」
「……どういうつもりだ? 何が目的で王国に敵対するなど――」
「王国に敵対するつもりはこれっぽっちも無いの。……結果としては、そうなるかも知れないけど、私の目的はあくまで【世界の終わり】。その組織を見つける事が最優先事項なのよ」
「……【世界の終わり】が【贄巫女】の儀式を運営している、とでも言うつもりか? ……仮にそうなら、王室はもう既に……」
「結論から言わせて貰えば、王室に意味は無いの。……王室の一部だけが傀儡だとしても、既に手遅れだと思うわ。今更《侍》に儀式の取り止めを申告されても、何の動きも無いに違いないわ」
 ……王室が既に【世界の終わり】の傀儡だとすれば、臣叡は…… 
「仮に【世界の終わり】が運営していたとして、君はどうするつもりだ? 王室内部にさえ干渉できる相手と、どう張り合うつもりなんだ?」
 幾ら彼女が凄腕の間者でも、王国と言う国と戦おうなんて無理な話だ。賭けにもなるまい。
 鈴懸は小さく笑むと、俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。豊満な胸が俺の腕に密着する。
「君がいるじゃない♪」
「……」
 ふざけているとしか思えない発言に、俺は沈黙を返した。
 ……確かに俺は王国を敵に回すと言ったが……それは別の意味と言うか…… 
 タバチョコに手を伸ばして、口に運んだ。甘ったるい味が舌に広がる。
 鈴懸が俺を見つめて、不意に脹れっ面になった。
「……それとも、鷹定君は小さい子しか守れないのかしらん? 年上の女性は……嫌い?」
「……からかってるだろ?」
「あら。バレたかしら♪」
「……」
 いつか呪われろ、と思いながら、俺は腕を振り解いて立ち上がろうとした。
 ――が、腕を極(き)められて、立ち上がる事は叶わなかった。
「……離してくれないか? 時間が無いんだ」
「ううん、時間ならまだ有るわ♪ そんなに焦らずとも、君なら出来るわよ。ね、《蒼刃》さん?」
「……一つ、訊きたい」
「何かしら? 私に応えられる事なら、何でも構わないわよ♪ 体の寸法は秘密だけど☆」
「何故俺が《贄巫女》の儀式を止めると分かった? 俺は、一度もそんな事を言った覚えは無いんだが」
 ずっと疑問に感じていた。何故逢ったその日から《贄巫女》の儀式の話が出てきたのか。俺の事を即座に《双刀の蒼刃》……《侍》と見抜いてもいたし、彼女には千里眼でも有るのだろうか?
 そう思って問い掛けると、鈴懸は俺の腕に絡んだまま、しな垂れかかって、甘えるような口振りで告げた。
「女には秘密の花園を持たせるべきよ?」
「……応える気は無いんだな」
「うふふ♪ それは君次第だよっ、鷹定君?」
 完全におちょくってるな、こいつは。
 ウンザリした気分で脱力すると、鈴懸は俺の口からタバチョコを摘まみ出し、自分の口に運んだ。
「……ま、いわゆる賭けって奴ね。私も、初めから知ってた訳じゃないわよ。色々と鎌を掛けてみないと分からない事も多いから、ね♪」
「……」
 どこまでが本気なのか分からないから怖い。
「君が《贄巫女》の儀式をどうにかするつもりと分かったのは、本当につい最近よ。色々と情報を組み合わせれば、自然と導き出せるしね。有力な情報――まず『《滅びの王》の力を借りたい』事。その時期。最後に、君は『王国と敵対する』らしい……これだけ揃っていれば、私じゃなくても分かっちゃうわよ♪」
「……過小評価だな。分かる奴の方が少なかろう」
「一応、こう見えて長い間この職に就いてるから、かしら♪」
 うふふ、と妖艶に笑う鈴懸。その笑みには魔力を感じさせるものが有る。俺には悪魔にしか見えない。
「次は私の番ね。――ずばり訊くわ。菖蒲ちゃんをどうやって救うつもり?」
 全てはお見通し、と言う訳だ。隠し立てしても無駄だと言う事は、今までの付き合いで身に沁みて実感している。
 俺は周りから仲睦まじい恋人に見えるであろう体勢のまま、溜め息を零す。
「……何の策も無い。ごり押しで進める」
「懸命ね。……だけど、【世界の終わり】が黙っちゃいないわ。どうするつもり?」
「言っただろう? 策なんて無い。……強行突破しかあるまい」
「……呆れた。それでどうにかなると本気で思ってるの? ……そこで、よ。私が手伝ってあげるって、そういう話」
 鈴懸は腕を回したまま、もう一方の手を使って、俺の太腿の上に「の」の字を書き続ける。
「一人でどうにかなる話じゃないわ。私と、……彼にも手伝って貰わないと、ね?」
「……練磨が本物の《滅びの王》だとしても、俺はあいつの力を借りるつもりは無い。これは、俺だけの問題だ」
「ううん、もう君だけの問題じゃなくなってる。練磨君は、もうここに向かってるわ。早ければ、明日には」
「……」
 ……俺のために、力を貸してくれるんだろう、練磨は。
 もう、俺はそんな事を望んでいない。練磨には《滅びの王》の力を使わずに、平和に暮らして貰いたい。俺なんかのために、人生を棒に振らせたくない。
 だから、もう縁は断ち切るべきなんだ。
「……練磨には悪いが、俺一人でやらせて貰う。……お願いだ、離してくれ」
 俺にはもう、時間が残されていないんだ。
「君は、練磨君の気持ちを考えた事、有るのかしら?」
 腕を離した鈴懸の瞳を、俺は振り返って窺う。
 碧眼は透き通ったまま、まるで鏡のように俺を映し出す。
「……何の話だ?」
「練磨君がどうしたいのか、何で君に分かるの? って話よ」
 鈴懸は立ち上がり、俺の前を悠然と歩いて行く。
「練磨君には練磨君がしたい事をする権利が有る。それを君が勝手に決めちゃ、いけないんじゃない?」
「……だが、」
「それとも、練磨君に君の考えを強要するのかしら?」
 ……だが、そうしなければ練磨は…… 
「少し、頭を冷やして考えてみなさいよ、鷹定君? 君最近、根の詰め過ぎで、考え方が固まってきてるんじゃない?」
「……」
「明日、もう一度ここで逢いましょ? ……その時、ちょっとは結論が変わってる……かも知れないしね♪ 期待してるわよ、鷹定君っ♪」
 言うだけ言うと、鈴懸は階段を下り、姿を消した。
 残された俺は、取られたタバチョコを新たに取り出すと、口に運びつつ、青空を見上げる。
「……練磨の気持ち、ね……」
 妙にしんみりする単語だった。

【後書】
 こう、色んな思惑が飛び交ってる関係って、複雑でモダモダするんですけれど、好きなんですよねぇ…w
 練磨君には練磨君の願いが。鷹定君には鷹定君の想いが。麗子さんには麗子さんの思惑が。全てがこんがらがって、どこに向かうのか…と言う群像劇がね、最高に好きなんですw
 さてさて、今回で鷹定君の書が終わり、次回は…練磨君の書、現実編が始まります。あれ? いつの間に寝てたの? って感じなんですが、この辺りから世界が切り替わるシーンが曖昧になって参ります。因みに深い意味は無いですよ!w そんなこったで次回もお楽しみに~♪ 

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    麗子さんがますます峰不二子ちゃんに見えてきたw

    ほんと色んな思惑が(練磨くん:凄い人生!、鷹定くん:菖蒲!、麗子さん:セカオワ!、崇華ちゃん:練磨~、ミャリくん:テケトー、八宵ちゃん:ハッハッハッ…フゥー、湖太郎:ばうばう)交錯しまくってますw
    書き出してみるとみんな自分勝手に見えるんだけど、実は仲間を思っているという素敵な状況ですw
    さぁ、これから!みんな頑張るんだよーv

    八宵ちゃん大丈夫かなぁ…

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      確かにwwwそういうイメージで綴ってた感は有ります!w

      色んな思惑の中の八宵ちゃん:ハッハッハッ…フゥーでもう腹筋が大変な事になりましたよねwww八宵ちゃん最近出番が無いですけどずぅーっとフルマラソン中なのでね、もうこれしかないですよね!www
      ですです!w 皆好き勝手に動き回ってるかと思いきや、仲間を想っての行動なんですなぁーw
      これから! 応援宜しくお願い致しますよう!

      八宵ちゃん、そろそろ出番無いと倒れてると思われかねないですね…!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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