2019年2月23日土曜日

【嘘つきの英雄】6.三つだけ、私達が守っているルールを教えてやろう【モンハン二次小説】

■あらすじ
「カッコいいなら、やる以外に有り得ないんだよ」……かつて相棒として傍にいた“彼女”に想いを馳せながら、男は己の底に残留する言葉を拾い上げていく。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【Pixiv】、【風雅の戯賊領】の四ヶ所で多重投稿されております。
※注意※過去に配信していた文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター 二次小説 二次創作 MHF


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/70030/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/1066152
■第6話

6.三つだけ、私達が守っているルールを教えてやろう


 ハードコアのモンスターは総じて体力が少ないと言われている。特異個体と言う今までは確認すらされていなかった個体であるため、ギルドが管理している情報自体まだ過少なのだが、現在までに寄せられてきた情報には一貫して“攻撃モーションに通常種にはないパターンが増えている”事と、“狩猟時間は通常種に比べると短く済んだ”事が含まれている。
 一部では、モンスターに対して生物実験を行った結果生まれたキメラのような存在であるために寿命が短い、つまり生命力は通常種より劣弱なのでは、と実しやかに噂が流れている。
 実際の所、研究自体が遅々として進んでいないため、最前線のハンターにすらハードコアのモンスターそのものを知らない者がいる程で、どこまで信憑性が有るのか分からない話だが。
 狩猟時間だけで言えば、討伐が完了しているハンターがいると言う話は聞くが、どういう立ち回りでそれだけ高速に狩猟を行えるのか、ルーグには想像すら叶わなかった。
 二度目の戦闘を終えた三人は、火山洞窟から一度ベースに帰還し、荷物の整理と武器の手入れ、体力の回復に努めた。火山内部は非常に温度が高く、採取に訪れるだけでも体力の損耗は甚大だ。休める時に休んでおかなければ、いざと言う時に全力を尽くせず大変な事態になる事も有り得るのだ。
 三人とも怪我らしい怪我はしていなかったが、やはり体力の消耗は激しい。クーラードリンクと回復薬も普段より早いペースで減耗している。それだけ戦闘が過酷を極めている事を示唆していた。
 武器も消耗が激しい。斬れ味を取り戻した銃槍の部分は未だしも、盾が若干変形してきている気がした。今回の狩猟ぐらいは持つだろうが、次回の狩猟の前には整備を一度工房に頼まないといけないだろう。
「ただのグラビモスでも気は抜けませんが、ハードコアともなると一瞬たりと気が抜けないどころか、一瞬でも瞬きした瞬間に終わってしまいそうな緊張感が有りますね」
 アートルメンティアの整備を終えたヴェントが誰に向けたとも知れない独り言をポツリと零した。
「で、ありますな……そんな環境であんなカッコいい動きが出来るルーグさんは、やっぱり凄いでありますよ! 自分、ルーグさんの弟子になれて光栄であります!」
「おい、勝手に俺の弟子を名乗るな」
 思わずツッコミの声が飛び出してしまうルーグ。油断も隙も無いユニに頭を痛ませるルーグだったが、不意のヴェントの声でその思考が停止する。
「あれ、ユニさん。ヒゲはどうしたんですか?」
「え?」
 ヴェントがまじまじと見ているのは、ユニの顔。ルーグも今言われて初めて気付いたが、ユニの顔に生えていた筈のヒゲが綺麗さっぱり消えていた。
「あ、あれ? き、きっと燃えちゃったでありますよ!」
 慌てふためいた様子で口元を触るユニを、ルーグは注視する。
 ヒゲの無くなったユニの顔は、見るからに女顔だ。ヒゲが生えていたからこそ男だと認識していたが、そのヒゲが無くなった事で中性的な面立ちはそのまま女性を意識させる顔立ちへと様相が変わる。
 そして、ルーグはそんなユニの顔に、どうにも見覚えが有る気がしてきたのだ。
「ちょっ、あんまりじろじろ見ないで欲しいでありますっ! は、恥ずかしいでありますよ!」
 ルーグの視線に気付いたのだろう、ユニが若干紅潮した顔を背ける。明らかに態度がおかしい。鈍感だと自負しているルーグですら、理解に難くなかった。彼は、いや、“こいつ”は――――
「……お前、女……だったのか?」
 血の気が引いていく音が聞こえた。座っている筈なのに巧く体を支えられない程の衝撃が全身に走る。今まで女と一緒に狩場にいたと言う事実を認められず、思考が空転を始める。
 視野が狭窄の兆しを見せた頃、ユニは深刻そうな表情でルーグに向き直り、――小さく頭を垂れた。
「……騙していたのか」
「ご、ごめんなさいであります! 自分、どうしてもルーグさんの弟子にして貰いたくて……本当に、ごめんなさいであります!」
 泣きそうな表情で何度も頭を下げるユニ。
 そんなユニを見下ろすルーグの頭の中では、過去の映像が蘇生を果たしていた。それはもう十年以上前の話……まだ【黒虎の尻尾団】に属していた時の話だ。
 師匠であり相棒でもあった彼女と共に、一つの村を救った事が有る。貧困に喘ぐ農村で、モンスターに対抗する術を持たない彼らは襲撃してきた大量のイーオスに為す術も無く狩られて行った。その最中に辿り着いた二人は、イーオス討滅戦を開始――ものの一時間と掛からずに百頭近くのイーオスを撃滅した。
 村民がお礼をしたいと申し出たが、彼女もルーグもそれを断って村を出て行こうとした。その時だ、ルーグの元に、幼い少女が駆け寄って来た。
 ――お願い、わたしを連れてって! わたしも、お兄ちゃんみたいな、強くてカッコいい英雄になりたいの!
 涙ながらにせがまれるも、ルーグは困った表情を浮かべ、少女の頭をぎこちなく何度か撫でた。
 ――俺は英雄なんかじゃない。カッコいいだけの破綻者さ。
 ――カッコいいだけの、はたんしゃ……?
 ――そうだ。
 ――それじゃあ、はたんしゃでいいから、わたしも連れてって!
 少女は頑なだった。ルーグがどう断ろうか悩んでいると、隣の彼女が悪い笑顔を浮かべて、少女と目線を合わせるようにしゃがみ込む。
 ――だったらこうしよう。お嬢ちゃん、お前がもっと大きくなった時、私がこいつの隣にいなかったら、その時はお前がこいつの隣にいてやってくれ。その時までに、自分の力で強くなるんだ。
 ――自分の力で……?
 ――そうだ。こいつも自分の力でここまで強くなったんだ。だったらお嬢ちゃんにも出来る筈だよな? 今のこいつを見てカッコいいと感じたんだろ? だったらそのカッコいいを育ててみせろ、自分の力でな。
 少女が女の台詞を全て理解できているとは思えなかったが、ルーグは口を挟まなかった。彼女が適当な事を言って、少女を諦めさせようとしているのだと察していたからだ。
 ――……分かった、わたし、がんばってカッコ良くなる。強くなって、カッコ良くなって、お兄ちゃんに逢いに行く!
 少女の眩いばかりの決意に満ちた表情に、彼女は意地悪な表情を潜ませ、真剣な表情を刷くと、最後にこう告げた。
 ――良い度胸だ。その度胸に免じて三つ、三つだけ、私達が守っているルールを教えてやろう。良いか、よく聞けよ? 第一条、負けても負けない事。第二条、挫けても挫けない事。そしてこれが一番大事なんだが、第三条、死んでも死なない事。これさえ守れば、お嬢ちゃんも私達みたいに最ッ高にカッコ良くなれるさ。

◇◆◇◆◇

「……あの時の、娘だったのか」
 頭を押さえ、苦しげに呻くルーグ。ユニは小さく首肯し、それに応えた。
「あの日からずっと鍛錬に励み、実績も積んできたのでありますが、暫くしてからルーグさんの噂を耳にしちゃったのであります。それが……」
「……女とは組めない。それで男装をされていた、と」
 ユニが濁した言葉尻を引き継ぎ、ヴェントが小さく溜め息を落とした。
「あの時、ルーグさんと一緒にいた人が亡くなったのだと、すぐに気付いたであります。ルーグさんは猟団を抜けて、たった一人で困難な依頼を受け続けて、身も心もボロボロになってると聞いて……いても立ってもいられなかったであります。自分を救ってくれた人が、ボロボロになってる状態が、自分には耐え難かったのであります」
 ユニは語る。歯を食い縛り、絶対に譲れないと言いたげに、ルーグの瞳を真正面から見据え、震えそうになる喉を引き締めて、懸命に声を紡いでいく。
「女を捨てる事に躊躇なんか無かったであります。大切な人が困ってるのでありますよ? その困ってる人が女性と組めないと言うなら、女である事なんて意味が無いであります。それから自分は男として鍛錬に励み、実績を積んで、ここまで来たであります」
「……どうして、そこまでして俺に……」
 女である事を捨てる。それはとても大変な事だと他人事ながらに痛感する。ハンターの世界に身を置くだけでも地獄のような日々が待っているのに、更にその中で自分の性別すら隠して生きるなど、どれだけ過酷なのか想像すら出来ない。
 確かにルーグはユニの命を救ったかも知れない。彼女にとって何物にも代え難い存在として認知されたかも知れない。だが、今までハンターとして実績を積み、鍛錬に励んできたのなら、ルーグ以外の誰かにだって相応の恩義を受けたとしてもおかしくない。
 幼少の頃に受けた恩義が、思い出の補正によって大きく膨れ上がり、神聖化されてしまっているだけだと、ルーグは思わずにいられなかった。彼女の言葉を一言一句思い出せる自分も大概だと思うが、一度しか逢った事の無い相手の台詞だけを頼りに己を尋ねてくる辺り、ユニも相当の一途だ。頑固だと言い換えてもいい。
「自分は、ルーグさんに救われたであります。ルーグさんがいなければ、自分はここにはいないのであります。あのまま村にいても何も出来なかった自分を支えてくれたのが、ルーグさんだったのであります。だからこの命は、ルーグさんのために使う、そう決めていたのであります」
 ユニの瞳はひたすらまっすぐだった。ルーグを捉えて離さない、熱のこもった眼差し。確固たる芯の通った心は、ルーグの観念を少しずつだが溶かしていく。
「自分は知っているであります。ルーグさんは、熟した依頼の報酬を全て復興の遅れている村々に寄付して回っている事を。それが、今は亡き相棒がしてきた事の延長である事も。だから今、武器や防具を碌に整備する事も出来ず、マイハウスには給仕ネコもいない程に荒んだ生活を送っている事も、全部全部、知っているであります」
 どれだけの素願が彼女をそこまで駆り立てるのか。確かに彼女が語る内容は全て偽り無き真実で、ルーグ自身誰にも語った事が無い筈の事実まで含まれている。どうやって調べ上げたのか、どうして調べ上げたのか。
 彼女はどうしてそこまでルーグと言う人物を追い続けたのか。
 ユニはルーグの猜疑をふんだんに塗した視線を意にも介さず、自分の信念を貫くべく主張を続ける。
「……自分は、あの村の人間ではなかったのであります」表情に陰りが差し、ユニの言葉に暗さが滲んだ。「旅人が棄てて行った捨て子、だったそうであります。ずっと虐げられてきて、村にモンスターが襲撃して来た時、自分はやっと解放されると思って、ここで死んでやっと救われると思って、……そこに、ルーグさんが、現れたのであります」
「……」
 ルーグはそこまで細部を思い出せなかった。確かに彼女は救い出された、他ならぬ己の手によって。彼女が死に掛けていた事も思い出せる。それでも、どうしても彼女が言うそのシーンを思い出せない。
 記憶の欠落。ハンターの間ではよくある現象だ。度重なる危機に精神が磨耗し、過去の情報を正常に発掘できなくなる。実際ルーグの記憶は大部分が消磨していた。思い出せる映像は、大半が彼女に纏わるモノで、他の一切をほぼ減摩し尽くしていた。
「もう死ぬつもりだった自分は、ルーグさんに救われても、実際は救われてなかったのであります」伏せそうになる瞳を、それでもまっすぐにルーグに突き付け、ユニは語る。「――でもルーグさんは言ってくれたのであります」
「……俺は、何と言ったんだ?」
「“俺は、俺がカッコいいと思ったからお前を助けただけだ。後は知らん”……そう言って笑いかけたのであります」
 火山灰の混じる風が吹き抜け、ややあってヴェントが笑声を落とす声が耳朶を打った。
 ルーグは赤面しつつ、「待て、ちょっと待て」と羞恥で顔が焦げそうになりながらも、何とかユニへの言葉を探す。「本当に俺は、そんな事を言ったのか?」
「はいであります! 自分はそれで、やっと救われたのであります。あぁ、この人になら、自分の全てを差し出しても良いなって、そう思ったのであります!」
 キラキラ輝く眼差しを受けても、ルーグは何の言葉も出せなかった。頭を回るワードの羅列は意味を為さない。ただただユニの眩い顔から目を背ける事しか出来なかった。
 正確にその時の光景を思い出す事は出来ない。だが、そういう台詞を言ったと言う可能性は全く否定できなかった。何故ならルーグはそういう事を平気で言う女と生活を共にしていて、そういう所に惹かれて彼女の相棒にまで成り上がり、そういう所を真似て今の自分を形成したからだ。
 真っ向からそんな台詞を吐かれて紅潮する程度には、自分は今動揺している。その台詞は、自分の芯に有る大事な文言であり、自分が今まで守り通してきた信念でもあった。
 揺らぐ。頭がグラグラと沸騰する。溶鉱炉の中身を注がれていくように、全身が熱く滾っていく。
「……お前の言い分は、分かった。だが、俺は……」
 濁し、口ごもる。
 彼女を否定する事は簡単だし、逆に肯定する事も容易い。そういう状況下で己の中に出た答は、ノーだった。たとえ彼女が何と言おうと、己の中に居座る彼女の幻影が、女性を戦場に置く恐怖心で悪辣に笑い掛けてくる。
 女が怖いのではない。大切な彼女を失う事が、何より大事な存在が二度もいなくなると言う事態が、途方も無く怖い。
「……だめ、でありますか」
 悄然と、ユニが吐露を零した。
 胸が苦しくなる程に締め上げられる感覚に襲われ、ルーグは思わず喘ぎそうになった。なったが、歯を食い縛って声を堪える。
 今になって彼女を弟子にしない理由が切り替わる。彼女が女だから隣に置けないのではない、彼女が己にとって大切な存在だから、危地に佇ませる訳にはいかなくなった。
「……悪いな」
 言葉少なに目を伏せるルーグ。これ以上彼女と言葉を交わすと、己の信念が揺らぎそうで堪らなかった。故にこそ、断絶の意を表するために、彼女を遠くにやる。己の手が届かない、安全地帯にいて貰うために。
 暫く沈黙がベースキャンプに立ち込めていたが、不意にヴェントが立ち上がる素振りを見せ、どこか醒めた色合いを覗かせる表情を浮かべると、「それでは狩猟の続きを再開しましょうか、ルーグさん」と言って、手早く荷物を纏めると返事も待たずに歩き出した。
「お、おい」
 思わず腰を浮かせ、それからユニに視線を向けようとして――グッと衝動を堪え、荷物を素早く纏めてヴェントの後を追った。
 ユニの物言いたげな視線を背に受けながら、ルーグは一度も振り返らずに狩場へと足を踏み入れて行った。

【後書】
 と言う訳で色々明るみに出る回でしたが、何て言うんでしょうね、何気無い己の立ち居振る舞いが、誰かの人生に深く影響していると言う事って、少なくないと思うんですよ。当人にとっては当たり前の事、己の通念に於ける定石をやっただけでも、誰かにとってはそれはあまりにも輝かしく、眩しい事であって、それ故に惹かれたり憧れたりする奴。そう言うのにワシ弱いんだ…(長い)
 尤もこの物語に限らずどの作品も己の性癖をぶち込んで「俺が考えた最強の物語!」ですからね! そりゃ毎回「堪らねぇぜ…!」ってなるよね!w って事を今回の話を読み返して思わずにいられませんでしたって話でしたw
 さてさて、いよいよ物語も佳境です! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ついに明らかになりましたねユニちゃん。
    他人に影響を与える言動や行動をしてしまう人に限って、
    そのことに無頓着だったりするから困ります…
    でもそれが「カッコいい」のかなw

    ほんとマジ毎回堪らねぇぜvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      返信遅くなって申し訳ぬい…!(*- -)(*_ _)ペコリ

      遂に明らかになりました! こういう謎明かしはやっぱり大好きですw
      ですです! 故にこそ、振り回される事も多々有るのですけれど、それが何と言いますか、「カッコいい」面も有ると言いますか…!w

      やったぜ!┗(^ω^)┛ ほんとマジ毎回堪らねぇ物語を提供できてる事が嬉し過ぎますぞい!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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