2019年2月7日木曜日

【春の雪】第3話 二度目の告白【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2008/11/16に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


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■第3話

第3話 二度目の告白


 放課後になって帰宅の準備をしていると、空冴に声を掛けられた。
「今日も直帰か? 一学生らしく、どこか道草しないのか? 一非は」
「……せぇな、別に何しようと俺の勝手だろが。空冴こそ、俺にばっか構ってねえで、他んトコ行けよ」
「お、何だ? 友達が多い僕に嫉妬か、ウリウリ」
「いや、キモいから早く散ってくれないかな、と」
「あまりに辛辣じゃありませんかね!?」
「やっほー! ニイくん、ホシくん、今日も仲良いね~♪」
 口煩い女がやって来た。
「あ、何その顔。口煩い女がやって来た、って言いたそうな顔しちゃって~」
 エスパーだ! ここにエスパーがいる!
「美森もさっさと散れ。お前も友達多いんだから」
「あら何~? それって僻み? いやね~、友達少ない人って♪」
 明確な殺意が芽生えたぞ今。
「まあそれは良いとして。――ホシくん、席を外しなさい。てか失せろ」
「僕ってクラスのアイドル的存在だよね!?」
「気にすんな。この中にそう思ってる奴はいない」
 たはー、と泣き笑いの顔で立ち去る空冴を見送り、美森を見やる。
「で、何だよ。また今朝の件だったら帰るぞ」
「んっふっふ。そうではないのですよ、ニイくん。実はですね、ちょっとした特ダネを発見致しまして」
 何の話だ? と訝っていると、美森はひそひそと耳打ち。
「屋上で誰と話してたんですかー?」
「――――」
 見られていたのか。流石は美森。壁に耳アリ扉に目アリか。……プライバシーはどこに消えたんだろう。
「おい、その話――」
「誰にもしてませんよ、旦那♪ で、何で咲結(さゆ)ちゃんと話してたの? ニイくん、咲結ちゃんと一切接点無いじゃん」
 咲結。恋純咲結って言うのか、あいつ。ようやく姓名が分かったけど、取り立てて役立つとは思えない。
 どう説明したものかと悩んでいると、美森がニコニコと笑いかけてくる。
「まぁ、積もる話も有るでしょうから、取り敢えず場所を変えますか♪」
 ノリノリの美森なのだった。

◇◆◇◆◇

「……あらまぁ、咲結ちゃんがねぇ」
 屋上にて俺は大体の経緯を美森に話した。因みにイジメの件も自殺の件もそれとなく伏せて、だが。
 恋純は空冴の事が好きで、その事で悩んでいる。どうにかその悩みを解消させたい。それだけを簡潔に述べたに過ぎない。
 夕暮れに佇む美森は、夕日が沈む街を見渡していたが、話を聞き終えると俺に向き直り、人差し指を立てて告げた。
「あまりに不自然な話の流れだけど、ま、許したげる♪ ……ふむ、それでニイくんは咲結ちゃんに告白させたい訳だ。あたしもそれに乗った!」
「乗ったも何も、乗らないと口封じる所だったけどな」
「危うく三途の川を渡る所だったんですねー♪ 危うい危うい♪ ――で、ニイくんは実際問題、咲結ちゃんにどうやって告白させるつもりなの?」
「そりゃ、正面切って、だろ」
 俺が素直に暴露すると、美森は露骨な溜め息を吐き散らした。
「……何だよ?」
「あまりにバカ過ぎて呆れ返っているのですよ。全く、これでは恋の魔術師の称号の名折れですねー」
「いつそんな称号得たんだ俺は!?」
「ともあれ、ここはあたし様こと紀原美森様の出番って事なのですよ!」
 ばしっ! と平手打ちが飛んできた。素で痛い。
「ってぇ……いきなり何しやがる!?」
「あ、ごめんごめん。きっと虫がいたんだと思う」
「色々有り得ねぇぞコラ! 今フツーに殴ったな!? 特に理由も無く勢いで殴ったな!?」
「さてさて、あたしも話に乗ったって事で、明日の昼休みにでも顔合わせしよっか♪」
「フツーに流すなよ!?」
 果てし無く不安に包まれる俺なのだった。

◇◆◇◆◇

 翌日。昼休み、いつも通り屋上に上がると、既に人の気配が有った。……何度も言うが、ここ立入禁止なんだけどな。
「あ、ニイくん遅~い! 女の子を待たせるなんて不届き千万だぞう!」
「……こんにちは」小さくなって恋純が呟く。
「よう。つか、待たせたも何も時間の指定が無かっただろーが」
 屋上の真ん中で腰を下ろすと、二人の女子は何か話に盛り上がっているようだった。
「聞いて聞いてニイくん! 今、咲結ちゃんと話してたんだけど、今日の放課後に告白するって!」
「えれぇ急な話だな? ――良いのか、恋純?」
「……はい。もう、……」
 言葉は続かない。――もうこれ以上、嫌な目に遭いたくないんです、と言っているように思えて、俺もそれ以上は訊かなかった。
 代わりに美森が楽しげに話を継ぐ。
「でねでね、ニイくんにも仕事が有るのですよ!」
 勝手に俺に仕事を割り振ってくれたらしい。殴りたくなる位に大変有り難い話だ。
「ニイくんはホシくんを呼び出して欲しいのですよ。場所はここ、屋上ね。基本立入禁止だから、誰も近づかないし。ニイくん以外」
「……確かにな。俺がいるから誰も近づかないんだとは思うが」
「……どうして二位くんに誰も近づかないんですか……?」
 不意打ち気味に恋純が口を開く。どうしてだって? それを本人に訊くなんて、度胸が有ると思う。肝が据わっていると言うか、取り敢えず俺の周囲の人間には出来ない芸当だ。
「あれれ? 咲結ちゃんはニイくん怖くないの? あたし様は怖くないけど」
「……始めはそんな印象を懐いてました。……でも、話してみると、優しい方だって分かりましたから……」
「ま、人間誰しも第一印象から入るからねぇ。ニイくん、こう見えても留年してるしね♪」
 臆面も無く平然と告げる美森を凄いと思う。本当に良い根性を持っていやがる。
 恋純は一瞬驚いたような顔をして、すぐに顔を俯かせた。
「……ごめんなさい」
「良いって、謝んなよ。別に悪い事した訳じゃねえんだし。――で、いつここに呼び出せばいいんだ?」
「モッチロン放課後に決まってるじゃあーりませんか! それとも何ですか? ニイくん、授業中にサボって告白させるっていう大作戦でも敢行させるおつもりで?」
「なこた言ってねーだろが。うし、了解だ。恋純も、無理しないように頑張れよ」
「あ、……はい」
 顔を上げてはにかみ笑いを浮かべる恋純は、純粋に可愛いと思う。俺でも可愛いって思えるんだ、空冴にだってその意志さえあればきっと……

◇◆◇◆◇

 そうして放課後になり、俺は空冴に声を掛けた。
「今日? 別に暇だけど」
「なら屋上に行け。手前を待つ奴がいるから」
「僕を待つ人? 誰だろう。今日はヘリで迎えに来る予定じゃなかったと思うけど」
 どんなブルジョアだコラ。
 ともあれ、俺の仕事はこれでおしまい。後は恋純の度胸次第、と言う事になる。心配いるまい、自殺できる程の行動力が有るんだ、それをそのままベクトルだけ告白に向ければ、勇気なんてワンサカ湧き出てくるに違いない。
 浅はかだとは分かってたけど、俺には信じる他無いのもまた事実だ。このまま帰るのは忍びないと思い、取り敢えず保健室に行って暫らく休んでいようと考えた。結果が出る頃には、起きて屋上に向かってみるのも良いかも知れない。

◇◆◇◆◇

「ちょっと、二位くん。もう下校時刻よ。いつまで寝てるの?」
 保険医に起こされ、ベッドの上で身動ぎする。……転寝してたらしく、時間の感覚が無い。辺りはまだ夕暮れ時だが、もう日が沈む間際という感じもした。
 身を起こして体を解す。……さて、あれからどうなったか。まさか失敗して飛び下りたとかそんな事にはなっていまい。……や、俺の希望も入ってるけど。でも、大騒ぎになってない事から、まず大事にはなってないんだろう、あくまで失敗していたらの仮定だし。
 ベッドから下りて、欠伸を浮かべながら戸口へと向かう。保険医が「やれやれ」と言った仕草をして、俺を見送っていた。
「んじゃなー」
「こら、退室の時は『失礼しました』でしょ!」
「はいはい」
 ガラガラぴしゃん、と戸を閉めて屋上へ。屋上の鍵は基本的に掛けられていない。俺が破壊したからだ。先公も無理に直そうとせず、あそこは完全に俺の私有地と化していた。
 階段を上り、屋上の重い鉄扉を押し開ける。――涼しげな風が通り抜け、シャツを嬲る。
 視界一杯に広がる橙の空。それももう紺色に染まりつつある空の下――一人の女子が座り込んでいた。
 女子の視線は遠い空の向こう。やがては陽が落ちて闇が支配するであろう天空をぼんやりと彷徨っていた。刹那、俺は先刻まで展開されていた話の流れを、何と無く掴んでしまった。
「……元気か?」
「……」
 女子――恋純に反応は無い。ぼんやりと空を見つめたまま、口を少しは開けているものの、言葉が発せられる事は無かった。
 隣に腰掛け、一緒に沈みゆく空を見つめる。思えば、初めて出逢った時もこんな空をしていた気がする。懐古的な、古ぼけて緩やかに時が刻まれる、静かな風景。
「……ダメ、でした」
 ポツリと。どこか悟ったような声音で呟いたのが、俺の耳朶を打った。
 それから暫らく静寂が流れる。ただ陽が沈みゆく音だけが、鼓膜を緊張させる。
「……そっか」
 一言、それだけしか返せなかった自分が腹立たしい。もっと気の利いた言葉を返せないのか。……語彙が少ない俺に、そんな事が言える筈も無い。ただ、現状維持のような単語しか発せられない。
 沈黙。息苦しいようで、でもどこか涼しげな時間が、ゆっくりと流れる。
「……やっぱり、ダメです、わたし」
 ――初めて見た、恋純の笑みだった。
 横顔に映る笑顔は、自嘲の念が強い、悲しげな笑みだった。
「何をやっても、ダメなんです。友達を作るのも、勉強をするのも、家族と付き合うのも、……彼氏を作るのも、みんなみんな、ヘタクソなんです……」
 あはは、と喉から漏れる声は、少し湿っていた。しゃくり上げるような熱を感じて、俺はそっと恋純の頭の上に手を置く。
「……もう、イヤなんです……こんなの、もう……っ」
 笑顔が、辛かった笑顔が崩れ、瞳からは熱い雫が溢れ、頬を次々に伝っていく。喉はしゃくり上げ、言葉にするのも難しくなっていく。
「わたし、どうしたら……っ」
「……俺なんかが口出しするような問題じゃないけどさ、」
 頭をそっと撫でて、――そのまま抱き寄せる。俺の胸の中で、恋純は泣きじゃくっていた。
「ヘタクソな奴には、ヘタクソな奴なりの生き方ってのが有ると思う。……好きだったんだろ、空冴の事? その気持ちに嘘が無いなら、仕方なかったんだって」
 後で空冴の野郎はぶっ飛ばしといてやるからな、とは言わない。言ったら、きっとこの娘は悲しむだろうから。
 俺は慰めるような言葉を選んで話を続けた。
「だったら、頑張って振り向かせるしかねえじゃんか。空冴の野郎に、認めさせてやろうぜ。自分は、こんなに可愛い女なんだぞ! って」
 胸の中で恋純はイヤイヤをするように首を振った。
「わたっ、わたし、可愛くなんて……っ」
「自覚ねえんだな? お前、自分で思ってるより、ずっと可愛いと思うぜ? ――ほら、ちょっと顔見せてみろよ」
 胸の中から顔を離し、泣きじゃくる顔を曝け出すように、前髪を掻き上げる。赤く泣き腫らした瞳を驚きで見開く恋純に、俺は穏やかな笑みを返す。
「ほら、この方が断然可愛いじゃんか。お前、髪で顔を隠すような事してるから、暗いように見えちまうんだよ。俺は、こっちの恋純の方が断然好きだぜ?」
「え……?」
「うん、お前、絶対この方が可愛いって。カチューシャでも買って来たらどうだ? それか、バッサリ前髪切っちまうか」
 髪を戻して、恋純がどうすれば可愛く見えるか、否、空冴の趣味に合うか考えてみた。
「……髪を上げた方が、良いんですか……?」ポツリと漏れる、恋純の小声。
「ん? おう、そうだな、その方が可愛く見えると、俺は思うぜ?」
「…………」
 顔を俯かせたまま、恋純は黙り込む。
 俺が暫らく検討している間、恋純はずっと塞ぎ込んだままだった。
「――っと、もうこんな時間じゃねえか。恋純、家まで送ってやるよ」
「え? ……大丈夫、ですよ……」
「そんな風には見えねえよ。それに、お前みたいな女の子が遅い時間に一人でいるのはどう考えても危険だろ? 変な奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやるから安心しろよ。……て、そっか。そんな俺が危険か」
 考えてみれば、俺みたいな不良が一緒にいる事自体、恐怖かも知れないな。そう考えを改めて、
「待ってろ。今、美森を呼んでやっからそれで――」
「――二位さんっ」
 不意に少し大きな声で呼ばれて、俺はどうしたのかと視線を向ける。それだけで勢いが衰退したのか、再び俯いて、掻き消えるようなか細い声で恋純が呟く。
「……それじゃあ、……お願いします」
「俺で良いのか? 何なら美森に――」
「――二位さんで、お願いします……」
「……分かった。俺で良けりゃ、いつでも言ってくれ。――じゃ、帰ろうぜ? あんま遅いと、家族も心配するだろ?」
 そう言って屋上を後にする俺と恋純。
 夕暮れに沈む屋上はどこか物悲しげで……どこか、温かそうな感じがして……
 名残惜しそうに振り返る恋純が、何故か印象に残った。

◇◆◇◆◇

「……ありがとう、ございました……」
 家の前でお辞儀され、少し戸惑った。何もそんなお礼を言われるような事はしていない。
「ん、んじゃまた明日な。美森と相談して、お前をバッチリ可愛い女の子に仕立て上げてやるから、心配すんなよ」
「あ……はい。……どうも、ありがとうございます……」
 再びペコリ。対応に困ってしまう。
「ん、んじゃな」
「はい……おやすみなさい」
 まさか曲がり角まで見送られるとは思わなかった。何度振り返っても家の前から離れようとしない恋純に会釈を返しつつ、ようやく帰途に着く。……本当、不思議な娘だな、と思った。

【後書】
 ベッタベタな恋愛モノをね~綴りたかったんだと思います(恥ずかしさで目を合わせられない奴)。
 実はこの物語を綴った時って、当時拝聴したMusicがあまりにも性癖に突き刺さった事により、そのMusicを元に物語を妄想し、お仕事の帰り道でその妄想したネタに号泣した挙句、一日で最終話まで書き上げると言う、まさに若さの塊みたいな事をやってたんですなー懐かしいですね~w
 と言う訳で若干ネタバレしましたが、この物語は当時のわたくしが号泣する系の物語だったりします。お覚悟を…(えっ)
 因みにどんなMusicで号泣したのかと言いますと、



こちらです。doaさんの「はるかぜ」と言うMusic。公式は短い奴しかないですけれど、ぜひFullをね、聞いて頂きたく! ほんと胸がきゅぅ~って締め付けられるMusicです…今聞いても神だった…
 ちょっと長くなりましたがまた次回! 変化が訪れた恋純咲結(コイズミ・サユ)ちゃん、それに気づかない一非くん。甘酸っぱい恋愛模様を次回もお届けです!(恥ずかしさで目を合わせられない奴(※2回目))

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    咲結ちゃん…残念でした。
    でもでも、もっと良い人がそばにいるんじゃない?

    先生がお聞きになった音楽、なんかこぅ染み込んできます。
    ほんときゅぅ~ってなりました。
    先生の若さが爆発するのも頷けます。
    でも目は合わせられないw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      もう先の展開が読めてる感まで有りますね!ww(ベッタベタですからね!ww)

      Musicの感想まで…! 有り難う御座います…!
      そうなんです、染み込む…と言うんですかね、じんわり心に響くと言いますか。
      きゅぅ~ってなるのも分かって頂けたようで…! これもほんとアレです、切ないんですよ歌詞がも~!
      先生の若さが爆発するwww確かに爆発してましたね!ww(笑)
      もうほんと恥ずかしさが爆発してて目が合わせられないんですよ!www

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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