2019年3月13日水曜日

【滅びの王】72頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/12に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第73話

72頁■神門練磨の書19『春原菖蒲』


「……」
目が覚めても、そこは現実の世界……って、どっちも現実っぽいから、いい加減名称を変えるか……つまり、日本じゃなかった。
体を起こすと腹に鈍い痛みが走って、吐き気が込み上げてきた。
「う……ぇ」
それ以上体を動かすと大変な事になりそうだったから、慎重に動いて、起き上がらずに寝転がる事にした。石の床の感触が冷たくて、自分の体が熱っぽい事に気づいた。少しだけ気持ち良い。
アレから……どうなったんだっけ。
鷹定に逢いに行く筈が、途中で空殻を見つけて追っかけて……んで、こうして捕まった訳だ。
「……バカみてぇ」
情けなさ過ぎるぞ、オレ。
口の中が切れてたみたいで、喋ったらちょっと痛かった。
顔、殴られた覚えが無いのにな。……もしかしたら眠ってる間に、あの室崎とか言う男に殴られたのかも知れない。
こうしてまたオレは仲間の足を引っ張る。……でも、分かった事も有る。
やっぱりあの空殻は【世界の終わり】の一味で、《贄巫女》の儀式と何らかの繋がりが有る。それだけは確信できる。
……て、コレももう、麗子さんは知ってるんだよな…… 
「はぁー……どうしてオレって奴はこう……」
どうしようもないアホさ加減に、ほとほと呆れるぜ。……オレの事だけど。
ムシャクシャして起き上がった。吐き気もしたけれど、それ以上に自分自身の事でムカついた。
石で出来た壁を全力で殴って、――痛かった。
痛くて泣きそうで、……ようやく目が覚めた気がした。
「そいじゃまず、どうやって脱出すっかな……」
牢屋、には違いない狭い空間。
無論、トイレやバスは付いていないし、当然ベッドや机は無い、質素な部屋だ。有るのは二メートル程上の小さな格子窓と、その向かいに在る小さな鉄扉。鉄扉には丁度大人の目線位の場所に格子窓が付いており、奥を覗いてみると、……角度の関係で殆ど何も見えないけど、眼前には鈍色の石造りの壁。鉄扉を北だと仮定すると、東西の壁の下の方には通気孔なのか小さな穴が開いていた。
歩き回る程の大きさは無いんだけれど、取り敢えず考えながら壁をペタペタ触ってみる。感触は冷たくて、オレから熱を奪い取っていく。……まだ体は火照ってて、壁の冷たさが丁度良い感じで気持ち良い。
漫画とかだったら、壁の薄い所を見つけて、掘ったり叩いたり削ったりして活路を作り出すんだろうけど……生憎、オレの手にはスプーンもメスも無い。
――と、思い出した!
〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉を使えばどうにかなるかも知れない!
思って道具袋から取り出そうとして、……道具袋が無かった。恐らく没収されたんだろう。囚人にわざわざ脱出用の道具を持たせる看守なんていないだろうし。
ガッカリと肩を落として、その場に座り込む。
……天井を見上げて、溜め息を吐く。……何だか悲しくなってきた。
「どーすんだよ、オレ……このままじゃ、鷹定に逢えねえじゃんよ……」
時間ばかりが過ぎ去って、何れは鷹定の目的である《贄巫女》の儀式が始まってしまうだろう。そうなれば手遅れだ。鷹定は一人で《贄巫女》の儀式を止めようとするだろうし、流れ的には鷹定は王国に反旗を翻す事になり、……ここからはオレの予想だけど、きっと鷹定は死んでしまうだろう。
そんなの、嫌だ。オレは鷹定に死んで欲しくない。そう思うのは当然だ。……だけど今、それを止める術が無い。
溜め息ばかり漏らしていると、――小さな囁きが聞こえた。
「あの……お隣さん……ですか?」
は? と色々な意味で、どう言葉を返せば良いのか分からなくて、辺りを見回すが、……どこにも人の姿は無い。
「咲希か?」
「あたしじゃないわよ」
不意に浮かんできた咲希を見て、妙にホッとした気分になれた。
「お前は無事だったんだな……」
「当然じゃない。こんな所であんたと心中なんて、死んでも嫌よ」
「……シャレになってないから、それ」一応突っ込むオレ。
「あの……お隣さん、ですよね?」
声は壁の下方に開いている穴からだった。
覗き込もうと思っても、穴の位置が低過ぎて奥が全く見通せない。
だけど、隣に誰かがいるのは確かなようだった。
「てか、どう返せば良いんだ、その問い? 一応、お隣さんだとは思うんだけど……」
「やっぱり、お隣さんでしたか」
妙に間抜けな返答だな、と思った。
何が訊きたいのかサッパリ分からない。何者?
「えっと……あなたは誰ですか?」と訊いてみるオレ。
「菖蒲(あやめ)、菖蒲って言います。春原(すのはら)菖蒲。そういうお隣さんは、どんな名前ですか?」
「ああ、オレは神門練磨。えっと……春原さんも捕まってるんですか?」
声の感じからして、年下のように思えるけど、顔が見えない相手だから、一応敬語で尋ねてみる。
声の調子で分かったのは、それだけじゃない。どうやら女性のようだと言う事と、若いと言う事。
……まあ、声だけ若々しい人もいるけど、それは置いておく。
「はいです。でも、捕まってるんじゃなくて、皆さんは身を清めてるんだって、言ってますです」
身を清める? 牢獄で?
……新たな悟りでも啓こうとしてるのか?
よく分からないけれど、悪い人じゃなさそうだ。
「春原さんは、いつからここに?」
「あはは。菖蒲の事は菖蒲で良いですよ。菖蒲、いつも皆さんに菖蒲って呼ばれてるですから」
「じゃあ……菖蒲……で、良い?」
「はいです。……あ、質問の答がまだでしたね。えと……随分前からいると思うです。一年は過ぎたと思うです」
「一年もここに!?」
年季の入った人だな……。一年もこんな所に閉じ込められたら、気が滅入らないか?
「それを、『身を清める』って言うそうです」
……そりゃ、こんな所に一年もいたら、清められそうな気もするけど……寧ろ悶々と考え過ぎて煩悩が多くなっちゃうんじゃないか?
でも……一年もここにいると考えただけで、本当に気が遠くなりそうだ。まだ病院の方が、色んな患者さんがいて楽しそうだと思える。今いるこの部屋が菖蒲のいる部屋と同じ造りなら、オレならどうなるだろう……考えてみて、ゾッとした。どこかで自我が崩壊しそうだと思った。
「大変じゃない?」ちょっと他人事とは思えなかったけれど、他人事のように尋ねてしまった。
「大変でもないですよ。毎日毎日、自分の成長をゆっくりと観察できますですから」
やけにサッパリした答が返ってきて、少し驚いた。
……確かに、こんな部屋にいれば、楽しみはその位しかないのかも知れない。
やっぱりオレには無理だ。身が清められる前に狂ってしまうだろう。
一刻も早くここを脱して、鷹定に逢いに行かなければ!
「それでですね、練磨さん。……あなたさっき、鷹定って言いませんでしたか?」
「ふぇ? うん、言ったけど……?」
「それって、葛生鷹定の事ですか?」
思わず壁の向こう側を見たくなってしまった。
鷹定を知ってる? どうして? 鷹定って有名な奴なのか?
「どうして、鷹定の事を……?」
「ああ、やっぱりタカさんの事だったですか。……タカさん、葛生鷹定は、菖蒲の幼馴染なのですよ。昔、よく一緒に遊んでましたです」
「!」
「今はタカさん、王国のお偉いさんになっちゃって、もう逢えないと思ってましたですけど……練磨さんの口からその名前が聞けるとは思っていなかったです♪」
はにかんでるのが目に浮かぶような声音だった。
……鷹定の幼馴染。そいつが……何でこんな所に?
――待てよ。『身を清める』って言ったか……? ……まさか、まさか!
「……菖蒲。一つ、訊きたい事が有るんだけど……良いか?」
「何なりです」
「……菖蒲は、もしかして《贄巫女》……なのか?」
「はいです。よく分かったですね? 驚いたです」
……繋がった。
鷹定が《贄巫女》を阻止しようとする理由。
《滅びの王》の力を借りてまで為そうとする動機。
鷹定は……菖蒲を助けようとして…… 
――って、待て待て。早とちりするな、オレ! 
「そもそも、《贄巫女》ってどんな儀式なんだ?」
「えっとですね。《贄巫女》と呼ばれる女の子をまず選別するです。選別された女の子は一年間、菖蒲みたいにこうやって身を清めて、明日には《和冥(わみょう)の門》を潜(くぐ)るです」
「明日!?」
何つー気の早い……!
本気で急がなければならなくなってきたぞ……時間が足りな過ぎる……!
今すぐにでも脱出しなければ……それと同時に、菖蒲をどうにかせねばなるまい。
ここに来られたのは完全に偶然だけど、利用しない手は無い。
菖蒲が《贄巫女》になったら……でも、《和冥の門》って?
「菖蒲も実物は見てないですけど、どうやら《贄巫女》の皆さんはその門を通って、王国の繁栄を築いてくれた《冥王》と契約しに行くそうです」
「《冥王》……ん? つまり、冥界に続く門って事か? ……え? んじゃまさか……」
「はいです。死なないと通れないです」
――ナルホド。
詰まる所、王国の連中は、《贄巫女》と称する女の子に、《冥王》への生贄として門を潜らせ、王国に利益を齎すように『契約』すると言う事か…… 
だから鷹定は止めようと思ったのか? 幼馴染である菖蒲が、王国の不条理によって、殺されてしまうから。
辻褄は合う。だけど……そうだとしたら、鷹定は王国と完全に敵対する事になるんじゃないのか? 王国は自国に平穏と繁栄、安寧を齎そうとしたからこそ、《贄巫女》なんて不条理の塊のような儀式を執り行ってきたんじゃないだろうか。なら、それを阻止されるのは王国にとって最悪の事態だ。
その最悪の事態を鷹定は起こそうとしている。……一人の幼馴染の命を救うために。

【後書】
怪我の功名って奴ですね!w
と言う訳で少しずつ解明に向かって進んでいく練磨君ですが、果たして無事に脱出できるのか…!
てか残り一日ってほんとギリギリですね鷹定くーん!? 君そんなギリギリのタイミングで暦ちゃんの話を聞きに行ってたんかい!w って一人でツッコミを入れてましたww
そんなこったで次回もお楽しみに~♪w

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    反省はしているようだし今回は大目に見ておいてやるか…

    って大金星じゃないですかw
    すごいよ練磨くんvvさすが滅びの王!

    そして菖蒲ちゃん、とっても違和感w
    明日には《贄巫女》として命を失ってしまうのになにこの落ち着き様…
    牢屋に一年間もいればこうなってしまうの?
    洗脳的な何かを感じずにはいられません。

    いろいろと繋がってまいりました!+(0゚・∀・) + ワクテカ +MAXでございます!!

    八宵ちゃん……(ry


    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      反省してます…ね?w してますよ…ね?ww

      そうなんです!w 反省もどこかに行ってしまうレヴェルの大金星の練磨君です!ww
      これまたやらかす奴ですよ!www

      菖蒲ちゃんの違和感は、徐々に明らかになっていく…筈…??w
      洗脳的な何か、と言うのがすんごいしっくりくるのですが、果たして…!

      鏤められていたパーツが少しずつ繋がっていくのはワクテカしますよねっ! 今後もぜひぜひワクテカしながらお読み進め頂けたらと思います!!

      八宵ちゃん最近出番が有りませんけど、どうしたんでしょうね…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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