2019年3月12日火曜日

【ベルの狩猟日記】082.一時休戦【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
■第82話

082.一時休戦


「ヘイヘイ!! もっと速く!! もっと強く!! もっとアグレッシヴに行こうぜババコンガよォォ!!」
 コロシアムへと入り込み、ババコンガとの戦闘を始めて、彼是二十分ほど経っただろうか。貧弱な武器では中々ババコンガの体に決定的なダメージを刻みつける事は叶わない。それでも戦況が今以上に悪化する事は無かった。皆、ババコンガに対して確りと安全な立ち回りを行えている。
 誰かが危険に晒されれば、別の誰かがそれを助けるように立ち回る。誰かが攻め過ぎていれば声を掛けて勧告を促す事を忘れない。各々が役割を心得て、無理の無い立ち回りでババコンガを追い込んで行く。
 ……とは言うものの、相変わらず独断専行気味に戦闘を引っ張るのは、ギルドナイツ騎士長にしてザレアの師匠であるヴァーゼだ。
 時折武器を納めて拳や蹴りを叩き込む辺り、最早これは狩猟ではなく喧嘩――戦闘と呼べなくも無いが、筋肉の塊であるババコンガに己の肉体一つで挑む辺り、頭が沸騰してしまっているのかも知れない。先刻まではベルも、闘技場の在り方に脳髄が痺れる程の激情を懐いたが、それが冷める程にヴァーゼの戦いっぷりは熱かった。
「……やっぱり戦闘狂なのね……」
 呆れ気味に苦笑を呈するベル。その手には新たな矢が握り締められ、ハンターボウⅡへと番えられる。何度と無く繰り返される行為の反復。ワイゼンに執拗なまでに叩き込まれた手法である、忘れようと思っても不可能な技術だ。
 ババコンガの動きを見切り、奴に追い縋る仲間の動きを見極め、的確な射撃で動体である標的を射抜く。静物なら百発百中で射抜く腕を持つベルだが、動体でも見劣りしない技量を誇る。
 動体を追いながら、そこに矢が到達するまでの“道”を感覚のみで感知する。それには周囲に介在するあらゆる要素を掌握する技術も必要だ。自身と標的を取り巻くあらゆる要素を加味し、的確にそれを理解・把握し、最小限の動きで矢を射る。放たれた矢は鮮やかに宙を走り、寸分違わずババコンガの体に吸い込まれていく。
 ババコンガの体には既に幾本もの矢が突き立っている。それでもババコンガの動きが止まらないのは、純粋に弓の攻撃力不足も有るが――ババコンガ自身が通常の個体よりもタフネスのような気がする。
 ヴァーゼの剣舞、フォアンの重量の有る攻撃、ザレアの最高峰の打撃を加えて尚、ババコンガの動きが鈍る事は無い。併もさっきから興奮状態が止まず、闇雲に走り回っては跳躍して地面を陥没させたりと、落ち着きが無い。闘技場のあちこちには彼が尻の穴から抜き出した糞がばら撒かれ、酷い悪臭が漂っている。
 中々仕留められない相手に、ベルは悪臭の影響で集中力が途切れつつあった。
「く、臭い……マトモに喰らったら、いっそそのまま死んだ方がマシと思えそうね……」
 鼻が曲がりそうな程の悪臭は、恐らく観客席にまで届いているのだろう。いつの間にか頭上から降り注いでいた歓声が罵声に変わっている。ざまぁみろ、とベルは胸の内で黒い笑みを浮かべる。
「中々倒れないな、あのババコンガ」
 一旦前線を離脱したフォアンが駆け寄って来る。全身を汗だくにしたフォアンの呼気は若干上がっていた。二十分もババコンガと言う暴力の塊と眼前で相対し続けていたのだ、遠距離から援護射撃しているベルとは比較にならない程に疲労の色が濃い。その点、ザレアとヴァーゼは未だに元気良く走り回っている。彼らは猟人の規定を著しく超越している存在だと改めて認識するベル。
「……もしかしたら、この状況がババコンガを興奮させているのかも知れないわね」
 ベルはババコンガに注意を向けながらも周囲に視線を向ける。モンスターと人間が戦う空間である、三十メートル四方ほどの何も無い空間。空間を囲うように聳える、見上げる高さの壁。首が痛くなる程の高さから降り注がれる忌々しい観客達の喚声。夜間なのに照明によって煌々と照らされている闘技場。何れもモンスターにとっては未知の領域だ。普段は自然溢れる場所で活動しているから、人工的に作られたフィールドでは勝手が違うのだろう。いつも以上に神経が昂って、興奮状態が持続しているのかも知れない。
 そこでふと、ベルの表情に翳りが生まれる。
「……あのババコンガが何をして捕獲されたのか知らないけど、こんな所であたし達に殺されるために生かされてきたのだとしたら、あたしは凄く嫌だわ……」
 モンスターと人間は相容れない。けれど、どちらかが一方的な観念で相手を滅ぼすのは間違っている。モンスターも人間も、共にこの世界に生きる存在である事に変わり無い。故にこそハンターズギルドはモンスターとの共存を望み、無闇にモンスターを狩り過ぎない現状を作り出した。それは一人の猟人として胸を張れる事だとベルは信じている。
 それが――エゴ……人間達の快楽のためだけに捕獲したモンスターと人間が戦う“ショー”を見せるこの場所は、唾棄すべき空間にしか映らない。モンスターにも意志が有る筈だ。彼らはこんな場所で命を終える事など、絶対に望まない。それでも――ここは、人間が住まう街の一部だ。モンスターを野に放つ事など叶わない。――殺すしか、無い。
 唇を噛み締めて悔しそうな表情をしているベル。フォアンはディフェンダーを背負い込み、ぽん、と彼女の頭に汗だくの手を載せる。見上げると、彼は穏やかな微笑を浮かべてこちらを覗き込んでいた。
「……ベルは優しいんだな」
「……違うわ。あたしは優しくなんか無い」ベルは弱々しく首を振った。「あたしだって、自分のエゴで金を稼いでる。ここを運営してる奴と方針が違うだけで、やってる事は――――」
「――違うよ。だからこそ俺はここにいて、ザレアもここにいる。ベルはここを運営してる奴とは思想が百八十度違う。だから、俺もベルと同じ気持ちでここに立っていられる」
 断言した後、深刻そうな表情を滲ませるフォアン。この先は口にして良いものか悩んだが、結局彼は口を開く。
「……俺達は、猟人だ。街に脅威を与えるモンスターを許容する事は出来ない。あのババコンガがどんな不遇に見舞われたとしても、俺達は全力で狩らなきゃならない。猟人として生きる事を決めた時に誓った……違うか?」
 優しく諭すように言葉を紡ぐフォアンに、ベルはすぐには二の句が継げなかった。彼の言う事には駁論する事が出来ない。でも、感情がその事実を受容しようとしない。
 脳の深い所では理解できている。フォアンの言う事も、大部分は解っているつもりだ。だけど、それでも――このままババコンガを葬り去る事には抵抗が有った。
「にゃーっ! そんにゃ時はオイラにお任せにゃっ!」
 突然降って涌いた声は、ババコンガから逃れてきた〈アイルー仮面〉のものだった。全身に汗を掻いていたが、息は切れていない。まだまだ余裕を感じさせるザレアは、ベルとフォアンの前でゴソゴソと〈アイルーフェイク〉の中に手を入れ、球体の代物を取り出した。
「それは……?」ベルが小首を傾げる。
「――捕獲用麻酔玉か」フォアンが驚いたように瞠目する。
「そうにゃ! これを、ババコンガが罠に掛かった時に使えば、捕獲できるのにゃ!」
 捕獲。つまり、殺さずにこの戦闘を終わらせる事が出来る。
 ババコンガが実はどこかの村を襲った張本人で、誰かが狩猟依頼を出し、その末に捕獲されたのかも知れない。ならば、ここで討伐されても誰かが悲しむ訳ではない。否、寧ろ泣いて喜ばれるかも知れない。それでも――ベルは、今だけはこのババコンガをこの手に掛けたくなかった。
 そんな折に出たザレアの申し出に、ベルは瞬く間に顔を喜色に染めていく。手を振り上げ、ザレアとハイタッチを交わす。
「ナイスっ、ザレア! それで行きましょう!」極上の笑みでベル。
「やったにゃーっ、ベルさんに褒められたのにゃーっ!」感激だと言わんばかりに飛び跳ねて歓喜を表すザレア。
「けど、罠はどうするんだ? 誰かシビレ罠か落とし穴、持ってるのか?」
 小首を傾げて尋ねるフォアン。ベルはその瞬間、動きが硬直する。
 捕獲用麻酔玉を使えば、モンスターを昏睡状態に陥らせる事が出来る。――が、それはあくまで罠に掛かっている間だけ。罠に掛かっている状態であれば昏睡状態に陥らせられるが、活動状態であれば捕獲用麻酔玉の効果は薄いのだ。
 ここは闘技場。併も武器どころか防具まで剥ぎ取られた現状で、そのような道具を持つ者など一人も――「任せるにゃ!」――否、一人だけ、いた。
 再び〈アイルーフェイク〉をゴソゴソ漁ると、中から円盤状の装置――シビレ罠を取り出す。ゲネポスの麻痺牙とトラップツールと言う道具を調合して作るその器具を使えば、瞬時にモンスターに麻痺毒が回り、動きを拘束する事が可能だ。
「……ってか、その被り物は何? 四次元ポケットか何かなの?」引き攣った笑みでベル。
「違うぜベル。きっと〈アイルーフェイク〉の中には爆弾が一杯……」人差し指を立ててフォアン。
「ザレアの頭はどこに行っちゃったの!? 入らないよね!? それともペチャンコなの!?」思わずツッコミを入れるベル。
「何を言ってるのにゃ! オイラの顔は、この〈アイルーフェイク〉にゃっ!」断言するザレア。
「じゃあ何!? あんた自分の頭の中に手を突っ込んじゃったの!? エグいッ!! 自分で言ってて何だけど、エグいッ!!」くっ、と目を逸らすベル。
「大丈夫だベル。あの〈アイルーフェイク〉、実はアンパンなんだ」親指を立ててフォアン。
「交換できるの!? ザレアは実は愛と勇気のヒーローだったの!?」目がグルグルと回り始めるベル。
「ヘイヘイヘイヘイ!! 今が戦闘中だって事、忘れてんじゃねェだろうなベイビー!? 何、俺一人に任せて漫才かましてんだYO!! このままじゃ……ついヒートアップしちまうぜェェェェッッ!!」
 ババコンガ相手に、鉄刀【禊】を使わず、徒手空拳で挑んでいるヴァーゼが楽しげに喚声を上げた事で、三人はやっと我に返った。
「それじゃザレア、任せたわよ!」
「任せるにゃ! フォアン君、行こうにゃ!」
「よし、もう一踏ん張り、行くか」
 三人は再び展開していく。その視線の先では、三人が漫才を繰り広げている間、延々と行われていたガチバトルが未だに続いていた。
 筋肉の塊と言って差し支えないババコンガに対し、武器を使わず格闘術で攻撃し続けるヴァーゼ。正直な所、人間が放つ打撃は最低でも武器を介していなければダメージにならない。それがモンスターと人間の間に厳然と存在する力量の差だ。その差を解していない訳ではない筈のギルドナイツ騎士長ヴァーゼが、何故か背負っている鉄刀【禊】を使わずに、敢えて生身の攻撃に徹している。
 ちょこまか走り回り、相手が隙を見せた瞬間に足・膝・肘・拳を叩き込む。それはモンスターに対してあまりに非力な攻撃だったが――その者が、モンスターと同等の膂力を秘めていたら――話は変わる。
「イェアァッ!!」「ブモォッ!?」
 ババコンガの鼻面に全力で拳を叩き込むヴァーゼ。その一撃で鼻っ柱が拉げ、思わず怯むババコンガ。相手が怯んだ隙を見逃さず、更に肘打ち、裏拳と打撃を繋げていく。その一撃一撃に人間が持ち得ぬ威力が込められ、ババコンガの顔が更に醜悪なものへと変貌していく。
「ヘイヘイ!! どうしたババコンガァ!? 手前の力はこんなもんじゃねェだろ!? もっと熱くなれよ!! 全力で俺を屠ってくれよォォォォ、アァァァァン!?」
「だから落ち着けェェェェ―――――ッッ!!」
 ヴァーゼが発火しそうな程に煮え滾ったパトスを吐き出すのに対し、思わずベルがツッコミの咆哮を走らせる闘技場。その熱は冷める事無く、尚も加熱する一方だった。

【後書】
 Twitterでもちょこっと触れたのですが、モンハンの世界観にて闘技場でモンスターと戦う、と言う背景をごっそり妄想した形がこのエピソードだったりします。故にベルの考えなどはその辺から派生した形ですね!
 いやたぶん尤もらしい理由が原作にはある(と思う)んですけど、わたくしはわたくしなりに妄想したかったと申しますか…こういう形の設定でも、良くない!? って感じの奴ですw
 さてさて、ザレアとヴァーゼのお陰で何とかなりそうな予感が芽生えましたが、果たして! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    ひたすら熱いヴァーゼさん回ですねw

    闘技場での戦闘に関してはベルちゃんに一票w
    移動が楽だったり、モンスターがエリア移動しない(できない)ので
    快適といえば快適なのですが…
    いかにも狩らされてる感がちょっとw(昔のSR上げデュラさんとか大昔のプレミアムババとかw)
    やっぱり自然の中駆け回りながら戦いたいなぁv

    やっぱすげぇぜザレアちゃん!!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですですwwひたすら白熱しているヴァーゼさんですww(笑)


      やった!w ベルちゃんの想いが届きましたね!w
      ですです! 狩猟と言いますか、戦闘に関しては快適な環境に違いないのですが、「狩らされてる感」と言うのがまさにそれでして!
      SR上げのデュラさんはまさにそれですよね!w 何と言いますか、人間の都合でひたすらミンチにされていくモンスターとか、一体これは…って思わずにいられないと言いますか。
      ですです!w やっぱり自然の中を駆け回って狩るのが、ハンターですよねっ!

      やっぱすげぇぜザレアちゃん!ww もうこの子がいれば何も問題無いんじゃないかな!ww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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