2019年3月26日火曜日

【ベルの狩猟日記】086.或る日の古龍迎撃戦【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
■第86話

086.或る日の古龍迎撃戦


 古龍迎撃戦。それは、ハンターなら誰もが一度は憧れる、ハンターの中でも高名な者しか立ち会えないとされる、狩猟。
 古龍とは、飛竜以上の長命を誇り、飛竜以上の強大さを誇る、この世界の生態系では頂点の座に君臨し続ける生物である。
 古龍と飛竜の違いの中で特に顕著な点は、飛竜種が二脚有翼に対し、古龍種が翼の有無に関係無く、四本足で確りと体を支えている事。中にはその分類に当て嵌まらない古龍も存在するが、現在確認されている古龍のほぼ全てが、上記の特徴を有している。
 そして古龍は、飛竜に比べて稀少な存在でもある。古より人類を脅かし続けた生物……ただ徘徊するだけで天災規模の災厄を引き起こすとまで言われる、伝説上の生物である。もし彼らと遭遇する事が叶ったならば、それは不運なのか幸運なのか……傍目に見れば不幸以外の何物でもないが、中には彼らと矛を交えたいと言う奇特なハンターもいる。
 ――ハンターとは、人類を脅かす生物――モンスターを狩猟する人間を指す。モンスターの強靭且つ強大な生命力と相対すべく、ハンターは知恵を絞り、道具を用い、技量の全てを懸けて立ち向かう。
 一方モンスターは、己が本能に準じるままに行動し、それが人間の活動圏に差しかかった際に已む無くハンターと衝突する事になる。
 ハンターが皆、モンスターの魔の手から人類を守りたいと言う、崇高な思想に基づく聖職者ではない。多額の報酬を目当てにモンスターを狩る者、モンスターから街を守ったと言う名声を欲する者、モンスターから剥ぎ取れる素材で誰も持ち得ぬ武具を生産する事に熱中する者、自分より強大な生物との戦いに命を賭ける至上主義者……目的は違うが、“モンスターを狩猟する”と言う点でのみ合致している。
 そんな有象無象のハンターの中で、古龍は特別視される存在なのだ。
 通常の巨大なモンスター……飛竜種や牙獣種、魚竜種、甲殻種などとは一線を画すモンスターである古龍は勿論、狩猟した際の報酬は格別で、街を守り通したともなれば大陸中に轟く名声を手に入れる事も叶う。更に古龍から剥ぎ取った素材で作成した防具ともなれば、誰しも羨望の眼差しを向けずにはいられないし、その強さは今まで体感した事の無いレベルである事は間違い無い。
 怖いモノ見たさも勿論起因しているだろうが、前述の理由により、ハンターになった者は皆、一度は古龍と相対したい、と希うのだ。
 古龍と遭遇する事自体が稀少で、且つ古龍迎撃戦ともなれば高名なハンター……確りとした技量と実力を伴ったハンターから選抜された、名実共に最高のハンターしか招集されないのだから、もしそんな晴れ舞台に参戦できようものなら、何代にも亘って語り継がれる英雄譚になるだろう。
 そして今日――ローグ砦にて、一つの伝説が生まれようとしていた……

◇◆◇◆◇

 ローグ砦内部――基地区画。
 最低限の広さしかない区画に、三十人近くのハンターが詰め込まれていた。皆、歴戦の戦士である事を覗わせる頑強な武具で身を固め、荘厳な雰囲気を漂わせている。佇まいを見ただけでも、その強さが滲み出ているように、周囲の空気を緊張させている。
 緊張感溢れる部屋の中には、支給された道具が納められているボックスが一つと、怪我人などを寝かせられる簡易ベッド、バリスタと呼ばれる巨大な弩状の兵器の弾や、砲弾などが所狭しと置かれている。ただでさえ窮屈な部屋の中に置かれているため、狭苦しさが倍増しである。加えて言えば、ハンター達の汗や体臭が充満し、空調など無い部屋は空気がこれでもかと澱んでいる。
 部屋には時折、足許から震動が伝わってくる。ずん……ずずん……と、震動が起こる度に天井の梁から埃が舞い落ち、部屋の環境を更に悪化させた。
 そんな部屋の隅に、一人の少年が縮こまっていた。
 光沢を放つ紫色の防具――カンタロスUシリーズで身を固めている。背に吊っている武器は、双剣・インセクトオーダー改。武器にしろ防具にしろ、殆どに甲虫種“カンタロス”の素材が使われている。周囲のハンターは皆、飛竜種や牙獣種などの、大型モンスターの素材から生産できる防具で身を固める中、彼だけが若干浮いているように見える。
 甲虫種の素材で統一した少年――イルムは隅の方で縮こまりながら、小さく嘆息を落とした。
(……絶対に場違いだよな、おれっち……)
 自分でも認識していた。けれども二週間前に届いたハンターズギルドからの指令書には、何故かイルムの招集が記されていた。初めは手違いだと何度も自分に言い聞かせたが、村の人間は皆、既にお祭りムード。何の特産品も無い寒村から、初めて古龍迎撃戦に赴く実力を伴ったハンターが出ると、村長共々狂喜乱舞である。流石にその浮かれきった空間で「いや、手違いですよ……」とツッコミを入れる勇気は湧かず、泣く泣く村を出て、故郷から遠く離れた地にあるローグ砦へと赴いた次第だ。
 現地に到着してハンターズギルドの人間に確認を取って貰ったが、間違いは無いと言われ、イルムは更に困惑した。寒村でのんびりと採取や採掘をして暮らしてきた自分に、どうしてハンターズギルドは古龍迎撃戦などに呼び出したのか。甚だ疑問と言うか、単に自分達の手違いを認めたくないだけなのではないか……と、軽い疑心暗鬼に駆られている始末である。
 現に周囲を取り囲むハンター達は皆、屈強な戦士然とした者ばかりだ。片田舎でケルビやモスと戯れていた自分とは体の造りがまるで違う。解り易く言えば、大人と子供ほどに、体格が違っているように映るのだ。
 このまま何もせずに帰った方が無難なのではないか……完全にネガティヴに思考が堕ちていく最中、無数にある出入口の一つから、陽気な声が聞こえてきた。
「にゃ~、オイラ、古龍迎撃戦って初めてにゃ!」
「そりゃそーだろ。俺だってまだ一桁だっつーの。普通はなァ、古龍なんて生きてる内に一度も逢えない奴の方が大多数を占めてんだから、お前は良い方なんだぜ?」
「そんにゃ貴重にゃ体験が出来るのも、師匠のお陰にゃっ! ありがとにゃーっ!」
 それは……あまりにもこの場の空気にそぐわぬ、嬉々とした話し声だった。
 自分はこの空間では異質だと感じていたイルムでさえ、二人の声を聞いた瞬間、自分の思考が馬鹿らしくなった位に。
 程無くして部屋に入って来たのは、二人のハンターの一人はギルドナイツの正装をした青年。背には大長老の脇差と呼ばれる太刀を吊っている。もう一人は、ハンターと呼んでも良いものか迷う姿をしている。頭に〈アイルーフェイク〉と呼ばれる猫の被り物を被っているだけで、防具は何一つ纏わず、女性として大事な部分を覆うインナーのみと言う、最早裸と呼んでも差し支えない姿に、デッドリボルバーと呼ばれるハンマーを背中に吊っている少女。
 ギルドナイツの青年は集結したハンター全員を視界に入れるように立つと、大きく咳払いした。
「今回はラオシャンロン迎撃戦の招集に了承してくれた事に、ギルドナイツを代表して謝意を表する。――尤も、ラオシャンロンを撃退して初めて手前らに報酬を用意するつもりだ。全力で迎撃に努め、砦を護り通せ。俺からは以上だ。――っとと、名乗り忘れてたな。俺ァギルドナイツの騎士長、ヴァーゼだ。――以上」
 部屋の中がざわめき始める。ギルドナイツの騎士長が予想以上に若かった事、そして彼が連れてきた少女の事……それだけで部屋の中は疑念に充ち満ちていた。
「――ちょっと質問良いか? 騎士長さんよ」そんな中、一人のハンターが挙手する。「あんたが連れてきた、そっちの嬢ちゃんは何だ? 妹か?」
 思わず部屋の中に失笑が混ざるが、ギルドナイツの騎士長――ヴァーゼは意に介する様子も無く、簡潔に一言。
「俺の愛弟子だ」
 ざわめきは、今度は水を打ったような沈黙に切り替わった。皆の視線が、ヴァーゼから〈アイルーフェイク〉の少女へと向けられるのが、空気で伝わってくる。
 年端のいかぬ少女。加えて、防具は頭の〈アイルーフェイク〉だけ。過剰に筋肉が付いている訳でもない、中肉中背の体。武器とて、稀少な物でも、況してや上級者が持つような高威力の代物でもない。
 この場に居合わせたハンター達が受けた印象は間違いなく――“役立たずが一人増えた”と言う物でしかない。
「おいおい、そんなメスガキ連れてきて、まさか戦わせるんじゃねえだろうな? 隅で応援でもさせるつもりかよ?」
 野卑な笑声が飛び交い、好ましくない空気が流れつつある部屋の中で、イルムはまるで自分に言われたかのように、更に身を縮こまらせる。流石に彼女程ではないが、場違いなのは身に染みて判っている。今なら引き返せる――――
「人を外見で判断する奴にゃァ碌な奴がいねェって聞いたが、まさかお前じゃねェよなァ?」
 静かに、ただその裏側には激情を孕ませ、ヴァーゼが応じる。たった一言でハンター達を黙らせる威圧感に、イルムも驚きに目を瞠った。ギルドナイツの騎士長とは言え、まだ二十代だろう。ハンターとしては全盛期でも、経験者にとってはまだ若輩者として映る。にも拘らず吐き出した言葉には力が有った。数多のモンスターを狩猟してきた玄人ですら唸らせる……それだけの強さが、ヴァーゼには有るように見えた。
 軽口を叩いたハンターはばつが悪そうに舌打ちするが、ヴァーゼは澄ました表情で彼から視線を外すと、先刻話題に上がった少女を脇に連れてきた。
「こいつァ俺の愛弟子のザレアだ。実力はギルドナイツ騎士長の折り紙付きって言やァ、流石に解るだろうよ?」
「にゃにゃっ、宜しくにゃっ!」
 ヴァーゼの紹介を受けて矢面に立った少女――ザレアは、表情こそ見えないが、嬉々とした声調で手を大きく振る。先刻の話の流れをまるで介していないような素振りに、皆毒気を抜かれたように奇怪な少女を見やった。
「さて……今回、ラオシャンロンを迎撃するに当たって、策って程でもねェが、二人から四人のパーティを組んで、パーティ別にラオシャンロンへアタックを仕掛けたいと思う。その方が皆も、いつも通りの動きが出来るだろうしな。――異論は有るか?」
 ヴァーゼの眼光に逆らえる者はいないのか、或いは彼の立てた策に満場一致なのか、挙手する者は現れなかった。ヴァーゼは詰まらなそうに片眉を持ち上げる。
「んじゃま、ガンナーはエリア1にて待機。剣士はエリア2で待機。エリア1からエリア2にラオシャンロンが移動次第、ガンナーはエリア2で待機中の剣士の部隊と合流、そこからは総力戦だ。……言っとくが、全力で事に当たれよ? 相手は、――天災だ。くれぐれも、ただのモンスターだと思うな。以上!!」

◇◆◇◆◇

 作戦の説明が終わった瞬間、ハンター達が動き始める。いつものメンバーで纏まる者や、人数が足りずに別のパーティに割り込む者、メンバーを募集する者など。各々に動き始めた中で、イルムはやっぱり隅の方で縮こまっていた。
 誰からも声を掛けられる事は無く、誰の邪魔にもならないように隅にいるだけ。何れ時が来れば、自分は一人でラオシャンロンに挑む事になるだろう。ラオシャンロンと相対できただけで、ここに来た価値は充分に有る。後は自分のペースで頑張れば……と思って俯いていると、不意に天井に下げられていた電灯の明かりを遮る影が出来た。
 何だろうと思って頭を上げると、眼前にアイルーの顔が広がった。
「…………ッッ!?」
 驚きのあまり、声が出ない。心臓が口から飛び出るかと思う程に驚いていると、猫頭の奥から愛らしい少女の声が漏れてきた。
「にゃにゃっ、君は誰かとパーティを組まにゃいのにゃ?」
「お、おれっちの事?」戸惑いながらも自分を指差すイルム。「無理無理! どう考えてもおれっち、ここにいちゃいけない奴だって!」
「にゃ?」キョトン、とするザレア。「ここにいちゃいけにゃいハンターにゃんて、いにゃいにゃよ?」
「……お前は、ギルドナイツ騎士長の愛弟子だから、別に良いんだろうけど……」悄然と嘆息を落とすイルム。「おれっちは手違いでここにいるんだよ、絶対……」
「にゃ~? よく分かんにゃいけど、だったらオイラ達とパーティ組まにゃいかにゃっ?」
 ひょい、と小さな手を伸ばしてくるザレア。その表情は〈アイルーフェイク〉に阻まれて垣間見えないが、それでもイルムには解った。――笑顔。同情や憐憫からは程遠い、純粋無垢の笑顔がそこに有る気がした。
「お、おれっちなんか誘っても、何の役にも立たないぜ……?」
 それでもイルムの疑心暗鬼の氷は、解凍される直前で再び凍結を開始する。彼女が良心で誘ってくれているとしても、確実に自分は彼らの足を引っ張る。こんな若輩ハンターなど、ラオシャンロンを前にして巧く立ち回れる筈が無いのだ。
「役に立つかどうかは、手前が決めるもんじゃねェだろ? まずは立ち向かってみろ。話はそれからだ」
 告げたのは、ザレアの背後に立っていたギルドナイツ騎士長――ヴァーゼだった。彼は静かにイルムを見下ろすと、挑発的な瞳で親指を立てる。
「俺ァな、見込みのねェ奴なんざ呼ばねェんだ。手前にゃァ可能性が有る。やるだけの事をやれ。それでダメでも手前は胸ェ張れるんだ。それすら出来ねェなら、手前はハンターじゃなくても続かねェよ」
「…………!」
 ヴァーゼの言葉には、毒が無い。彼なりに励ましているのだと思い、イルムは立ち上がってザレアの手を取った。
「おれっちを、パーティに加えてくれ!」
 自信を持って開いた口から出たのは、先刻の自分とは思えぬポジティヴな台詞だった。
 ――そうして、ラオシャンロン迎撃戦は幕を上げた…………

【後書】
 今回から短編集! と言う名の過去編ですねこれ!w ザレアちゃんにスポットを当てた物語になりますが、主人公は今回は全く知らない子のイルム君です。
 そしてお相手はラオシャンロン! 併し味方にはヴァーゼさん!! 古龍が相手でも怯む余地絶無なヴァーゼさんとザレアちゃんの迎撃戦にご期待ください!(笑) そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    古龍相手でも相変わらずのお二人w
    ヴァーゼさんはいつもどおり熱くて、ザレアちゃんはにゃーw
    それに加わるイルムくん。
    どんな活躍をしてくれるのか楽しみです。

    ラオ様は特別ですよねw
    ただ移動してるだけなのに「天災」とか言われてるし…
    君は知っているかな?剛ラオ笛1水冷ヘヴィ3をw

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      古龍が相手でも全く変わらないのがお二人らしいです!(笑)
      「ザレアちゃんはにゃーw」が可愛過ぎる件!ww
      ぜひぜひイルム君の活躍にはご期待ください!

      ラオ様はね~w シェンガオレンとどっこいの特別感ですw
      そうそうww移動してるだけで天災扱いなんですよねこの子ww
      えっ、そのハメは知らぬい…! もしかしてすんごい初期の剛ラオハメなのかしら…!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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