2019年3月4日月曜日

【余命一月の勇者様】第51話 ミコトの願い【オリジナル小説】

■あらすじ
叶う願いは、一つだけ。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■第51話

第51話 ミコトの願い


「……俺の寿命を元に戻して、マナカの死を消し去る、じゃ、ダメなのか?」

 マナカが苦しそうに喀血するのをぼやけた視界に納めながら、ミコトは呻いた。
 意識が朦朧とする中、エンドラゴンの男声はひたすら過酷だった。
「ダメじゃ。叶える大願は一つ。其方の寿命を元に戻すのなら、マナカはここで臥す。マナカの死を消し去るのなら、其方の寿命は残り五日のまま」表情は観えないが、エンドラゴンが微笑んでいる姿がありありと分かる声音だった。「さて、どうするミコトよ。思考に費やす時間は、そう長くないと考えよ」
「ミコト……ダメ、だからな」マナカが、喀血しながら歩み寄って来た。歯を食い縛って、大仰に首を横に振る。「お前は、生きなきゃならねえって、分かってるよな? 大丈夫だって、俺、死なねえからさ。あんな奴の言う事真に受けるなよ、だからミコトは寿命を――――」
「……マナカ」くすっ、と、ミコトの口唇に薄っすらと笑みが浮かんだ。「お前がもし、俺の立場だったら……どうする?」
「……ッ」マナカの表情が、強く歪んだ。「やめてくれ、ミコト……ッ。俺はッ、俺がそんなの、耐えられる訳ねえって、知ってるだろ!? なぁ、ミコト……ッ、頼むよ……ッ、お前に、生きていて欲しいんだよ……ッ!!」
「俺だって……同じ気持ちだ。だからマナカ……俺がどうするか、お前なら分かるだろ……?」
「嫌だ……ッ、嫌だ……ッ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァアアアア――――――――――ッッ!!」四つん這いになり、大地を殴りつけるマナカ。「俺は……ッ、俺はぁ……ッッ!!」
 悔しさで痛みなど吹き飛んでしまったかのように暴れるマナカだが、胸からは滾々と血液の流出が止まっていないし、喚き散らす度に喀血している姿を確認したミコトは、力無く微笑を刻んだ。
「……いいんだ。俺は、マナカがいない世界なんて、五日間も耐えられねえからさ……」
「俺だって!! ミコトがいない五日後なんて想像したくねえよ!! 耐えられる訳ねえよ!! だからッ、やめて、くれよぉ……ッ」
「――エンドラゴン、俺の願いを言うぜ」マナカから視線を引き剥がし、ミコトは階段の上に蹲るエンドラゴンに声が届くように、喉を震わせた。「マナカを、……救ってやってくれ」
「――ミコトの大願、成就能わん。マナカの傷と言う傷を癒し、健やかなる肉体へと修繕しよう」
 ミコトが視線をぼんやり向けると、マナカの肉体が黒い輝きに満たされ、次の瞬間には、力が漲って、顔面をグチャグチャに汚した彼の姿が…………
 ……そこで、ミコトの意識は途絶えた。常闇に沈むように、混沌に浸るように。ミコトは、現実を手放した。

◇◆◇◆◇

「ミコトッ! ミコトォッッ!!」
 大慌てで意識を失ったミコトを揺さ振ろうとするマナカに、オルナが「今は動かさねえ方が良いぜ、気を失ってるだけだ、死んだ訳じゃ、ねぇ……」とマナカを引き剥がした。
「オルナの言う通り、ミコトは死なぬよ。まだ、な」
 穏健な微笑を浮かべているのが見ずにも分かる笑声を織り交ぜるエンドラゴンに、マナカは怒り心頭と言った態で吼える。
「エンドラゴン!! 俺はテメエを許さねえ!! 今!! ここで!! ぶん殴ってやるからな!!!」
 ミコトをそっと寝かせた瞬間階段を駆け上がって行くマナカを、オルナは止める事が出来なかった。
 満身創痍の態で意識を失っているミコトを心配そうに見下ろしていると、不意に羽ばたきが耳朶を打った。
 億劫そうに顔を上げると、オワリュウがパタパタと飛び込んで来て、ミコトの傍に着陸した。
「あちゃ~、確かにこりゃ、死にゃせんでも、暫く目ぇ覚まさへんやろ。死にかけとる言うても過言やないで」他人事のように素っ気無く呟くオワリュウ。「まっ、でも大儀やで、ほんま。お陰さんで、オワリの国の膿は取れた。……いや、膿み出しがやっと始まるってとこまで来たで」
「……シュンが、病巣だった、と?」掠れた声で尋ねるオルナ。「……無礼を承知でお尋ねしますが、オワリュウ様もエンドラゴン様も、予めご存知だったのでは、ないでしょうか……?」
 オワリュウはニヤリと口唇を歪めると、「さて、どやろなぁ? ――ともあれ、や。シュンの言質は、と言うか、この空間の音声は、迷宮の門前に立つ者、及び、オワリの国全体に拡散されとるからな、臣民全員がオワリの国で起こった惨事を、全て知ってしもた事になる。……シュンの息が掛かった者達は、居辛うなるやろなぁ」澄ました表情で嘯き、オルナを見上げる。「エンドラゴン様は、人の国の問題は、人が解決すべきや、と言う考えから変わっとらん。けれど……守護者として、今まで連綿と見守ってきた愛すべき子達に、情が移らんとも、限らんわな」
「……」納得できないと言った風情で沈黙を返すオルナ。「……では、どうしてミコトに……我が国の大事な客人に、こんな惨い真似を……?」
「それはワイにでも応えられるな」したり顔で嘯くオワリュウ。「エンドラゴン様が、ミコトに肩入れし過ぎてしもたからや」
「肩入れし過ぎた……?」
 オルナが更に言を募ろうとしたその時、階段の上から「エンドラゴンンンンン――――――――――ッッ!!」と言う、雄叫びが上がったのを見て取り、オルナは大慌てで立ち上がり、「やめてやめてそれだけはほんとやめてマナカァァァァ――――――――――ッッ!!」と躓きながらも必死に階段を上がっていく。
 階段の上ではマナカが鬼の形相でエンドラゴンに斬りかかり、その黒色の竜鱗にひたすら大剣をぶつけていたが、擦り傷一つ入らず、エンドラゴンも優しい眦を崩す事無く、マナカの狂乱を眺めているだけで、何かしらのアクションを起こす様子は無かった。
「テメエだけはッ、テメエだけはッ、テメエだけはァァァァ―――――ッッ!!」
 狂乱の態で、顔面を分泌液でグチャグチャにしながら、エンドラゴンに怒りを叩きつけるマナカに、数分遅れで追いついたオルナが止めようとしたが――あまりにもデタラメに大剣を振り回す彼には、然しもの近衛騎士であっても近寄る事すら出来なかった。
「まじでやめてマナカ君!? エンドラゴン様これは……ッ!!」どうしたらいいのか困惑の極みに陥ったオルナは、頭を下げたりマナカに手を伸ばしたり視線を彷徨わせたりと忙しくなった。
「――良い。ミコトへの想いの発露である、止めるのは野暮と言うものであろう」優しくオルナに微笑みかけるエンドラゴン。「併しだ、マナカよ。ワシとて、痛覚が喪失しておる訳ではない。其方は、抵抗せぬ者を一方的に痛めつける者なのか?」
「だって! だって! だって!!」大剣を大地に突き刺し、頭を抱えて跪くと、絶叫を迸らせるマナカ。「ミコトが死んじまう!! ミコトの寿命が元に戻らねえのに!! 俺はッ!! 俺はッッ!!!」
「マナカ……」苦しそうに歯を食い縛るオルナ。「――エンドラゴン様。何卒、何卒お慈悲を。私か、或いはマナカに、願いを叶える機会をお与えください。何卒、何卒お慈悲を……ッ!」
 痛む体を押して、オルナが土下座をした。マナカは天を仰いで号泣していたが、オルナが土下座を始めた事に気づき、涙も拭わずにすぐに近衛騎士に倣って額を大地に擦りつけた。
「頼むよぉ!! 俺からもお願いする!! お願いしますッ!! ミコトを!! ミコトをどうか、長生きさせてくれ!! ここであいつが死んだら、俺もう、俺はもうッ、家族に顔向けできねえ!!」
「――ならぬ」エンドラゴンの声は優しく、慈悲の色が混ざりながらも、その言葉はひたすら峻険だった。「ワシは二人にだけ、願いを叶えると通告した。己の宣言を歪める訳にはいかぬ。故に、大願を成就する確約は、出来ぬ」
「何で……だよ……ッ」地面を思いっきり殴りながら、歯を食い縛るマナカ。「何で……ッ、ミコトばっかり……ッ! ミコトが何したって言うんだよ!! ミコトはッ、ミコトは……ッ!!」
「其方は、諦めてしまったのか? ミコトの存命を。ミコトの運命を」
 エンドラゴンの、慈愛に満ちた声に、マナカの嗚咽が一瞬止んだ。
 訳も分からず、涙と鼻水と涎でべちゃべちゃになった顔を上げると、エンドラゴンは出逢った時と変わらぬ、優しい相貌でマナカを見下ろしていた。
「ミコトは、諦めていたか? ミコトは、死を受け入れていたか? ミコトは、明日を観ぬと眠ってしまったか? ……其方は、稚児のように無知だが、稚児のようにまっすぐだ。故にこそ、駄々なのであろうな」
「……何言ってるか分からねえけどよ、」鼻を啜り、マナカはゆっくりと立ち上がると、エンドラゴンを正視した。「俺は、ミコトのためなら何だってするぜ。ミコトに、何度救われたか分からねえんだ。今度は、俺の番だ。俺が、ミコトを救ってやる。必ずだ!」
「……クフ、クフハハハ!」再び白い髭の海が揺蕩った。「先刻まで迷子のように泣きじゃくっておった者が、もうそんな精悍な顔をするのか。其方は本当に、強い男児じゃ。それでこそ、ミコトの隣に立つに相応しい、と言う事かの」
「俺は何をしたらいい!? 教えてくれ、エンドラゴン!! 何なら俺の命を――」「ワシは何もせぬ」ぴしゃりと言い放つエンドラゴンだったが、泣きべそを掻きそうになったマナカに対して、小さく咳払いを返した。「ワシは何もせぬ。せぬが……其方の想いに一切応えぬと言うのもまた、あまりに不情と言うもの。そうさな……」
 エンドラゴンがゆっくりと瞼を下ろして沈黙する事、五分。再びゆっくりと瞼が開き、穏和な視線がマナカを貫いた。
「――――“諦めるな”。最後まで、希望を捨てるな。それこそが、其方らには相応しいであろう」
「諦めるな……」マナカは胸に何かがストンと落ちる感覚を以て、エンドラゴンを仰ぎ見た。「分かった! ありがとな、エンドラゴン!」
 エンドラゴンは一瞬放心した表情を覗かせたが、再び白い髭の海が蠢く笑声を走らせた。
「マナカの行った数々の非礼、代人してお詫び申し上げます」痛む体を傾げながら土下座を続けるオルナ。「何卒ご容赦をば……ッ」
「良い良い。オルナよ、面を上げい」慈しみの笑みを投げかけながら、エンドラゴンは告げる。「……其方にも期待しておるぞ、オルナ。この国の行く末も、確かにそうだが……其方も、ミコトの身を案じる者として。――諦めるな」
「……不肖オルナ、確と承りまして御座います」立ち上がり、騎士の敬礼を返すオルナ。
「クフフ……さて、謁見も刻限であろう。己が域に帰るが良い、人族の子らよ」エンドラゴンはゆっくりと瞼を下ろし、安らかな眠りに入るように、ゆっくりと鼻息を吐き出した。「其方らに逢えて、良かった。有り難う」
 そう、エンドラゴンが感謝を述べた瞬間だった。迷宮の中に眩いばかりの黒色の光が満ち、――やがて、視界が埋め尽くされたと思った次の瞬間には、迷宮の門前、つまりスタート地点に戻されていた。
「――ミコトッ!?」
 途端に弾けたのは、レンの悲鳴だった。
 満身創痍――大怪我に見舞われたミコトの元に駆け寄り、泣き顔を晒すレン。そして――周りにマツゴや騎士、そしてオルナがいるにも拘らず、「癒しの火よ、点れ――ッ!」魔力の光をミコトに浴びせ始めた。
 癒しの光。淡い橙色の光は、ミコトの全身を駆け巡るように照射されていく。
 その光を呆、っと見つめる一行だったが、やがて「ま、魔族……?」と騎士の一人が口にした瞬間、迷宮の門前はざわつき始めた。
「レン様、これは……!?」マツゴが驚きに目を瞠って声を掛けるも、レンは「ちょっと黙ってて!!」とぞんざいに吐き捨てるだけだった。
「そこの姉ちゃんやけどな、確かに魔族や」パタパタと、オワリュウがマツゴの肩に止まる。「魔族やけど、ミコトの嫁でもある。勿論、ミコト達はみぃんな知っとる事や。それがどういう事か、分かるかマツゴ?」
「……」渋い顔をして、オワリュウに意識を傾けるマツゴだったが、暫く瞑目すると、決意の光を点らせたマツゴは、騎士に視線を向けた。「彼らに最上級の客室を用意しなさい! 国中の医療関係者の招集もだ! 早く!」
「は、はッ!!」
 騎士達は敬礼を返すや否や、大慌てで階段を上って行った。
 残されたマツゴは、マナカに振り返り、深々と頭を下げた。
「……有り難う、マナカ様。貴方のお陰で、この国は……」
「礼ならミコトに言ってくれよな! 俺は、ミコトに付き合っただけだ。何にもしちゃいねえよ」鼻の下を擦って応じるマナカ。「それよりも王様。いや、ええと、親父だったっけ? ――頼みが有るんだ」
「何でしょう? 余に出来る事であれば、何なりと」
 まっすぐに見つめ返すマツゴに、マナカは真剣な表情で、――告げた。
「俺を、次期国王にしてくれ」

【後書】
 怒涛の展開をお送りしております。この辺もっとゆっくりやっても良かったかな、とも思ったのですが、どうしてもね、クライマックス間近と言う事で筆が焦ってたのも有ると思います…w
 さて、物語ももう終盤も終盤、間も無く完結まで来ました。日逆孝介の想像したイケメンが辿る道程も、いよいよ終わりが見えてきました。どうか最後まで、彼らの旅路を見守って頂けますように。それでは次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    叶う願いは一つだけ。
    どちらを選ぶのかなんて分かりきっている。
    なのにどうしてこんなに泣けるのか…
    そしてレンちゃんの「ちょっと黙ってて!!」でとどめを刺されました。
    もう、ほんとヤバい(語彙力消失)

    続きが早く読みたいのですが、読めば読むほど完結に向かってしまう…
    あぁ…

    みんな諦めないで最後まで頑張って!!

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も楽しみにしてますよ~vv


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    1. 感想有り難う御座います~!

      そうなんですよね…! ミコト君なら、どちらを選ぶなんて分かりきっていました…!
      それでも泣けるのは…安堵なのか、歓喜なのか、はたまたもどかしさからなのか…
      その上手く言語化できない感情こそわたくしが得られる最高の宝物です…! 有り難う…!!

      完結が間近になってくるとそういう想いも懐きますよね…!w ぜひぜひ最後までお付き合い頂けますように…!!

      応援有り難う御座います!! 最後まで走り抜きますようっ!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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