2019年4月21日日曜日

【神否荘の困った悪党たち】第66話 神否荘の夏休み最後の日AM:10:00【オリジナル小説】

■あらすじ
ヤメテ?

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
日常 コメディ ギャグ ほのぼの ライトノベル 現代 男主人公


カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881797954
■第66話

第66話 神否荘の夏休み最後の日AM:10:00


「古穂さんは神否荘の住人とは付き合いが長いんですか?」

おまわりさんが奈子ちゃんを連行して立ち去った後、古穂さんに「折角だからお茶を出すよ、久方振りのお客だからね」と言われ、めちゃめちゃ埃っぽい店内に古ぼけた木製の椅子を引っ張り出して、俺とニャッツさん、メイちゃん、そして古穂さんの四人でお茶会をする事になった。
出されたお茶は冷たくて、飲むとパイナップルみたいな味がした。甘くてベリー美味しい。
「ん~、そうだねぇ。彼ら自身とはそんなに長くないかな。わっちが引っ越してきたのは、つい二年ほど前だしね」そう言うと、古穂さんは照れ臭そうに頬を染めて、「あと、わっちの事は古穂おばさんでいいよう。お姉さんって歳じゃないからさ」と可愛らしい笑みを浮かべてる。何て可愛らしいお姉さんなんだ……てか俺お姉さんなんて言ってないぞい。
「じゃあ偶然神否荘の住人と知り合ったんです?」出されたお茶菓子を一つ口に運ぶ。かりんとうのようだったけれど、食べると甘じょっぱい味が広がった。「お茶もお菓子も美味しいですねこれ」何個でもイケる奴だ。
「んー、偶然って訳でもない、かな」古穂さんはポリポリとお茶菓子を食べながら小さく微笑んだ。「君自身、自覚が無いようだけれど、わっちは別に箝口令が敷かれてる訳じゃないし、言っちゃうけど、神否荘ってね、特異点なんだよ」
「特異点?」最近ソシャゲで聞いた覚えの有る単語だ。「聖杯でも眠ってるんですかね?」
「神否荘が物事の中心に在る、と言えば少しは伝わるかな?」茶菓子を振り回して古穂さんが微笑む。「始まりでも有り、終わりでも有る。収束点にして始発点。開闢にして終焉。此岸にして彼岸。そうだね、錬金術風に言えば、一にして全、全にして一、に当たる空間が、神否荘なんだよ」
「突然ファンタジーな要素がモリモリ出てきて理解が追い付かない奴ですね」よく分からないけどしゅごい事だけは分かる。俺は茶菓子をポリポリ食べながら相槌を打った。「でも、確かに、神否荘って何か、ヤバい所ですよね」
「そうだね、ヤバいよね」ケラケラと楽しそうに笑う古穂さんは本当に楽しそうだった。「住人も管理人もその自覚が無いのは当たり前さ。台風の目にいるのに、台風が実感できる訳が無いもの」
「えっ、じゃあもしかして神否荘の周囲一帯ってもう世界が滅んでる的な展開ですか?」ナモが喜んで主人公になりたい奴だ。俺はパイナップル味のお茶をズビズビ啜る。「ヤバいですね」
「セカイ系って奴かな? 実は自分達以外の人類は滅んでいたーって御伽噺だろう? 実際には滅んでいないし、神否荘以外の地球の住人も至って平凡に過ごしているさ。そう、問題は発生してないんだよ、何も」
「問題が発生して欲しそうな口振りですね」このお茶菓子本当に美味しいな。ポリポリ。
「わっちが引っ越ししてきた意味が喪われるからねぇ。特異点が目の前に在るのに、その近所にいても至って平和そのもの。世は事も無しなんて、退屈で退屈で仕方ないのさわっちは」
「師匠。この魔女は我輩と同じ暇人ニャ。暇を持て余して古書店開いてるようニャ奴ニャ。今度ゲームに誘ってやろうニャ」お茶菓子をペロペロ舐めながらニャッツさんが呟いた。
「そこの猫君の言う通り、わっちは暇を持て余した近所のおばさんなのさ。だってそうだろう? 戦争は起きず、冒険にも行かず、幻想世界にも旅立てず、ただぼんやーーーーりと日々古書を眺めて過ごしてるんだぜ? すっかり年老いたおばさんになった気分にもなるよ」
やれやれと肩を竦めた古穂さんの指と俺の指がぶつかる。お茶菓子が無くなってた。
「わぁ、済みませんめっちゃ美味しくて全部食べちゃいました」てへぺろしておこう。「てか古穂さんも暇を持て余してるんですか」
「“も”? 住人も暇を持て余してる感じなのかい?」不思議そうにお盆を持って立ち上がる古穂さん。「ちょっと待っててね、追加のお茶菓子出すから」
そう言って店の奥に入って行った古穂さんを見送り、俺はメイちゃんに視線を送った。
「ねぇねぇメイちゃん。もしかしてこの近所にいる人達って、古穂さんとかおまわりさんみたいな、何て言うかその、変わった人ばかりだったりする?」
「肯定。病市の約六割が稀少価値の有る生命体で構成されています」うーん、人間ですらない可能性を秘めてるのかぁ……
「俺思ったんだけどさ、」ニャッツさんを抱き上げて膝の上に載せてみる。「もっとご近所さんと交流を持つと、楽しそうな気がするんだ」
「師匠は引きこもりじゃニャかったのニャ?」俺の膝の上でペロペロ毛繕いを始めるニャッツさん。「我輩お家でゲームできればそれでいいのニャ!」
「ニャッツさんの対戦相手が俺とシンさんだけじゃ飽きません?」こっそり撫でようとしたらいつも通りパシィンッと弾かれた。「いって。……ほら、三人だと対戦も協力もあぶれる人出ますけど、たくさんいたらトーナメントとか大会とかできません?」
「トーナメント……! 大会……!」ニャッツさんの瞳が輝き始めた!「師匠! ご近所付き合いを早く始めるニャ! 我輩ときめきでサイコキネシスが発動しそうニャ!」それはやめて欲しい。
「亞贄様は管理人の責務以外にも新たな役職を併任されたいと?」キュイ、とメイちゃんの瞳が俺を捉えた。「亞贄様のご負担が増大する恐れが有ります」
「うーん、まぁ俺、管理人って言いながら住人の皆と遊んでるだけだからさ」メイちゃんを見上げて、てへへ、と笑ってみる。「ご近所さんとも、遊び仲間が増えたらいいなぁーって。どうかな? メイちゃん!」
メイちゃんが俺を見つめたまま計算してるのか、ふいーんってレコーダーがDVDを読み取るような音を立て始めた。
「ええんちゃう?」メイちゃんが無表情のまま、ことっと小首を傾げた。
「ヤッター」ニャッツさんと一緒に万歳するよ!
「おや、嬉しそうな話でも有ったのかい?」古穂さんがまたお茶菓子をお盆に一杯載せて戻って来た。「おばさんにも聞かせてよう」
「それがですね……」
お茶菓子をポリポリ食べて、お茶をズビズビ飲みながら、古穂さんとニャッツさんとメイちゃんの四人と和気藹々と話し始めたら途端に長くなってしまった。
何でこんな話が長くなったんだろうって思ったんだけど、これあれだ、俺の話を聞いてくれる人だったからだ。そんな気がする。
「……なるほどね。君は特異点の枠を拡げる選択をする訳だ」お茶菓子をポリポリ食べながら古穂さんが頷いた。「わっちは賛成だね。寧ろお手伝いしたい勢いさ! 見ての通り、暇を持て余してるからね」
「じゃあ我輩とゲームしようニャ!」「それは後でね」ニャッツさんの要求をバッサリ後回しにする古穂さんかっけー。
「じゃあまずは住人と交流を深めてこないとですね」よっこらしょ、と立ち上がるよ。「長い時間付き合ってくれて有り難う御座いました。またお邪魔しますね?」
「いいとも! おばさんの話し相手になってくれるならいつでも歓迎さ!」
手をフリフリ古穂さんと別れると、既に太陽が頂点から落ちていくところだった。
「やっべ、何時間話してたんだ俺」「三時間十七分二十四秒です」「うひょー、今何時なのこれ?」「日本時間十三時十九分三秒です」これメイちゃんいたらスマフォーンいらないなこれ。
「すっかり話し込んじゃったから、今日は――!」うーん、と背伸びして!「――帰って昼寝しよっか、ニャッツさん」ふぃー、と脱力してニャッツさんを見下ろす。
「それが良いニャ! 頑張るのは明日からでいいニャ、とっとと帰ってお昼寝ニャ!」タシーンッ、とニャッツさんが俺の脚を踏むぅ。
――そういう訳で。
夏休み最後の日は、たらふく食べたお茶菓子の影響でお昼ご飯も夕飯も入らなくて、歩き過ぎで疲れて寝ちゃったので、これで俺の話はおしまい。
明日から九月。まだ日差しは強いけれど、秋の始まりだ。それはつまり、色々終わって色々始まる、季節の移り変わりだ。
神否荘の色も、少しずつ秋めいていく。新たな神否荘が、始まる。
……言うて、あんまり変わらないんだけどね。

■8章 神否荘の夏休み最後の日/了

【後書】
と言う訳で、奈子様は連行されてしまいましたが! ご近所付き合いも始めていこう、と言う感じで締め括りです。
何と言いますか、本当に日常のワンシーンを切り取った物語なので、落ちも何も無い事が有るのがね、個人的には何とかしたい気持ちも有るのですが、日常ってこんな感じよねぇ、とも思ってしまう訳でw 塩梅が難しいデース!
さてさて、今回で8章も終わってしまいまして、次回からいよいよ秋編! なのです、が! ここ一ヶ月? 二ヶ月? くらい創作をお休みしておりまして、この充電期間が明けたら、またふんわり執筆して参りますので、暫くは休載と言う事で宜しくお願い申し上げます!(*- -)(*_ _)ペコリ なるべく早く復帰したい所ですが、も~今はGameがしたくてしたくて仕方ない奴なので、いついつまで~と確約できませぬ! 悪しからずご了承くだされ~!
そんなこったで! 次回もぜひぜひお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    この塩梅こそが神否荘だと思ってますw
    前にも書きましたが「神否荘って箱庭を上から覗いてる感じ。」
    そこで起きていることをただ眺めだけで十分楽しいのです。

    絶賛充電中!乞うご期待vv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ですよね!w この塩梅こそが神否荘…!w もうその一言が聞けただけで大満足です…!w
      良かった~w そう言って頂けるとすんごい嬉しいです…!w まさにその通りの物語なのでね、それで十分楽しいのであれば、作者としてこれ以上ない褒め言葉ですよ…!w

      絶賛充電中!w のんびりお待ちくだされ~!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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