2019年4月20日土曜日

【ベルの狩猟日記】093.その禁忌、暴くべからず〈後編〉【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第93話

093.その禁忌、暴くべからず〈後編〉


 作戦その3:寝込みを襲撃すればきっと大丈夫!

 草木も眠る丑三つ時。外灯など無いラウト村は、完全な闇に呑み込まれている。周囲にはモンスターの息遣いが聞こえてきそうな深い森が大口を開けて佇み、淡い月光が青白く世界を染めている。
 ラウト村の専属ハンターの住まいは連結された小屋。ベルの小屋は四つ在る内の左から二番目。ベルの部屋の右にはザレア、左にはフォアンが寝泊りしている。四つ目の部屋は普段は使われておらず、専ら客室として用いられている。
 ベルは月光に淡く照らされた戸外にこっそりと出て来て、隣室であるザレアの部屋への侵入を試みていた。
 小屋の扉には施錠する装置が無い。まるで危機意識の無い部屋に、当初ベルは面食らったが、それだけここが平和なのだと自分に言い聞かせる事で、何とか納得している。
 ……今回の作戦では、そのお陰で易々と侵入を可としているため、ベルとしても強くは言えないのだが……
 音を立てないようにこっそりとザレアの部屋の扉に手を掛け――「待て」――口から心臓が飛び出しそうになった。
 肩に手を置かれた事で悲鳴が湧きだした瞬間、その口を覆われ、悲鳴は口腔で弾けただけで済んだ。突如として発生した人の存在に驚きを隠せないベルだったが、相手の雰囲気を感じ取った瞬間、いつもの彼だと思い出す。
 口唇を塞いでいる手を叩いて「大丈夫」と親指を立てると、背後に立つ人物――フォアンは頷いて応じた。彼の存在を確認すると、ベルは音声を絞って小声を発する。
「何よ、結局あんたも来るならそう言えば……」
「ベル。お前は今、致命的な失敗を犯したぞ」
 月光の淡い光を浴びたフォアンは、恐怖心を煽るような色彩を帯びている。応じる彼も小声だったが、空気に浸透するようにベルの心臓を鷲掴みにする。
「……どういう事?」怪訝そうに返すベル。
「ザレアの部屋に入りたいのなら、罠を解除する必要が有るんだ」
「……罠?」
 ベルが眉根を顰めて尋ねると、フォアンはザレアの部屋の扉を指差し、服のポケットから小さなハサミを取り出す。それを扉の隙間に宛がい、下から上へとゆっくり動かし……やがてある部分で鋏を動かす。ちきん、と鋏が何かを切る音と共に、かちっ、と何かが作動するような音が聞こえた。……が、それ以上何が起こるでも無く、静かなものだ。
「……今、何したの?」ボソボソとフォアンに耳打ちするベル。
「扉を不用意に開けたら、小タル爆弾が爆発する絡繰りが施されてるんだ。恐らく、来客が来た時に一発で目が覚めるように、な」
 その来客が夜中であっても、ザレアほどの野生児ならば、小タル爆弾の爆発音だけで容易に覚醒するだろう。決して空き巣に入られると思っている訳ではなく、単に来訪者を快く迎え入れるための装置とは言え、侮れない。
「……てか、あんたよく知ってるわね……」
 感心半分呆れ半分の表情で嘆息するベル。フォアンはゆっくりと扉を開けながら「昼間に訪ねた事が有ったからな。経験済みだ」と苦笑を滲ませる。
 ザレアの部屋の中は深、と静まり返り、薄闇に覆われている。外界の闇に目が慣れていたためだろう、可視光の無い世界でも、割と視野が利く。そもそも、ベルの部屋もフォアンの部屋も同じ造りなのだから、すぐにザレアが眠るベッドを見つける事が出来る。
 ベッドを覗くと、〈アイルーフェイク〉を被ったまま布団を被る娘がいた。
「……思うんだけど、寝る時も〈アイルーフェイク〉被ってたら、寝苦しくないのかしら?」
「それは今更だろ? 多分、慣れなんじゃないか?」
 就寝時もザレアが〈アイルーフェイク〉を手放さない事は周知だったが、止むを得ない。引っぺがすなら今が最大の好機。
 ベルは小さく唾を嚥下し、喉がゴクリ、と蠕動する。今からやろうとしている事は、フォアンの言う通り禁忌に等しいものが有る。仲間の秘密を暴こうと言うのだから、今後、ザレアがラウト村を去ってもおかしくない。そんな危険を背負ってまでする事では、決して無い。
 ――けれど、一度芽生えた好奇心の火を消す事は至難の業だ、とベルは開き直る。
「……もう、後戻りは出来ないぞ……?」
 隣に立つフォアンの声が、いつに無く険しい。彼とて、自分と同様に好奇心の燻りは抑えられない筈だ。けれども――仲間が直隠しにしている事柄を暴くのには抵抗を禁じ得ないのだろう。常に仲間を案じる彼らしい諫言だったが――もう、ここまで足を踏み入れたのだ。ベルも、後には引けなかった。
「ごめん、ザレア……拝顔奉るわよっ!」
 迷いを吹っ切り、〈アイルーフェイク〉に手を掛け、一気に引っこ抜く!
 すぽーんっ、と〈アイルーフェイク〉がすっぽ抜け、ザレアの顔が露出する。薄闇に沈みながらも、脳天に点った火花がその表情を克明に映し出す。
 全体が茶色い。小麦色とかではなく、樹木の色だ。それを鉄の輪で留められ、円柱状に形が整っている。頭には一本の髪の毛――ではなく、導火線が延び、先端には薄闇に光を落とす光源――小さな火花が散っている。
 ……その事実に気づくまで幾許の時間が掛かったか。ベルとフォアンはザレアの素顔を見たまま暫し硬直していた。
「……フォアン」ベルが攣りそうになる舌を何とか動かす。
「……何だ」応じるフォアンもどこか舌足らずに言を返す。
「これ、って……」
 ――爆弾、よね?
 そう、ベルは続けようと思ったのだが、次の瞬間、ラウト村に轟音が響き渡った。ラウト村を囲う森林が驚きで目を覚ましたかのように、随所で小鳥が飛び立ち、草食竜が喚声を上げて走り出し、肉食竜も慄いて走り逃げて行く。
 ザレアの部屋を中心に迸った閃光の濁流は、一瞬だけ夜陰を切り裂き、白昼の明るさを得て、次の瞬間には再び夜更けの空を取り戻す。
 夜の闇が再び戻ってきたザレアの部屋に、灯りが点る。小タル爆弾型の蝋燭に火を点して立っているのは、ザレアだった。
「にゃっふっふっ……オイラの“ニャン法・変わり爆弾の術”に引っ掛かったのは誰かにゃ!?」
 自信満々に告げるザレアの前には、目を焼かれて「目がぁー、目があぁー」と蹌踉くベルとフォアンの姿が映り込んだ。
「にゃにゃっ!? 二人とも大丈夫かにゃっ!? “爆造のロージョ”に依頼した閃光爆弾にゃから、痛くは無いと思うのにゃけど……っ」
 この期に及んでベルとフォアンの心配をするザレア。そんな彼女の心遣いに、ベルの心は折れた。
 彼女には……敵わない……

 作戦その3:失敗!

「――にゃ? オイラの素顔?」
 ザレアの部屋にて、ベルが半ベソを掻きながら今までの経緯を暴露すると、彼女は「にゃから~」と、どこか不満そうに腕を振り回す。
「オイラの素顔は、いつも晒してるじゃにゃいかっ! これにゃ! この顔にゃ!!」
「……うん、判ったよ。あたし、これ以上は手を出さないよ……」
 これ以上作戦を敢行したら、本当に命が幾つ有っても足りない気がしてきたのだ。
 好奇心は確かに満たされないが、命有っての物種。それに、やっぱり仲間が秘匿しておきたい秘密を、無理矢理暴こうと言う行為自体が間違っているのだ。
 そう自分を納得させると、ベルはザレアに就寝の挨拶を告げ、自室に戻って寝直す事にした。

◇◆◇◆◇

 翌日。酒場に集まったラウト村専属のハンター三人は、本日の仕事に就いての話し合いをしていた。
「あ、ザレアさん。新しい顔、ここに置いておきますね♪」
 酒場の奥から現れたのはティアリィ。彼女が胸に抱えている物は、いつもザレアの頭を覆っている〈アイルーフェイク〉だ。それをカウンターの上に置き、ニコニコといつもの営業スマイルでこちらを見つめている。
 それを見たベルは開いた口が塞がらない。フォアンは「新しい顔って、ティアリィさんが作ってたんだな」と納得したように頷いた。
「ありがとにゃーっ!」ザレアは嬉々とした動きで手を振っている。
「ちょちょちょ!? 何、自然に新しい顔とか貰っちゃってるのザレア!? 愛と勇気が友達のアンパンじゃないのよ!? やっぱり素顔を見せなさいッ!!」憤然と立ち上がり、ザレアと取っ組み合うベル。
「にゃっ、何するにゃっ! オイラの素顔はこれにゃっ、あれも新しい素顔にゃっ!」
 ドッタンバッタンと酒場で暴れ回る二人に、ティアリィは「あらあら、困った人達ですねぇ」と微苦笑を浮かべて傍観を決め込んでいる。
「……絶対に狙ってたな、ティアリィ」微苦笑を滲ませるフォアン。
「――あっ、あんな所に対巨龍爆弾Gがっ!」
 ベルが適当な事を言って指差すと、ザレアの〈アイルーフェイク〉が即座に振り向き、「どこにゃっ、どこにいるのにゃーっ!!」と喚き始める。
「でぇえりゃーっ!!」
“敵将、討ち取ったりーっ!”とでも言いたげにザレアの〈アイルーフェイク〉を引っぺがすベル。今度こそそこには紛う事無き少女の顔が――――
「なぁんだ、ザレアの顔って意外と――」

「……………………みぃたぁにゃぁ……?」

 刹那、ラウト村の酒場にて悲鳴が上がった。
 想像を絶する断末魔の連続した絶叫に、村長宅で書類を漁っていたコニカは「怖いですーっ!!」と縮み上がって布団の中に引きこもり、武具屋のガーネハルトは「あぁんっ、誰かぁんっ!」と筋肉の塊を捩らせて悶絶したとか何とか。

◇◆◇◆◇

 その日の午後。
 ラウト村に行商人のウェズが到着した。彼は何とかガーネハルトに見つからないように隠密スキルを発動させつつ酒場へと辿り着き、いつも通りの気軽さで戸を開け放った。
「ちわーっ、行商人のウェズっすー。……って、どうしたんだ、皆?」
 中には不思議な情景が広がっていた。ザレアを中心に皆が土下座している姿だった。いつもは傍観を決め込んでいるティアリィですら土下座している姿を見て、ただ事ではないと察するウェズ。
 ベルは顔も上げずに、「何でも……無い……わ……」と体を震わせながら言を返す。
「いやいや、どう見ても何でも無くは無いだろ。ザレアがどうしたんだよ?」
「ウェズ……“様”が……抜けてる……ぞ……」同様に顔も上げずにフォアンが呟く。
「様? 誰にさ?」要領を得ないウェズ。「あ、もしかしてザレアって偉い人の娘さんだったとか?」
「「「…………」」」
 返ってきたのは沈黙。ウェズは三人の様子を見て、徐々に顔が青褪めていく。
「え、ちょ……マジで? あれ、僕、何か失礼な事したかな……」
「違うにゃよ~♪ オイラ、全然偉くにゃいにゃ~♪ ただ皆、オイラの顔を剥ごうとしたから、ちょっぴり怒っただけにゃ♪」
〈アイルーフェイク〉越しでは判り難いが、声質から笑っているのだと判るザレア。
「顔を剥ぐ!? おいおいベル、お前、何つう恐ろしい事するんだよ……幼馴染の僕でも流石に引くぞ……」
 人間の所業とは思えない、と言った風に別の意味で顔を青褪めるウェズ。そんなウェズに、ベルは一言も返さずに沈黙を守っている。
「……えっと、ザレア。どんな怒り方したら、皆こんな風になるんだ?」
 若干恐怖が足許に迫りつつあるウェズ。ベルがここまで小さく見えるなんて、いつ振りだろうか。明らかに常軌を逸した何かに接触した後のベルである。
 ザレアはキョトンとしたように顎に人差し指を添えると、「うにゃ~ん?」と要領を得てないように、「オイラ、ちょっぴり怒っただけにゃよ? 皆さん、優しい人ばかりだからにゃ! ちゃんとオイラの言う事を聞いてくれただけにゃ♪」
「にゃ?」と、皆に視線を向けるザレアに、「仰る通りですザレア様ッ」と三人の唱和が続いた。
「……物凄く怖いんだけど!? ベルに怒られる時の数倍の恐怖が有るんだけど!? 皆早く元に戻ってくれェェェェッッ!!」
 ウェズの喚声が響き渡り、再びコニカは村長宅で「い、一体何が起こってるんですかぁ~っ!?」と泣き笑いの表情で布団に潜り込むのだった。

 この後、数日の間、ザレアの天下が続いたそうな。



EX3【ザレアの〈アイルーフェイク〉が脱げる物語】――【完】

【後書】
 と言う訳でザレアの〈アイルーフェイク〉が脱げるお話でした!w
 いやー、謎は謎のままにしたがるマンisワシですw 実はこんな謎だったんだよー! と暴露するのも大好きですがね、物語の根幹に当たる謎ですら最後の最後まで明かさずに完結するなんてザラなのでね、こういうお話も今まで幾度と無く綴ってきましたとも!(笑)
 さてさて、いよいよこの短編集編も次回のエピソードでラストです。次回は開幕「誰の話だ…?」となるかも知れませぬが、読み進めていくとすっぱり分かります。お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    やはり触れてはならない禁忌なのですね。
    ★4ハルドメルグでさえ土下座で泣いて詫びる状態です。
    謎のままで良かったのかもしれません。

    ウェズくんの慌てっぷりがねwなぜか彼は大事な時にいないよねww
    それがウェズくん!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そうなのです! やはりこの辺は触れてはならないのです!w
      ☆4ハルドメルグでさえ土下座で泣いて詫びる状態wwwハンター云々通り越してもしやザレアちゃん、実は神だったりするんじゃないですかねこれ…(笑)

      そうそうwwウェズ君、何故か大事な時にいないんですよねww
      ほんそれ!w まさに「それがウェズくん!」で解決しちゃう魔法の言葉です!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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