2019年4月1日月曜日

【余命一月の勇者様】最終話 余命一月の勇者様【オリジナル小説】

■あらすじ
今度は、終わらない旅に。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】の二ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 ファンタジー 冒険 ライトノベル 男主人公 コメディ 暴力描写有り

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054881809096
■最終話

最終話 余命一月の勇者様


「やっと――――終わったな! ミコト!」

 場所は王都・シュウエンに或る王城の最上級の客室。
 灯りが消え、静かな闇が蟠る部屋には、ミコトの他、マナカ、クルガ、レンの姿が有った。
 大きなベッドの中に四人が一緒になって納まり、静寂に満ちた夜の帳を味わっている。外の喧騒は分厚い壁によって阻まれ、室温も穏やかに彼らの気分を和らげ、いつ寝息が聞こえてもおかしくない、快適な空間がそこには広がっていた。
 ミコトの隣で大声を張り上げたのは、マナカだった。それに対してミコトは一瞬笑みを零した後、「あぁ、終わった……な」と感慨深そうに、吐息を返した。
 余命を一月と定められて始まった旅は、終着を迎えた。三つのやりたい事を、全て叶えた末に、不定の寿命も授かって。他に言い表しようが無い程に幸せな結末と言える。
 それを噛み締めているのだろう、マナカは目が冴えて仕方ないと言った風情で、鼻息荒く大声を吐き出す。
「これで、ミコトは明日、死ななくて済むんだろ!?」
「それは……分からないな」
 ミコトの苦笑に、マナカが「そうなのか?」と不思議そうに枕の上で首を傾けた。
「俺は魔法賭博に勝ったか負けたか、有耶無耶にしてきた。だから……もしかしたら明日死ぬかも知れないし、或いは十年後かも知れない」暗く沈んだ天井を見上げて、ミコトは諭すように呟きを連ねる。「ただ言える事は……その時は、マナカ、クルガ、レン。その時は、お前らと一緒、って事だ」
 魔法賭博に挑む際、ミコトは掛け金となる寿命を有していなかった。そのため、マナカとクルガ、そしてレンの寿命を掛け金として扱った。つまり……仮に十年後にミコトが命を喪うとしたら、一緒に掛け金として寿命を差し出した三人も、同じタイミングで命を喪う、と言う事を指す。
 最愛の人が寿命でいなくなる、その瞬間。家族もまた、一緒に世界を去る。
 それは、果たして幸せと言えるのか。
 ただ、ミコトが思うほど、家族はその事実を忌避していなかった。
「ミコトと一緒に生きられる時間が、一日でも延びたのなら。あたしは、その間ミコトと一緒にいられる事が嬉しいし、一緒に旅立てるのなら……そんな幸せな事は無いと、断言できるわ」
 マナカとは反対側に眠るレンが、ミコトの体にすり寄ってきた。明日にも無くなってしまうかと思った温もりが、今も感じられる。そしてその温もりが消える時は、別れの時ではなく、共に旅立つ時なのだと知っているだけで、レンにとって未来に対する暗いイメージは完全に払拭されていた。
 それは自然な事ではないだろう。固より、ミコトの寿命があと数日で尽きる、と言う状況だってそもそも自然な状態ではなかった。ならば、今の環境だって受け入れられる。
 そして何より、事故や事件に遭わない限り、ずっと傍にいられるのだと分かっているだけで、何にも代え難い幸せが、そこには有るのだから。
「……あのね、ミコト」レンの背中にそっと手を添えながら、クルガが呟いた。「僕、旅をしてみようと思う」
「「「旅?」」」ミコトだけでなく、マナカとレンも一緒に反応した。
「うん。僕ね、ミコトと一緒にいると、幸せだ。けど……僕も、もっと、強くなりたい」ギュッと、レンの背中を抱き締めながら、クルガが呟く。「ミコトや、マナカや、レンみたいに。もっと、頑張りたいって、思った。強くなれば……家族を、守れるって、思ったから」
「クルガ……」
「僕……ミコトが、もういなくなるって、ずっと怖くて……一緒にいたいって、ずっと思ってた。もっとミコトからお話、聞きたかったし、ミコトと一緒に旅したかったし、ミコトと一緒にご飯食べたり、一緒のお布団で寝たり、一緒にお風呂に入ったり……」レンを抱き締めたまま、ぽつりぽつりと独白染みた言の葉を落としていくクルガ。「……でも、僕、何て言えば良いのか、分からない、けれど……ミコトと一緒にいても、良いって、思える人になりたい。今も……一緒にいても良いんだけど……何て言うか……ううん……」
「分かるぜ、クルガ! お前、ミコトの隣にいて、“フサフサしたい”奴になりたいんだろ!?」
「それを言うなら“相応しい”奴だな」即ツッコミを刺し込むミコト。
「それだ! さっすがミコト!」嬉しそうに笑声を上げるマナカ。「先に言っとくけどよ、ミコトもだけど、俺もレンも、そんなの気にしないぜ! でも、クルガはもっと、相応しい奴になりたいんだろ!? だったら俺は、応援するぜ! 俺も、そんなクルガの隣にいて相応しい奴になって待ってるからよ!」
「マナカ……!」嬉しそうに声を震わせるクルガ。「有り難う……!」
「マナカに全部言われちまったけど、俺も同じ想いだ」レン越しに、クルガの頭を撫でるミコト。「一緒にいたいって気持ちは変わらない。けれど、クルガはもっと強く……いや、素敵な奴になれるさ。だから……俺も、応援する」
「……応援しない人なんて、ここにはいないでしょ?」ふふっ、と微笑を落とすレン。「クルガなりに、成長したいって事だと、あたしは思うわ。あたしも勿論、応援するわ。とっても素敵な人になって帰ってくるの、楽しみにしてる」振り返って、クルガを抱き締めた。
「有り難う……! ミコト、レン……!」目元を滲ませながら、震えた声を返すクルガ。「僕、頑張る……!」
 四人は嬉しそうに微笑み合って、暫くして。
「じゃあ……レン」スッとレンを抱き締めるミコト。「俺の寿命もいつ尽きるか分からなくなったんだ。子作り、するか」
「へあぁ!?」素っ頓狂な声を上げるレン。「えっ、ちょっ、まっ、だっ、」
「俺の子種、欲しがってただろ?」優しい声をレンの耳元で囁くミコト。「俺も、レンとの子が、欲しい」
「ミ、ミコト……っ」顔一杯に血液が集まり、失神寸前の声を漏らすレン。
「おっ! じゃあ俺も俺も!」ミコトの隣で寝ながら挙手するマナカ。「俺も子作りするぜ! どうしたら良いんだ!? 教えてくれよミコト!!」
「……そうだな、マナカも国を継ぐ立場になったんだ、ミツネとする事になるだろうから……」
「じゃあ一緒にやろうぜミコト! 何だか楽しそうだぜ!」
 マナカの素っ頓狂な発言にミコトは呆気に取られ、レンは意識を失う寸前で、クルガは不思議そうに小首を傾げる。
「……そうだな、それも良いかも知れねえ」楽しそうに笑声を落とすミコト。「マナカとは、一緒の方が、俺も楽しいしな」
「ミ、ミコトぉ……」恥ずかしさのあまり目が回っているレン。
「だよな! じゃあミツネ呼んでくるから! 一緒に子作りしようぜって! ちょっと待ってろ!!」
 そう言って、客室を飛び出て行くマナカだったが、数分後、王城中に響き渡る絹を引き裂くような悲鳴が弾けるのは、また別の話……

 ――――斯くして。
 たった一月にも満たない勇者の物語は、幕を閉じる。
 幸せな夢を残して、いつ閉じるとも知れぬ明日を夢見て。

 故に――ここから先の物語は、蛇足と言えなくも無い。
 本来観測されない物語であり、誰も知る事の無い閑話。
 それを以て、締め括りとさせて頂こう――――

■残りの寿命:×日

◇◆◇◆◇

「――あぁ、そうなると思ってたさ。君なら、事情を知れば手を貸さずにいられない事ぐらい、容易に想像が付く」
 深い深い森の底。人跡未踏のその地に佇む二人の人影は、人の形を成しながらも、決して人ではない事を証明するような気配を漂わせて、楽しそうに声を交わしていた。
「そういうネイジェ君こそ。君が手を貸さなければ、そもそも迷宮に挑む事すら出来なかったんだよう? 君の方がよっぽどお人好しじゃない」
 含み笑いを浮かべて、苔生した岩の上に寝そべるトワリに、ネイジェは不貞腐れた態で鼻息を返した。
「俺は資格を与えただけさ。攻略できるか否かは彼らの力量次第」
「つまり、手を貸した、って事でしょ? フフフ、言い逃れは見苦しいぞう、ネイジェ君?」
「……そうだな、藪蛇になる未来しか見えないからこの話はやめよう」パタン、と開いていた書物を閉じ、ネイジェは木漏れ日を見上げて深く鼻息を落とした。「……ミジャヤの世界観は綻びが出始めている。俺やトワリが手を、」「トワリちゃん」「……トワリちゃんが手を出さずとも、変化の兆しが出ている以上、後は……」
 ネイジェはそこで口を噤み、トワリはその後を継ぐように諳んじる。
「わたし達は見守るだけさ。でも……やっぱりさ、手を貸したい人には、ううん、頑張ってる人には、手を差し伸べるべきでしょ、“神の使い”なら、さ♪」
「……そうかも、知れないな」
 フッと笑声を返すと、ネイジェはゆっくりとした所作で歩き出し、トワリに背を向けた。
「もう行っちゃうの?」ネイジェの背に、不思議そうに声を浴びせるトワリ。
「あぁ、また困ってる奴が流れ着くとも限らんからな」皮肉っぽく口唇を歪めるネイジェ。
「そうだね。困ってる人がいたら、見過ごせないもんね?」楽しそうに微笑み、トワリも立ち上がってネイジェに背を向けた。「わたしも行こ~っと。虹を架けなきゃいけない所は、たくさん有るしね」
 そう言って、二人は別れの挨拶も無く立ち去って行く。
 世界の片隅で花咲いた御使い同士の談話。
 誰が傍聴するでもなく、ふわりふわりと溶けていく。
 また、手を差し伸べたいと思える相手が現れると信じて。

◇◆◇◆◇

 ――――それから、幾つもの年を経て。

「陛下~!? 陛下は何処か~!?」
 王城に木霊するオルナの声に、ニメとサメが掃除の手を止めて振り返る。
「ニメ! サメ! 陛下がどこにいるか知らないか!?」
 精悍な顔立ちの騎士長に、双子のメイドは顔を見合わせて微笑を交わした。
「マナカ陛下ならミコト閣下と共に出掛けられました」
「暫く留守にするからオルナ騎士長に後の事を頼むと」
 楽しげに囀る漆黒のメイド服を纏った双子の前で、陛下と閣下の近衛長でもあるオルナはプルプルと拳を震わせて、「あんの野郎共……っ!」と怒りに満ち満ちた声を漏らした。
「マナカ陛下にどのような御用なのです?」
「急ぎの用でしたらお手伝い致しますが?」
「いや急ぎって言うか……」はぁーっと重たい溜め息を落としながら頭を支えるオルナ。「執務が……溜まってるんだ……」
 ぐったりと項垂れるオルナに、二人のメイドは再び顔を見合わせると、同時に拳を構えて「「ふぁいと、です!」」と他人事のように声援を掛けるのだった。

◇◆◇◆◇

「ミコト~!」
 王城の一角に在る庭園に、国王陛下の大声が弾けた。
 屈強な体つきの王様など、オワリの国以外にはそうはいまい。大柄な体躯に、鍛え上げた筋肉の鎧を纏ったマナカは、「ミコト~!」と肺活量一杯の大音声を張り上げながら闊歩している。
 それを聞く相手はベンチに寝そべって昼寝をしている、オワリの国の最高武官ミコトである。
 傷だらけの顔だが、温かみの有る風貌の男に育ったミコトは、体つきこそマナカに劣るが、一般の成人男性より幾分か引き締まった肉体を誇っている。
 ゆっくりと体を起こすミコトに、マナカは「おはよう、ミコト!」と何が嬉しいのかバンバンと彼の肩を叩いて覚醒を促した。
「あぁ、おはよう、マナカ」欠伸交じりに応答するミコト。「懐かしい夢を見てたぜ」
「俺の知ってる夢か?」ミコトの隣に腰掛けながら尋ねるマナカ。「教えてくれよ!」
「あぁ。俺の寿命が、一ヶ月しかなかった時の、夢だ」
「そっか」
 晴れ渡る蒼穹を、一羽の鳥が横切っていく。
 疎らな雲に遮られていた陽光が、再び二人の顔を照らし出した。
「なぁ、ミコト」
「何だ?」
「チビ共もさ、大きくなったじゃん」
「あぁ、しっかり者の王子と、好奇心旺盛な姫に育ったな」
「オワリの国も、ミコトとオルナのお陰で、すっかり平和だし」
「元から平和だったが、マナカの奇矯な政策の賜物だな」
「だからさ、また――旅に出ねえか?」
 小鳥の囀りが遠くで聞こえる。そよそよと春風が吹き抜け、二人の短い髪を浚う。
「……旅、か」フッと微笑が口唇に浮かぶミコト。「良いな。また、旅に出るか、マナカ」
「今度はよ、オルナも、ミツネも、ニメもサメも、サボもホシも、勿論レンも連れてさ! クルガに逢いに行くってのも良いな! 今頃どうしてっかなぁ、クルガ!」
 楽しそうに笑いかけるマナカに、ミコトも釣られるように笑みを返す。
「おっ? ミコト、何だか楽しそうだな?」
「マナカが一緒なら、どこでも楽しいさ」
「そっか! よし、なら行こうぜミコト!」立ち上がり、ミコトの手を取るマナカ。「俺も、ミコトと一緒ならどこでも楽しいからさ! どこまでも行こうぜ!」
 マナカの手を取り返し、ミコトは頷く。
 どこでも一緒に。どこまでも一緒に。
 どれだけの年月を経ても変わらない。
 この、ちょっとおバカな幼馴染と共に。

「行こうぜマナカ。今度は、終わらない旅に」

 いつまでも、終わらない旅に出掛けよう――――

■余命一月の勇者様【完】

【後書】
 遂に…遂に、最後まで辿り着けました…!
 日逆孝介なりの、「イケメンの物語」は、これにて終幕です。本当に、本当に、ここまでお付き合い頂きまして、有り難う御座いました…!
 この物語を綴るに当たって、ハッピーエンド以外は無いと思っていたので、或る程度は予定通りの結末でしたが、二年間も付き合えば、色々予定通りとは行かないシーンも有りました…当然ですけどね!w
 そんな訳で、久方振りの物語完結…新作の完結に漕ぎつけて、感無量と言った次第です。ただ、「余命一月の勇者様」の物語はこれにて完結ですが、この世界観の物語は今後も綴っていくでしょうし、彼らの人生はまだまだ終わりそうにありません。また何れどこかで彼らの話が綴れたらいいなーと、ふんわりと未来に投げておきますw
 さてさて、宴もたけなわですが、この辺で。最後までお読み頂き、誠に有り難う御座いました! 次回作、或いはもしかしたら続編やスピンオフなどで再会できる事を祈りつつ、これにて筆を擱かせて頂きます。ではでは!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    なんと申しましょうか、本当にありがとうございました。
    毎回笑ったり、怒ったり、泣いたり、泣いたり、号泣したりしながら読ませていただきました。
    後半はかなりつらいシーンが多くて、「もう無理!」なんて思ったりもしましたが、それを補って余りあるラストシーン!感動しました。
    ハッピーエンドいいよね!!

    いつ終わるかわからない彼らの物語、でも終わるときはみんないっしょっていうのも彼ららしくて…
    ネイジェ君やトワリちゃんが手を貸したくなるのもよく分かります。
    まさに「イケメンの物語」ですねvv

    読後の勢いそのままの暴走コメントをお許しください。
    もっといっぱい思っていることはあるのですが、今は胸の中にしまっておくことにします。

    今回も楽しませて頂きました!
    次回も次回も(大事なので2回言いました)楽しみにしてますよ~vv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      こちらこそ! 最後の最後までお読み頂き、本当に有り難う御座いました!!
      涙の頻度が気になりますが!w 喜怒哀楽のふり幅が多いのは、作者としては嬉しい限りです…!
      後半はどうしてもそういうシーンが多くなると言いますか、そういう話でしたからね…! 最後にそれを払拭できる程の感動を与えられて、本当に良かったです…!
      ハッピーエンド、いいよね!!w

      そうなんですw その、「終わるときはみんないっしょ」って言うのが、本当に「彼ららしい」と言うのがしっくりくる奴でして…!
      「イケメンの物語」と感じられたのなら、も~嬉し過ぎて(・∀・)ニヤニヤしまくる奴ですね!w 有り難う御座いました…!

      いえいえ! 最高に素敵なコメントを有り難う御座いますですよう!!
      その胸の中にしまった「思っていること」がめちゃんこ気になりますが!w いずれまた、どこかで聞かせてくれる事を信じておりますぞい…!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回も次回も!w いつかまた機会が有りましたら!! お楽しみに~♪

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好意的なコメント以外は返信しない事が有ります、悪しからずご了承くださいませ~!