2019年4月28日日曜日

【ベルの狩猟日記】095.弟子入り【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第95話

095.弟子入り


「――ほう。ワシに弟子入りしたい、とな?」
 場所は屋敷の書斎。両側を聳える書棚に挟まれ、奥の椅子に腰掛けた老爺がこちらを見つめて指を組んでいる姿が見える。
 入口側に立つ、シャツにパンツ姿の少女はリボン。両隣にはメイド服の少女ロザと、執事服の少年ギースが立っている。
「――はい」真剣な表情で頷くリボン。
 白髪の老爺――ワイゼンは品定めするようにリボンを見据える。緩やかに、まるで時が止まってしまったのでは、と思える程に音の無い時間が流れる。
「……理由を聞かせて貰おうかの。何故、ワシに弟子入りしたいのか」
 嘆息と共に背凭れに深く凭れかかるワイゼン。組んだ指を腹の上に載せ、どこか見下ろすような姿勢でリボンを捉える。
 高圧的な視線を受けても、リボンの意志は折れなかった。一つ頷き、リボンは口を開く。
「ワイゼン様が高名なハンターだって、皆から聞いて知ってる。私は、仲間を守れるハンターに……モンスターから仲間を守れる位に強いハンターになりたい。ワイゼン様に師事すれば、そんなハンターになれると思って……」
 曇りの無い瞳で、リボンは自分の意志を告げる。迷いは無い。彼ほどの実力者ならば、仲間を蔑ろになどしない……特にガンナーである彼ならば、仲間を援護する技術にも長けているだろう。故にこそ、彼に師事すればと言う意志が湧くのだ。
 リボンの澄み切った発言を前にしても、ワイゼンの曇った表情は晴れない。寧ろ更に苦味を増したようにすら思える。再び嘆息を漏らし、ワイゼンは瞑目する。
「……ヌシは、モンスターの手により、眼前で仲間を殺された」
 ピクリ、とリボンの体が震える。思い出したくも無い現実を想起させられ、激情の渦が心中から溢れ出しそうになる。
 リボンの胸中を知らない訳は無いだろうに、ワイゼンは瞼を上げると深刻な表情で彼女を見据え、更に過酷な言を紡ぐ。
「ヌシがその時、怪我を負った事、忘れた訳ではなかろう? ヌシが目覚める前に医者が言ったが、ヌシも気づいておる筈じゃ。――ヌシはもう、ハンマーは握れんよ」
 リボンの体が再び震え、その瞳に陰が差す。
 ……気づいていない訳が無かった。リボンはベッドに寝かされていたこの数日間、何もしなかった訳ではない。包帯が巻かれた両腕を動かそうとして、鋭い痛みが走った事。食事を摂る時に、両手を動かす事に難儀した事。日常生活に於いてすら不便さを感じるこの両腕で、モンスター相手にハンマーを振るう事など、最早叶わぬ事を、リボンは理解していた。
「――でも、」リボンは湿っぽい感情が出ないように心を抑制し、抑揚無く声を吐き出す。「ハンマーは握れなくても、ボウガンなら、扱える筈」
 リボンの苦しげな駁論に、ワイゼンは思わず瞠目する。
 ハンマーは両腕の筋肉を限界まで酷使する武器。けれどもボウガンなら、ボウガンを構える時の重量と、弾を撃つ時の反動にさえ耐えられれば、運用は可能な筈。
 併も、師事する相手はガンナーで名を上げた【猟賢】――ワイゼン翁。彼ほどの名ガンナーにはなれなくとも、ハンターとして復帰する位なら不可能ではないだろう。
「……呆れた奴じゃのう」重たい嘆息を落とすワイゼン。「ハンターとして貫かずとも、ヌシには他に幾らでも生き方が有るじゃろうに」
「――私は一度死んだ身です」決然とした表情で、リボンはワイゼンを見据える。「ワイゼン様に救われなければ、この身は朽ちてた。……だから、私はレット――亡き友と同じ場所に立ち続けたい。狩猟の世界から離れれば、その時こそ私は、亡き友を本当に見捨てた事になる気がして……」
 亡き友――レットは、リボンが唯一信頼するハンターだった。彼と共に死線を潜り抜け、彼と共に幾夜を乗り越え、彼と共に多くのモンスターと渡り合った。その時に築いた関係は、恋人や親友、家族とも言えるし、併しその何れでもないような、表現し難い仲だった。どちらかと言えば戦友や同胞の間柄が、一番近いような気がした。
 共に狩猟の世界で生きると誓った身。最後までその間柄を崩さず、……一方的に断絶してしまった関係。彼が死んでも尚、狩猟の世界で生き続けたいと思うのは、今までの彼との思い出を過去のモノにしたくなかったからなのかも知れない。
「……全く、やれやれじゃわい。メイドが増えてラッキーだと思ったのに、その歳でハンターに憑かれた娘じゃとはのう」
 肩を竦めて小さく頭を振るワイゼン。その反応に、思わずリボンの顔に喜色が浮かぶ。両隣に立っていたロザとギースも顔を見合わせる。
「では、ワイゼン様……!」
「――良かろう。じゃがな、途中で音を上げるようなら即刻ワシのメイド行きじゃ。それだけは心しておれよ?」
「はいっ!」
 喜色に満ちたリボンの顔には、初めて見る朗らかな笑顔が浮かんでいた。

◇◆◇◆◇

 翌日から始まったのは両腕のリハビリだった。深い裂傷を刻まれた両腕を、正常に動かせるようにしなければ、ハンマーは固よりボウガンでさえ扱うのは難しい。幸い、屋敷には様々なリハビリ用の器具が用意されていたので、リボンはそれを使って毎日、リハビリに精を出した。
 始めは動かす事さえ苦痛だったが、何週間、何ヶ月と繰り返す毎に、肉体が順応していく。正常な挙動が可能になるまで半年近く掛かったが、その全てがハンターへの復帰と考えれば、リボンにとって苦ではなかった。
 半年近くのリハビリの間、並列でボウガンの扱い方をワイゼンから学んだ。それまでハンマー一筋で生きてきたリボンにとって、ボウガンの知識などほぼ無に等しく、未知の領域……それ故に理解が追いつかない事も多々有った。
 多彩な弾の種類、特徴、効果など、全てを記憶し、肉体に刻み込む。どのモンスターに、どの瞬間、どの弾を使うべきか……口頭で告げられる内容を全て記憶し、リハビリ後の実践で確実に行う。全ては、そこからだった。

◇◆◇◆◇

「……リボンが来てからもう半年じゃけえ、そろそろ実践を開始かのう?」
 ワイゼン屋敷の前庭で、走り込みをしているリボンを見下ろす形で、部屋の窓から顔を覗かせていたギースがポツリと言を零す。背後のソファに腰掛けたワイゼンが、紅茶を口許に運びながら「そうじゃのう……」と濁した言を返す。
「お姉さんの目から見ても、もう充分な感じだと思うけどなぁー。ご主人様はまだ不満なのかなっ?」
 ワイゼンの背後に傅くロザが、彼の肩を揉みながら小首を傾げる。ワイゼンは「そうじゃのう……」と癒された顔で、やっぱり言を濁しつつ応じる。
「……おやっさん?」「ご主人様っ?」二人が同時に声を上げて、ワイゼンを見据える。
 二人の視線をマトモに浴びても動じずにワイゼンは、小さく嘆息を吐き出すと「――ロザ」と呟き、人差し指を立てる。
「酒場に行って、この条件に当て嵌まる依頼を探して来て欲しいのじゃが」
 続けて放った言葉に、メイドと執事は両眼を見開き、彼の言葉を疑った。
「……ご主人様。それは幾らなんでも酷ではないかな……?」
「ボウガンの実践はまだしちょらんのに、無茶じゃ……!」
 メイドと執事の諫言に首を否と振るワイゼン。彼は涼しげな顔で紅茶を飲み干すと、ソーサーにカップを戻す。
「――ここが分水嶺じゃよ。今もワシは、リボンにハンターに戻って欲しいとは思っておらん。今までの努力が報われずとも、あそこまで治癒したなら普通に生活する事は出来る。――ハンターとなるかメイドとなるか。その見極めが必要じゃろうて」
 告げるワイゼンの瞳に暗い光が宿っていた。その光の正体が何と無く判るだけに、メイドと執事は嘆息を零さざるを得なかった。
「……おやっさんはリボンも侍らせたいだけじゃろう? リボンは本気でハンターに……」
「そうだよご主人様~。リボンちゃん、すっごく頑張ってるじゃない! 止むを得ない時は、ご主人様の脳天を搗ち割って言う事聞かせよっか! ねっ、ギース君♪」
「飼い主に牙を剥くのは無理じゃ!? おやっさんッ、逃げて――――ッッ!!」
「ほっほっほっ、まぁそう慌てるでないギース。ロザがそんな事をする訳……ロザさん? 何じゃそのハンマーは? ニコニコ笑ってないで答えてロザさん!? ヒッ、ヒギャァァァァッッ!!」

◇◆◇◆◇

「……実践、ですか」
 ワイゼン屋敷の書斎に呼び出されたリボンは、汗だくの様相でタオルを肩に掛けながら、頭に包帯を巻いたワイゼンの話にそう返した。
「ヌシも随分と回復したじゃろ? 半年も経ったんじゃ、そろそろ本格的な狩猟を行いたいと思っていたのではないかの?」
「……本音を言うと、そうです。ただ狩場に出なくても、この半年で学ぶ事は本当に多かった。感謝しています」
 ぺこり、とお辞儀するリボン。その体つきは半年前より更に女らしさを増し、顔つきも可愛らしいから徐々に美しい趣に移ろいつつある。ガンナーとして必要最低限の筋肉を全身に刻み込み、ハンターとしての肉体は完成に近い。
 そんなリボンの格好はラフなインナーだけ。季節柄、寒くは無いと思うが、ギースの視線がどこか浮ついているのは気のせいではないだろう。
「感謝されるのはまだ早いわい。……ヌシがハンターとしてやっていけるか、最終確認を行う。場所は砂漠、相手は――“角竜”ディアブロス」
 ワイゼンの発言に一瞬だけ瞠目したリボンだが、すぐに醒めた色に落ち着く。この半年間で、彼女の感情が外に発露する事は多くなった。始めこそ心が開けず、挨拶も中々返せなかったのだが、今では朗らかな笑みで挨拶をするようになった。
 そんな彼女の無機質な表情に、三人のハンターは一抹の不安を覚えずにいられなかった。引き摺るのも無理は無い、相手は彼女の人生を大きく変えたモンスター。……大事な仲間を屠った仇なのだから。
「……ディアブロスの狩猟に成功したら、皆伝と言う訳ですか?」
 底冷えするリボンの声には、幾許かの憎悪が含まれている。声質を即座に感じ取ったのだろう、ワイゼンは重たい嘆息を落とす。
「何を戯けた事をほざいとる、リボンや。精々で初伝じゃ。これを以て、ヌシはハンターの世界に戻れると考えい」
 ワイゼンの諫言にリボンは感情を見せる事無く黙する。半年を経てハンターに戻れる事を喜ぶでもなく、半年も弛まぬ鍛練を積み重ねてもまだハンターに戻っただけと落胆するでもなく、彼女が纏う空気からは一切の感情が窺えない。
 その違和を感じさせる空気に、ワイゼンは片眉を持ち上げて若干驚きの表情を滲ませる。
「……嬉しくないのかの?」
「……嬉しくない訳が無い」リボンが重力を感じさせる口唇を開き、低い声音を吐き出す。「……私は、今までこの時のために、努力を惜しまなかった。……ワイゼン様には感謝してもし切れません」
「――勘違いするでないぞ、リボン。あくまでこれはヌシがハンターとして生きていけるか、メイドとして生きていくか、見極めのための狩猟じゃ。判断次第では、ヌシにはワシのメイドとして生きて貰うぞい」
「全力で断ります」
「ほわッ!? な、何を言っとるんじゃリボン!? や、約束したじゃろ!? ハンターになれなかったらワシのメイドになると!!」
 狼狽え始めるワイゼンを見て、冷ややかな態度でリボンが応じる。
「『途中で音を上げるようなら即刻ワシのメイド行き』とは言ってたけど、ハンターになれなかったらメイドになるとは約束してない。加えて言えば、今までの度重なるセクシャルハラスメント行為に私の忍耐力は既に臨界点を軽く突破しています」
「そ、それは何れ快感に……ッ!!」
「ならないから。それはただの変態だから」
 その後、二時間に亘るワイゼンの説得も虚しく、リボンは今回の試練――ディアブロスの狩猟を以て猟人に戻る事が決定した。
「お姉さんが思うにさ、ご主人様のメイドになろうって言う娘って絶対に変わってると思うんだよねー」
「……オンドレが言うなとツッコミを入れても良いんじゃろうか……」

【後書】
 短編でありながらも全編シリアスなんて出来なかったのさ!w ちょこちょこ息抜き的にコメディシーンを挟んでるのはアレです、コメディ入れないと落ち着かない病を発症しているからではないかな…(笑)
 すんごいザックリ端折って綴ってありますけれど、リハビリってめちゃんこしんどいですよね。わたくし自身があちこち体を痛めた事が有るだけに、半年間でハンターに復帰できるってどんだけ…って今なら思う訳ですw ワイゼン翁の指導の賜物か、或いは度し難いセクシャルハラスメントから逃れるために必死だったか…それともその両方か。
 何はともあれ、次回は狩場で狩猟シーン!? もう短編集編も佳境です! 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    師匠のセクハラを耐え続けた半年間…辛かったことでしょう。
    きっとリハビリなど目では無いはずです。あとは…わかるなw

    思い出したかのように挿入されるコメディシーン。
    やっぱこれだよなw

    次回、狩猟シーン。。。なのかっ?w

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんそれ…w 絶対に半年間地獄でしたよねこれ…ww
      分かり味ですね!ww

      「やっぱこれだよなw」この一言でも~ワシ浄化されるレヴェルで嬉しいですよね…!w

      次回、狩猟シーン…です!w たぶんw

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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