2019年4月28日日曜日

【滅びの王】79頁■葛生鷹定の書5『《贄巫女》前夜』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/21に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

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■第80話

79頁■葛生鷹定の書5『《贄巫女》前夜』


 走っていくと、……やがて地下へと続く階段に行き当たり、速度を殺さず駆け下りた。
 湿っぽい王城地下は蝋燭の火しか灯りが無く、石造りの壁のあちこちに陰影が刻まれていた。
 殆ど無音に近い状態で、聞こえるのは俺達の足音と息遣い位だった。
「……誰?」
 間儀が呟いたのを聞いて、俺は足を止める。
 すると、地下室の奥から男が現れた。
 官僚(の男だ。王室内部に関与している……確か、室崎とか言う…… 
「《蒼刃》様……!? 何故、このような場所に……?」
 室崎は露骨に驚いていた。演技ではなく、本当に、ここに俺がいる事に驚愕している。
 ……何故だ? 確かに俺は王国を脱して消えた存在。こんな所にいるのはおかしいが……どうにもそれだけじゃない気がする。
「室崎。お前は、ここで何を……?」
「……《蒼刃》様。何故あなた様がこのような場所に? 私に説明を願えませぬか?」
「はぐらかすな。ここで何をしている、室崎?」
 室崎は始めこそ狼狽しているようだったが、その瞳にはやがて微かな炎のような揺らめきを見て取る事が出来た。
「何故、今更戻って来られたのですか、《蒼刃》様? 私はてっきり、王国に反旗を翻したものだとばかり」
「……何度言えば分かる? ここで、何をしているんだ、お前は?」
 怒気を込めて告げると、室崎は怯む気配を見せ、小さく舌打ちを返した。
「……今、我らが頭首、伽藍堂空殻様が《贄巫女》の儀式を執り行っているのですよ」
「馬鹿な!? 《贄巫女》の儀式は明日じゃないのか!?」
 俺が驚くと、室崎は大きな体を震わせて、忍び笑いをし始めた。
「早まったのですよ。誰かは知りませぬが、《贄巫女》を脱走させたらしいのでね。代わりの者に今、《贄巫女》の儀式をさせているのです。王室内の方々にも了承を得ていますので。元《蒼刃》のあなた様には関係無い事ですが」
「代わりの者? ……まさか……っ!」
「あなた様は知らないでしょうが……私達は《滅びの王》の捕獲に成功したのですよ。彼に代行させる事に決定したのは、つい先程です。空殻様もどうなるか楽しみにしておられた。私も、一個人として興味が湧きますしな」
 ……《滅びの王》に《贄巫女》をさせる?
 これでは何の解決にもなってない! 菖蒲を助けられても、代わりに練磨が殺されたのでは、結局何も変わらないじゃないか……!
 俺は室崎を見据えると、伽雅丸を構えようとして、――不意に肩を突かれた。
「鈴懸?」
「ここは私の出番。――でしょ? きっと練磨君も、私より君の登場を待ってるわ。勿論、崇華ちゃんもね♪」
 鈴懸はそれだけ言うと、俺の前に立って「――〈杖よ〉」と唱え、〈杖〉の〈附石〉を杖に変化させた。
「ほう? 女、私を楽しませてくれるのか?」室崎が下卑た笑みを浮かべる。
「うふふ。君が私を楽しませてくれないと♪ ……実力が口先だけじゃない事、ちゃんと証明してみせてね?」
「売女が……!」顔を怒りで赤らめ始める室崎。
「ほらっ、鷹定君、崇華ちゃん。練磨君が待ってるわ。早く行っちゃいなさい♪」
 鈴懸が含みの有る笑みを浮かべて告げると、俺は頷いて後ろを振り返った。間儀は覚悟が出来ていると言った感じで力強く頷いた。
 だが、廊下には室崎が頑として立ち開かっていた。
「私が見す見す不審人物を通すと思うかね? ……些か度が過ぎておるぞ。ここを通るには――」
「大丈夫、このおじ様は私が軽ぅく捻っておくから♪ 気にしないで行っちゃって♪」
「貴様……ッ!」
 頭にキているんだろう、室崎が腰に携えた細剣を抜き放ち、鈴懸へと斬りかかる!
 相対する鈴懸は冷静で、〈附石〉の杖で刃を受け止めると、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだ。
「さっ、今の内に♪」
「女ァ……!」怒りを滲ませながら室崎。
「ああ、頼む。――間儀、行くぞ」
「う、うん。麗子さん、頑張ってっ」励ましつつ、俺の後を追う間儀。
 王城地下を走り続けた。……まさか、こんな形でここにもう一度足を踏み入れるとは思わなかった。
 菖蒲を救うために来る事は考えていたが、作戦が違っていたら、《贄巫女》の儀式が始まった時に、官僚や王室関係者に紛れて混乱を起こし、混乱した中で菖蒲を連れ去る……もしそうだったら、ここに来る事は無かったんだ。
 つくづく練磨の起こす奇跡には驚嘆を隠し得ない。
 練磨がいたらこんな考えはしなかっただろうし、こんな現状も訪れようが無かっただろう。……結末だって変えてくれる……そんな気がしてならない。練磨には、きっとそれだけの力が有るんだ。
「……もしかしたら、それこそが《滅びの王》の力なのかもな……」
「え?」後ろから間儀。
「いや……独り言だ」
 全部が全部、《滅びの王》の力なんだ、なんて考えると練磨に怒られそうな気がする。……きっと、世界を変えていく力と言うのは、《滅びの王》に有るんじゃなく、練磨が持っていたんだろうな、と考え直し、――それも訂正。
 生きとし生ける者、皆が世界を……全てを変える力を持ってるんだ……!
 地下を走り続けると、――上りの階段に辿り着く。少し急な階段だが、今は気持ちが高揚してるためか、そんなに辛いとは思わなかった。
 そして、ようやくその場に辿り着いた。
「練磨……!」
 だだっ広い空間……中央が円柱形に刳り貫かれた外側の壁面の上部には、観客――官僚や王室関係者が座る筈であろう席が並び、開けた空間の中央には底の見えない空洞が口を開いている。
 大きく口を開いた穴……それこそが《和冥の門》と呼ばれる《贄巫女》を《冥王》の許へと送り届ける門だ。
 その門の前に立たされている男の子こそ――練磨に違いなかった。
「……室崎はどうした?」
「……お前が、伽藍堂空殻……!」
 練磨の隣に立つ男――袈裟に草履、手には錫杖を握り締めた虚無僧のような形の、二十歳前後だろう男は、俺を見て表情も変えずに口先だけを動かす。
「……ん? よく見れば、貴様……《蒼刃》か? ここで何をしておる? 王国を離脱したのではなかったのか?」
 驚きも感じさせない淡々とした口調に、俺は底知れない恐怖を感じてしまった。
 俺……《蒼刃》がこの場に現れて尚、あの余裕か……正直、勝てる気がしなかった。
 今まで出逢った誰とも違う、別種の恐怖を感じさせる人物だった。
「……空殻とやら、練磨を、返して貰おうか?」
 俺はそう言って一歩踏み出し、――その足を止めざるを得なかった。
 空殻が練磨に触れるだけで、練磨は奈落の底に落ちてしまう。そんな状態になっていた。
「私に乞うか? ……残念だが、その乞いに応える事は出来ぬな。此奴は今、ここで死ぬ。私のために、な」
「鷹定……それに、崇華も……」俺と間儀を見て、練磨が呟いたのが風に乗って聞こえた。
「練磨……!」「練磨ぁ!」俺と間儀の声が重なる。
 空殻はその様子を見て、小さく溜め息を零した。
「最後の顔見せは済んだか? ……ふん、どうやら私にも慈悲の心は有ったようだな」
「……なぁ、これで最後なんだろ、オレ?」練磨が視線を奈落に向けて、小さく呟いたのが聞こえた。
「練磨……?」俺は不安げに呟く。
 練磨は別に縛られている訳でも、空殻に捕まっている訳でもない。ただ、奈落に飛び降りるための台の上に立たされているだけだ。なのに、そこからピクリとも動かない。
 ……まさか、何らかの〈魔法〉を掛けられているのだろうか?
「……なに、貴様は此処で終わるが、世界のために死ねるのだ。何の悔いが有ろう? 何より貴様は、世界を滅ぼすであろう王だぞ? 世界を救って死ねるのであれば、本望ではないのか?」
 空殻の言ってる事は滅茶苦茶だが、絶対におかしい、とも言えなかった。
 どうやっても捨てきれない考えというものは有る。幾ら菖蒲や練磨を死なないようにしようと思っても、どこかで破綻する事が有る。それが……今の場合で言う『王国の繁栄』だ。王国の何千万の人間の命が平穏に暮らせるために、たった一人の人間が死ぬだけで守られるというのであれば、それはどれだけ名誉な事だろうか。それが人道的に間違いだって分かっていても、どうしてもそれを選んでしまう人は必ずいる。
 数とか質とか、そんな問題じゃないって分かっていても……自覚していても出来ない事だって、確かに有るんだ。
「……ならさ、最後に少し訊かせてくれよ。死ぬ前に少しくらい訊いたって構わねえだろ?」
 練磨がどこか諦めた感じで呟き、俯いたまま顔を上げようとさえしなかった。
 空殻はそれを見て、表情も変えずに頷いた。
「……そうだな。これで全ての準備が整うのだ、話しても構わぬだろう。何を聞きたい?」
 そう言って、空殻は虚ろな瞳で練磨に視線を向けた。光の無い瞳は、ただただ空虚だった。
「……お前さ、帝国領土の教会を襲うように、手下に命令したか?」
「……何故その話を存じておるのか気になるが……ああ、確かに下した覚えが有るな。それが?」
「単刀直入に訊かせてくれよ。何で襲わせた?」
 練磨が尋ねると、空殻は思案するように沈黙すると、……虚ろな瞳を上げて頭上を見た。
 ――天井は無く、大きな月が顔を覗かせていた。
「……深い意味は無い。ただ、純潔たる魂を欲していたのだ」
「純潔たる魂?」練磨ではなく、俺が呟きを返す。
「そもそも、《贄巫女》の儀式が何故執り行われていたのか、貴様らは存ぜぬだろう?」
「……王国の繁栄を築くために、《冥王》と契約しに行くって……その《冥王》の許に行くために門を潜るって……」
「王国の繁栄……《冥王》との契約、か……。……懐かしい響きだ」
「え?」
 空殻は頭上に輝く銀月を受け止めるように両腕を広げると、低い声のまま続けた。
「――王国の繁栄などに、私は然したる興味は湧かない」
 詠うように、空殻は滔々と言葉を紡ぎ出す。
「私の目的……それは王国になど無い。……《冥王》と契約する事、それだけにある」
「だから、《冥王》と契約して王国を繁栄させるんだろ……?」
「王国の繁栄? ……そんな下賤な事に感けている暇など無いわ。……まさか、私が二十年もの間、王国のために動いていたと申すか? ……甚だ愚かしい。下らぬにも度が過ぎるわ。……今日でそれも終わるがな。王国に干渉するのは、今この時を以て終わりとなる」
 声は低く、感情も殆ど窺えないが、やけに饒舌だ。
 恐らく、今の今まで誰にも話した事が無かったのだろう。初めて自身が企てた作戦を話せる機会が訪れたために、話したい事が怒濤のように押し寄せてきているのだろう。
「でもでも、王国の繁栄のためじゃないのに、どうして《冥王》と契約を……?」間儀が不思議そうに口を挟む。
 空殻は見上げていた月から視線を下ろし、間儀に虚ろな瞳を向けた。
「解らぬか? ――《冥王》の降臨だ」
「《冥王》の……降臨?」
「《冥王》との契約には、些か骨が折れた。……何せ、二十年もの間、毎年、純潔の魂を捧げねば契約に応じぬと申されたからな。……だが、それも今この時を以て完遂される。最後に《滅びの王》の魂を捧げる事によって、事は成されるのだ。……王国の繁栄など、何の関係も無い。王国の連中を利用するための方便に過ぎぬ」
 言うだけ言ってスッキリしたのだろう、空殻は落ち着いた空気を纏い、やはり無表情のまま練磨に向き直る。
「今、貴様の魂を以て、《冥王》はこの世に降臨なされる。良かったな、小僧? 貴様のお陰で世界は、――滅びるのだよ」

【後書】
 と言う訳で、やっとこ孤児院の事件のネタ明かしが出来ました。ただアレなんですよね、「純潔の魂」って表記だけで、つまりどういう魂の事なの?? って説明が全く無いんですよねこの物語…w ザックリ言えばアレです、綺麗な色の魂の事です(更に雑情報をブッ込んで行くマン)。
 …とだけ纏めると流石にアレですので、えぇと、何と言いますか、感覚的に「一途な」とか「純真な」とかが頭文字に付く魂の事です。菖蒲ちゃんが一年も身を清めていたのはそういう事ですね。雑念が無い思考を維持できる魂と言いますか。説明難しいアル!ww
 さてさて、突然日曜にも配信を始めた【滅びの王】ですが、アレです。【神否荘の困った悪党たち】が一時休載に入りましたので、【滅びの王】を完結までサクサクっと配信して参ろうかと思いまして! 完結まで残り少ないですが、五月は水曜&日曜の週二回更新で参りますゆえ、また宜しくお願い申し上げます!(*- -)(*_ _)ペコリ
 と言う訳でいよいよ佳境も佳境の【滅びの王】! 本当に練磨君は世界を滅ぼしてしまうのか!? 次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    【滅びの王】ブーストタイム了解です。

    ついに真の目的が!

    「……もしかしたら、それこそが《滅びの王》の力なのかもな……」
    この一言がこの物語なのかななんて思わせるぐらい痺れるセリフです。
    続く「生きとし生ける者、~」のところもさすがメインヒロイン!
    カッケーvv

    さぁ試合開始!素晴らしい逆転劇を期待してますぞvv

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ブーストタイム!ww また宜しくお願いしますね!w

      遂に真の目的が明らかに!!

      ですです!w その一言に集約されていると言っても過言ではないんです!w
      続く台詞もですね、これもうアレですよ、王道ファンタジーなのですから絶対に入れたかった台詞でも有ります…!w さすがメインヒロイン!www

      素晴らしい逆転劇! ぜひぜひ期待してお待ちくだされ~!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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