2019年4月4日木曜日

【春の雪】第11話 決闘のビーチバレー【オリジナル小説】

■あらすじ
春先まで融けなかった雪のように、それは奇しくも儚く消えゆく物語。けれども何も無くなったその後に、気高き可憐な花が咲き誇る―――
※注意※2009/01/17に掲載された文章の再掲です。タイトルと本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
青春 恋愛 ファンタジー ライトノベル


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■第11話

第11話 決闘のビーチバレー


「おーい、皆集まれー! スイカ割りをするぞ!!」
 オニセンの一喝――もとい号令の下に、俺や咲結、空冴と美森以外にも、ギャラリーだった筈の大勢の人間が集合した。
「……いや、私が呼んだのはそこの四人なんだが」
「笑美ちゃん、そんな堅苦しい事は無しで行こーなのですよ!」
「そうですよ鬼野ティーチャー。皆が楽しめればその方が尚良しじゃあありませんか!?」
 美森・空冴の変な抗議が入り、オニセンは難しい顔で眉を顰めるも、すぐに開き直る。
「まぁ、お前らがそう言うなら私も止めはしないが。――では、スイカ割りを始めるぞ! 二位!」
「は? 俺が、何?」
「お前がスイカの役だ」
「俺が割られる役なのか!?」
「間違えた。棒の役だ」
「俺でスイカを割る気か!?」
「煩いな。文句が有るならスイカを割る役に任命するぞ」
「最初からそうしてくれよ!? 何で『スイカ』の役やら『棒』の役が有るんだよ!?」
「そういう要望が有ったんだ」
「誰だよ!?」
 ふと、オニセン視線を追っていくと――ニコニコスマイルの空冴の姿。
 ツカツカと歩み寄り、ガッシリとその両肩を握り締める俺。
「な、何だい一非? 君はスイカを割る役を任命されたんじゃ……?」
「おう、そうだ。――で、テメエがスイカの役だァァァァ!!」
 メリメリメリメリィィィィ!! と、腕の力のみで空冴を砂浜に埋める!!
 その間、ぎゃーとか、みょーとか、へぐぁーとか変な声を吐き散らしていたが、やがて首以外の全身が埋まる頃には、真っ白い空気のような物を口から吐き出して静かになった。
「はい、ニイ君、スイカを割る棒なのですよ♪」
「おう、あんがとよ」
 美森から渡されたのは、確かに棒と呼べなくも無い、野球のバットに釘が打ち込まれた代物。
 それをブンブン振り回していると、ようやく空冴が目覚めた。
「――――はッ!? なななな何をしてるのかな一非? その露骨に凶悪なバットを使って何をしようとしてるのかな!?」
「決まってるじゃねえか、見て分からねえのか……?」
 ぶぅん、ぶぅん、ずどんッ、と地面に釘バットを突き下ろし、
「――スイカ割りだよ」
「嘘だッ!! スイカッ、スイカが見当たらないじゃないか一非ッ。ここには僕しか――」
「いるじゃねえか。空冴(スイカ)」
「今有り得ないルビを振ったね!? 僕はスイカじゃない信じてくれ一非ッ!! 待って!! 割れちゃう!! 確実に僕の頭が――――ッッ」
 ――ぼぐしゃぁッ。

◇◆◇◆◇

「――いやぁ、やっぱり美味いなぁ、スイカって」
 シャリシャリと実を歯で掬い上げて、殆ど噛まずに飲み込む俺。甘くて柔らかくて、この暑さの中では格別の美味さだった。
「そうですねぇ。あ、一非君は塩って掛けないんですか?」
 隣に座り込んで同じくスイカを頬張る咲結に尋ねられ、俺は小首を傾げた。
「何で塩なんか掛けるんだ? 辛くなるだろ?」
「あー、ニイ君は知らないのですか~? 塩を振ると、スイカって更に甘さが増すのですよ~」
 咲結の更に向こうでスイカの皮を片づけている美森が、教師のような語調で説明をしてくる。……ふぅん、知らなかった。
「でもまぁ、ここに塩って無いだろ? だったら、このままで良いじゃんか」
「――ふん、私を嘗めるなよ小童? 塩ならここに有る!」
 俺が割ったスイカとは別に、綺麗に八等分されたスイカを、野次馬共に配布していたオニセンが自信満々に振り返り、色んな容器に入れられた塩を見せつけてくる。……何で塩だけでそんなに持ってきてるんだこの先公は。
「…………」
「……あの、一非君。星織君は……あのままなんですか?」
 俺が割ったスイカ――実は空冴の死角に一つ有ったのだが、それを割ったのであって、別に空冴の脳天を搗ち割ったとか、そんな面白……酷い事はしていない。ただ、間近で弾けたスイカの炸裂音が、奴にとって何の音に聞こえたか定かじゃないが。
 お陰で俺達がスイカを貪ってる間、完全に沈黙したままだったんだが。今尚、放心状態継続中である。
「静かで良いだろ。あいつは生きてるだけで喧しい」
「あはは……」
「――笑ってないで助けてよ恋純さァァァァん!!」
 グァバァァァァ、とまるでリビングデッドヨロシクな復活を遂げる空冴。ちっ、まだ動けたか。
 全身を砂塗れにしてヨタヨタと歩み寄る様は完全にゾンビそのものだぞ、空冴よ。
「い、一非君……っ」
 オロオロと怯えた様子で俺に助けを求めてくる咲結。――心得た!
 むっくと立ち上がり、空冴を正面で睨み据える。
 だが、怒り心頭の空冴はそれだけじゃ怖気づかない!
「……やる気か、空冴?」
「……そう、僕にも退けない時が来たんだよ、一非……。――決闘だ!!」
 ざんッ、と砂を踏み締め立ち塞がる空冴。だが、俺もそれに背を向ける訳にはいかねえ!
 バリバリと視線の火花を散らしていると、――ぱん、と手の打つ小気味良い音が砂浜に響いた。オニセンだった。
「そんなに戦いたいのなら私がルールを決めてやろう。――これでどうだ?」
 オニセンが取り出したのは、――白と青の色が付いたビーチボールだった。
「――ビーチバレーか。面白ェ、やってやろうじゃねえか、空冴……!」
「ふん、臨む所さ一非! 運動神経抜群、且つ体育が毎回オール五の実力を思い知らせてやるよ!!」
 こうして、俺と空冴の戦いが始まった!

◇◆◇◆◇

「では、――始めるぞ!」
 ぴぃ――――っと小気味良いホイッスルの音が弾け、オニセンの手からビーチボールが放たれる!
 コート中央のネットに急接近する俺と空冴。このままでは取った方が勝つ――と思うだろうが、そうでもない。
 今回のビーチバレーは二対二――俺は咲結とチームで、空冴は美森とチームだった。
 ルールは至極簡単。三点先取りだ。敗者は勝者の命令を一つ聞かなければならないだけで、とてもシンプルだ。
 そしてまずボールを敵陣へ落とす事が出来たのは――悔しくも空冴チームの方だった。
 長身を活かしたハイジャンプでボールを叩きつけ、俺のコートへとボールを躍らせる。
 ――が、こっちのチームには何も俺しかいない訳じゃない!
 小柄な体躯ながらも、咲結が精一杯駆けて来て、ボールを拾おうとする!
 併しあまりにボールの速度が速過ぎ、咲結の細腕では受け止め切れなかった!
 ぽーん、と全然見当違いな方向へ飛んで行くボール。
「あぁ……っ」
 ぽて、とそのまま転んでしまう咲結を見て――走れば間に合っただろうボールを敢えて諦め、すぐに駆け寄った。
「大丈夫か、咲結!?」
「あ、はい、平気、です……」
 そうは言うものの、その華奢な腕は赤く腫れ上がっていた。
 く……許せねえぞ空冴……!
 ごごごご、と効果音付きで立ち上がると、空冴に背を向けたまま告げる。
「空冴……テメエは俺を怒らせた……ッ」
 併し空冴は動じず、更に余裕を見せつけるように前髪を指で払い除ける仕草をする。
「今頃本気かい、一非? ――もう遅い。その一点こそが君達の敗北に繋がるのさ!!」
 はっはっは、と心底バカにしたような笑声を上げる空冴に、俺は怒り心頭モードに突入!
「待ってろ空冴! 今その首、根刮ぎ掻っ攫ってやるからなァ!!」
「やれるものならやってみるが良いさ! ハーッハッハッハ!」
「……何でこう、男って生き物はバカなのですかね~」
 へ、と一人、今の流れをバカにしてる奴がいたが、俺も空冴も軽くスルーする事にした。
 そこへギャラリーの一人がボールを持ってきて、試合は再開する!
 一対〇。次は絶対に落とせない!
 サーブは俺がする事に。ボールを高く浮かせて、――ジャンピングサーブ!
 ばしんッ、と小気味良い音と共に敵陣へボールが叩きつけられる!!
「美森! 君に任せた!」
「あ、あたし様~?」
 キビキビした空冴の号令に、一瞬たじろぐ美森。――だが、彼女も女子の中では運動神経は良い方だった事を今更のように思い出す。
「えーと、この辺かな。――あいよっと」
 ぱしんっ、と実に上手いタイミングでボールを浮かせる美森。その高さは丁度空冴のハイジャンプアタックのギリギリのライン……! くっ、こりゃマジでヤバい奴を相手に回しちまったな……!
 そして空冴も美森の絶妙なトスに合わせて、まるで獲物を狙う鷹ヨロシクな動きを見せ、高らかに跳び上がり――
「――喰らえ!! ミラクルスマァァァァッシュ!!」
 ――絶望的なネーミングセンスの技が炸裂する!!
 併も、そのボールの先には――咲結!
 あまりの速度に付いて行けていない咲結を庇うように飛び出し、俺はボールを後頭部で受け止めるっ!
 ばしんっ、という音と共に舞い上がるビーチボール。何とか浮き上がらせる事は出来たが、俺は脳震盪を起こしかける程の衝撃に包まれていた。つか待て、ビーチボールでここまで威力が出るモンなのか……?
 俺が倒れ込むのを見て咲結が何か声を掛けてきたが、既に俺の意識は忘却の彼方へ――

◇◆◇◆◇

 ……涼しげで、少し汗ばんだ香りが漂ってくる。
 灼熱の浜辺の陽光を直には感じず、真上にパラソルが在る事が、ぼんやりと分かってきた。そして、頭には柔らかな感触……
「あ、気づきました? 一非君」
「――――ぇ」
 パラソルから若干降り注がれる陽光の影になって分からなかった人影が、即座に声と一致――咲結だと分かる。刹那、俺の頭が彼女の太腿に乗ってる事も――
 がばっ、と起き上がろうとして、――すぐに頭がふらついて体に力が入らなくなる。
「あっ、まだ寝てないとっ」
 ふわ、と体を押さえられ、俺はそのまま力無く咲結の許へ体を戻してしまう。
 そのまま咲結の太腿に頭を戻され、再び咲結を真下から覗く形に落ち着く。
 いや、落ち着かない。
「……俺、どうなったんだ……?」
 何とか咲結を見ないように視線を海へ逃がすと、咲結が俺の頭に手をやって、穏やかな声音で応じた。
「一非君、どうやら日射病のようです」
「日射病……?」
「はい♪ この炎天下の中、ちょっと張り切り過ぎちゃったんですよ」
 くす、と微笑む彼女の顔が間近に有ると思うだけで、俺は心が張り裂けそうだった。
 ……そんなに弱くなったつもりは無かったんだけどな、俺。
 それも彼女の前で日射病だなんて……格好悪過ぎだろ、俺……
「……ごめん、負けちまった」
「え?」
「ビーチバレーだよ。俺、お前の前で格好悪ぃトコ見せちまった……」
 空冴に勝って、良いトコを見せようと思っていたのに……いや、それを無しにしたとしても、俺は咲結の前で空冴に勝ちたかった。じゃないと、空冴よりも俺が良いって証明できない気がした。
 空冴は、ムカつく事に自他共に認める天才だ。奴にはそれを活かす才能も有るし、自覚もしている。ハッキリ言って非の打ち所が無い、完璧な野郎だ。だからこそ咲結も惚れたんだろうし、女子に限らず男子にだって好かれるんだろう。
 ……そう、咲結が一度は惚れた相手なんだ、俺がそいつをブチのめして、咲結に本当に俺を選んで良かったって認めさせる――そういう意味合いも有ったんだ、今の決闘には。
 でも俺は敗れた。あっさりと。……正直、咲結に合わせる顔が無かった。
「……やっぱり、俺より強い。ムカつくけど格好良い空冴の方が――」
「――一非君」
 静かな、でも確りとした意志を感じさせる声で、咲結は俺の言葉を遮った。
 今まで聞いた事の無い、どこか厳しさを感じさせる声で。
「……不貞腐れてます?」
「――――っ」言葉が咄嗟に出てこなかった。
「一非君。わたしは、確かに以前、星織君が好きでした。大好きでした。でも、今は違うんです。わたしは一非君が、好きです。大好きです。だから……そんな事は言わないで下さい……」
「…………」
 本当に、言葉が出てこなかった。
 温か過ぎる言葉の応酬に、全く返す事が出来なかった。
 俺は……本当に……咲結が……好き、なんだと思う。愛しいとも思う。
 こんなにも俺を好いてくれる奴がいるだけで、俺はどうしようもない位、救われた気持ちになれる。
 そう想うだけで――胸が、軋んだ。
 これは――これを、幸せと言うのだろうか?

◇◆◇◆◇

 ……そうして俺達は、夕暮れに沈む海を後にするのだった。
 何だか現地の人間とこれでもかと言わんばかりに親しくなったりしてるオニセンは、「もうここには来れないな……」とか言っていた。……これだけ遊ばせてくれた代償がそれだとすると、天敵である俺としても心苦しいものを感じずにはいられなかった。
「――ここで良いのか?」
「おう。……今日はサンキュな、色々楽しかったぜ」
 辿り着いた場所は自宅ではなく、学校だった。そこで俺と咲結が下車し、美森と空冴を乗せたオープンカーは走り去って行く。
「くれぐれも遅くならんようになー」
 オニセンが最後に声を掛けると、そこでようやく眼を覚ました美森が「あへ? 今どこ?」とか変な声を上げているのが聞こえ、――視界からオープンカーが消え去る。
 ……ひぐらしの鳴く声が響くだけの、夏特有の静寂が辺りを征服する。
「……じゃ、行くか」
「はいっ」
 特別な何かをする訳ではない。ただ、一緒に学校から家まで帰るだけ。ただ、それだけの行為に過ぎない。
「――でも、ビックリしました。星織君って、サーフィンも出来るんですね」
 何でもない会話。それが、どうしようもなく心地良かった。
 ただ、咲結と話しているだけで、隣を歩いているだけで、それだけで、とても晴れやかな気分になれる。
「あいつは本当に何でも出来るんだぞ? 他にもダイバーの資格を持ってた筈だし、釣りも上手かったっけ」
「ふぁ……凄いんですね、星織君って」
「まぁな」
 ムカつく事だが、奴は本当に何でも出来る天才だ。今更そんな事を再確認しても何の面白味も無い。……けれど、咲結にそんな事を言われたくない……
「――次は、いつ逢いましょうか?」
 きゅ、と。自然と指を絡ませてきた咲結を振り返ると、少し俯いた感じで、上目遣いにこちらを覗き込んでいる姿が映った。
 俺は一瞬息を呑み、それから視線を逸らして、
「そ、うだな。……明日、また逢いたい。……良いか?」
「はいっ、喜んでっ♪」
 ニコッと華やぐ咲結を見て、心底安堵している俺がいた。
 こんな日常がずっと続けば良い。そう、願って止まなかった。





 ――――そしてそれは、まるで俺を嘲笑うかのように、何の予兆も無く、……訪れた。



【二章】 最後の夏休み/最高の日々――――【了】

【後書】
 幸せの極致とも言える展開ですが、不穏を兆して今回はおしまいです。
 次回からだいぶ胸が軋む展開が待っているので、覚悟して読み進める事を推奨致します。起承転結で言う所の「転」ですからね、ここからいよいよふぁんたじぃの始まりです! そんなこったで次回もお楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「そ、うだな。……明日、また逢いたい。……良いか?」
    「はいっ、喜んでっ♪」(←♪がポイントよ)

    ……
    どんだけわたしのライフを削れば気がすむのさっ!

    いやぁ~良い作品だったなぁ~
    で、次回からこの枠ではなにが始まるんだろう?
    ベル日ブーストか、はたまた魔王様がんばって!の再掲なんかもいいなぁv(ひたすら現実逃避マン)

    そんな訳で戦々恐々としつつ筆を置かせていただきます。
    ありがとうございましたm(_ _;)m

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      そこでライフが削られましたか!ww (*´σー`)エヘヘ!w やりましたねワシ!ww(笑)

      凄まじい現実逃避を見ましたね!ww ここで終わってたら甘々の恋愛劇だったんですがねぇ…(悟り顔)

      いえいえ!w 次回の感想が今から、わたくしも戦々恐々となって参りましたぞい!ww

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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