2019年4月17日水曜日

【滅びの王】77頁■神門練磨の書20『活路』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/17に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【カクヨム】、【小説家になろう】の三ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

カクヨム■https://kakuyomu.jp/works/1177354054885698569
小説家になろう■https://ncode.syosetu.com/n9426b/
■第78話

77頁■神門練磨の書20『活路』


 菖蒲がオレの視線の先の存在に気づいて、――息を呑む。
 オレは乱れた呼気を整えつつ、男――空殻を見据える。
「よもや《清錬場》から脱するとは……その根性、御見逸れした」
「なら、見逃してくれねえ? オレ、お前と戦いたくねえし」
 空殻は低い笑い声を発し、光の無い瞳でオレを射抜く。
「吠えるな、小僧。貴様が私に敵うとでも?」
「やってみなくちゃ分かんねえだろ? それとも、怖いか?」皮肉っぽくオレ。
「ふん……生意気を言うだけの余裕は有る、か……。――ほざけ。貴様が私に敵う要素など、微塵も無いわ」
 言い切る空殻に、オレはちょっぴり怯む。
 今まで喋ってたけど、……実際、こいつには敵う筈が無いって自覚してた。
 圧倒的な力の差が、そこに歴然と聳え立ってる……!
 オレは菖蒲を庇うように前に出て、握り締めた〈附石〉を固く握り直す。
「……なぁ、空殻とか言うお前」
「……貴様に名で呼ばれようとはな。……序でに名乗ってやろうではないか、小僧。私は伽藍堂(がらんどう)空殻。二つ名は《虚無》」
「何でも良い、ンな事。んで、空殻。取引しないか?」
 空殻の瞳に陰りが映り、それがまた沈んで、また光の無い眼差しが浮かんできた。
「私と交渉しようと言うのか、小僧?」
「ああ」
「度が過ぎた真似だな。……それとも何か? 私と交渉できるだけの物を用意しておるのか?」
 良かった、乗ってくれた……!
 ちょっと安心しつつ、オレは小さく頷いた。
「あんたに取っちゃ、良い事だと思うぜ? ……オレに、つまり《滅びの王》に、《贄巫女》をやらせてみるつもりはねえか?」
「何――?」「練磨さん?」
 空殻が、そして菖蒲までもが驚いている。
 オレは零れそうになる笑みを隠しつつ、話を続ける。
「《和冥の門》を通る役を、オレにやらせてくれって言ってんだ。……悪い話じゃないだろ? あんたらが《滅びの王》をどうしたいのかは知らないけど、《滅びの王》に《贄巫女》をやらせるのは、中々凄くねえか?」
「……本気か、小僧?」
 空殻が眉を顰めてオレを見据える。
 ……本気だ。本気だけど、死ぬのはオレだって嫌だ。菖蒲を諭した意味が無くなるんだから。
 王国の何千万もの人間の命を救うために菖蒲が死んで、その菖蒲を助けるためにオレが死んで……そんなんじゃ堂々巡りだ。意味が無い。
 だけど、オレは死なずにこの件を終わらせたいと願ってる。そのためにはまず、《贄巫女》なんて言う馬鹿げた儀式を止める事が先決だ。
「ただ一つ、条件が有る」
「……其処の《贄巫女》の解放、と言った所か」
「分かってるなら話が早ぇ。……どうだ?」
 空殻の全く表情の無い顔に、純然たる殺意のような物が浮かび上がってきた気がした。
「――下らぬな」
 空殻が一歩前に出て、錫杖を、しゃらんっ、と鳴らした。
「そうなれば其処の小娘の価値は無に帰す。要らぬ事まで知られた以上、見す見す生かしておくと思うか、小僧?」
「だよな。……菖蒲、こっからは一人で逃げてくれ。オレはこいつを……空殻をぶっ飛ばしてから追いかける」
「勝てるですか?」
 当然の問いかけに、オレは苦笑しか浮かばなかった。
「やってみなくちゃ分かんねえ、――だろ?」
〈附石〉――〈ぶっ飛ばし〉の〈附石〉を握り直すと、空殻を見据えて両手の拳を固めた。
「良いから逃げろよ、菖蒲。……んでもって、鷹定と合流するんだ」
「練磨さんはどうするです?」
「オレの事は良いんだ。……大丈夫、絶対に死なねえよ。それと……」
 オレは、とある作戦を話した。
「……分かったです。出来る限りの事はやるです。けど……約束ですよ?」
 言って、菖蒲が駆けて行く。
 それを追わずに、空殻はオレを見据えて、静かに錫杖を振り下ろした。
 ――しゃらんっ、と鈴の音が広間に響く。
「……私を止められると思うか、小僧?」
「それこそ、やってみなくちゃ分かんねえなっ」
 言い終える前に駆け出して、空殻の顔面目掛けて拳を振り被る――!
「ぶっ飛べェェェェ!」――オレの拳が空殻の顔面に吸い込まれ、
「……愚かな」
 呟きが聞こえて、
 ――何の感触もしなかった。
「え……?」
 確かに、オレの拳は空殻の顔面を捉えている。……にも拘らず、拳には何の感触も伝わってこない。微かに感じる皮膚の感触が有っても、空殻を押している筈の力が、全く加わっていない。
 ただ触れているだけ。こっちは全力で空殻を押している筈なのに……!
「――退け」
 錫杖がオレの側頭部を捉え、――ガッ、と脳味噌を揺さ振られて、オレは広間を転がった。
 容赦の無い一撃にオレはまたも動けなくなって、何とか意識を保つだけで精一杯だった。
 痛い……痛くて泣きそうだ……。……でも、ここで倒れる訳には……!
「……まだ昏倒には至らぬか」
「行かせっ……るか、よ……っ!」
 オレは空殻の足を掴んで――触れてるだけだけど――何とか逃がさないようにと、力を込めて立ち上がろうとした。
 行かせてはならない……菖蒲を絶対に逃がしてやるんだ……それが、鷹定へのせめてもの礼だ……っ。
 そして、菖蒲への礼でもある。
 ……だから、このバカ野郎は、オレが……!
 空殻がオレを見下ろして、――錫杖の先をオレの腕に突き下ろした!
「あぎッ」激痛が走って、空殻を掴んでいた手が落ちる。
 痛くて手を摩りたかったが、錫杖に叩きつけられたまま動けず、痛みだけが全身を走り回る。
 涙が少し込み上げてきて、自然と歯を食い縛ってた。
「……そうまでして、何故あの小娘を逃がしたい? 小僧。貴様の行動は、逢った時から意味不明な事ばかりだ。それとも、そういう基盤となる行動理念が、貴様には無いのか?」
 ……何を言ってるか分からねえ。けど、ムカつくのは確かだ。
 こいつの言う事は、全部ムカつく。……だから、オレは、
「……テメエみたいなクソッタレをぶっ飛ばすのが、オレの基本方針なんだよ……っ!」
「……解せんな。それだけのために自分を殺すか? ……誠に解せんよ、貴様は。何から何まで、解せぬ奴だ」
 そうかよ、分かったなら、その杖を退かせよ……!
 痛みと憎しみで睨みつけるように空殻を見上げると、空殻は血の通っていないような無表情で見下ろし、――オレの顔面を蹴り飛ばしたッ。
 錫杖から手が滑り抜け、オレは鼻頭を押さえたまま、色んな意味で動けなくなってた。鼻血が出て、痛みと衝撃で次の動作が出来ず、……意識も少し朦朧として……。
 ただ、分かったのは……オレが負けたって事だ……。
「少しは学習したか、小僧? いい加減、自分の力では敵わぬ事を覚えぬと、いつぞやのように命を落とすぞ?」
 こいつ……やっぱり知ってるんだ。オレが黒一に殺された事を……!
 と言う事は、やっぱり黒一は空殻の仲間だったんだ。
 皆してそんなにオレを殺したいのかよ?
《滅びの王》は、やっぱり殺されなくちゃならないのかよ!?
 ……負けるもんか。こんな所で、死んで堪るかッ。
 オレは生きる。生きて、《滅びの王》が世界を滅ぼさない事を、証明してやる!
「……まあ、貴様のその根性に免じて、小娘は逃がしてやろう。あの小娘に力が有るとも思えぬしな、逃がした所で何も変わらぬだろう。……それに、貴様で《贄巫女》を試せばどうなるか、其方の方が興味を引く。……まあ、固よりその心算だったがな」
「……ま……よ」
「……何だ? 聞こえぬぞ、小僧」
「黙れよ……っ、テメエだけは、絶対に……ッ!」
 意識が、途絶える…… 

【後書】
 と言う訳で本当に一難去ってまた一難でしたね!w 脱獄できたと思いきや…! と言う展開でした。
 あと敵の名前が遂に明らかに! 伽藍堂空殻(ガランドウ クウカク)と、これもね~当時めっちゃ考えたと言いますか、妄想しまくって生み出した名前でしてね、当時の中二力が目いっぱい詰め込まれた名前だったりしますw と言いますか、これアレですね、わたくしこの当時から「名は体を表す」を地で行くマンでしたから、大体登場キャラクターの名前が、その役割となっていると言いますかw 
 さてさて、次回はまたしても練磨君ではない書です! 遂に作戦開始…! です! お楽しみに~♪

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    相変わらずのピンチですねw
    でもそれすらチャンスに変えてしまうような不思議な力が練磨君にはあるような気がしてきました。
    でもさ、もう少し平穏でもいいと思うのw

    伽藍堂空殻さんとはまた意味ありげなお名前です。
    ガランドウ?からっぽなのかな?これかの展開が楽しみです。

    ついに開始だぁ~~~しまっていこーーお~みたいな?

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんとにww相変わらずにピンチですw
      確かに! それすらチャンスに変えてしまう不思議な力…! 練磨君には宿っていそうです!w
      ほんとにねwwもう少しぐらい平穏でも、罰は当たらないと思います(笑)。

      ですです! 意味ありげな名前に仕上がっております…!
      からっぽなのかな? がまさに(・∀・)ニヤニヤポイントでして、ぜひぜひこれからの展開を楽しみに読み進めて頂けると幸いです!

      それそれ!w 遂に開始ですよ!w 鬨の声を上げてこーっ!w

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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