2019年5月12日日曜日

【滅びの王】83頁■神門練磨の書21『《冥王》』【オリジナル小説】

■あらすじ
《滅びの王》である神門練磨は、夢の世界で遂に幼馴染である間儀崇華と再会を果たしたが、彼女は《悪滅罪罰》と言う、咎人を抹殺する一族の末裔だった。《滅びの王》、神門練磨の旅はどうなってしまうのか?《滅びの王》の力とは一体?そして葛生鷹定が為そうとしていた事とは?《滅びの王》完結編をお送り致します。
※注意※2008/04/27に掲載された文章の再掲です。本文は修正して、新規で後書を追加しております。

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■キーワード
異世界 冒険 ファンタジー 魔王 コメディ 中学生 ライトノベル 男主人公

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■第84話

83頁■神門練磨の書21『《冥王》』


「――これで《冥王》の復活は果たされる」
 不意に背後から声が聞こえて振り返ると、――大勢の男女が入り口に集まっていた。
 数えてみると、男が六人、女が三人の計九人の大人が集結していた。何れも錫杖を手に虚ろな瞳をしていた。――更によく見ると、生きているようには見えない連中が二・三人含まれていた。
 そのリーダー格と思しき男には見覚えが有った。
「――荻沢……!」
 空殻、そして室崎と一緒にパーティ会場にいた、冷えた感じのする瞳を持つ、体格の良い男だった。
 オレを昏倒させた本人だった……!
「我ら空殻様にお仕えする者、空殻様が亡くなりし今、我らがその願いを果たそうぞ」
「テメエらも《冥王》を復活させて世界を滅ぼそうって奴らか!」
 自然と怒鳴り込んでいた。もう、感情が上手くコントロールできない。
 何で、何でこんな奴らばかりなんだよ……っ!
 世界がどうしてそんなに憎いんだ……っ?
 悪いのは世界じゃなくてオレ達の方だろッ?
「如何にも。貴様らは空殻様が認めた者。……見るが良い。彼こそ、――冥府の王」
 言われた瞬間、――《和冥の門》から、すっごく嫌な空気が駆け抜け、辺りに散り始めた。
「――崇華っ」
 具合が悪くなるような空気をモロに受けた崇華が倒れ込んだので、今度はさっきと逆に、オレが崇華を抱き上げた。崇華の顔は明らかに血色が悪く、気分が悪いのは火を見るより明らかだった。
「だ、大丈夫だよぅ、練磨……」
「ンな訳有るか! ……どうなっちまうんだ、この後……《冥王》とか言うのが、復活しちまうのか?」
「えとえと、……分かんない。でも……この瘴気は間違いなく、冥府の物だよぅ……」
 て事は、《冥王》じゃなくても、冥府関係者って事かよ……っ!
 正直このまま逃げ出しちまいたいけど、そんな事したら王国どころか、世界が滅ぼされちまうんだ……! そんなの、見過ごせないっ。
《滅びの王》の名に懸けて、オレは世界を救ってみせる……!
「さあ、今こそ我らに御身を御見せください、《冥王》……!」
 荻沢が叫んだ、瞬間。
 ――《和冥の門》より一人の男が浮かび上がってきた。
 上半身が裸に近い状態で、着ている物はゆったりとしたズボンだけと言う、十代後半の美男子だった。見えている裸体は殆ど筋肉で引き締まり、体格も文句の付け所が無く、スポーツマン的な肉体の持ち主だった。髪は漆黒で、短く切られていた。
 背丈は鷹定と同じ程。そんな男が、ゆっくりと台の上に降下し、裸足で着地する。
「……あなたが……《冥王》?……」
「……」
 男は応えず、ゆっくりと瞼を開いた。黄金色の瞳が、月夜に映えた。
「――其の方が喚び出したのか、余を」
「はい、そうです……!」少し高揚した感じで荻沢。
「ならば、――往け」
 男が言った瞬間、――瞳から光条が走り、荻沢の胸を貫いた!
「…………え?」
 突然の出来事に荻沢は瞠目したまま固まり、ゆっくりと自分の胸に手を当てると、手に付いた赤い液体を見て、再び男へと視線を向け直した。
「な、にを……ッ?」
「余を喚び出した礼じゃ。嬉しかろう? 余の住まう世界へと往けるのだからのう」
 男はそう応えて、荻沢へと歩いていく。裸足のために、一歩踏み出す度にペタペタと音が聞こえた。
「そ、んな……!……めい、お、うぅ……!」
「余の御前で見苦しいぞ。余が往けと言ったら往くが良い」
 倒れ込みそうになっていた荻沢の頭を右手で鷲掴みにし、――何の躊躇いも無く握り潰した。
 びちゃッ、と辺りに血やら液やらが飛び散ったが、背後に控えていた大人達は微動だにせず、潰した本人も然して不快な様子も無く、手に付いた肉の破片を払い落としていた。
 想像以上に恐ろしい光景が広がった。
「お前が……《冥王》なのか?……」
 荻沢と同じオレの問いかけに、男は視線を向けて応えた。
「如何にも。して、其の方は何奴じゃ? 其の方も、余を喚び出した下郎の一人か?」
「違う! ……頼みが有るんだ、《冥王》さん。このまま……冥府に帰ってくれないか?」
《冥王》と自称する男は瞳を細め、オレを醒めた感じで見据えた。
「余を喚び出しておきながら、早々に帰れと吐かすか。……中々肝っ魂の据わった男よのう」
「頼む……!」
 頭を下げて頼んでいると、――不意に虚ろな顔の大人達が動き出したっ。
 全員が全員錫杖を振り上げて、《冥王》へと飛び掛かる!
「やれやれ。余に矛先を向けるとは……熟々愚かよの」
《冥王》は深く嘆息すると、――掛かってきた大人達を、黄金色の瞳の視線で突き刺した!
 刹那、大人達は動かなくなり、虫のようにバタバタと地面に落下し、倒れたまま動かなくなってしまった。
 見た瞬間、悟る。大人達が一人残らず絶命している事に…… 
「……其の方らは、掛かって来ぬのか?」
《冥王》が見据える先には、オレ達しか残っていなかった。
「……鷹定君、真面目に戦って勝てる相手じゃないって、分かってるわよね?」
「……死ぬと確定していて戦う程、俺も馬鹿じゃない」
 麗子さんと鷹定が呟きを交わし、オレは崇華を抱き起こしたまま、《冥王》を見据えた。
「お願いだ、このまま冥府へと帰ってくれ……ッ」
「……ふむ。其の方らは此奴らとは別口かの。……まあ良い。還してくれるのであれば、早々に支度を整えるが良い。余も此の様な不浄の地に何時までも留まりたくないのでな」
「え……? 良いのかっ?」
「良いも何も、余は其の方らに勝手に喚び出されたに過ぎぬ。還してくれるのであれば、其れに越した事はあるまい」
 ……と言うと、空殻は契約も何も、ただ単に《和冥の門》を開くためだけに《贄巫女》を行っていたって事なのか?
 何はともあれ、たった今、《冥王》に関する情報を持っていた人物が皆、《冥王》自身によって殺害されてしまったのだけれど、どうしたものか。
「誰も存ぜぬと申すか」
 冥王は呆れた感じで溜め息を零し、苛立ったように腕を組んだ。
 このままだと、《冥王》はこの世に留まり続け、気分次第で世界を滅ぼしかねない。それだけは絶対に避けねばならないのだけれど……っ、《冥王》を還す術を知らないオレ達には、これ以上どうしようもなかった。
「――やっぱり復活しちゃったのね」
「咲希っ?」
 唐突に現れた妖精に、オレは驚きつつも声を掛けていた。
「お前、今までどこ行ってたんだよっ?」
「そんな事はどーでも良いの! ……それで、《冥王》を冥府へ還す術を知らないのね?」
「あ、ああ。そうだけど……咲希はその方法を知ってるのか?」ちょっと期待を込めてオレ。
 咲希はキョトンとオレを見返し、
「あんた、さっき一人で伽藍堂空殻を倒しちゃったじゃない」
「へ? あ、うん、まあ倒したけど……それで?」
「その方法を使えば良いだけの話よ」
 は? へ? ふ? どういう事?
 思わず回想してみるけど……オレのした事って言えば、〈附石〉を〈還元〉した……だけ…… 
 ……〈還元〉?
「……《冥王》の基礎構成は、二十人分の純潔な魂を封じた〈附石〉よ。それさえ〈還元〉できれば……《冥王》は、自然と冥府へ還るわ」
「マジでかッ!?」
 つか、何でそんな事知ってるのお前!? って突っ込みたくなったけど、今はそんな時じゃないって分かってるから、暗黙の了解で通した。
「余を還す術を会得したか?」《冥王》が暇そうに腕を組んでオレを見据えている。
「あ、ああ。今、還してやるから、ちょっと待ってくれ!」
《冥王》の体に直接手を近付け、――念じた。
 元に……、戻れ……っ!
 さぁ―――っと、《冥王》の体が砂のように砕けて、粉末状になって消え始めた。
「もう二度と、余を喚び出すで無いぞ? 次こそ、余は不浄の世を滅ぼすやも知れぬでな」
「ああ、本当にすまねえ。……こんな事、もうさせねえよ」
「ふん、人間風情が約束を守れるものか。……最後だ。《滅びの王》よ、余に誓え。其の方こそが世を滅ぼすと」
 それだけ告げると、冥王は消え去った。
「……それは出来ねえよ。たとえ《冥王》を敵に回しても、世界が認めなくても、――オレは絶対に、世界を滅ぼさねえよ……っ!」
 オレは何も無くなった空間を見定めて、ちゃんとした意志を持って応える。
 ――『あくまで宿命に逆らうと吐かすか。精々足掻くが良い。余は何時までも冥府で待っていようぞ』
 そんな声が聞こえた気がして、オレは少し驚き、
「……任せろ、冥府に逝くまで、……いや、逝っても世界を滅ぼさねえからな……!」
 と、確かに約束した。
「おーい、終わったかぁ~?」
「……あんたは何だってそんなに元気かね、全く……」
 入り口からミャリと八宵が入って来て、……ようやく収拾が付いた、と言う所だった。
 長かった夢が、終わったような気がした。

【後書】
《冥王》様がほんとに話の分かる方でしたね!ww とみちゃん大予言回でした!(笑)
 と言う訳で、遂に諸問題を解決してしまった練磨君、もとい、《滅びの王》様です。残すところあと2回で、完結と相成ります。いやー長かったようなあっと言う間だったような…w
 あと2話はアレです、エピローグです。あともう少しだけ、この世界にお付き合い頂けますよう、宜しくお願い申し上げます!(*- -)(*_ _)ペコリ ではでは次回もお楽しみに~!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いやーお願い通じてほんとよかったw
    こんなにお話がわかる方だったとは…さすが《冥王》様!!

    それにしても空殻さんの勉強不足というか、勢い任せというか
    「とりま呼び出しちゃえばなんとかなんじゃね?」
    みたいな感じだったのかしら?
    でも、ちょっと見方を変えて妄想してみると、
    《冥王》様はすべてお見通しで、《滅びの王》では無いものが世界を滅ぼそうというのが気に入らなかった。
    復活をいいことに空殻さん一味をやっつけて、《滅びの王》に滅亡を託し冥府へ。いかがでしょうか?
    最後になって練磨君を《滅びの王》って呼んでたからこんな妄想もありかなってw
    笑って流してくださいm(_ _)m

    それにしても浮かばれませんね19人…

    長かったようなあっと言う間だったような…お話はあと2回でも練磨君の冒険はまだまだ続くような気がしますぞ!

    今回も楽しませて頂きましたー
    次回も楽しみにしてますよーvv

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    1. 感想有り難う御座います~!

      ほんとそれですww
      まさかね、こんな話が通じる人が出てくるなんて思わないじゃないw さすが《冥王》様!ww

      空殻さんに関してはもうその通りとしか言いようがない奴でしてww(笑)
      まさに「勢い任せ」と言いますか、召喚さえ済めば後は勝手に滅ぼしてくれるやろ(ハナホジー)みたいなノリだったのは拭えない…!w
      そしてとみちゃんの妄想がもう素敵過ぎてヤバい奴です…!ww
      もうこれ以上ない、この物語の深淵を浚ったような想像力に、わたくし嬉しさで胸が張り裂けそう…!(パァーンッ) えぇと、こほん。実際それが正しいと言いますか、それが正史でもいいなぁwってぐらいには、納得感の強い想像、と言う印象です。何より素敵過ぎますね…(二回目)

      そうなんですよね…この物語で唯一の犠牲者とも言えるその人達だけは、忘れてはならないんですよね…

      そしてお話はあと2回でも! 練磨君の冒険はまだまだ始まったばかり! ぜひその辺も楽しみに、最終回までお付き合い頂けますように!!

      今回もお楽しみ頂けたようでとっても嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~♪

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