2019年5月5日日曜日

【ベルの狩猟日記】097.そして彼女は【モンハン二次小説】

■あらすじ
守銭奴のベル、天然のフォアン、爆弾使いのザレアの三人が送る、テンヤワンヤの狩猟生活。コメディタッチなモンハン二次小説です。再々掲版です。

▼この作品はBlog【逆断の牢】、【ハーメルン】、【風雅の戯賊領】、【Pixiv】の四ヶ所で多重投稿されております。

■キーワード
モンハン モンスターハンター コメディ ギャグ 二次小説 二次創作 P2G


【ハーメルン】https://syosetu.org/novel/135726/
【Pixiv】https://www.pixiv.net/novel/series/339079
■第97話

097.そして彼女は


「……そうじゃの、及第点と言った所かの」
 渺茫たる黄砂の海が広がっている只中に、巨像が倒れ伏していた。双角は二本とも半ばから折れてしまい、尻尾も同様に半ばから切断されている。全身に弾痕と裂傷を刻まれたディアブロスの瞳には、既に生気の色は絶無だ。
 剥ぎ取れるだけ素材を剥ぎ終えた四人は、ディアブロスを背凭れにして、暮れなずむ黄昏の空を見上げていた。遠方には砂竜・ガレオスが飛び跳ねている姿が見受けられるが、こちらに向かって来る様子は無い。四人が去った頃には、彼らの餌として巨大な屍骸が自然に還る事だろう。
「……今まで有り難う御座いました、ワイゼン様」
 ワイゼンに視線を向けず、藍色が滲むように浮かぶ空を見上げたまま、リボンは口を開く。その台詞を聞き逃さなかったギースが、驚いたように顔を向けてくる。
「ど、どういう意味じゃ……っ?」
「どういう意味も何も、――もうワシは用済みなんじゃろ? リボンや」
「…………」
 ギースの震える声に反応したのはワイゼン。彼もまた、リボンに視線を向ける事無く、瞳を上空に固定したまま、どこか寂しそうな声音で呟く。対しリボンは即座に言葉を返せず、場には沈黙の帳が下りた。
「……そっかぁ~、リボンちゃんが決めた事なら仕方ないけど、お姉さん寂しいなぁ~」
 ワイゼン同様、リボンに振り向かずに言葉だけを返すロザ。その表情は発言通り、寂しさの色が滲んでいた。ギースは三人の発言に就いていけないのか、視線を三人の間に行き来させて、完全に困惑していた。
「大事な事は、もう学んだつもり。後は、自分の足で進みます。……でも、ワイゼン様が用済みだなんて、これっぽっちも思ってません」
 そこで一呼吸、間を置き、リボンはワイゼンに振り返った。
「ワイゼン様は、今日を過ぎても、私の大切な師である事に変わりありません」
「ほっほっほっ、じゃったら一生ワシに仕えてみるつもりはないかの?」
「それは万が一にも有り得ません」
「そんなハッキリ言わんでも!? ワシゃ悲しいぞ!! リボンをそんな風に育てた覚えは無いぞ!!」
「育てられた覚えもありませんが」
「うわーんっ、リボンがワシを苛めるんじゃ~っ!!」
 ロザの胸に飛び込んで行くワイゼンだったが、「よしよし、お姉さんが慰めると思ったら大間違いだぞ☆」と鼻を摘ままれて「いふぁいっ、いふぁいっ」と変な声を上げ始める。
「……あー痛い。全くロザはワシに肉体的苦痛を与え過ぎじゃ。ワシももう若くないんじゃから、傷が残ったらどうしてくれるんじゃ……」鼻を摩りながらロザから離れるワイゼン。その視線がリボンへ向く。「――リボンや。要らぬお節介だとは思うが、これをやろう」
 そう言ってワイゼンが黒子ノ装束の懐から抜き出したのは、一枚の羊皮紙だった。リボンはそれを受け取り、中身を検めていく。
「ギルドナイツの推薦状……?」
「ワシの知己がギルドナイツの一人での。口利きが出来ると言うだけの話じゃ。……ヌシが今よりも狩猟の腕を磨きたいと言うのなら、そこへ行く事を勧める。凄腕級のハンターがゴロゴロおるからのう」
 ほっほっ、と楽しげに笑うワイゼン。リボンは羊皮紙を握り締めたまま、ワイゼンに視線を向け、――微苦笑を浮かべる。
「……初めから私の目論見など、全てお見通しと言う訳ですか」
「はて? 何の事じゃ?」惚けるようにワイゼン。
「推薦状は有り難く受け取っておきます」羊皮紙をクルクルと纏め、クックレジストの内側へと納めるリボン。「次に逢う時は――ワイゼン様の隣にいても遜色無い腕前になった時です」
「無理な大言を吐くでない。己を追い詰めるだけじゃぞ?」
「その時はワイゼン様と逢えなくなるだけですので、大丈夫です」ふ、と口唇に笑みを刷くリボン。
「何が大丈夫じゃ! ワシが寂しくなるじゃろ!!」ぷんぷんと怒り始めるワイゼン。
「おやっさん……発言が幼稚過ぎると思うんじゃが……」思わずツッコミを入れるギース。
「お姉さんは楽しみに待ってるよ! リボンちゃんと一緒に狩猟に行ける日を!」
 皆の視線を受けて、リボンはどこかぎこちなくはにかみ、――背を向けた。

 そして三人のハンターがディアブロスの狩猟を終えて屋敷へと戻ってきた時だ。一人の幼い少女がワイゼンに弟子入りを志願したのは――――

◇◆◇◆◇

 それから数年の月日が流れた或る日のラウト村。
「あれ? ティアリィさん、どこに行くの?」
 いつもの時間に酒場へ訪れたベルが見たのは、遠出用に着替えたティアリィの姿だ。以前オートリアへ向かう時に着ていた私服で、メイド服以上に彼女の可愛さが映える服装である。ウェズが見ると興奮して何を仕出かすか判らない程の。
 ティアリィは「はい♪」とはにかみ笑顔を浮かべて大きな鞄を手に応じる。
「昔から手紙をやり取りしていた方からお誘いを受けまして、ちょっと遊びに行って参ります♪」
 とても楽しそうに告げるティアリィに、ベルは何かに気づいたように「にやぁ」と意地悪そうな笑みを浮かべる。
「もしかして、好きな相手からのお誘いだったりするぅ?」
 ティアリィは朗らかな笑みを微塵も崩さず、小さく首を否と振る。
「私の命の恩人なんです♪ 偶に顔を出さないと拗ねちゃう寂しがり屋で……」
「へぇ~。……って、あたしの師匠もそんな奴でさぁ……何だか親近感湧いちゃうなぁ……」
「ふふふ、そうですね♪」
 楽しげに笑うティアリィ。何故かティアリィが、自分の奥に映る何かを見て笑っているような気がするベル。
「では、お留守番宜しくお願いしますね♪」
 告げて、ティアリィは酒場を後にする。ベルはそれを笑顔で見送り、思い出したように手を打つ。
「当分はご飯は毎食こんがり肉か……」
 ぺたり、とテーブルに突っ伏すベルなのだった。

EX4【リボンとワイゼン】――【了】



…………………………
「こんにちは~♪」
「おぉ、よく来たのう、リボンや」
「あれから如何お過ごしですか?」
「やっぱりベルがおらんと寂しいのう。そうじゃ! これからリボンがここに住めば全ての問題が解決するぞ!!」
「それだけは有り得ないのでご心配なさらず♪」
「相変わらず良~い笑顔でサラッ☆と酷い事を言うのう……そうじゃ、あの三人に依頼を出してみたいのじゃが、どうじゃろう?」
「ギルドを介さないのですか?」
「うむ。ワシの私用じゃからの。内容は簡単じゃ。ワシの古い友人の手伝いをしてやって欲しいのじゃ」
「ワイゼン様に友人なんていたのですか? 初耳です♪」
「……ワシってそんな悲しい奴に見られとったの……? とほほ……」
「冗談と思わせて冗談ではないのですが、……古い友人と言うと……あの方、ですか?」
「そう言えばリボンは一度逢った事が有るんじゃったな。――そうじゃ、あの変わり者じゃ」
「いえ、ワイゼン様も負けず劣らずの変じ……変態じゃないですか♪」
「今、言い換える必要なかったよね!? 言い換えなくても酷いけど!! ワシゃ普通じゃよ!! ワシほど色欲に忠実な人間はおらんぞ!!」
「ですから変態と申し上げているじゃないですか」
「変態って言うな!! ……ともかく! この依頼、頼まれてはくれんかの?」
「因みに聞きますが、ワイゼン様が依頼を受ければ良かったのでは? 古い友人と逢えるのならば、積もる話も有るでしょうに」
「ワシはな、リボン。――可愛いオア美しい娘からの依頼しか受けんのじゃよ!」
「流石は変た……色魔ですね♪」
「ふふん、そうじゃろそうじゃろ」
「色魔は否定しないんですか……」
「よしっ、今日はご馳走じゃ! リボンに美味いモノを作って貰うぞい!!」
「客人に振る舞わせるとは……良いでしょう。私がいる限りは常にこんがり肉で済ませますので♪」
「中性脂肪が溜まったらどうしてくれるんじゃ!! そろそろメタボを心配せにゃならんと言うのに!!」
「その時は狩猟に出てダイエットして下さい♪ 良い運動になりますよ♪」
「ダイエットに出掛けて死んだりしたら笑い話にもならんぞ……」
「それにしても……あの方とベルさん達が逢うとなると……楽しそうですね♪」
「人の不幸は何とかの味と言うしの。後でまた書簡に認めてくれ。楽しみに待っとるわい」



【ベルの狩猟日記P】【了】

【後書】
 今回で短編集編は完結です! 当時は【ベルの狩猟日記P】として配信しておりましてな、【ベルの狩猟日記7】に続く前章的な位置づけで綴っておりました。
 つまり次回のエピソードはこのワイゼン翁の知り合いな訳ですが…まァーこの人の友人と言うぐらいですからね、当然…もにょもにょ…な訳ですよ!(笑)
 リボンちゃんのエピソードも読者のリクエストで綴った形になりますが、いやァーもう少し狩猟シーン頑張りたかったですね…!(笑)
 次回は通常エピソードの中で一番短い、言わば最終章に向けて綴っておきたかった小話、みたいなエピソードになります。お楽しみに~♪

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